68話 周回、基本型迷宮
まずはマリアさんの先制射撃だ。しかし当然のように外れる。そもそも有効射程外だろう。
「わ! 来た! 来たよ!」
「落ち着いてください。当たってもケガはしません」
何度も撃つが、羽兎に避けられる。当たる弾を見定めて、回避していた。さすがは迷宮主か。通常個体よりも、強化されているな。当然、羽兎も避けるだけではない。相当な速度で、距離を詰め始めた。
「突進です! 避けてください!」
「いきなり言われても!? きゃ! 痛い!」
え、痛い? 羽兎はマリアさんに衝突するが、防御魔法に弾き飛ばされた。距離を取って、様子を窺っている。
「サクラさん、ピヌティさん! 羽兎の注意を引きつけてもらえますか!」
「了解!」
「お任せください!」
その間に、俺はマリアさんへ話し掛ける。
「大丈夫でしょうか? 防御魔法を掛けたはずですが。まだ痛みはありますか?」
「あ、いや。痛みは無かったわ。つい、反射的に」
ああ、俺もあったな。実際に痛みは無いけど、言ってしまうこと。
「うーん。なんで当たらないのかな?」
「魔獣が避けていますから」
何発かは間違いなく命中する軌道だった。ただ直線の攻撃だと、躱されやすい。動きを予測するなり、フェイントを使うなりする必要だあるだろう。
「そうだ。曲がる弾とか撃てませんか?」
「無理よ! それ、高等技術だからね!」
やはり無理だったか。マリアさんが発言した通り、自在に弾道を制御するのは高い技術が必要だ。これが可能だと、戦術の幅が広がるのだけどな。今は連携で何とかしよう。
「わざと避けられるように、攻撃魔法を使います。動き終わりを、上手く狙ってください」
「ええと。やってみる」
急激な回避行動は、魔力を大きく消費している。連続で使用できるのは、一度か二度が限界のはず。その後の、魔力を溜める瞬間を狙ってもらう。
「マリアさん、羽兎に攻撃を頼みます。当たらなくても構いません」
「わかった!」
立て続けに発砲。おびき寄せることに成功した。サクラさんとピヌティさんは、少しお休みだ。
「雷の矢! 三連!」
羽兎に目掛けて一筋。左に外して二筋。これで右に避けるはず。魔法の速度は調整して、ギリギリ回避できそうなくらいに加減してある。
「合わせるよ!」
最初に五発。そして予備の銃に持ち替え、さらに五発。命中した! 羽兎の耐久力は低い。そのまま消滅し、魔石と素材を残す。
「や、やった。倒したよ!」
「上手くいきましたね」
ふと部屋の様子が、おかしいことに気付いた。魔力が一ヶ所に集まっていく。それは少しずつ形を成し、宝箱に変わった。
「宝箱! 開けてみようよ!」
「待って、マリア! 確認が先ですよ」
「すぐに済む。任せてくれ」
ピヌティさんが宝箱を調べ始めた。すぐに問題ないことが判明。俺が宝箱を開けることになった。思ったよりも軽い蓋を、ゆっくりと上げていく。中にあったのは、薬の入った小瓶だ。
「……回復薬ですね」
「効果はどうでしょうか?」
サクラさんの疑問に答えるため、薬の魔力を探る。
「あまり大きな効果は期待できません」
「残念ですね」
高難度の迷宮ほど、効果の高い品物が入手しやすくなる。この迷宮では、これくらいが精々のようだ。それでも入手できるだけ、助かると思う。
「でも、これで攻略完了だよ! 無事に終わって良かった!」
「それでは、二周目に入りましょう」
「え?」
マリアさんが驚いている。当初の目的を忘れていたな。訓練を兼ねて、東方への行商に使える品物を獲得しにきたのだ。今まで手に入れた物は、どこでも入手可能な品ばかり。行商には向かない。
「それと弾の使用は、できるだけ控えてください。どう考えても赤字ですから」
「え!?」
魔導銃は弾を使わずとも撃つことが可能だ。威力や速度が落ちるけど。それと魔力の消費が大きくなる。
