58話 中型船大レース、三日目・開始
早朝、中型船大レースの再開。風雷号と猪鹿蝶号は、抜きつ抜かれつの接戦を繰り広げている。船本体の加速力なら、風雷号の方が上回っている。だが相手は大量の魔石を使い、加速力の差を補っていた。順調に進めば、今日でレースが終わる。出し惜しみなしの大盤振る舞いなのだろう。
「倹約って言葉を知っていますか! 資源は大切にしましょう!」
「無駄遣いを止めることだろ! これは無駄ではないね。必要な投資さ!」
こちらも燃料用の魔石は用意してある。しかし潤沢に使える程の数は無い。相手に合わせて使っていたら、瞬く間に枯渇する。一進一退を続け、風切島に到着した。
島内に入ると、目の前に巨大な山が存在していた。チェックポイントは、山の向こう側。あの高さだと、高度制限に引っ掛かるはず。さらに島の上空は、強い風が吹き荒れている。飛空船の結界は、風除けの機能が標準装備だ。そうでなければ、高速での飛行は困難になる。だが上空の風には強い魔力が含まれており、並の結界では歯が立たないだろう。
「ヤマトさん、どうしますか?」
「右に行きましょう! 根拠はありません!」
サクラさんに答えた後、即座に風雷号を右に進ませた。中途半端に考えるくらいなら、迷わずに進む! 猪鹿蝶号は左に行くようだ。しばしの別れだな。前後に他の飛空船は見えない。風雷号、単独で山間の道を進んでいく。
「正面に魔獣! 数は五!」
ピヌティさんの声で、前方に意識を集中する。少し遠いが、なんとか姿を確認できた。体長は2メートル弱ほど。一頭だけ二本の角があり、暗い灰色の体毛だ。他の四頭は少し毛色が違い、また角もない。共通の特徴として、前足が長く身体が傾いている。そして大きな翼を有していた。
「あれ、風翼ウマシカだよ! 素早いから気を付けて!」
「特に風魔法を使った突進が、危険だと聞きました!」
「ヤマトさん、来ましたよ!」
予想より早い! そうか。上手く風に乗って、速度を増している! サクラさんの言葉と同時に風雷号を動かし、なんとか相手の突進を避けた。上空ほどではないが、地表付近も強風が吹いており避けにくい。
「角ありの個体を、集中して狙ってください!」
「任せろ! 爆裂針の出番だ!」
的確に風翼ウマシカを狙い撃っている。回避のために激しく動く船上から、確実に命中させているのは凄いな。
「倒れた! 残りを殲滅するか!?」
「いえ、他は逃げ始めたようです! 先に進みましょう!」
さっきの突進を見て、一つ思い付いた。周囲の魔力を感知。魔力を持った風なら、その動きが読めるはずだ。
「見えた! 少し高度を上げます!」
「凄い! 風に乗ってるよ!」
操作を誤ると、危険ではある。しかし速度は確実に上がっている。ハイリスクハイリターンだな。
「チェックポイント、発見!」
いいペースだ! あれから魔獣に遭遇しなかったのも大きい。
『剛壁防御丸が、地盛島のチェックポイントを通過しました! ほぼ同時に風雷号が、風切島のチェックポイントに到着!』
『強力な防御結界を使い、一直線に突き進む剛壁防御丸。機動力と魔力探知を武器に、臨機応変な対応を取る風雷号。両者の差は、ほとんど無いと言える』
行き当たりばったり、とも言いますが! それはともかく、魔力探知を活用していたのに気付いていたのか。さすが解説者だな。
『猪鹿蝶号も来ました。風切島のチェックポイントを通過!』
ドマさん達も通過したのだな。わずかに先行しているが、油断はできない。切り札の一つや二つは用意してあるだろう。
「マリアさん! 効果の低い魔石は、どんどん使ってください!」
「了解!」
風の流れを把握できれば、この島を迅速に進むことが可能だ。短時間で風切島の外に出た。
