71話 教練、牽引飛行
大型飛空船を創造してから、約三ヶ月が経った。今日はシルドさんを夢幻島に迎えるため、王都カイスにいる。それからアクスさんとも合流する予定だ。飛空船発着場の格納庫で、二人の到着を待つ。しばらく待機していると、受付から連絡がきた。格納庫まで通してもらう。
「やあ! 久しぶりだね、ヤマト」
「お久しぶりです」
シルドさんと挨拶を交わし、とりあえず中に案内する。アクスさんは、もう少し時間が掛かるみたいだ。
「そうそう。少し前のことだけど、槍と大地傭兵団に会ったよ」
「ドマさん達ですね。元気そうでしたか?」
懐かしいな。
「すこぶる元気だったよ。彼女たちも夢幻島に来ると言ってた。それで君と今日、合流することを伝えたんだ。構わなかったかい?」
「問題ありませんよ。ありがとうございます」
あれ? 当初の計画だとドマさん達は、もう少し時間が掛かるはずだ。予定を変更する事態が起きたのかな。とりあえず待機だ。ドマさん達とアクスさん、どちらが先に来るのか。
――先に来たのは、ドマさんだった。船員は猪鹿蝶号に残したようである。一人で格納庫に顔を見せた。
「急で悪いね。アタシらも夢幻島に連れていってもらうよ」
「いえ。早く来ていただけて、大助かりです」
安全地帯の外は、本当に危険だからな。腕利きの傭兵は、ありがたい存在だ。
「前に聞いた話だと、強力な魔獣がいるそうじゃないか。さぞ実入りが、いいのだろうね」
「倒せれば、十分に稼げるのは保証しますよ」
主にグランザードさんとソフィアさんが、結界の外を調査している。話を聞いた限りだと、討伐が可能なら金に困らなさそうだ。
「ところで仕事は、大丈夫ですか? 予定だと合流するのは、先の話でしたよね」
「順調だよ。ここ三ヶ月は、休む暇もないくらいさ。ただ少し稼ぎ過ぎた」
どうやら人気がありすぎて、同業者の客を奪いかねない程だとか。
「ほとぼりを冷ます期間を置こうと考えている。荒稼ぎで儲かるのは、最初だけだからな」
「長い目で見ると、損になりそうなのですか」
「それと顔を繋ぐために、大した用も無く依頼を出す者もいる。アタシらは傭兵だ。本当に必要な場所で、力を振るいたい」
飛空船競技会の賞品には、非売品も含まれている。魔導通信販売機を、無償で譲る彼女だ。顔を繋いでおきたいと、考えたのだろう。今後の競技会で入賞する可能性は、大いにあるからな。そうでなくても、千両役者と会いたくて依頼を出す人はいそうだ。
「なるほど。そこで夢幻島に、目を付けたのですね」
「その通り。開拓のために、危険な魔獣と戦う。傭兵冥利に尽きるってものさ」
傭兵らしい仕事といえば、そうかもしれないな。
「しかし中型船大レースから、まだ三ヶ月ですよね。依頼を断るのも、大変だったのでは?」
「開拓のためと言えば、穏便に依頼を断れたよ。さらに開拓先が、アンタのいる島だからね。大勢から、激励の言葉を掛けられたくらいさ」
嬉しいような、照れるような。よし、この話題は変える。
「よければ夢幻島で、しばらく休んでください」
「ずいぶん悠長だね。魔獣を放置したら、暴走するのは知っているだろう。それで滅んだ国は、一つや二つではない。暴走の予兆が無いか、自分の目で確かめるつもりだよ」
仕事熱心だな。ありがたいことだ。
「安心してください、調べは付いていますよ。夢幻島の魔獣は、すでに暴走状態です。それも島に行ってから、ずっと続いています」
「まったく安心できない情報を、ありがとう!」
驚いてる、驚いてる。俺もグランザードさんから話を聞いて、驚愕したからな。気持ちは痛いほど理解できる。
「結界の中なら、おおむね安心ですよ」
