64話 発見、異世界の座標
出発しようと、意気込んでみた。しかし冷静になって考えると、今から行くのは無理だ。時間が足りない。それと先に居住船を改造する必要があるだろう。魔導通信販売機も設置しないと。
「今日は準備をして、明日の朝から魔道具の回収に向かいましょう」
「強化した風雷号の、真価が問われますね。湖の底、どんな景色なのでしょう」
サクラさんは、湖底の風景が気になるようだ。でも深い場所だと、光が届かないよな。ライトの強化も、しておこうか。飛空船に付けたライトは、あまり使わない。迂闊に使うと、魔力光に誘引されて魔獣が寄ってくる。
大岩の湖は魔道具による人工の産物だからか、魔獣が存在しないみたいだ。強いライトを使っても、問題ないはず。一緒に居住船の方も強化しておこう。
「ところでヤマト、今日は宴会をしましょう。無事に目的を達成したのですから、お祝いです」
「それなら必要な作業を済ませて、準備をしますか」
「準備は残留組に任せてください。貴方たちの帰還祝いでも、あるのですから」
そういうことなら、準備は頼むことにする。成長の早い野菜は、すでに収穫をしたそうだ。採れたての素材を活かした、野菜料理を出すらしい。バイオレット様が、自ら育てた野菜もあるとか。楽しそうに話していた。
話に区切りを付け、居住船の強化を始める。サクラさん達は、安全地帯の中を見て回るそうだ。しばらく別行動だな。――集中して作業をしていると、時間が経つのが早い。もう日が落ちかけていた。そろそろ外の作業組が戻ってくる頃だ。
最初に帰ってきたのは、グランザードさんとソフィアさん。お互いに無事を喜ぶ。喜んだ後は、訓練の時間になった!
「ずいぶんと、魔力が上がったな。そろそろ次の段階に進む頃合いか」
「近接戦の訓練も忘れては駄目よ。まずは素振りからね!」
「お疲れのところ済みません。よろしくお願いします」
魔法訓練は、是非お願いします! 肉体訓練は、お手柔らかにお願いします! いまだに近接戦の訓練は苦手だ。それでも少しずつ、向上しているらしい。魔法と違って、実感の湧きにくさが難点だと思う。
今回は帰還したばかりのためか、以前ほどハードな訓練ではなかった。現在の実力を確認したみたいだな。魔法戦は、よくできました。近接戦は、もうすこしがんばりましょう。反論できないのが、辛いところだ。訓練の礼を述べた後、風呂に向かう。二人も居住船に引き上げた。
「ヤマト殿。今、戻った。三人とも異常なしだ」
「お帰りなさい。どうです、久しぶりの夢幻島は?」
「そうだな。なぜか帰ってきた、という気がする」
その気持ちは分かるな。不思議なことに、懐かしい気分になるときがある。ここに滞在した時間は、そう長くないのに。
「ピヌティちゃんも、そうなんだ。あたしも同じなの」
「私も似たような感覚があります」
「……俺もです。四人全員が、共通の感想を持っているのですか」
少し気になるな。この島に何か秘密でもあるのだろうか。まあ謎だらけで、何一つ分かっていない島だからな。夢幻島の最深部に行けば、何か分かるのかもしれない。……今は考えても仕方ないか。
「それより今日は宴会ですよ。楽しみましょう」
「お酒も出ると聞きました。お付き合いくださいね、ヤマトさん」
サクラさんと飲むのは、久しぶりだな。というか酒を飲むのが、久しぶりだ。飛空船での移動中は、酒を飲まない。結界を張って就寝するときも、夜襲を念頭に置く。もう少し人数が多くて、交代要員がいれば別だけど。
「王都カイスに寄ったときは、用事だけ済ませて出発したからな」
「長居する理由も、ありませんでしたので。カイスでの英雄扱いが苦手で、少しだけほっとしました」
人の噂も七十五日と言うが、この話は消えそうにないから困っている。
「だけど帝都ガンベルでも、英雄みたいに言われていたよ。そのときは気にしてなかったよね」
「それは構いませんよ。人を助けた結果ですから。誇らしく思います」
過度な謙遜は、助かった人の生命まで軽んずることになる。