「次からは俺も攻撃に参加します。近接戦の訓練をするつもりです。交代しながら、いきましょう」
「いい考えですね。そうだ! ヤマトさんは身体強化なしで戦いましょう! 魔力量に頼り過ぎる戦闘は、訓練になりませんから!」
「ええ!?」
急で驚いたが、サクラさんの意見は正論だな。
「わ、わかりました」
「ヤマト君、がんばろうね」
それから部屋の奥にある転移装置で、入口に戻った。そして再び迷宮に入る。何度も何度も繰り返す。迷宮によっては、主の復活に時間が掛かる場合もある。ここは入り直すたびに、復活していた。
日が落ちかけた頃、攻略を止め帰路に着く。それなりに戦果はあった。ほとんどは汎用品ばかりだったが、いくつか魔宝石を入手できたのは幸運だ。東方では良い値が付くと聞いた。
「今日は疲れた~」
「操船、変わりましょうか?」
いっとう大変だったのは、マリアさんだろう。慣れない魔導銃を、ひたすらに撃ち続けている。途中で魔力が尽きて、大休止を取った。それでも十分ではなく、魔力回復薬を使ったほどである。交代の提案は、気を利かせたつもりでの発言だ。
「疲れていても、ちゃんと操作できないと駄目でしょ。でも間違ったら怖いから、見ててね!」
「わかりました。でも無理はしないでくださいよ。なにかあれば、すぐに交代しますので」
マリアさんの言う通りだな。長い空旅では、何が起こるか分からない。十分な休息を取りながら、余裕を持って操船するのが一番だ。しかしアクシデントが起こり、疲労を抱えたまま操作する状況も考えられる。身体が覚えるくらい、訓練を積むことは大切だろう。
「あ、ヤマトさん。私は休憩に入りますね」
「お疲れ様です」
今までサクラさんが警戒に立っていた。ピヌティさんと交代し、休憩室に戻るのだろう。
「ところで、そろそろ新しい船を創造すると言ってましたよね」
「大型飛空船を創造する件ですか?」
部屋に戻ると思ったのだが、唐突に飛空船のことを聞かれた。何か気になることでも、あるのかな。
「それです! 大型ならば、人型飛空船も乗せられませんか!?」
「あー、やってみないと分かりません」
でも面白そうだな。挑戦する価値はある。
「明日にでも、時間を取って試してみましょう。見学しませんか?」
「ぜひ、お願いします!」
大型飛空船にも、いろいろな種類がある。もっとも創造しやすいのはフェリーだろう。実際に乗ったことがあるから、想像しやすい。
「大型飛空船か~。あたしも操縦できるかな?」
「魔力操作でなければ、難しいと思います」
マリアさんには気の毒な話だが、大型ともなると一人で操作するのは困難のはず。多くの乗組員がいて、船を動かす。魔力操作は例外だと考えた方がいい。飛空船創造スキルでの操作は、もっと例外だな。
「船員を雇えば可能?」
「不可能ではありませんけど、何十人と必要になるはずです」
「大きい船だもんね。当たり前か」
ちょっと気落ちしているな。
「それとマリアさん自身も、専門の訓練を受けなければなりませんよ」
「そうだった!」
俺のスキルで大部分を動かし、マリアさんには操舵のみを担当してもらう。もしかしたら、これで可能かもしれない。ただ確証は無いから、伝えるのは止めておく。ぬか喜びさせても悪いしな。考え事をしていると、サクラさんが辺りを見ながら言葉を発した。
「もう完全に日が暮れましたね。灯りは点けないのですか?」
「ピヌティさんなら、夜目が効くでしょう。俺は魔力で周囲の気配を探っています。マリアさんは、がんばってください」
「夜は怖くて慣れないな」
これも訓練の一部だ。夜間飛行は難しい。何度も繰り返すしかないだろう。さて、もう少しで拠点に到着するはず。明日は大型飛空船の創造だ。大きな魔力消費に備えて、しっかりと今日は休もう。




