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76話 手続き、手続き

 俺たちはスンシュウの町へ到着した。まずは仮停留所に停め、手続きを行おう。今回は故障船を牽引している。そちらの事情説明も必要だろうな。

 風雷号を降りて、受付に向かう。メガネを掛けた女性に、入国の手続きを頼んだ。案の定、時間が掛かると告げられる。


「すみません。人手が足りないもので、ご容赦ください」

「いえ。それでは三人分の審査、よろしくお願いします」


 これは仕方ないか。また、積荷の確認もある。やはりサクラさんだけ、先に通してもらおう。彼女に視線を向けると、頷いて前に出る。身分証を提示した。


「私はスンシュウの出身です。すぐに通れますか? 父が静養中と聞き、急ぎ中に入りたいのですが?」

「それなら出入門の方に、行ってください。担当の者がおりますので」


 サクラさんは足早に、この場を立ち去る。やはり父親が心配なのだろう。


「そちらのタツオ様とユリエ様は、別室で飛空船の故障について伺います。ちょうど、係の者が来たようです」

「ヤマトさん、失礼します。話が終わり次第、また合流させてください」


 二人は別の係員に連れられ、奥の部屋に入っていく。俺たち三人は、最初に身分証の提示を求められた。名前を聞かれたので、それぞれ答える。受付のスペシャリストは、これだけで偽名を使っているか分かるらしい。トリアさんからの情報だ。……本当かな。


「ヤマト様たちには、いくつか質問をさせてください。まずアキツ国に来た目的は、なんでしょうか?」

「最初は仲間の里帰りでした。途中で父親が行方不明と聞き、急いで東方に来ました。さっき出入門に行った彼女です」


 驚いているな。


「まあ! あの方の、ご息女様でしたか!」

「ご存知なのですか?」


 サクラさんの話だと、町にいくつもある道場の一つと聞いている。さっきの様子だと、知り合いには見えなかったけどな。噂でも聞いたのだろうか。


「この町では皆、知っていますよ。村人を救うため、孤軍奮闘した剣豪だと。それに町が迷宮攻略で浮つく中、率先して村のために行動を起こしたとも聞いています」

「へえ。立派な方なのですね」


 思ったよりも、噂が広がっていたのか。


「質問を続けます。アキツ国に入って、初めて寄った町がここですね。他の町に寄らなかったのは、なぜでしょうか?」

「東方空域へ入ってすぐに、故障船を見つけました。話を聞いたら、スンシュウを目指していると。せっかくなので案内を頼みがてら、一緒に来たのです」


 受付の人が、顎に手を当てて考え込んでいる。


「……ヤマト様たちは、どんな航路で東方に来たのですか?」

「南の未開空域を通りました。アキツ国から見て、西の空域は封鎖。北まわりだと時間が掛かりますから」


 信じられないような顔をしているな。それだけ利用者の少ない航路なのだろう。あの危険度を考えたら、納得できるけど。


「恐れ入りますが、私では判断が難しい案件です。上司と相談させてください」

「どうぞ」


 彼女は片手に魔導通信機を持っている。上司は通信先みたいだな。別の部屋にいるのか、本部にいるのかは分からないけど。手短に今の状況を説明している。

 手持無沙汰になり、受付横に置かれたパンフレットを手に取った。へえ、温泉が有名なのか。後は緑茶とワサビ。あ、米の醸造酒(ライスワイン)がある。


「大変お待たせしました」


 時間にして数分ほどか。通信が終わったようだ。


「ヤマト様が所持されている中型飛空船ですが、登録名を教えていただけますか」

「風雷号です」


 大きく頷いた。


「スルカイタ帝国で行われた飛空船競技会に、出場されましたね。結果を教えていただけるでしょうか」

「予選は三日で通過、本戦の中型船大レースは失格でした」


 あれも、かなり前のことだ。月日が経つのは早い。


「ありがとうございます。その成績であれば、未開空域の突破も信憑性が高いとのことです。来国目的も、問題ありません。身元の保証も確かです。入国許可証を発行しますので、少々お時間をください」

