67話 探検、基本型迷宮
洞窟内へ入る前に、俺は魔導写真機を取り出す。帝都ガンベルで購入した魔道具だ。パシャリと一枚。これでよし。
「記録用でしょうか? 航空日誌を書いていましたよね」
「そうですよ。俺の個人日記みたいなものですが」
サクラさんに答えながら、少し懐かしい気持ちになる。文字や言葉の勉強を兼ねて、日誌を付けことが始まりだったな。そこに写真が加わるようになったのは、最近だけど。
「光の球、発動」
「灯りか、助かる」
足下が暗いと危ないからな。ピヌティさんの前方に、光球を送った。中に入ると、転移装置が設置されている。訓練島で見た装置と同じだな。全員が乗ったのを確認した。
「転移、迷宮内部へ」
言葉を発した直後、浮遊感に襲われる。気付くと、そこは別の場所だ。視界に扉が映っていた。
「扉を開ける」
「ピヌティさん、お気を付けて」
防御魔法は使用しない。今回の訓練では、なるべく使わない予定だ。魔獣の数が多かったり、危険すぎたりした場合は別だけど。
「大型の蛇、一体だ」
「まだ動きませんね」
「部屋の中に入るまでは、動かないはず」
結界が張られているな。遠隔攻撃は弾かれるか。それにしても予想より、部屋が広いな。中型飛空船が、余裕で召喚できるほどだ。動き回るのに支障はない。部屋の中央に蛇がいる。大きさは2メートルくらいか。
「では入りましょうか。攻撃はマリアさんだけです。頼みましたよ」
「う、うん。やってみる」
ピヌティさんを先頭に、四人が部屋の中に入った。ほぼ同時に蛇が動き出す。サクラさんとピヌティさんが、蛇に対して囮になる。マリアさんが射撃体勢を取った。
「当たれぇ!」
マリアさんの射撃。五発の音が、連続で響いた。しかし当たらない。まあ、最初だしな。今は味方に当てないだけで及第点だろう。弾を込めて、再びの発砲。
「一発、当たったよ!」
「でも倒せていません。それと蛇が向かってきました」
まともに当たれば、倒せていたはずだ。おそらく命中することに気を取られ、魔力が十分に込められなかったのだろう。魔導銃は弾に魔力を込めたとき、最大の効果を発揮する。
「ヤマト君! ど、どうしよう!」
「風よ、吹き飛ばせ!」
意外に蛇の動きが速い。風魔法を発動。蛇との距離が離れる。
「これで大丈夫です」
「ありがと!」
蛇は一直線に、俺の方へ向かってきた。魔法を使った相手が分かったのだろう。これでマリアさんも少しだけ安心できると思う。彼女の様子を見ると、真剣な表情で狙いを定めている。魔導銃のトリガーを引いた。五発中、二発が当たる。
「やった! 倒したよ!」
「おめでとうございます」
蛇の身体が消失し、その場に魔石を残した。素材は落とさない。
「ヤマトさん、見てください! 宝箱が現れました!」
「これは幸先がいいですね!」
サクラさんが嬉しそうに、宝箱を指差した。基本型迷宮の宝箱は、こんな感じで出現するのか。各部屋を攻略した際に、確率で現れると聞いたことがある。
「罠が無いか調べる」
「がんばってね、ピヌティちゃん!」
俺には作業の内容が分からない。ここは彼女に任せる。さほど時間を掛けずに、確認が終わった。
「問題ない、罠は無かった。それと鍵も掛かっていないな」
「ありがとうございます。それではマリアさん、開けてください」
「わかった!」
最初に開けるのはマリアさんに譲る。魔獣を倒したのは、彼女だしな。次からは順番で開けることになるだろう。もっとも宝箱の中身は、チームの共有資産とする予定だ。
「あ、回復薬!」
「おお、いい物が出ましたね」
初級の迷宮としては、当たりだろう。含有する魔力量から推測すると、大きな傷は癒せそうもないけど。
「次に進みましょうか。ピヌティさん」
「了解」
俺たちは前回と同じ要領で、次の部屋に進む。
「大型のサソリ、三体だ!」
「二体の動きを封じます!」
俺は素早く標的を定めた。
「光の鎖、敵を縛れ!」
「お見事です!」
サクラさんが発した賞賛の声を聞きつつ、片方の鎖にだけ少し強い魔力を込めた。こうすると時間差で効果が切れる。
「いくよ!」
掛け声と共に、マリアさんが発砲。全弾、外れ。弾を込め直し、再挑戦。今度は五発中、三発が命中した。そのままサソリは消失し、魔石と尻尾を残す。今度は素材も手に入ったな。売却するか、飛空船の強化に使うか。要相談だ。
