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74話 強行突破、未開空域

 いよいよ未開空域に突入する。しばらく進むと北側に強力な結界が張られ、避難することも不可能になるらしい。引き返すなら、今が最後のチャンスか。


「どうしました、ヤマトさん?」

「いえ。今なら引き返せるかな、と少し思いまして」


 サクラさんは少し驚いている。


「引き返しますか?」

「まさか。必ず東方まで行きますよ」

「頼もしいですね」


 そして未開空域に入った。雰囲気が変わる。知らない人の家に、初めて入った気分とでも言ったらいいのだろうか。目には見えないけど、何かが変わった気がした。それから約一時間、何も起きない。順調だと思った矢先、ピヌティさんから声が掛かった。


「ヤマト殿、前方に魔獣。一体だ!」

「了解です!」


 一体か。なら速度を落とさずに、突っ切る。風刃翼を展開。


「サクラさん、マリアさん! 左右に分かれて、攻撃してください!」


 ほぼ同時に、二人が動く。


「秘刀術、雲刃飛動!」

「いっぱい、撃つよ!」


 サクラさんの斬撃と、マリアさんの射撃。魔獣は避ける。だが、その隙に飛空船は魔獣を無視して先へ進んだ。見た目は狼だったな。後方に結界を準備しつつ、先を急いだ。速度は風雷号の方が上だ。ぐんぐんと引き離す。やがて魔獣の姿は、見えなくなった。風刃翼を戻す。


