66話 設置完了、魔導水瓶
「終わった!」
早朝から、日が昇り切るまでの数時間。ひたすら穴を掘り続ける。一週間、連続で。今日、遂に解放された! そして明日は休みだ! 立っているのも辛い。その場で大の字になった。服は作業用で、すでに土まみれだ。気にしない。いや、むしろ勲章とも言える。
「ヤマトさん、まだ終わっていませんよ」
「え!?」
驚愕と絶望の声を上げた。サクラさんの慈悲なき言葉に、心にヒビが入りそう。
「魔導水瓶を固定する台座を運びます」
「あ、そうでした」
穴を掘ったら終わりではない。当たり前だな。水瓶を横向きに固定するため、台座を設置する。ボーロング三兄弟が、石を削って作ったらしい。途中から、その作業に掛かり切りとなっていた。
台座の大きさから考えて、四人で運ぶことにする。俺と三兄弟が、運搬要員だ。三人は自分たちが作った物だから、ぜひ運びたいと立候補してくれた。たまたま俺は三兄弟の近くにいて、巻き込まれています。台座を取り囲み、取っ手を掴んだ。これは四ヶ所に付いている。運搬を考えてだろう。ありがたいことだ。
「ぐ、重い!」
手が、手が軋む! こんなとき異空間倉庫魔法が使えたら!
「魔法が使えたら、と考えていますね」
「その通りですよ!!」
バイオレット様に、図星を指された。超能力者か! いや、精神魔法で心を読まれたのかもしれない!
四人でタイミングを合わせ、ゆっくりと運んでいく。そんなに距離は遠くない。なんとか台座を設置した。
「ヤマトさん、魔導水瓶をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
トリアさんから、魔道具を受け取る。水瓶を設置する栄誉を、与えてくれたらしい。慎重に置き、魔力を込めた。水が溢れ出し、ため池に流れ込む。
「成功です!」
思わず声が出た。周りからは、大きな歓声が上がる。疲れたのは、みんな同じだよな。分かりやすいくらい、喜色をあらわにしている。
「魔力強化なしだと、いい訓練になったな」
「ヤマト君の訓練計画に追加しましょうか」
グランザードさんとソフィアさんの話している内容に、心の底から驚いた。これ、訓練メニューになるの!? 二人とも口元が笑っているし、冗談だよな?
「それは置いといて。ヤマト達の予定は、どうなっている?」
「もし急ぎの用事がなければ、提案があるわ」
提案? なんだろう。俺は近くにいたサクラさん達と、顔を見合わせた。とりあえず予定を伝えよう。
「約三ヶ月後に王都カイスで、シルドさんと合流します。夢幻島まで来てもらったら、四人で東方へ出発ですね」
「商売もするんだろう。当然、品物が必要だ」
「そこで迷宮に行ったら、どうかしら?」
迷宮か。興味があるな。二人から詳しく話を聞く。拡大した結界の近くに、基本型の迷宮があったそうだ。たしか基本型は分岐のない一本道で、道中の魔獣を倒しながら進む迷宮だったはず。
「しかも新しい迷宮だな。発生したのは、つい最近のはず。夢幻島では珍しく、弱い魔獣もいる。そして歩いても日帰り可能な場所だ」
「ねえ、グランザードさん。もしかして結界内にあるの?」
マリアさんの疑問は当然だな。歩いて日帰り可能なら、結界内にあると考えた方が自然だ。結界は外部からの魔力を遮断する。つまり夢幻島の中枢から、魔力が届かない。迷宮が発生するのを、不思議に思ったのだろう。しかし何事にも例外はある。
「おそらく結界内に魔力中枢の代わりとなる者が、存在しているからだと考えられます」
「その認識で間違いないだろう」
遠回しに表現した俺の言葉を、グランザードさんが肯定した。今の話を聞いたサクラさんは、首を傾げて思案している。
「魔力中枢の代わりですか?」
「あ! ヤマト殿がいるからか!」
ピヌティさんが、思い当たったようだ。ほぼ間違いなく、俺が原因だろうな。仮ではあるが、夢幻島の支配者だ。中枢に近い存在と言っていい。ただ分からないこともある。
「俺の意思とは無関係に、迷宮が発生するのでしょうか?」
