59話 中型船大レース、三日目・決着
「救助に向かいますか!?」
「レースを続けます。シルドさんは、諦めていません」
焦る心を抑え付けながら、サクラさんに答えた。理由は知らないが、シルドさんは一人で対応しようとしている。棄権用の信号弾を捨てたのが、その証拠だ。何より不用意に近付いたら、爆発を結界内に留める恐れがある。他の人間を巻き込まないようにだ。
「ピヌティさん! 剛壁防御丸の様子に、注意を払ってください! 特に操縦士です! わずかな変化でもあったら、教えてください!」
「了解した!」
もうすぐ剛壁防御丸に追い付く。最善の方法を求め、必死で考えを巡らす。高速思考術の最大活用だ。
『猪鹿蝶号は、剛壁防御丸から距離を取りました! 救助隊には連絡を入れています!』
『到着には数分かかるそうだ!』
実況のラナさん達が救助要請を出してくれたのか。だけど到着まで数分。持つのか? 剛壁防御丸は落ち続けている。爆発が先か、墜落が先か。どちらも危険には変わりない。
「シルド殿が気絶した!」
「レースは中断! 救助に向かいます!」
「はい!」
強く返事をしたサクラさんを見ながら、最大出力で結界を張る準備をしておく。爆発に巻き込まれる恐れは、多分にある。
『風雷号が剛壁防御丸に向かっています!』
『助けに行ったのか!?』
風雷号を剛壁防御丸の近くまで移動させる。だが結界に阻まれて、それ以上は進めなかった。ソウルスキル・剛壁防御は、気絶しても効果が残るのだろう。何度か声を掛けるが、意識を失ったままだ。少し強引だが、結界に強い魔力を流し込む。
「シルドさん! 目を覚ましてください!」
「君は、ヤマト? 早く逃げるんだ! これは僕に任せろ!」
やっと意識が回復してくれた。気絶した原因は、魔力切れだろう。急がなければ、また魔力を使い意識を失うことになる。
「TB・O・リッチの欠片なら、俺が対処法を知っています! 全ての結界を解除してください!」
「欠片の存在を、知っているのか――分かった。剛壁防御、解除!」
その瞬間、声が聞こえた。
――人を変えろ、人を喰らえ、人を超えるのだ――
いつか、聞いた声だ。だけど惑わされない。慌てずに欠片の場所を探る。発見! 飛空船の動力部だ。魔力を船全体に、張り巡らせる。よし、捉えた!
「欠片にすぎないお前は欠片に返れ!」
解呪魔法により、剛壁防御丸とTB・O・リッチの欠片を分離。即座に異空間倉庫に回収。
――仮の主。三つの主。我らを集めよ。さすれば汝は真の主となるだろう――
「欠片の呪縛が解けた!」
「急いで風雷号に! もうすぐ爆発します!」
欠片は飛空船の機能全体を、強化していた。その強化で魔力許容量も上がっている。欠片を失えば、許容量が下がる道理だ。船が爆発する、直前。
「倉庫、開け!」
異空間倉庫魔法で、剛壁防御丸を収納。倉庫内で爆発すれば、こちらに影響はない。シルドさんは、無事に乗り移ったみたいだ。一安心だな。レースは放棄することに、なったけど。
『凄いです! ヤマト選手、シルド選手を無事に救出しました!』
『まさか中型船を丸ごと収納するとは。倉庫内なら、爆発しても安全ということか。魔導師ならではの発想だな』
さて、後はここからだ。
「ヤマト、ありが――」
「――話は後です! 風雷号、発進!」
説明している余裕は無い!
『風雷号、再びゴールに向かって動き出します!』
『いや、だが、レースはもう……』
これからは加速あるのみ!
「レースは放棄しました。だけど全力で完走します! 構いませんか?」
「猪鹿蝶号から目を離さん。変化があったら、すぐに教える」
「残った魔石、全部使っちゃおう!」
ピヌティさんも、マリアさんも賛成してくれたようだ。サクラさんが近付いてくる。どうしたんだろう?
「ヤマトさん。昨日、言ってましたよね。『最初にゴールするのは俺たち』だと。実現させましょう。私も協力します!」
ドマさんに言った言葉だな。あ、そうか! サクラさんの協力があれば、まだ実現可能だ。俺は彼女の身体を抱き寄せる。そっと口付けた。――そして、風雷号を加速させる。
『ああっと! ヤマト選手が、サクラ選手にキス!? 羨ましい! そして突然の加速! 愛の力が、速度を上げたのでしょうか!?』
『感情を力に変えるスキルも存在するが、今回は違うだろう。聖化粧術に伝わる命力増幅だ。そして魔力合一を発動。結果が、あの加速力だ』
状況把握が的確だな。解説席から、そこまで分かるのか。正解だ。さらに今回は次がある! 増幅された魔力を、飛空船の隅々まで送り込む。
『現在、トップは猪鹿蝶号。次いで風雷号です! ゴールまで一直線。風雷号、残り2万メートルを切りました!』
予選第一競技も、2万メートルだったな。あのときの再来といこうか。ここから逆転だ!
