72話 増員、夢幻島の仲間たち
転移扉を開き、夢幻島に入る。ため池のある、丘の方へ向かう。そこが今の拠点だ。居住船の近くに風雷号を停め、魔導索条を回収する。
「ご指導、ありがとうございました!」
「お役に立てて、なによりだよ。ヤマトは筋がいいな。僕と同じくらいにね!」
少し危ないときもあったが、無事に最初の教練は終了した。シルドさんには後で改めて、お礼を言おう。これからも機会を見つけ、訓練を続けたい。最低限の操作は、覚えたつもりだ。これで故障船を発見したときの、対応方法が広がる。
故障したと見せかけて飛空船を繋ぎ、油断したところで騙し討ちを仕掛けるような作戦も可能かもしれない。
「ヤマトさん。不意打ちができるとか、考えていませんか?」
「そんなことは考えていないですよ。騙し討ちが可能かな、とは思いましたけど」
「一緒でしょう!」
サクラさんと軽口を言い合う。俺の好きな時間だ。しかし今後の予定もある。そろそろ行動に移ろうか。
「ドマさんは、船員の人たちと一緒に休んでください。シルドさんやアクスさんもですね。夜にでも、他の人に紹介します」
「わかったよ。お前ら、聞こえたか! 今日は休みだ!」
猪鹿蝶号から歓喜の声が上がる。やたらと気合の入った声だな。休日の少なさを物語る。どうか、ゆっくり休んでください。明日から大変な仕事が、待っていますから。
「前に俺が来たときとは、大違いだな。建物が増えているし、貯水池や水路もある。ちょっとした村だろう」
「そうだね。僕の想像より、はるかに居心地が良さそうだ」
どんな想像を、していたのだろうか。まだ最低限の準備しか、できていないのだけど。
「先に住居へ案内します。建物の数は足りているので、空いている小屋に住んでください」
「それは助かる。前に開拓民を募る話をしていたな。住居は全員分、事前に作っておくのか?」
「ちょっと難しいですね。人手が足りません」
本当に開拓民を募集するとしたら、建築や農業に詳しい人が多く必要になる。最初に来る人達には、あらかじめ住居を作っておきたい。開拓初期は大変だ。それくらいの利点は必須だろう。
人のいる気配が分かったのか、居住船から人が出てきた。トリアさんだ。今日は事務仕事かな。俺たちの近くに来て、軽く一礼をする。
「ようこそ、お越しくださいました。私は本日の案内役、トリアと申します。シルド様、ドマ様。そして乗組員の皆様。どうぞよろしくお願いいたします」
案内役で残っていたのか。それにしても、この感じ久しぶりだな。魔獣狩り協会で受付をしていたときは、こんな雰囲気だった。協会を離れてからは、くだけた態度に変わっている。
「よろしく、トリア。できれば気軽に接してもらえると助かる。アタシらは傭兵でね。堅苦しいのは苦手だ」
「傭兵じゃないけど、僕も苦手だ!」
「そうですか? では改めて、よろしくお願いしますね。ドマさん、シルドさん」
予想した反応だったのか、トリアさんは柔らかい微笑みを浮かべた。雰囲気も変わった気がする。
「まずは空いている物件の場所ですね。地図を用意しました」
「これはアタシらにも貸してくれるのかい? 一応、船でも生活は可能だよ」
「問題ありませんよ。今は全員分の住居を用意しています」
人が増えたら、また改めて考えるとしよう。ちなみに居住船組も、何人か地上の小屋に移っていた。一人の方が落ち着く人もいるしな。
「基本的に間取りは一緒ですので、試しに近い小屋を見てみましょう」
これは建築の効率を考えた結果だ。基本部分の設計は統一し、場所によって細かい調整をする。
「おお! なかなか良い部屋だね!」
「部屋は居間と寝室の二つ。お風呂やトイレも設置してあります。台所も使い勝手が良いのですよ」
寝室はベッドを二つ置けるくらいの広さだ。一人で使うには、十分だろう。今の段階だと、家族連れの移民は考えていない。まともな教育が不可能だからな。それから相談をして、各自の居住場所を決めた。
