63話 正式発足、チーム『夢幻の集い』
スルカイタ帝国を出発してから、約二週間が過ぎた。目の前には夢幻島への転移扉がある。途中で王都カイスに寄り、三ヶ月後にシルドさんが訪ねてくることを伝えた。そして出発前に頼んでいた資材を受け取る。
「久しぶりですね、夢幻島に来るのも。島の皆に一回り強化された風雷号を、見てもらいましょう」
「島に残してある中型飛空船の改造はどうしますか? まだ使いますよね」
「それも同じように、手を加えるつもりです」
当然のように、サクラさんへ答えた。あれは居住船と名付けて、ここに置いておこうかなとも思う。バイオレット様なら動かせるだろうし、緊急時の移動手段は必要だろう。今の魔力なら、大きな負担ではない。
「ヤマト殿、とりあえず入らないか。話は後でも構わないだろう?」
「おっと、そうでした。入りましょう」
「待って! 私にやらせて!」
マリアさんからの提案で、飛空船の操作を譲る。風雷号は、ゆっくりと転移扉に近付いた。だが扉は開かない。
「あれ? 開かない。なんで?」
「俺が扉を開くように、意識を持たないと駄目なのかも」
試しに扉よ開けと、念じてみた。
「開いたな」
「つまりヤマトさんの飛空船でも、本人がいないと入れないのですね」
なんとなく俺の魔力に反応していると、思っていたな。あ! 扉を開けたままにするのは、よくないか。大罪の欠片に、影響が出る恐れがある。
「マリアさん。すぐに入りましょう」
「りょう~か~い」
改めて風雷号が進み、扉を通る。近くに居住用の中型飛空船が見えるな。居住船の隣に着陸してもらう。上から見たら、いくつか小屋が建っていた。開拓は順調なのかな。畑みたいな場所もあったし。
「ヤマト、お帰りなさい。報告があります」
「また急ですね。こちらも伝えることがあるので、会議の時間にしましょうか」
バイオレット様が、居住船の部屋から出てきた。挨拶もそこそこに、報告があるみたいだ。開拓に熱心で、いいことかな。俺たちは急場しのぎで、会議の場所を整えた。二人が異空間倉庫を使えると、あっという間だな。
「重要な報告をします。突然、安全地帯が拡大しました。それも相当な広範囲に」
「思った以上の重要事ですね。開拓計画に見直しは必要でしょうか?」
拠点を移すことも、視野に入れておこうか。今なら対応可能だと思うし。小屋と畑は、もったいないけど。
「現状では、計画に変更はありません。調査の結果だと、良さそうな場所もあったのですが。結界が広がった理由も分かりませんので」
「ところで、いつ頃の話でしょうか。結界が広がったのは」
「一ヶ月ほど前だと思います」
急に拡大した結界なら、急に縮小することも考えられる。一ヶ月は維持しているみたいだが、今後も同じと判断するのは早計だろう。あれ、待てよ? 一ヶ月ほど前だと、中型船大レースが終わった頃だよな。もしかして、大罪の欠片が影響しているのでは。
「補助者、質問がある! TB・O・リッチの欠片を入手した。そのことで安全地帯の結界に影響はあったか?」
『イエス。範囲の拡大を確認』
「今後も大罪の欠片を入手すると、結界が拡大するのか?」
『イエス』
俺は礼を言って、質問を終えた。今の話を四人へ伝える。
「欠片の入手に、そんな利点があったのか。どうする、ヤマト殿? 他の欠片を探すのか?」
「手掛かりも、ありませんし。優先順位は低いですね」
ピヌティさんの質問に、俺は首を横に振った。場所が分かれば、探しに行くのも考えるのだけどな。
「TB・O・リッチの欠片を入手したのですか? 詳しい話を教えてください」
「それなら順を追って話します」
少し時間は掛かったが、スルカイタ帝国に向かってからのことを伝えた。思った以上に、話すことがあったな。まだまだ先の話だが、東方へ向かうことも一緒に伝える。
「中型船大レースは失格となったものの、当初の目的である魔導通信販売機は貰えたわけですか。これで夢幻島の開拓も捗るでしょう。ありがとうございます」
「礼ならドマさん達に言ってください。せっかくの賞品を譲ってくださったのですから」
夢幻島での傭兵稼業にも、興味を持った様子だったからな。連絡の取り方も相談済みだ。近い内に来てくれることを、期待している。
「実は賞品を譲られることまで、計算しての行動ですか?」
「そんなわけ、ないでしょう」
