56話 中型船大レース、初日
いよいよ中型船大レースが始まる。すでに風雷号を出発開始地点に停め、出発の合図を待つばかりだ。開始地点は予選の成績と、今までの実績を基に決定される。最前列にいるのは、両方が上位に入ったチームである。俺の場合は先頭集団から、少し後ろの位置だ。実績が皆無だからな。
『皆様、おはようございます。中型飛空船対抗五島制覇大競争――通称、中型船大レースの始まる時間が迫ってきました。参加総数2024チームから、中型船大レースに出場するのは122組。いずれも予選を通過した精鋭たちです』
出場するのは122組だが、予選で20ポイント以上を獲得したチームはもっと多い。様々な理由で、出場しない組があるのだ。
予選競技の規定は通ったが、中型船大レースの規定に反した組。最初から予選競技の参加だけが目的だった組。予選通過者を確認し、出場を取り止めた組もある。そして飛空船が不調でリタイアした組。例年に比べ飛空船の不調が多く、技術者たちも首を傾げているらしい。
『実況は私、魔導放送局のラナがお送りします』
『解説のオルノブだ。よろしく』
『オルノブさんは、経験豊富な飛空船乗りです。本日はよろしくお願いします』
あ、ラナさんが実況なんだな。サポートクラブが頑張ったのだろうか。予選よりも実況が大人しいのは、少し気になる。
「ヤマトさん、どうしました?」
「いえ、なんでも。開始時刻も近いですし、そろそろ配置に付きましょう」
四人が各自の定位置に着いた。これで、いつでも出発できるな。ステータスカードで出場者の情報を確認しておくか。ちょうど実況と解説から、選手紹介が始まる時間だ。最短の三日で、予選を通過した選手を発表するらしい。
『それでは注目選手を紹介します。まずは『ソードアンドソード』のレッシュ丸。代表は副船長代理のアルフォンス選手!』
『全員が魔導師のチームだ。創設者の二人が、剣士コンビでチーム名の由来となった。アルフォンス選手が副船長代理というのは、登録時の自己申告だ。船長を名乗るのは、目標だった二人を超えてからとのこと』
予選成績は、三日連続で一位か。実績も申し分なし。強敵だな。
『続いてチーム『槍と大地傭兵団』の猪鹿蝶号。代表は頭領のドマ選手です』
『この空域で有名な傭兵だ。チーム名は、ドマ選手の得意技能から取ったと聞いた』
こちらも三日連続で一位だな。五人全員が、槍を持っている。前に会ったときは、武器を持っていなかった気がする。敵意が無いことを、示したのかな。
『次に参りましょう。チーム『剛壁防御』の剛壁防御丸。代表は操縦士のシルド選手です』
『乗組員はシルド選手のみ。それでいて優勝候補の一人に名前が挙がっている。実力の程が分かるだろう』
一位2回、二位1回で予選通過。カードの情報に、ソウルスキル・剛壁防御の詳細が更新されている。弱点は意識が逸れると、効果が落ちること。この詳細は本人の自己申告だ。不利な情報は載せなくていいが、虚偽の記載は認められていない。自分から弱点を公表したのか。侮れないな。
『そしてチーム『道具革命』のシンテイブ。代表は船長のペンドリ選手です』
『道具を有効に活用するチームだ。状況判断に優れ、各船員の平均能力も高い』
一位1回、二位2回だな。少しだけ噂を聞いたことがある。飛空船で行商をしているチームだ。道具を売るだけでなく、使い方の指南もしているらしい。
『最後にチーム『無限の集い』が駆る風雷号。代表は操舵手のヤマト選手です!』
『抜群の加速力を持つチームだ。乗組員の連携も上手い』
一位を3回、実績なしのチームだ! ところで登録時に操舵手と申告したが、船長の方が良かったのだろうか。マリアさんも操舵手になるからな。
『まもなく中型船大レースが始まります。開始まで30秒を切りました』
『立ち上がりは、非常に重要だ。今後のレース展開にも、影響が出る』
先頭集団は、どう動くのか。目が離せないな。距離を考えれば、地盛島か風切島に向かうのが無難だ。
『中型船大レース、開始です! 各船、一斉にスタートしました。ここから先は定点映像発信機の情報を基に、実況していきます』
さすがに先頭集団と併走しながら、撮影するのは困難だったのだろう。その先頭集団だが、大きく二つの流れに分かれている。
「高度を上げている船があるな」
「上空からレースの様子を、観察するためでしょう」
ピヌティさんが、上方を確認していた。
「風雷号は、このままでいいの?」
