61話 改造、風雷号
ついに魔導通信販売機を手に入れた。権利書の発行が、無事に終わったのだ。スルカイタ帝国に来てから約二ヶ月。ようやく当初の目的が達成されたことになる。ドマさんには感謝だ。
明後日には、帝都ガンベルを発つ予定だ。今日は魔導通信販売機を試してみる。とりあえず、風雷号の休憩室に設置した。今はマリアさんとピヌティさんが、一緒に使っている。
「うわー! いろいろ品物があるよ!」
「これは便利だな。マリア、商売には使えないからな」
「わ、わかってるわ!」
声が上擦っている。少し考えたな。この魔導機は個人で使用する分のみ、商品の購入が可能だ。大量に買って、転売することは禁止されている。
「へー、こんな物も売っているんだ!」
「品揃えが凄いな」
感想を言い合いながら、二人は商品を購入していく。主に戦闘用の道具や、故郷でしか手に入らない物だな。満足そうで良かった。
「次は私が使わせていただきます」
「ごゆっくり、どうぞ」
サクラさんは、聖化粧術に使う素材を買うらしい。秘術に属するためか、化粧品そのものは売っていない。そこで素材を購入して、自分で調合を行う。魔力の供給係として、状況次第で俺も手伝うつもりだ。
手製の備忘録を見ながら、慎重に素材を買っているようだ。間違えて購入すると、非常に危険だからな。聖化粧術が発動しないならマシで、ひどいと悪い効果が起きることもある。
「――これで最後です」
「ずいぶんと買いましたね」
「今あるので、必要な物の七割くらいだと思いますよ」
机の上には、各種素材が所狭しと並べられている。これで七割か。調合も大変そうだな。
「残り三割は、売っていなかったのですか?」
「販売してない素材の他に、高すぎて手が出なかった品もあります」
さすがに希少すぎる素材は扱っていないか。
「ここにあるのは、異空間倉庫に収納して構いませんか?」
「あ、お願いします」
机の端に置かれた素材から、手早く収納した。異空間倉庫にも、かなり慣れてきた。そろそろ特殊な能力を付与できるか、研究してみようかな。温度を保つとか、腐りにくくなるとか。実現すれば、いろいろ助かるだろう。
異空間倉庫に魔導冷蔵庫や魔導保温庫を収納すると、似たようなことが可能らしい。ただし倉庫内だと、魔力の消費が大きい。頻繁に魔力の補給が必要で、実用性という点に欠けると聞いた。
「ヤマトさんは、何も買わないのですか?」
「急ぎで買う物は、ありませんから」
日用雑貨は十分に足りている。それに飛空船創造は、生活に必要な家具や雑貨も創り出すことが可能だ。その分、魔力の負担が増えるけど。それと飛空船の結界外には、持ち出せなかった。
戦闘用の道具は扱いが難しく、一朝一夕で使えるようにはならない。娯楽関連は節約しようと思っている。酒は買うけど、町で価格を確認しながらだな。地元の特産品は、町で買う方が安い。
「さて、今から飛空船の強化をします」
「貰った素材を使うのですね」
昨日の夜、シルドさんが挨拶に来た。しばらく帝都を離れるとのこと。三ヶ月後を目途に、夢幻島へ行くと言ってくれた。カイス王国で合流する手筈となっている。そして倉庫に入ったままの私物を引き渡した。
飛空船は木端微塵だが、船の荷物は無事だったのだ。飛空船を隔離したいと考えて、異空間倉庫を使ったためだろう。船だけが別の場所に収納されたみたいだ。私物を渡すときに、魔石や素材を譲ってくれた。
「それと一週間で入手した素材も、ありましたか。私も多くの魔獣を、切り伏せました」
「水流島に入れたのは、大きいですよ。強化するのに、水属性の魔獣素材を探していましたから」
