54話 予選第三競技、飛空水晶収集
時刻は深夜。場所は飛空船発着場格納庫。これから予選第三競技の会場に向かう。今までは帝都ガンベルの近くに会場があった。今日は、かなり遠い。そろそろ出発しなければ、間に合わないだろう。
「……出発しましょうか」
「眠そうですね、ヤマトさん」
「昨日、魔力を使い過ぎましたから。疲れが残っています。というかサクラさんは、寝てください」
予定だとサクラさんとピヌティさんは、休息の時間だ。会場までは、俺とマリアさんが交代で運航する。
「それが眠れなくて。少し風に当たろうかと」
「ならベッドを出しますよ。眠くなったら、そのまま寝られますし」
異空間倉庫を使い、甲板に簡易寝台を設置した。
「ありがとうございます」
「そうだ。甲板ならヤマト君も仮眠を取ったら? 夜間に一人で飛ばせるよう、訓練したいし」
なるほど。この空路は帝国が責任を持って、しっかりと保守している。単独での飛行訓練を積むのに適しているか。ここなら異常があれば、すぐに起きることも可能だしな。俺は追加でベッドを出し、甲板に置く。平坦な部分を、広めに創って正解だったな。元は戦闘を想定したものだけど。
「それなら、よろしくお願いします。何かあったら、起こしてください」
「ふふ、お揃いですね」
俺は横になると、瞼を閉じた。急激に眠気が襲ってくる。それだけ疲れていたのだろうな。
――気が付いたら、朝になっていた。上半身を起こし、辺りを見渡す。隣のベッドでは、サクラさんが寝ている。綺麗な寝顔だな。いけない。人の寝顔を凝視するのは失礼だな。俺は立ち上がると、ベッドを倉庫にしまう。そして操舵席にいるマリアさんに近付いた。
「操船、変わりますね。もう明るいですし、後は一人で大丈夫ですよ。寝室で休んでください」
「ありがと! あ、今まで問題は無かったよ! それじゃ、お休み!」
ずっと操船していたのだ。かなり疲労の色が見えた。疲れが取れると、いいのだけど。さて試合会場まで、あと少し。それでも到着までは油断できない。それから数時間、ひたすら船を飛ばした。すでに全員が起床し、外に出ている。
「見えた! 試合会場だ!」
目的地や魔獣を最初に発見するのは、だいたいがピヌティさんだ。次の競技は飛空水晶収集。観察能力を存分に、発揮してくれるだろう。会場に到着し、登録を済ませる。
待機場所を指示され、控室に向かった。部屋の中には、いくつか飛空船の姿が見える。今回の控室は大部屋だ。トラブルに巻き込まれないことを願う。
――何事もなく、試合開始の時間となった。八チームの参加者が、続々と控室を出る。俺も風雷号を発進させた。
『まもなく予選第三競技、飛空水晶収集が始まる時間です。実況は私、魔導放送局一の麗人と名高いラナがお送りします』
今日は解説者不在か。実況はラナさん。彼女は注目度の高い試合を、担当することが多いらしい。初日は戦闘型飛空船の存在、二日目はシルドさんの出場。どちらも注目されていたからな。参加者チームを見たところ、今回の試合で注目されているのは俺だろう。グループで唯一、二日連続の一位だからな。
『本試合は会場内に出現する箱を壊し、中にある水晶を集める競技です。地水火風そして無の五種類を、最初に揃えたチームが優勝となります。ただし同じ属性の水晶を入手したら、二つとも消滅です』
箱は隠蔽の魔法が掛けられており、非常に見つけにくい。時間経過で隠蔽が解け、発見しやすくなる。また属性に応じて、箱の色が少しずつ変わっていく。さらに箱の見た目は同じだが、耐久力はそれぞれ違う。
『箱を見つける観察力、素早く移動する機動力、属性・耐久力を判断する感知力、短時間で箱を壊す攻撃力など。全てが必要となる競技でしょう』
この試合は勝てる。
「マリアさん、操船は頼みました」
「任せて!」
今回の作戦では、飛空船の精密な操作を必要としない。マリアさんなら基本操作が可能なため、安心して任せることができる。あらかじめ決められた開始位置に向け、風雷号を進めていく。大丈夫そうだな。
『全チーム配置が完了していますね。それでは試合開始の時間です!』
俺の目だと、まだ箱の存在が確認できない。
「1時の方向、角度40、距離80! 二つ、隣り合っている!」
「両方、水です! 目標、向かって左!」
「了解!」
ピヌティさんが箱を見つけ、俺が付近の魔力を感知する。飛空船の操作をしながらだと、複雑な感知は難しい。目標を決めたら、マリアさんが移動させる。最後はサクラさんの斬撃で箱を破壊。――よし水属性の水晶を入手した。
『最初に箱を壊したのは、ナンサメク丸です。地属性の水晶を入手。少し遅れて、他のチームも次々と箱を壊します』