「最初の目的地に変更はありませんので、このまま行きましょう。下手に高度を変えると、速度が落ちます」
マリアさんに答えながら、他に情報を得る手段を考えた。チェックポイント付近などの限られた場所を除き、実況の声は届かない。すでに開始地点の声は、聞こえにくくなっていた。ステータスカードには、レースの途中経過は表示されない。中断と再開の合図だけが表示される。結局のところ周りに惑わされず、自分のペースを維持するしかないな。
「初めに行く地盛島までは、かなり遠いのですよね?」
「地図を見た限りだと、数時間は掛かります」
順調に進めば地盛島と水流島の間くらいで、初日は終わるだろう。
「少しずつ、前の船と差が縮まっているようです」
「最序盤の加速能力では、こちらが上回りましたね」
中央にいるサクラさんから、声が掛かった。これで三人と会話したが、風魔法は無事に発動しているようだ。音が明確に聞こえる。――それから数時間、船を飛ばし続けた。最前列には、風雷号と猪鹿蝶号が並んでいる。少し遅れて、シンテイブだ。レッシュ丸と剛壁防御丸は、他の島に向かっている。
「よう、お隣さん。なかなか、やるじゃないか」
「ドマさんも、さすがですね。隠蔽結界は使わないのですか」
どうやら向こうも、風魔法を使っているようだ。はっきりと声が聞こえた。会話に応じたが、あまり余裕はない。操船と風魔法を、両立させているからな。
「高速移動中だと、魔力消費が大きいからね。それから隠れ続けているだけだと、傭兵稼業に影響が出る」
「なるほど」
逃げ腰の傭兵と見られたら、評判は悪くなりそうだな。レースに徹しただけと判断する人もいるだろうけど、異なる考えを持つ者も多いだろう。
「見えた! 地盛島だ!」
「話には聞いていましたが、とんでもない島ですね!」
俺たちは、ほぼ同時に地盛島の門に入った。そこで見たのは、短時間で大地が盛り上がる光景だ。盛り上がった地面は、すぐに元へ戻る。つまり油断すれば目の前にできた壁に衝突したり、船底に当たったりするだろう。
「ピヌティさん! 大地の隆起ですが、次にくる場所を予測できませんか?」
「すまない! 無理そうだ!」
やっぱり無理か。見た目は、ただの大地だからな。結界により、高度が制限されている。上は駄目だな。下の様子はどうだろう――ふと、真下から魔力を感じた。
「緊急回避!」
慌てて風雷号を退避させる。間一髪だったな。どうやら猪鹿蝶号も、避けたようだ。傷を負った様子はない。そのまま移動を開始、この場を離れていく。
「ヤマト君、どうしよう!?」
「地面の魔力を感知しながら進みます。ただ周囲を気にする余裕はありません。ピヌティさんとマリアさんで、魔獣への警戒をお願いします」
魔力感知、開始。大地の魔力、その流れを探る。そして慎重に風雷号を飛ばした。かなりの時間、集中を維持して進み続けている。
「あった、チェックポイントだ!」
「あと少しですね!」
ピヌティさんの声を聞き、俺自身もチェックポイントを確認した。同時に定点映像発信機も見つける。実況と解説が聞こえても、おかしくないはず。少しでも情報を得たい。
『風切島では、剛壁防御丸がチェックポイントを通過しました。続けてレッシュ丸が通ります。地盛島チェックポイントでは、風雷号が姿を見せました』
風切島の二人に遅れを取ったか。だけど、ようやく地盛島の半分が終わる。そう思ったら、気が緩んでしまった。
「避けます!」
ルートの選択を誤り、大地の隆起に巻き込まれそうになる。動揺を抑えながら、なんとか避ける。だけど避けた方向が悪かった。このままでは、逃げる方向が無くなってしまう。俺は風雷号を45度ほど傾け、船首を地面に向ける。
「サクラさん! 前方の地面、魔力を消してください!」
「秘刀術、重ね技、雲刃飛動・有刃無常!」
魔力を込めた斬撃が、地面と衝突。大地が裂けると同時に、魔力が消失していく。これで大地の隆起を遅らせた。チェックポイントに向け、一気に進む。
『風雷号、チェックポイント通過。そして猪鹿蝶号が姿を見せます』
ドマさんたちには、先行したか。そのまま地盛島の門を目指す。入ったときとは、違う門だ。出口が水流島に近く、都合がいい。魔力を感知しながらだと、速度が出ない。できる限り、急ごう。
――しばらく進み、やっと出口の門が見えてくる。魔獣が少ないのは、助かったな。こんな特殊な島だと、魔獣も生息しにくいのだろう。門を通り、水流島を目指す。途中で日が落ちたため、今日のレースは終了だ。