サクラさんの言葉で、一週間で行った島を思い出す。無縁島以外の四島は、飛空船競技会の開催期間でなければ入ることができる。正確には準備期間も駄目だけど。それと危険な場所もあるため、実力が認められなければ立入禁止だ。俺たちの場合は、競技会の予選通過が功を奏した。
「始める前に、ステータスカードを確認します」
「私にも見せてもらえますか」
総合三級、機動一級、攻撃二級、防御二級、生活一級、収納一級、娯楽六級。総合が一つ、上がっている。機動・生活・収納が一級になったな。次は初段か。娯楽が上がったのは、カヤックを二人乗り用にして釣りに行ったからだと思う。新鮮な経験で、楽しかったな。
確認が終わり、飛空船の強化を始めた。そろそろ大型船の創造も、できそうな気がする。夢幻島に戻ったら、試してみるか。
「ところで風雷号に訓練場を創ろうと思います。使い勝手を教えてください」
「分かりました!」
「訓練場か、助かるな!」
サクラさんとピヌティさんの食いつきが凄い。船の上だと、激しい訓練はやりにくいからな。何気なく訓練場に欲しい機能を聞いたら、大量の意見がきた。少し驚いたのが、マリアさんからの提案だ。
「射撃場があると助かるけど、できないかな?」
「魔導銃でも使うのですか?」
「そうなの。魔導弾は、販売機で買えるから」
魔導通信販売機には、銃本体は無かったらしい。ただ弾や整備道具は買えるから、魔導銃を入手すれば訓練が可能だ。
王都カイスでなら、魔導銃を扱う店を知っている。俺も試し撃ちしたことがある。ただ結果は芳しくなかった。まっすぐ魔導弾が進まないのだ。さらに訓練するにも金が掛かる。俺の場合だと、魔法に比べて威力も低い。結局、使わないと判断した。
「それでは創ってみます」
「ワクワクするね!」
前準備として、休憩室を広くする。そこから一筋の通路を創り、突き当りを訓練場にした。その奥に射撃場を創る。防音も考えて、こんな構造にしたのだ。もっとも創造には時空魔法を最大限に活用している。騒音の問題は、何とでもなりそうだと思う。
「的までの距離は、約23メートルにしました。訓練の度合いに応じて、加減をしましょう」
「ヤマト殿、私も使わせてもらいたい」
「構いませんよ。広さは十分に取りましたので」
ピヌティさんも興味を示した。使いこなせれば、至近距離の切り札になるだろう。それに彼女は目がいい。訓練を積めば、狙撃手として活躍するかもしれない。
「珍しいですね。ピヌティが直刀とは別の武器に興味を持つのは」
「世界には様々な武器がある。試してみるのも悪くないだろう」
サクラさんが意外そうに声を掛けた。今まで戦闘道具を除けば、直刀だけを使っていたからな。気にするのも当然か。一方のピヌティさんは、淡々と返答していた。
「とりあえず一通り、訓練場の施設を使ってみましょう。要望や改善点があれば、教えてください」
四人で訓練を開始する。まだマリアさんは魔導銃を持っていないので、基礎訓練だけだ。それでも真剣に取り組んでいる。しばらく訓練を続け、意見を出し合う。
訓練が終われば、風呂の時間だ。ここも少し手を加えた。まず広さを大浴場並にする。そして通常の浴槽とは別に、噴流式泡風呂を設置。また蒸し風呂用の小部屋も創造した。
「素晴らしい、お風呂でした!」
「さっぱりしたね!」
「しかし魔力の消費は大丈夫なのか。これだけの設備だと、心配になる」
サクラさん達が風呂から上がったようだ。ピヌティさんは、魔力の消費量が気になっているな。
「問題ありません。それに普段の消費量を上げることで、魔力を鍛える訓練にもなりますから」
「なるほど。そんな訓練法もあるのだな」
のんびりと風呂上がりの時間を満喫する。十分に堪能したら、俺はサクラさんと町に出た。先日、彼女は二十歳の誕生日を迎えている。これから出掛けるのは、一緒に酒場へ行く約束を果たすためだ。