「そろそろ次のサソリが来ますよ」
「任せて!」
すこし自信が付いたようだ。さっきよりも、構える姿が様になっている。二体目のサソリに対して、同じように射撃を行う。二発が命中。お、倒した。魔石だけを残す。次は三体目だが、まだ魔法の効果で封じられたままだ。
「光の鎖を避けて、サソリ本体に命中させられますか?」
「やってみる!」
これが可能になると、助かるのだけどな。魔法で封じて、魔導銃で倒す連携技だ。五発中、四発が命中。一発は鎖に当たったため、サソリにヒットしたのは三発だ。これで魔獣は動きを止め、消失していく。素材は落とさない。まあ、こんなものかな。
「宝箱は出ないか」
「出たら幸運くらいに考えましょう」
ピヌティさんが、少し残念そうにしているな。とはいえ気にし過ぎても仕方ない。切り替えて次の部屋に向かった。
「今度は大型のクモ。一体のみ」
「あ! あれは毒グモだよ!」
俺も図鑑で見たことがあるな。神経毒を使うと記載があった。その場で相談をして、魔法で倒すことに決める。四人で部屋の中に入った。
「火の矢、五連!」
五本の矢がクモに向かう。かなり速度を上げた矢だ。全て命中。クモを焼き尽くした。魔石と爪を落とす、宝箱は出現しない。次に行こう。
「お魚さんですね」
「空魚だな。数は二十弱。肉食だったはず」
サクラさんの感想に、ピヌティさんの観察。二人の言葉通り魚だ。見た目はピラニアに似ているな。肉食なのも頷ける。輝く鱗に、赤色の瞳が目を引く。
「数が多いので、防御結界を張りましょう」
「賛成! でも中から魔導銃は使える?」
結界は魔力を通さない。外からの攻撃を防ぐ代わりに、中からも攻撃できないのが普通だ。今回は特別製の結界を使う。以前にシルドさんから教えてもらった。
「大丈夫です。魔導銃の弾は、素通り可能にしますから」
「それなら安心!」
特殊な能力を付けた分、強度や魔力消費量に難がある。しかし、この空魚なら大事には至らないだろう。部屋の中に入り、即座に意識を集中。
「光結界、発動!」
俺たちの周囲に光の壁が出現する。マリアさんを中心に、光の円で囲む感じだな。
「どんどん撃つよ!」
「マリア、がんばってくださいね!」
サクラさんの声援を背に、射撃を開始した。最初は順調に数を減らす。だが残り十匹ほどになってから、急に当たらなくなる。敵が学習したのかもしれない。あるいはマリアさんが疲れて、照準がぶれてきたかだな。――全ての空魚が撃ち落とされるまで、かなりの時間を必要とした。
「つ、つかれた~」
「お疲れ様です。少し休憩してください」
俺は魔石や素材を回収しながら、マリアさんに声を掛けた。本当に疲れているみたいだし、休んでもらおう。次の扉が豪華なんだよな。迷宮の難度は、最低ランクと言えるだろう。次が迷宮主の部屋でも、おかしくはない。
「あ、空魚の肉が落ちています。これは夜にでも、食べませんか。浄化魔法を掛けて、照り焼きなどはどうでしょう?」
「いいと思います。魚料理は久しぶりです」
カイス王国では、魚が捕れにくいらしい。大部分を輸入に頼っていると聞いた。サクラさんは賛成だな。他の二人からも、特に反対はない。素材の活用方法を話しつつ、小休止を取った。
「それでは中に入りますか」
「主がいれば、いいのだがな」
もし迷宮主がいなければ、攻略は不可能だ。自然発生した新規の迷宮では、稀にあることらしい。心配しながら扉を開くが、どうやら取り越し苦労だったようだ。部屋の中央に、一体の魔獣が存在している。
「懐かしいな。自然型迷宮で初めて戦った主ですよ」
「その話は聞いたことがあります。火魔法が厄介と聞きました」
「あれは強化された個体でしたので、今度は大丈夫だと思います。強い魔力も感じられません」
ということで予定の通りに行動だ。いくつかの作戦は、事前に考えてある。攻撃能力が低く、素早い敵に対する作戦を行う。中に入ると同時に、魔法を使った。
「不可視の鎧、我が友を守れ!」
「これ、不思議な感じだよね」
攻撃はマリアさんのみが行う。防御魔法を掛けるのも、彼女だけである。サクラさんとピヌティさんなら、自己強化だけで十分。さあ、チーム『夢幻の集い』初の迷宮主戦だ!