「カイスでは自分の都合で行動して、聖人君子のごとく扱われています。騙している気分になって、悪いことをしている感じがするのです」
それからトリアさんとバイオレット様の人生に、無茶な干渉をしてしまった後ろめたさもある。
話を続けようとしたところ、遠方に人影が見えた。ピヌティさんは、すでに気付いているな。
「他の者が帰ってきたようだ」
「なにか疲れた顔をしていますね。それも六人、全員が」
広くなった安全地帯の中を、調査に行っているメンバーだよな。トリアさんに、ボーロング三兄弟。それからメイド二人。どうしたんだろうか。徒歩で移動したら疲れるだろうけど、それ以外にも理由がありそうだ。
「……戻られていたのですね」
「お久しぶりです、トリアさん。ところで、どうしました?」
「……利用可能な材木を確認するため、森の中に入ったのです。そして見事に迷いました」
詳しく話を聞くと、森には魔法の仕掛けがあったらしい。一緒に行った人の中には、魔法の心得がある者もいる。しばらく迷ってから、不自然な魔力に気付いたそうだ。
「迷いの森と名付けてやりましたよ!」
「分かりやすいですね」
直球なネーミング、いいと思います。しかし安全地帯にも、危険な場所はあるのか。魔獣が入ってこれない場所を、安全地帯と言っているだけだからな。探索するときは、十分に注意しよう。
「とにかく、お疲れでしょう。少し休まれてください」
「ありがとうございます。一度、戻りますね」
あ、しまった。居住船を改造したこと、伝えるの忘れた。部屋にはネームプレートがあるし、大丈夫か。それと室内の改造は、本人の許可をもらってから行う予定だ。まだ夕食には時間がある。手早く済ませてしまおう。
居住船の改造が終わった頃、宴会の準備ができた。無事の再会を祝う。夢幻島で採れた野菜は美味かった。見慣れない食材があるのは、さっそく魔導通信販売機が活躍したのだろう。じっくりと料理を味わっていたら、バイオレット様に話し掛けられた。
「伝えるのが遅くなりましたけど、ヤマトの居た異世界。座標が分かりました」
「本当に見つかったのですか!」
こんなにも早く進展があるとは、想像だにしなかったな。ソウルスキル・異界の無花果、高性能すぎる。正直、年単位で掛かると思っていた。
「しかし問題があります。私たちが思っていた以上に、複雑な情報となっていました。貴方に座標を伝える手段がありません」
「つまり精神魔法で情報を伝える方法が、使えないのですね」
当初の予定では、判明した座標を精神魔法で伝達するはずだった。しかし情報量が多すぎて、その手段が使えなくなったのだろう。
「引き続き、調査を実行します。別の手段を探しましょう」
「開拓に支障が出ない範囲で、よろしくお願いします」
この話は、いったん終わろう。俺は酒を口に運びながら考える。急ぐ必要はない。それに旅をする中で、異なる方法が見つかる可能性もある。――宴会は、夜が更けるまで続いた。
明くる日、出発の準備は万全だ。今から大岩まで行き、魔道具の回収に向かう。と思った矢先、バイオレット様に止められた。
「私も一緒に行きます」
「不測の事態が、あるかもしれませんよ?」
「なおさら一緒に行きます。一人でも多く、結界要員が必要でしょう」
ごもっともです。バイオレット様が結界を担当するなら、俺が飛空船の操作に専念できる。それに彼女自身が率先して行動することは、開拓の成果にプラスへ働くだろう。
「それなら、お願いします」
「お任せください。王国の結界は、私の担当でしたから。年季の違いを、お見せしましょう」
ここにトリアさんがいたら、自分も一緒に行くと言い出したかもしれない。すでに彼女は調査へと出発している。ちょっと安心した。
「南の大岩までは、あたしが操縦するよ! バイオレット様、親船に乗った気でいてね!」
「お願いします、マリア」
風雷号が出発してから約数時間。大岩の前まで到着した。さあ、水生成魔道具の回収ミッション、スタートだ!




