65話 回収、水生成の魔道具
風雷号を操作し、大岩の上空へ行く。湖の近くまで進み、様子を確かめた。
「おそらく中央の底に、魔道具があるでしょう」
「わずかですが、水の魔力を感じます」
俺の言葉に、バイオレット様が頷いてる。二人の意見が一致したな。風雷号を動かし、湖の中央まで進んだ。
「一気に底まで、降りる予定です。マリアさんは緊急時の魔力補給を頼みます」
「わかったよ!」
後は回収の手順を確認する。
「ピヌティさんは、回収用に準備した魔道具を使ってください」
「了解」
マリアさんの所持品に、遠くの物を掴める魔道具があった。魔導リーチャーと呼ばれている物だ。それを使い、湖の底から持ち上げる。
「サクラさんは魔導玉網で、上手い具合にすくってもらえますか」
「承知しました」
これは俺が持っていた魔道具だ。釣り用の網を使っている。使用頻度が少ないのは、ちょっと悲しい。
「バイオレット様は結界の強化を、お願いします」
「お任せを」
他人の結界強化は、かなり高度な魔導技術だ。飛空船には俺の結界が、常に存在している。その魔力に干渉せず、強化しなければならない。バイオレット様なら問題ないだろうけど。
「では行きます。風雷号、降下!」
全員に声を掛けてから、飛空船を湖に沈ませる。予想される魔道具の位置に対し、左側面を向けて降りていく。周囲から水が押し寄せるのを感じた。想定を超えた力だ。風雷号を強化していなかったら、間違いなく耐えられなかったな。
「マリアさん! ライトを頼みます!」
「ライト、点灯!」
風雷号から灯りが発せられる。重要なのは左側面の照明だ。魔道具を視認できなければ、回収がままならない。さらに深度を下げ、湖底に近付いていく。周囲を確認する余裕はない。
「ヤマト、はっきりと魔力を感じます! 近いですよ!」
「こちらでも確認しました!」
強化結界内からでも、魔力を感じられる。目標物まで、あと少し。バイオレット様の結界強化ありでも、この圧力。油断すれば、即座に水が侵入する。ここまで水圧を強く感じるのは、飛空船は潜水しないという意識があるからだろう。
「発見! だが少し遠い! ヤマト殿、魔道具に寄せられるか!?」
「任せてください!」
風雷号を、慎重に魔道具へ近付ける。湖底に当たらないように、深度は下げ過ぎない。ピヌティさんが魔導リーチャーを使い、魔道具を掴んだ。落ちないように、ゆっくりと上げる。すかさずサクラさんが魔導玉網ですくった。いい連携だな!
「回収完了です!」
「了解! 一気に浮上しますよ!」
サクラさんの言葉を合図に、風雷号を上昇させる。魔道具を回収しても、生成した水は消えないみたいだ。さっきから飛空船に、かなりの負荷が掛かっている。急いで湖の底から脱出した。
さっそく回収した魔道具を眺める。形状は水瓶だ。水を生成する魔道具の形なら妥当か。まずは使用方法を調べないとな。魔道具を見ていたマリアさんが、声を上げる。
「あ! 魔道具の名前が分からないわ! なんて呼ぼうか?」
「とりあえず魔導水瓶と呼びましょう」
それより先に使用方法を知りたい。多くの人が最初に思い付くことを、口に出して言う。
「もっとも単純な使い方は、魔力を込めることですよね」
「ここで試したら、風雷号が水浸しになります。戻ってから、実行しましょう」
サクラさんの言う通りだな。拠点に帰ってから、実験を行うか。バイオレット様とマリアさんは、魔導水瓶と睨めっこだ。矯めつ眇めつして、魔道具の確認をしているのだろう。俺も気になるし、急いで帰還するか。
「それでは帰ります」
「念のため、警戒はしておく」
ピヌティさんが前方に立ち、周囲を見張る。サクラさんは、後方に向かった。少し進んだところで、マリアさんが操舵席に来た。
「あたしの知識だと、手に負えなかったわ。ヤマト君、操船を交代するよ」
「助かります」
俺はマリアさんに操縦を任せ、魔導水瓶を見に行った。バイオレット様が真剣な表情で、魔道具を調べている。