「そんなに信頼できる結界なのかい? 暴走魔獣を甘く見たら、危険だよ」
当然の疑問だと思う。これは念入りに、補助者へと確認した。皆の生命に関わるからな。
「支配者代行の権限を使って、作られた結界です。力で弾き返すのではなく、本能に訴えて近寄ろうとしなくなる効果があります。暴走状態になれば、結界の効果は高まるでしょう」
「それなら安心なのか」
しかし絶対に安全とは言えない部分もある。
「これは夢幻島に属する魔獣に有効です。つまり外部から来る魔獣には、通常の結界となります。それでも込められた魔力が尋常では無いので、人和級の魔獣が来なければ問題ありません」
「人和級は協会の区分だったな。つまり最上級の魔獣を除けば、心配いらないか」
そうだった。この階級区分は、一般に使われていないのだった。ドマさんは知っていたから、話が通じたな。
「まあ、分かったよ。しばらく休みにするか。船員たちにも休みをやらないとね」
「それがいいと思います」
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そんな話をしていたら、アクスさんも格納庫に来た。初対面だと思うし、自己紹介をしてもらおう。
「傭兵のドマと言ったな。以前は世話になった」
「気にしなさんな。適切な料金はもらったよ」
どうやら自己紹介は、必要ないみたいだな。
「二人は、お知り合いですか?」
「かなり前だけどな。定期船が欠航して困っていたとき、船に乗せてもらった」
「たまたまアタシらの目的地と一緒で、乗せることにしたのさ」
へえ、そんなことがあったのか。
「渡りに飛空船だったのですね」
「ま、そういうことだ」
アクスさんの様子を見て、ふと気付いた。荷物が少ないと思う。鎧や斧を除けば、小型の荷物袋が一つだけだ。まさか夢幻島に行くのは、中止にしたのか。
「あの、荷物は大丈夫ですか? 今度は長期間の逗留になりますよ?」
「シルドに預けた。奴は数日前に、王都カイスへ到着していたからな。話を聞いて、同日に夢幻島へ行くと分かった」
余裕を持って、カイス王国に来ていたのか。ずいぶんと待たせてしまったな。そのシルドさんは、休憩室にいる。これで出発の人員は揃ったし、呼んでこようか。と思ったら、当の本人が姿を見せる。
「来たようだね、アクス」
「よお、シルド。悪いが荷物は、夢幻島まで頼む」
「任せてくれたまえ」
シルドさんが、ドマさんに視線を向けた。休憩室内にいたから、さっき来たことに気付かなかったのだろう。
「やはり貴女も来たんだね」
「あのときは、世話になったね。合流の日付を教えてくれて助かった。礼に一杯、奢らせてもらう」
「楽しみにしているよ」
こちらの対面も終了と。そろそろ出発の準備をするか。
「ところでシルドさん、牽引飛行の訓練をしたいのです。ご指導を、お願いできませんか?」
「もちろん、構わないよ! さっそく用意をしようか」
「よろしくお願いします!」
まずは互いの船を魔導索条で繋ぎ、魔力を通す。これをしないと、牽引されている飛空船が落下してしまう。そして索状の中央に、白い布を付けた。牽引中の目印である。今回の訓練は、故障している飛空船の運搬を想定した。細々とした注意点を聞き、作業を行う。
「準備完了しました。牽引飛行、開始!」
シルドさんには風雷号に乗ってもらい、訓練飛行の監督を頼んでいる。移動しながら行った牽引飛行の訓練は、普段と違う緊張感があった。新鮮な気持ちで、飛空船の操縦をする。魔獣に襲われた際は少し焦ったが、結界を強化して切り抜けた。速度を出し過ぎないように、気を付けながら飛空船を操作する。
――数日間の飛行で、夢幻島に到着した。