荷物を運び込んだら、休憩を取る。風雷号の休憩室で話をしていたら、互いの能力を確認することになった。ここで俺はソウルスキル・飛空船創造について、簡単に説明していく。
「へえ、大型飛空船も創造したのか。ぜひ見たいな。何度か乗ったことはあるけど、どれも良い船だったよ」
「それなら、お見せします」
隠す必要も無い。シルドさんの視点から、改良点のアドバイスを貰えると助かるな。よし、休憩を終わろう。風雷号の外に出て、少し距離を取る。
「大型飛空船、召喚!」
目の前にフェリーが出現する。相変わらず大きい。その場にいる全員で、船内を見て回った。アクスさんとシルドさんは、訓練場に目を付けたようだ。
「ここは、いいな! 斧を十分に振り回せる広さだ」
「かなり力を入れているね。僕も使わせてほしいな」
「俺がいるときなら、いつでもどうぞ」
ただ風雷号組は、島の外に出ることも多い。使える時間の多寡は不明だ。次に案内したのは、大浴場である。訓練の後で入りやすいように、近い場所にした。猪鹿蝶号組の四人が、目の色を変える。ドマさんが、苦笑しながら宥めていた。さて、次に行こうか。
「アタシは人型飛空船――竜人船トライバスターと言ったか。それが気になるな」
「なかなかの自信作ですよ。格納庫に行きましょう」
前方甲板に出て、格納庫への入口を開く。今は甲板の床を開く方法で、中に入った。少し不便に感じたので、船内からの入口も用意してある。
「サクラさん、トリアさん。風魔法で降りますよ」
「はい!」
「……ご迷惑をお掛けします」
他の皆は縄梯子で降りていく。これは後から用意したものだ。トリアさんは梯子を使わない。バイオレット様から止められた。曰く、落ちそうで見ていられないと。念のため新しく覚えた衝撃吸収魔法を、格納庫全体に掛けてある。一応、落ちても大丈夫だ。
「いいですね、この感覚!」
サクラさんは着物で降りにくそうだから、俺が風魔法で降りようと声を掛けた。本人も飛空魔法の感覚が好きらしい。全員で格納庫に降りた。それでは人型飛空船の、お披露目といこうか。
「竜人船、召喚!」
「これが噂の人型飛空船かい。いいじゃないか! アタシも昔、操縦したことがあるよ」
話を聞くと、ドマさん達は人型飛空船の操縦ができるらしい。五人で分隊を組んでの、戦闘経験もあるとか。夢幻島に滞在する間、操縦の基本を教えてもらえることになった。完全に独学だったから、本当にありがたい。
「ところでヤマトに一つ、頼みがある。正式な依頼としてね」
「なんでしょうか?」
依頼? いったい何だろう?
「猪鹿蝶号の部屋を拡張してほしい。時空魔法ならできると聞いた」
「空間を拡げるだけなら可能です」
飛空船創造スキルだと、設備も創れるのだけどな。俺の時空魔法だと、部屋を広くするので精一杯だ。
「助かる。報酬は後で相談させてほしい」
「わかりました」
中途半端に話を進めると、後で困るか。操縦訓練の話も合わせて、しっかり条件を詰めておこう。全員と相談するべきだな。とりあえず、今日は休んでもらった。夜は宴会の予定だ。体力の温存は必須だろう。
外の作業者が少しずつ、拠点に戻ってくる。それぞれ挨拶を交わしているようだ。全員が揃い、料理も揃う。そして酒も揃う! さあ、宴会の始まりだ。一応の代表として、俺が乾杯の音頭を取る。
「今日、夢幻島に新しい仲間が増えました。皆様、今後ともよろしくお願いします。乾杯!」
この日は飲めや歌えの大騒ぎだ。人数が多くなった分、宴の規模も大きい。それにしても猪鹿蝶号の船員は、場を盛り上げるのが上手いな。上司から無茶ぶりされて鍛えられた、とかじゃないことを祈る。この日は、夜が更けるまで飲んで食べた。また明日から、がんばろう。
それから一週間が経過する。チーム『夢幻の集い』は、東方へ出発した。




