80話 商談、スンシュウ中央商店会
俺たちはスンシュウの町を歩いている。サクラさんの先導で、商店会に向かっていた。品物の種類が多く、一店舗では対応できない恐れがある。商店会の代表者に、話を通すつもりだ。
「それではスンシュウ中央商店会に行きましょう。まずは会長に挨拶ですね」
「どんな人なのでしょう?」
「齢八十を超えて、いまだ現役の商人ですよ。会長を継続していると聞いて、驚きました。周りからの信頼も厚く、立派な人物だと思います」
さらに話を聞いた。若い頃は行商で、アキツ国の各地を回っていた。そのため地方特有の言葉に詳しいらしい。また当時の人脈は、今でも活きているとか。
しばらく歩き続けると、大きな神社が見えた。サクラさんは中に入っていく。
「ここに会長が? 神社に見えますけど」
「今日は朝から、こちらに来ているみたいです。祭の準備と聞きました」
季節の行事には、商店会の協力も必要だからかな。神社と各商店が連携し、行事の運営を行っているのか。
「何を祀っているのでしょうか?」
「自然そのものと、祖先の魂みたいですよ。私は信仰に篤いわけではないので、詳しくは分かりません」
俺も実家の宗教に詳しくないし、似たようなものか。
「信仰って聞くと、神様を想像するわ。サクちゃん、そういう話は無いの?」
「神様の伝説もありますが、信仰の対象とは別になりますね」
一部では世界を創造した探求者を、神として崇拝する宗教もあるらしい。ここは違うみたいだ。――夢幻島でも行事みたいなのを、考えるべきかな。いい節目になるだろうし。
「あ、見えましたよ。裏口から入ります」
「表では、いろいろと販売しているな」
ピヌティさんが、興味深げに眺めている。御神籤や御守などを、売っているのだと思う。俺たちは裏手側の入口にまわった。サクラさんが一声かけて、戸を開く。
「失礼します。会長さんは、いらっしゃいますか」
「おや、どちら様かのう? 今日は祭の準備で、手は空かないと連絡しておいたはずじゃが」
行事の支度だ。忙しいのは当然か。社務所の中では、何人かが働いている。今日は紹介状だけ渡し、商談のアポイントメントを取れるか頼んでみよう。サクラさんに視線を送ると、彼女は一つ頷いた。
「ご多忙のところ恐れ入ります。ムラクモの長女、サクラです」
「おお! サクラちゃんかい。久しいのう」
奥にいた人物が、入口までくる。一見すると、好々爺といったところか。ただし現役の商人だからな。見た目通りとは、限らない。
「ご無沙汰しております。急な訪問、ご容赦ください」
「苦しゅうない。してムラクモ君の様子は、どうなのじゃ?」
「昨日、快復しました。近い内に、道場も再開できるでしょう」
会長の顔に、安堵の表情が浮かぶ。
「ほんに良かったのう。ところで挨拶に来ただけでは無かろう。言うてみい」
「ご明察の通りです。先に旅の仲間を、紹介させてください」
サクラさんは、俺たちのことを話していく。会長は頷きながら、しっかりと話を聞いている。良い人そうだな。紹介状のことにも触れたので、その場で見てもらった。
「ふむ、話は分かった。商品は見よう。しかし査定は公平じゃ。構わぬな?」
最後の言葉は、俺に向けたようだった。船の代表と、分かったのだろう。失礼の無いように、意識しつつ返答する。
「見てもらえるだけでも、ありがたい限りです。よろしくお願いします」
「では、さっそく行こうかの。儂の店まで、来てくれんか」
祭の準備は大丈夫かな。まあ、老練の商人だ。日程の管理は、お手の物だろう。早く対応してくれるなら、俺たちも助かる。
会長は社務所の人に声を掛け、杖を突きながら外へ出る。しかし杖を使っているわりに、足腰がしっかりしているな。実は仕込み杖とか。ありそうで、少し怖い。