「よろしくお願いします」


 そうか。未開空域の突破を、疑われたのか。……当たり前だな。もう一回やれと言われても、しばらくは無理なくらいだ。魔石が足りない。


 そこからの対応は早かった。速やかに許可証が発行される。ただ飛空船発着場の受付は、別の場所だ。そちらでも、登録しなければならない。とりあえずユリエさんとタツオさんを探すか。二人はすぐに見つかった。談話室で話をしている。


「ヤマトさん! 入国審査は大丈夫ですか? 俺たちは無事に終わりました!」

「タツオ、静かに。他の方に迷惑だわ」


 大声を上げて、ユリエさんに(たしな)められていた。たしかに他の利用者もいるしな。とりあえず全員で外に出る。




「やっと手続きが終わったな」

「まだ飛空船発着場での、登録申請がありますよ」


 外に出たら、ピヌティさんが深く息を吐く。この手の審査は、神経を使うからな。何度やっても、慣れない。


「でも、あたし達は船で待機でしょ。ヤマト君、がんばってね!」

「……そうでした」


 マリアさんの言葉に、精神疲労を感じる。四人は残り、俺だけが発着場に入った。こちらの手続きは、早く終わるように祈願しよう。


「ヤマト様ですね。お待ちしておりました。別室へどうぞ」

「は、はあ。分かりました」


 入った途端に、声を掛けられた。熟年の男性で、物柔らかな態度で接してくる。唐突で驚いたが、断る理由も無い。後に着いて、部屋に向かった。互いに名乗った後、身分証の提示を求められる。ずいぶんと丁寧な言い方で、こちらが恐縮してしまった。


「さて、格納庫の特別枠を用意しております。ご利用になりませんか?」

「また好待遇ですね。詳細を教えてください」


 正直、意外だ。一部の飛空船乗りにだけ、特別枠は開放される。実力と名声を兼ね備えることが最低条件だ。飛空船競技会の予選通過くらいでは、枠が回ってこない。ドマさんが中型船大レースで優勝後に、声を掛けられたと言っていた。


「年に四ヶ月は、無料で格納庫を利用できます。それと他者が使用している場合も、優先して利用が可能です」

「ただし入れ替わりの際に、挨拶をする必要があると聞きました」


 本人が使用しないときは、高額で貸し出している。飛空船乗りは、縁起担ぎが多い。実力者の使った格納庫になら、高い金を払いたい人もいるだろう。


「ご存知でしたか。本人との挨拶を望み、格納庫を借りる人も多くいます」

「しかし、なぜ俺なのですか?」


 単純に疑問だ。


「競技会後、ヤマト様に関する問い合わせが多くありました。容姿と名前から、アキツ国の出身と当たりを付けたのでしょう」

「そして秘刀術を使う乗組員がいる。多くの道場が集うスンシュウの町に、問い合わせが来たわけですね」


 スルカイタ帝国と東方では、かなりの距離がある。仕事のついでに聞いてみた、とかだよな。さすがに。


「ヤマト様とサクラ様は、スンシュウ飛空船愛好会にとって期待の星。若い者を中心に、特別枠へ推薦する声が多く上がっているのです」

「そういうことなら、よろしくお願いします」


 元々は優秀な飛空船乗りを、町に引き留めるための制度だったはず。デメリットと言えば、先に利用者がいたら挨拶するくらいだ。勝負を挑まれるわけでもないし、断る必要もないな。無料で停泊できるのは、ありがたい。


「ご契約、ありがとうございます。それでは手続きに移りましょう」


 しばらく細かな内容を聞いていく。それから故障船ついて話した。一通りの説明が終わる。その後、一枚の地図を渡された。


「サクラ様の、ご実家に行かれるのでしょう。ムラクモ殿に、よろしくお伝えください」

「もしかして、お知り合いですか?」

「競技会の記録映像を入手する際に、力をお借りしました。それ以来、何度か愛好会にも顔を出されていますよ。最後に会ったのは、一週間くらい前ですか。町へ戻られたときに、挨拶を交わしました」


 目に見えるケガなどは無かったらしい。ただ、ひどく疲れていたとか。


「今は静養中と聞きます。お会いできるか、分かりませんが」

「行くだけ行ってみるつもりです。地図、ありがとうございました」


 ともかく、これで手続きは終了だ。風雷号に戻ろう。

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