機動特化の飛空船に、少し遅れたか。他チームは、横並びだな。最初の一つは、目に付いた箱を壊せばいい。二つ目からは、慎重になる必要がある。
「10時の方向、角度0、距離100! 一つだけだ!」
「火属性、耐久力は低い! 向かってください!」
風雷号が再び、動き出す。
『早くも二種類の水晶を入手したのはアインペ号。そしてトサディ、ナンサメク丸も入手。コーフ号、重複入手です。火属性が被りました。試合は始まったばかり、まだまだ勝負は分かりません』
こちらも二つ目だ。
「切り裂く!」
一刀のもとに箱が切断された。火属性の水晶を入手。水と火を入手で、残りは風・地・無だな。
「方向12時、角度マイナス20、距離200! 三つ並んでいる!」
「左から順に風、水、地! 風は耐久力が高すぎます。右だけを狙いましょう!」
風の水晶を破壊するには、サクラさんでも相当な時間が掛かるはず。完全に罠だ。右端にある地の水晶へ狙いを絞る。
『ここで各船の動きが止まりました。魔力感知に専念しているのでしょう。しかし隠蔽効果の完全解除には、まだまだ時間が掛かります。ここで一艘の船が動き出しました。あれは風雷号です。他にも動き出す船が出てきました』
ここで動いた船は、二種類に分けられる。直感に頼ったか、正確に魔力を感知したかだ。当然、風雷号は後者である。サクラさんの一閃で箱が壊れ、地の水晶を入手。残りは風と無。
『ほぼ同時にトサディと風雷号が、三種類目の水晶を入手しました。そしてアインペ号が重複入手です』
次で四種類目。ピヌティさんの声を頼りに、水晶を探していく。狙いは風属性で耐久力が低いもの。だが、なかなか目当ての箱が見当たらない。
『ナンサメク丸が三種類目を入手。トサディは重複入手。トップ争いから、後退しました』
並ばれたか!
「次はどうだ! 3時の方向、角度0、距離70!」
「来ました! 風属性で、耐久力も低いです!」
「了解!」
「一刀で切り裂いてみせましょう!」
マリアさんの操作で、風雷号が急行する。ナンサメク丸は、次の探知に手間取っているようだ。今の内に、四種類目を手に入れたい。――サクラさんの宣言通り、箱は一刀で切り開かれる。これで地水火風の水晶が揃った。
『風雷号、一歩リード! 単独で四種類目の入手です。残りは無の水晶だけとなりました』
問題は次だな。訓練でも、無の水晶には手を焼いた。極端に隠蔽効果が高く、後半までは手掛かりすら得られない。何度か試行錯誤を繰り返し、一つの答えを得た。
「時空魔法、初級空間把握。対象拡大!」
空間把握の魔法。最上級になると、分子の構成すら把握できるらしい。初級だと、おおまかな情報や属性が分かるくらいか。本来なら効果範囲は狭い。魔力を注ぎ込み、ちょっと強引に範囲を拡大。会場の全てを包み込む。
「発見しました! 7時の方向、角度10、距離500! 耐久力不明!」
「直行するよ!」
残念ながら、耐久力は分からなかった。できれば時間を掛けずに、箱を壊したい。ルール上は横取りも可能だ。無の属性と気付かれたら、奪い合いになるだろう。
「サクラさん! なるべく短時間で、お願いします!」
「承知しました。秘刀術、有刃無常!」
箱を切り裂く一撃。そして斬られた部分から、箱の魔力が消失していく。残ったのは、無色透明な水晶のみ。無の水晶に間違いないだろう。すかさず確保した。
『風雷号、五種類の水晶を獲得! 優勝はチーム『夢幻の集い』風雷号! これで合計24ポイント、予選通過です! 代表のヤマト選手、後でサインをください!』
昨日、解説の人に釘を刺されていましたよね。気を付けると言っていたのは、何だったのでしょうか。
「ここだと邪魔になるので、控室に戻りましょう。マリアさん。引き続き、操船を頼みます」
「はーい!」
「競技中の船と衝突しないよう、周囲を警戒しておく」
かなりの魔力を消費したからな。飛空船の維持で精一杯だ。早めに休息を取りたい。
「大丈夫ですか? ひどく疲れた顔をしています」
「少し休めば、問題ありませんよ」
心配してくれたサクラさんに、やせ我慢をしつつ返答した。それから試合の様子を窺う。トップが三種類か。終わるまでは、まだ時間が掛かりそうだ。控室に戻り、各自で休息を取る。大部屋だから、休憩室も共用だ。風雷号で休むか。三人も同じ考えのようだ。試合の感想などを言い合う。
――どうやら試合が終わったようだ。選手たちが、ぞろぞろと帰ってくる。控室の魔導掲示板に、結果が表示されていた。一位、風雷号。二位、ナンサメク丸、三位トサディとなっている。
「お疲れ様でした。予選突破しましたね」
言いながら、みんなの様子を見る。やはり少なからず疲労しているな。中型船大レースまで、約一週間。訓練と休息の配分は重要だ。全員で相談して決めるとしよう。