足早に進んでいき、目的地に到着した。神社から、かなり離れていたな。目前の建物に、視線を送る。自宅兼店舗らしい。
「なんというか。豪い邸ですね」
「普通に豪邸と言ってください。中も広かった記憶があります。幼い頃、父に連れられて遊びに来ました」
ちょっと目を疑ってしまう大きさだ。
「倉庫は向こうじゃ。ひとまず、そっちに行くぞい」
「警備員も多い。かなり腕が立ちそうな者もいる。侵入は難しそうだな」
ピヌティさんが、感心しながら感想を言っている。会長を先頭に、倉庫まで行った。ここも広く、大きいな。
「ヤマト君は、品物を出してくれ。その間に、目録を見せてもらおうかの」
「わかりました」
異空間倉庫に商品があるのは、すでに伝えておいた。広げられた布の上に、どんどん荷物を載せていく。
「こちらが目録です。ご確認ください」
「うむ、預かろう」
マリアさんが商品のリストを渡す。さすがに商談の相手には、固い口調である。ちょっと違和感を覚えた。会長が渡された商品のリストに、目を通している。いくつか質問をしているようだ。マリアさんは淀みなく、答えている。しばらく会話が続く。
「一通り、目録を確認した。次は実際の品じゃな」
「全て出し終わりました」
こっちの準備も完了だ。会長は人を呼び、手分けして品定めをしていく。リストに書き込みをしているのは、品質を記録しているのだろう。ときおり質問を交えつつ、確認は進んでいく。――質疑応答を繰り返し、ようやく作業が終わった。
「雑貨や食料品は大丈夫じゃな。これなら、どこでも売れる。契約の縛りが無ければ、うちでも扱いたいくらいじゃ」
大規模な商店なら、きっちりと契約先が決まっているだろう。飛び込みでの販売が困難なのは、理解できる。
「ただ酒類は、ちいっとばかし難しいのう。管理や手続きが面倒じゃ。信頼できる相手でなければ、取引を行わない」
「やはり、そうでしたか」
実は入国管理局でも、似たようなことを言われている。さらには仕入れの段階でも、教えてもらった。
「マリアの予想通りだな」
「東方では、お酒の管理が厳しいの。行商人の間で、有名な話だからね」
酒は無理を言って、商品に加えてもらった。ここは責任を取って、自分で飲むしかないな!
「何とか取引先を探しましょう。ヤマトさんが、自分で飲むなどと言い出す前に」
「……ははは、言いませんよ。チームの資金で購入したものですから」
作り笑いを浮かべつつ、否定の言葉を述べた。少しだけ考えたのは、秘密にしておこう。
「まあ、待ちなされ。一つ相談じゃ。酒類も含め、まとめて儂の店で引き取ろう」
「よろしいのですか? 俺たちは助かりますけど、会長の店舗では販売できませんよね」
さっき、扱えないと言っていたはず。契約の縛りがあるとか。
「店先に並べて、販売するわけではない。他の店と橋渡しをするだけじゃ。無論、仲介料は頂くぞ」
「それは、もちろんです」
これは、いい話だな。あ、仲介手数料にもよるか。マリアさんを中心に、商談を詰めていく。予想以上に、手数料は安かった。それと売却価格も、思ったより高い。西の航路が封鎖されており、輸入品が不足しているらしい。北の航路だけだと、限界があるそうだ。
「ありがとうございます。いい勉強になりました」
「なにムラクモ君には、世話になっている。商売で困ったら、いつでも来なさい。相談に乗ろう」
「ちなみに相談料は、いかほどでしょうか?」
「時価じゃな」
俺たちは会長に別れを告げ、豪邸の外に出た。今日の商談は終わりだ。購入予定だった物も、ここで注文した。東方を出発する際には、仕入れを頼みたいな。
必要な物は買ったが、せっかくだしスンシュウの町を見て回ることにする。




