77話 訪問、サクラさんの実家
仮停留所の風雷号に戻ると、故障船が無くなっている。どうやら回収されたようだな。今頃、修理の相談だろうか。休憩室に入ったらピヌティさんとマリアさんが、お茶の時間を満喫していた。このところ、ゆっくりする余裕が無かったからな。少しでも休んでほしい。
「戻りました」
「お帰り、ヤマト殿。手続きは?」
「無事に終わりましたよ」
ピヌティさんとマリアさんに、経緯を説明する。特別枠のことを話すと、二人とも喜んでくれた。
「タツオさんとユリエさんは、どうしました? 姿が見えませんけど」
「あの二人なら、飛空船の回収業者と会っているよ。廃棄処分になりそうだって」
そもそも捨てる予定の船だったからな。一回、飛ばせただけでも奇跡か。だけど、そうなると困ったことになるかも。
「しばらくは節約のために、飛空船で寝泊まりすると言ってましたよね」
「あ~、言ってたわ。どうするんだろう」
壊れた飛空船を、そのまま置いておくことは不可能だ。発火や爆発などの危険がある。
「今すぐ金が尽きるわけではないさ。そこまで無計画では無いと思う」
「それも、そうですね」
話をしていたら、二人が帰ってきた。タツオさんは、分かりやすく暗い顔をしている。一方のユリエさんは、そうでもないな。
「船は駄目でしたか?」
「……はい。しかも再利用できそうな部品すら、ありません。とんでもない金額の回収費用まで、掛かりましたよ」
お気の毒に。
「あのヤマトさん。しばらく、この船に泊めていただけませんか? 雑用でも、何でもしますので」
「ちょっと、タツオ。ご迷惑でしょ。手持ちの資金で、なんとかしましょう。まずは宿を探さないと」
この様子だと、宿に泊まれる金くらいはありそうだな。それに本気で追い詰められたら、警察機関に保護を願い出るだろう。親元までは、帰れるはずだ。
「そこまで迷惑とは思いませんが、泊まるのは諦めてください。二人とも成人前ですよね。親御さんの許可なく泊めたら、罪に問われます」
未成年者誘拐罪だったかな。名称や詳細は異なっているけど、この国でも同じような罪がある。遭難した人間を目的地まで送るのとは、一線を画す行為だ。特に飛空船での誘拐と判断されたら、極めて罪が重くなる。
「ねえ、ヤマト君。そうなると二人は野宿になるの?」
「宿へ泊まるだけなら、詳しい事情は聞かれないと思いますよ。保護者から宿屋に問い合わせがあったら、正直に答える義務があるみたいですけど」
俺たちは事情を知っていると、入国時に言っているからな。もっと近い町があるのに、寄らずにスンシュウまで来たし。ここに泊めると、かなり厄介なことになるだろう。
「そうですよね。無理を言って、すみません。ユリエ、行こうか」
「うん、がんばりましょう! みなさん、お世話になりました。お礼は必ずさせてください!」
さっそく行動を開始するようだ。二人は去っていく。
「俺たちは格納庫まで、行きましょうか。向こうの準備が終わって、連絡を受けてからの移動ですけど」
「そうだな。その後、サクラと合流か」
考えてみたら、一日くらい空けた方がいいのかな。家族水入らずの時間は大切だと思う、多分。父親が静養中でもあるし。
しばらく待つと、格納庫の準備が完了したとの報せを受ける。風雷号を動かし、指定の場所に向かった。今までの格納庫に比べると、かなり立派だ。
「いい所だね! 特別枠だからかな?」
「そうだと思いますよ」
しかも年に四ヶ月は無料だ。惜しいのは、夢幻島から遠く離れていることだな。それでも特別枠に入ることは、一種のステイタスとなる。いろいろと融通が利く場面もあるだろう。
休憩室を見たら、魔導放映板と記録映像の再生魔導機があった。おそらく輸入品だろう。
「とりあえず、町へ出てみないか」
「そうしましょうか」