最後の島、無縁島に向けて舵を取る。途中で剛壁防御丸と遭遇。左に並ばれた。機動力なら風雷号が上だったはず。どういうわけか、今は全く差がない。理由が気になるな。風魔法の効果範囲を拡大。声を相手の船まで、届かせる。
「お久しぶりです、シルドさん。お元気でしたか?」
「もちろん、僕は元気さ! さらに付け加えると、剛壁防御丸は大絶好調だね!」
確かに絶好調みたいだな。以前とは速度が段違いだ。調子ひとつで、ここまで変わるのだろうか。
「後方から、猪鹿蝶号! 来たよ!」
「追い付かれたか!」
マリアさんは補給作業をしながら、後方を確認していたようだ。
「ドマさん、財布の中身は大丈夫ですか!」
「おかげさまでね! これから、たんまり手に入るさ!」
「初めまして! 槍と大地傭兵団の、みなさん!」
シルドさんが会話に参加してくる。最初に会ったとき、傭兵を非難していたような。大丈夫だろうか。
「剛壁防御のシルドかい。アンタの噂は、よく聞いている」
「きっと良い噂だね! 君の噂も、広がっているよ。傭兵紛いの連中に、傭兵の何たるかを教育してほしいな!」
毛嫌いしていたのは、傭兵紛いのゴロツキか。槍と大地傭兵団に、敵意は持っていないみたいだ。
「教育なんて、柄じゃないね!」
「それは残念。さて、魔力の補給も終わった。僕は先に行かせてもらうよ!」
剛壁防御丸が、さらに加速。風雷号と猪鹿蝶号を引き離した。
「ちっ! 先に行かれたか!」
「追い掛けます!」
風雷号の速度を上げた。猪鹿蝶号も同様に、加速している。横並びのまま、無縁島に到着。見た目は、特徴のない島だ。だが各地に強い魔力を感じる。強力な魔獣が存在していると聞いた。その魔力だろうな。
『中型船大レースも大詰めを迎えています! 先頭は剛壁防御丸、シルド選手です! 風雷号と猪鹿蝶号が追い掛けます!』
実況の声が聞こえた。ゴールが近い。だがそのとき先を行く剛壁防御丸の前方で、地面が盛り上がった。巨大な人型を成していく。魔獣の一種、ゴーレムだ!
「押し通るよ!」
剛壁防御丸が、結界の前方部分を強化したようだ。速度を落とさずに、ゴーレムへ激突。その巨体を弾き飛ばした。
『剛壁防御丸、ゴーレムに体当たり! 吹き飛ばしました!』
ゴーレムの身体から、急激に魔力が失われていく。その魔力は、剛壁防御丸に流れていった。これは何だ!? いや。この気配には、覚えがある!
「魔力吸収!? 剛壁防御には、そんな力もあったのかい!」
「違います! あれはシルドさんの能力では、ありません!」
大罪の欠片による力だ! おそらく普段は欠片の能力を、結界で抑えていたのだと思う。しかし結界の一部分を強化したことで、他の箇所が弱まったのだ。魔導機械の不調が多かったのは、これが原因か! 常に全力でソウルスキルを使っているわけではない。結界が弱くなったとき、周囲の魔力を吸収していたのだ。
「何か知っているみたいだね! だが詳しく聞いている暇は、なさそうだ!」
ドマさんの言う通り、事態は逼迫している。俺たちも、シルドさんも。
『これは、どういうことでしょう? 様子が、おかしいような?』
『剛壁防御丸に、莫大な魔力が集まっている! これは危険だ!』
ゴーレムの魔力を吸収した剛壁防御丸は、その後も周囲の魔力を取り込み続けている。遠からず限界を迎えるだろう。
「ヤマト殿! 剛壁防御丸が失速している! 落ちるぞ!」
「魔力を抑え切れなくなったのでしょう!」
ゴーレムの魔力が大きかったことや、三日間のレースによる疲労が蓄積したこと。それらの要因が合わさり、魔力の制御が甘くなっているのだ。
『飛空船に魔力が集まり過ぎている! このままだと爆発するぞ! 何? シルド選手が棄権信号弾を捨てた!?』
解説者――オルノブさんの切羽詰まった声が聞こえる。その言葉は間違っていないだろう。いつ爆発しても、おかしくない程の魔力だ。さて、どうするべきか。