「ところでサクラさんは、流派を名乗りませんよね。いつも秘刀術とだけ言っています。何か理由が、あるのでしょうか?」


 魔獣が見えなくなったのを見計らい、質問を投げ掛ける。少しでも緊張を緩和するための雑談だ。それと純粋に疑問を感じた。


「戦闘中に技を使うときは、流派を名乗らないのが普通です。秘刀術は複数の道場で習うことを、推奨していますから」

「なるほど」

「私も別の道場には、よく通いました」


 そういうものか。話を続けながらでも、速度は落とさない。




 しばらくは何事もない時間が過ぎる。だが平穏は、突然に破られた。


「右側方! 魔獣、多数! 速いぞ!」

「確認しました! おそらく速度強化魔法を使っています!」


 このままでは追い付かれる。


「マリアさん、魔石を使ってください! 中の上あたりで!」

「わかったわ!」


 魔石による加速ブーストだ。これで引き離せると助かるけど。――駄目だ! 少しずつ差を詰められている。


「魔法攻撃、来た!」

「連続回避!」


 高速で移動する飛空船を、確実に狙っていた。近くに司令塔が、いるのかもしれない。


「ヤマト君! 結界、強化しなくていいの!?」

「今は速度を優先です!」


 結界を強化する魔力が惜しい。少しでも速度が落ちれば、大量の魔獣が同時に襲い掛かる。せめて相手の速度強化だけでも、なんとかしないと。


「サクラさん! 中央に魔力消失、できますか?」

「少し遠いですが、やってみます! 秘刀術、重ね技、雲刃飛動・有刃無常!」


 中央にいた魔獣の強化魔法が消えた。次の瞬間、強い魔力を感知する。消失した強化魔法を掛け直したのだろう。意外に近いな。


「補助役の魔獣、特定しました! 進路変更、先に奴を倒します! 前方に見える角狼(つのおおかみ)です!」

「攻撃が激しくなったよ!」


 魔獣の集団に向かって、進んでいるんだ。当然、攻撃は苛烈さを増す。


「結界を強化! 被弾を前提にします!」


 何発かは耐えられる。サクラさんとマリアさんで、進行の邪魔になる魔獣を排除してもらう。その間に、角狼へ近付いた。


「改良型爆裂針、当たれば痛いぞ!」

「やりましたね、ピヌティさん!」


 見事に角狼を討伐。即座に進路変更、向かって左だ。言うまでもなく、そちらにも魔獣はいる。少しでも手薄の場所を探して、突き進んだ。


「敵の動きが、おかしくないでしょうか?」

「確かに変ですね」


 サクラさんも、疑問に感じたようだ。魔獣の動きがバラバラになった。魔法攻撃の頻度も減っている。


「とにかく今の内に、ここを突破します!」


 結界を最小限に変更。攻撃の頻度が減っているなら、問題ないだろう。再び速度最優先で、移動開始だ。


「ヤマト殿、魔獣の群れを抜けた! だが追ってくる!」

「少しだけ混乱が治まったみたいですね。マリアさん、魔導(マジック)閃光手榴弾(フラッシュバン)を投げてください!」

「わかった! みんな、気を付けてね!」


 魔獣の群れを光と音で撹乱(かくらん)する。効果を発揮する瞬間、結界を強化。そのままだと、俺たちにも影響が出るからな。――どうやら、引き離したようだ。


「角狼を倒したら、魔獣の動きがおかしくなった。どう思う?」

「おそらく司令塔だったのでしょう。強化役と指揮役を、兼任していたのだと思います」


 ただ、そうなると一つ厄介なことがある。


「見た目では、判断できなかったな」

「魔力感知でも同じです。もし強化役が別だったら、司令塔を倒せないまま戦闘することになりました」


 これが厄介なのだ。今までだと群れの主は、すぐに分かった。見た目が強そうな奴か、魔力が高い奴だったからだ。しかし今回は違う。おそらく未開空域の主は別にいて、角狼は主から任命された司令塔だったのだと思う。

 今後は司令塔を先に倒して、混乱に乗じて先を急ぐことが難しいだろうな。指令役の判別が困難だからだ。


「とにかく先へ進むしか、ありませんね」




 それから大規模な魔獣の群れとは、遭遇しなかった。少数の魔獣はいたが、無難に対処している。そろそろ日が暮れる頃だな。俺が操船していると、サクラさんが近付いてきた。


「今日の夜は、どうしますか?」

「隠蔽結界を張って、船中泊ですね。初日から夜通し飛ぶのは、やめましょう」


 まだ先は長い。適度に休息を取らなければ、東方には辿り着けないだろう。


「警戒は必要ですよね」

「誰か一人は起きていなければ、危険でしょう」


 結界と魔獣が接触すると、船内に伝わる。しかし、それだけでは不十分だ。人の目が必要だろう。風魔法を使い、その場で話し合い順番を決める。最初は、俺が歩哨に立つ。その後はピヌティさん、サクラさん、マリアさんの順だ。


 ――完全に日が沈んでからも飛び続け、夜が更けた頃に飛空船を停める。できれば浮島に着陸したかったが、都合のいい島は見つからなかった。そのまま空中停泊だ。


「私たちは仮眠に入る。警戒を頼む」

「お任せを。ゆっくり休んでください」


 夜襲があるか分からない中、ゆっくり休むのは難しい。それでも横になっていれば、少しは楽になる。警戒は二時間交代で行う。合計六時間は、休める計算だ。

 三人が仮眠に入ってから、約一時間。魔獣の群れを発見する。数は十体ほどか。遠目で、さらに夜間だ。視力を強化しても、完全には分からなかった。


「こちらには気付いてないか」


 ならば様子見だ。隠蔽結界は、正常に作用している。魔獣の様子を観察した。十体ほどの魔獣は、少しずつ離れていく。――それから五十分ほど経った。一体の魔獣が、風雷号に向かってくる。飛空船の存在に、気付いたのか?


「いや、違うな。進行方向の近くに、船があっただけみたいだ」


 魔獣は風雷号に気付かず、飛び去っていく。はっきりは分からなかったが、犬か狼型の魔獣だったな。その後は何も起こらず、ピヌティさんと交代した。簡単に申し送りをして、寝室に戻る。疲れていたせいか、すぐに睡魔が訪れた。


『敵襲! 魔獣の群れです!』


 ――サクラさんの声で、意識が覚醒した。連絡用の通信機を使ったみたいだな。急いで外に出る。ピヌティさんは、すでに甲板にいた。サクラさんに状況を聞いているようだ。


「船を出します!」


 俺は飛空船の発進を優先した。移動しながら、話を聞くつもりだ。少し遅れて、マリアさんが休憩室から、飛び出してくる。


「ごめん、遅れた!」

「魔石の補給、お願いします!」

「了解!」


 これから最大加速で、この場を離れる。自分の魔力だけでは、追い付かないだろう。サクラさんとピヌティさんが、戦闘態勢を取っている。加速に乗るまでは、戦いを避けられそうもない。やっと引き離した頃には、かなり日が昇っていた。本当にしつこかったな。


「交代で、少し寝ましょう」


 初日から大変だった。警戒を続けながらも、状況が許す限り身体を休めよう。




 最初の二週間は、三日に一度は夜襲があった。さすがに身体が持たないと、隠蔽結界の強化に踏み切る。毎日のように、強力な魔石が消えていった。切り札として温存しておいた魔石で、とても数は少ない。未開空域を抜けるのが先か、魔石を使い切るのが先か。


 また日中の魔獣にも、行動の変化が現れる。位置を把握され、先回りされているみたいだ。前方から魔獣が来たら、中央突破しかない。グズグズすると、さらに敵が増える。進路上の魔獣を倒しつつ、直往邁進(ちょくおうまいしん)することが多くなった。魔石や素材を回収できたのは、助かったけど。


 ――未開空域に入ってから、三週間後。ついに東方へ到着した。

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