三人で外へ出る。町並みを眺めると、純和風らしい風景だ。一昔前の日本という感じか。しばらく観察を続けると、魔導文明が取り入れられていると分かった。見た目は似ていても、中身が同じではないか。歴史や地理が違うのだから、当たり前だな。
「スンシュウには、魔獣退治組合は無かったか」
「魔獣狩り協会も、ありませんね」
つまり依頼を受けることができない。道中で入手した素材を納品したかったのだけど。
「ところでサクちゃんの家は、まだ着かないの?」
「だいぶ歩きましたので、そろそろ見えてくる頃かと」
俺は地図を確認しながら、マリアさんに答えた。
「あ、見えてきました。道場に隣接した建物が、そうみたいですよ」
「立派な家だね!」
道場には叢雲流秘刀術の看板が掲げられている。隣がサクラさんの実家だろう。見るからに武家屋敷といった雰囲気だ。ただ扉の横には、ドアホンが設置されている。これは魔導技術の賜物だろう。
入り口前で立っていたら、不審者に間違われるかもしれない。ドアホンで呼び出し音を鳴らす。
「どちら様ですか?」
「私はヤマトと申します。サクラさんは、ご在宅でしょうか」
「まあ! すぐに参りますわ」
女性の声だな。道場は閉まっているようだし、ご家族の方だろう。さほど待つことなく、扉が開かれた。出て来たのは、髪が長い着物姿の女性だ。上品な化粧が、美貌を際立たせている。
「初めまして。私はサツキ、サクラの母です。皆様のことは、娘から話を聞いております。どうぞ、お上がりください」
「失礼します」
歩きながら、簡単に自己紹介をする。靴を脱いで、家に上がった。そして客間へと通される。絵に描いたような和室だな。
「今、娘を呼んで参ります。少々お待ちを」
「よろしくお願いします」
わずかに時が流れる。一声かかり、ふすまが開かれた。入って来たのはサクラさんと、もう一人。長身の若い男だ。父親、ではないよな。
「失礼する。拙者はソウセキと申す、この者の兄だ。妹が世話になったと聞き、挨拶に参った」
「こちらこそサクラさんには、大変お世話になっています」
互いに挨拶を交わした。
「ヤマトさん。一つ、お願いがあります。父の容体を、診ていただけませんか」
「知っているとは思いますが、俺に医療知識は無いですよ?」
これは、ただの確認だ。おそらく頼みたいのは、解呪だと思う。
「存じています。呪いのような症状が出ているのです。そちらの対処を、お願いできないでしょうか」
「構いませんが、俺より腕の立つ解呪師には頼まないのですか?」
サクラさんの家族だ。協力を惜しむつもりはない。だけど他に実力のある解呪師がいるなら、そちらに任せた方がいいだろう。俺は解呪の能力だと、せいぜい中の上くらいだ。スンシュウの規模なら、上位の解呪師がいるだろう。
「すでに頼み、失敗しています。症状は呪いと似ているのですが、別物であると判断されました」
「分かりました。まずは行ってみましょう」
俺の魔導制御力や魔力量は、ちょっとしたものだ。解呪の総合能力では敵わなくとも、何かできることが見つかるかもしれない。
「ヤマト殿には迷惑を掛ける。どうか、よろしく頼む」
「父は封印の間にいます。魔獣と相対したとき、おかしな声を聞いたみたいです。お気を付けください」
俺を頼った理由が分かった。大罪の欠片、その存在を疑っているのだろう。封印の間は、道場の奥にあるらしい。俺とサクラさん、そしてソウセキさんの三人で向かう。板張りの床を歩きつつ、目的の場所に近付く。
「ここが封印の間です。ヤマトさん、この札を持ってもらえますか」
「部屋に入るための鍵でしょうか」
言われた通り、お札を受け取る。左手で持ち、封印の間を開く。中は結構、広いな。生活に必要な設備は、一通り揃っている。長時間、閉じ籠れるようにしているのだろう。中央に一人の男が寝ている。
二人には、部屋の外で待っていてもらう。どんな影響が出るか、分からないからな。俺はゆっくりと、封印の間に入っていく。