『風雷号、さらに加速! 猪鹿蝶号に、ぐんぐん迫る!』
『予選で見せた魔力凝縮解放! 魔力合一と同時に可能なのか!』
ちょっと無茶をしているけど、大丈夫! でも明日の魔力痛が、大変なことになりそう!
『猪鹿蝶号、残り1万メートル! ここで加速した! 風雷号を引き離せるか!?』
『今の加速を込みでも、風雷号の方が速い。差を縮めている』
残り5千、あと少し! 残り3千、捉えた!
『残り千メートル! 風雷号、猪鹿蝶号に並んだ! そして鮮やかに抜き去ります! 風雷号、そのままゴール! そして猪鹿蝶号もゴールです! ええと、先頭は風雷号なのですが……』
『途中で気付いたな。勢い任せに、実況を続けていたか』
魔導掲示板に結果が表示されている。猪鹿蝶号……1着。風雷号……失格。
『中型飛空船対抗五島制覇大競争、優勝は猪鹿蝶号です! 風雷号は、失格ということになりました』
『失格の理由は、飛空船を対象にした時空魔法の使用だ』
爆発が遅ければ、すぐに離脱できたのだけど。欠片が分離したら、即爆発だったからな。倉庫へしまう以外に、方法は無かった。
「すまない、ヤマト。僕を助けるために、失格になったのだな」
「お気になさらず。後日、話を聞かせてください。主に大罪の欠片について」
それからシルドさんを、救助船まで送っていく。検査をすると言っていた。
大会終了までは、控室となる格納庫で待機となる。各チームごとに分かれているため、他の選手と顔を合わせることはない。最低限の点検だけした後は、格納庫内の休憩室で待つことにする。どうやら入賞者が決まったらしい。魔導放映板に順位が出ている。
「1着、猪鹿蝶号。2着、レッシュ丸。えーと。その後は、よく知らない名前が続いています」
全チームを詳しく知るのは、難しかったからな。詳細が分からない選手も多い。
「大会は、今日の日没までだったか」
「そうだよ。入賞者が決まった日の夜に終了」
ピヌティさんとマリアさんも、寛ぎながら魔導放映板を眺めている。飛空船競技会の開催中は、気が張り詰めていたからな。ゆっくり休んでほしい。
「優勝者のインタビューが流れるみたいですね」
「ドマさんが出るんだ。楽しみ!」
マリアさんが喜んでいる。知り合いが映ったら、気になるよな。
『ドマ選手、優勝おめでとうございます』
『ありがとう』
『優勝賞品を譲渡されると聞きましたが、本当なのですか?』
『間違いないよ』
インタビューもラナさんの担当か。それより賞品を譲渡ね。お得意様にでも渡すのだろうか。
『魔導通信販売機は非売品で、とても貴重な物と聞いています。どちらに渡されるのでしょうか?』
『渡す相手は、風雷号の代表ヤマト選手。危険な魔獣が生息する島を、真剣に開拓していると聞いた。その一助になったら幸いだ』
これは本気か?
「よお! 邪魔するよ!」
「あ、ドマさん! 今、インタビューの放送してるよ!」
これ、録画だったのか。マリアさんは普通に声を掛けているけど、サクラさんは驚いているような。録画放送は、まだ普及していないのだろう。
「見ていたのか。なら丁度いいな。魔導通信販売機はアンタにやるよ。それを言いに来た」
「ありがたいですけど、なぜ譲渡を?」
裏がありそうで怖いです。
「アタシらにとっては、絶対に必要な物ではない。あれば便利だけどね。それより傭兵団の名を売る方が利になるのさ」
「なるほど。そういうことなら、遠慮なく頂きます」
他に何か話がありそうだけど、どうしたのだろう。
「まあ、なんだ。アンタ達を見ていたら、初めて槍を持った日を思い出したよ。ありがとな。また、どこかの空で会おう!」
口早に伝えると、踵を返し去っていく。ずいぶんと早足だな。俺は去りゆく背中に、声を掛けた。
「ありがとうございました、ドマさん! また、どこかの空で会いましょう!」
どこかの空で会おう――この地方で、古くから使われている言い回しだ。場所も時間も指定しない、再会の約束。人と人とを繋ぐ、言の葉。良い言葉だな。心からそう思った。