どんな計算すれば、そこまで見通せるというのだ。
「失礼。貴方は私と同類で、人助けにも算盤を弾く人種だと思っていました」
「……否定しきれないのは認めます。ただ、あの状況では別です。難しいことを考えての行動では、ありませんでしたよ」
そんな余裕も無かったしな。それでも最低限、自分たちの身を守る結界を準備していたけど。
「それと俺の知り合い――友人に言われたことがあります。『人の心を、忘れずに』と」
「まあ、なんて素晴らしい友人でしょう。ヤマトは良き隣人に恵まれましたね」
「ええ、本当に」
言ったの貴女ですよ。間違いなく覚えているだろうけど。しかし人の心か。考えてみたら深い言葉だ。心には良い面も、悪い面もあると思う。なら人の心とは、なんなのだろうか。
「よく話が分からないわ。人が助かって良かったね、では駄目なの?」
「駄目では、ありませんが……」
マリアさんの率直な言葉に、俺とバイオレット様は顔を見合わせる。俺は言葉に困り、言い淀んでしまった。少し考え過ぎたかもな。
「人助けと聞いて思ったのですが、大罪の欠片を放置して大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫かは分かりませんが、場所が判明しなければ対応も不可能ですよ」
前に補助者に聞いたことがあるが、島外に出た欠片の場所は不明らしい。この広い世界で、ヒントもなく探すのは困難を極める。サクラさんが心配する気持ちも分かるけど、有効な手段がない。
「私の故郷に、一つの伝承があります。ある島では魔法を使い、生活の環境を整えていました。最初は豊かになる生活に、感謝の念があります。でも人は自分たちの都合だけを考え、行き過ぎた変化を望んでしまう。歪んだ欲望は水を風を大地を動植物を、毒へと変えてしまいました」
「よくある教訓話にも思えますが?」
生命や自然に感謝をしようという話だよな。
「この話には続きがあるのです。一人の魔導師により、島は結界で封印されました。そして魔導師の一族が、代々の守り人となり島を監視しているのです」
「シルドさんの話と似ていますね」
実際に起きた話を基にした、根のある伝承かもしれないのか。少し考えてみよう。伝承に残る島を見つけるか、守り人を探すのだよな。無理をしない範囲で、行動してもいいかも。
「私も同じことを思いました。話に共通点があるなら、欠片が活性化しても不思議ではありません」
「分かりました。どのみち東方に向かうのです。探してみましょうか。それで、どう思います?」
最後の質問は、他の三人に向けたものだ。俺とサクラさんだけで、決めるわけにはいかない。
「私は賛成です。また島の安全地帯が、広がる可能性もありますし
「行くにしても、期限はどうする? 見つかるまで探すわけには、いかないだろう。長期間にわたるのであれば、反対だな」
バイオレット様は賛成。ピヌティさんからは、期限の話が出たな。
「東方に到着後、二ヶ月はどうですか。その期間に集中して調べ、手掛かりが一切なかったら帰還する。何か見つかれば、滞在期間を延長しましょう」
「それなら私も賛成だ」
資金や物資の都合もあるからな。移動時間を含めて、半年間を目安にした。
「あたしも行くよ! 行商は任せてね!」
「仕入れの相談も、させてください。販売の基本を教えて頂けると、助かります」
マリアさんも問題なし。これで全員が、賛同してくれた。準備だけは、しっかりしよう。長旅になるからな。
この機会に一つ、話しておきたいことがある。重要なことだ。
「サクラさん、ピヌティさん、マリアさん。頼みがあります。俺と正式なチームを、組んでくれませんか? 今までみたいに成り行くで組むのではなく、共に行動してもらえると嬉しいです」
「はい! ぜひ、お願いします!」
まっさきに声を上げてくれたのは、サクラさんだった。笑みを浮かべて、心から賛成してくれたみたいだ。
「私も構わない。よろしく頼む」
「あたしも、いいよ! この船、好きだし!」
二人からも、色よい返事を貰えた。なんか安心したな。考えているより、緊張していたのだろう。それからチーム名について話したが、そのまま『夢幻の集い』で継続することになった。これから初仕事、水を生成する魔道具の回収を行う。気合を入れて、出発だ!