「ヤマト君は船の強化に、多くの素材を必要としているわ。その無意識の願いを、島が叶えたのかもしれません」
俺はソフィアさんの言葉で納得した。
「それとマリアは魔導銃の訓練中と聞いた。せっかくの機会だ。実戦で試してみたらどうだ?」
「彼女を依頼主に見立てれば、他の三人は護衛訓練になるわ」
なるほど。試してみようか。
「やってみましょう。みなさん、構いませんか?」
「あたしも迷惑を掛けないように頑張る! よろしくね!」
マリアさんが率先して賛同の意を示した。今回の主役だ。やる気があるのは素晴らしい。
「問題ない。護衛か、久しぶりだな」
「私も大丈夫です」
サクラさんとピヌティさんも、賛成してくれた。これで決定だな。しかし自分で生成した迷宮を、自分で攻略するのか。マッチポンプ感がすごいな。
休日を挟んで、二日後。いよいよ迷宮攻略に出発だ。考えてみたら最初の島――訓練島を出てから、一度も完全な迷宮に入っていない。ちゃんとした迷宮に挑戦するのは、初めてなのか。
そろそろ全員、出発の準備ができたみたいだ。操舵席に行くか。
「今日の操船は俺がします。マリアさんは、魔獣の討伐に専念してください」
「ありがとう。なら訓練場を借りるね。少しでも射撃練習をしたいの」
彼女は、そのまま室内に入っていく。目的の場所は、奥にある射撃場だ。最初は的を置いただけの場所だったが、今は少しバージョンアップしてある。的を動かすことが可能になった。ただし本人の腕は、止まった的に当てるので精一杯らしい。初めたばかりだから、当然だとは思う。
「今日の迷宮には、宝箱が出るらしいな」
「そう言ってましたね」
ピヌティさんが、近付きながら話し掛けてきた。しかし周囲に目を配るのを、忘れていない。
「迷宮に出現する宝箱は、中身にバラツキがある。生成したのがヤマト殿なら、入手できる品を制御できないか? 島の支配者なら、迷宮主の上位存在だろう?」
「仮の支配者だと無理みたいです」
夢幻島の最深部に行き、正式な支配者になれば可能だろうけど。それから迷宮主と聞いて、一つ疑問ができた。
「これから行く迷宮では、主がいると思いますか?」
「分からないな。自然発生した直後だと、迷宮主がいない場合が多いと聞く」
行ってみないと、判断できないか。こればかりは仕方ない。
あれこれ話をしていたら、迷宮の入り口に着いた。切り立った崖の下に、洞窟が存在している。洞窟から魔力を感じるし、間違いなく迷宮だろう。入口は狭く、中型飛空船では進めない。
「ここからは徒歩ですね。先頭はピヌティさん、その後ろにマリアさん。左右をサクラさんと俺でガードします」
「了解。マリア、誤射にだけは注意してくれよ」
「う、気を付ける。やっと最近は、まっすぐ飛ぶようになったわ」
マリアさんは左右の腰に付けたホルスターを、手で触って確認しながら言った。拳銃型の魔導銃で、使うときは一丁を両手で構えて撃つ。つまり片方は予備だ。
ベルトにはスピードローダーホルダーも付けられている。また異空間倉庫袋にも、予備の弾をしまってあるらしい。
「私は魔獣を追い払うことに専念しながら、護衛をするのですよね?」
「そうなります。ただ危ないと判断したら、倒してください」
「分かりました」
サクラさんは少し自信が無さそうだ。迷宮の魔獣は侵入者を積極的に襲う。常に追い払い続けるのは、大変だろう。特に秘刀術は、攻撃特化の技が多そうだ。
とはいえ俺も自信があるわけではない。魔法を使い分けることで、なんとか対応しようと考えている。
「各自が危険と判断したら、魔獣の殲滅に変更しましょう。身の安全が第一です」
「そうだな。元来、迷宮は訓練の場であった。心身が無事でなければ、鍛錬の意味を失う」
ピヌティさんの言った通り、訓練のために迷宮は作られた。正確にはソウルスキルの訓練、そして発現を補助するためにだ。命あっての物種。訓練の成果が出るのも、生きてこそだな。
「それでは迷宮攻略、開始しましょう」
「先に行く」
まず最初に、ピヌティさんが洞窟に向かった。俺たちも続こう。