「何か分かりました?」
「残念ですが、ほとんど理解できません。恐ろしく高度な魔導技術が、使われていますね。水の生成だけでなく、清浄化の機能もあるようです」
だから大岩の湖は、綺麗だったのか。
「生活用水に使えそうですか?」
「問題ありませんよ。水の確保に最適な魔道具と言えるでしょう」
後は魔力効率を調べる必要があるな。それから設置場所も考えないと。今日の夜にでも会議が必要だろう。――それから拠点に帰るまで、可能な範囲で魔導水瓶の調査を進めた。居住船に戻ったのは、夕方前だった。
「全員が揃うまで、時間がありますよね。実際に使えるか、試してみましょう」
「ではヤマト。水瓶に魔力を込めてください。私が力の流れを確認します」
ということで、俺が魔導水瓶に魔力を込める。たちどころに水が生成され、瓶から溢れ出す。予想よりも魔力の負担が少ない。服や足下が濡れるが、気にせず魔力を込め続けた。
「いったん止めてください。見た感じ、魔力の変換効率が良いですね。良すぎると、言ってもいい。カイス王国の標準技術だと、再現できそうにありません」
「ため池や水路を使うのに、地魔法を使う予定でしたよね。魔力の干渉は避けられそうですか?」
属性の異なる魔力が近付くと、互いに干渉反応が起こる。良い反応もあれば、悪い反応もある。
「現状では不明としか言えません。事は水の問題です。念には念を入れて、ため池は魔力を使わず掘りましょう」
「わ、わかりました」
本気か!? ため池を手動で掘る? めちゃくちゃ大変な作業だぞ。考えていたことが、顔に出たのだろうか。バイオレット様が、補足するように話を続ける。
「ため池と言っても、そんなに大きい必要はありません。それに魔導水瓶から遠い水路などは、魔法を使えますよ」
「そ、そうですね」
灌漑工事に必要な、水源を確保する作業か。生活用水でもあるし、不安要素は少ない方がいいよな。正論って素晴らしい!
「ヤマト、がんばりましょう!」
「……はい」
まあ、必要なことだ。嘆いても始まらない。やるからには、がんばるとしよう。終われば農業用水や飲料水は確保できる。やりがいのある仕事です。
――その日の夜、全員が風雷号の休憩室に集まる。魔導水瓶を入手したこと、ため池の掘削作業を行うことを伝えた。それと作業は魔力を使わないこともだ。俺はメイドたちの表情が固まったのを、見逃さなかった。二人とは接点も少なく、話したことも多くない。だが、この瞬間に確かな連帯感があった。
「それと下水関連の話も必要ですね。こちらは魔導通信販売機で、設置型のトイレを購入します」
「異議なし!」
バイオレット様の言葉に、賛成の声が上がった。最初に声を出したのは、トリアさんである。あれは高性能な商品を狙っている顔だ。彼女の思惑はともかく、下水まわりの物に金は惜しまない。今の夢幻島には、専門医がいないからな。衛生面は、可能な限り上を目指すべきだ。多くの飛空船に設置されている、排水が必要ないタイプを勧めた。老廃物を完全に魔力へと分解する機能が付いている。
他の作業進捗を確認し、日程の調整をした。ため池の作成は、明日から全員で行う。最重要な課題だからな、当然か。そして会議は終了となる。
次の日の早朝、俺たちは作業現場に集合した。ため池の場所は、転移扉から少し離れている。土地の状況を鑑みて、最適な場所を選んだらしい。穴を掘る道具は、十分に用意してある。予備もバッチリだ。準備は万端。互いの邪魔にならないよう、それぞれ間隔を空けて穴を掘り始めた。俺も無心で穴を掘る。固い場所はツルハシを使い、砕いていく。そして再び穴を掘る。
最初は会話もあったが、だんだんと口数が減っていく。しばらく掘ったら孤輪車を使い、土を運び出す。それからは掘る担当、運ぶ担当に分かれ作業を進めた。日が高くなり、作業は終了となる。……今日のところは! 予定では一週間、作業が続く。それから魔法が解禁だ。その日が待ち遠しい。




