53話 予選第二競技、飛空船格闘・後編
第二試合を終えて、控室に戻ってきた。第一試合と違い、魔力の消耗は全く無い。火魔法で使った魔力は、すでに回復している。
「少し消化不良ですが、今は決勝戦のことを考えましょう」
「相手はシルド殿だ。率直に聞くが、勝算は?」
「限りなく低いです」
ピヌティさんの質問に、はっきりと答えた。
「つまり少しは、あるのですね」
「本当に、わずかな勝率ですが。サクラさんは、合図をするまで魔力を温存してください」
ゼロでなければ、挑戦する価値がある。勝利の鍵は、ソウルスキル剛壁防御を打ち破ること。
「あたしは燃料係に専念するね!」
「お願いします」
マリアさんの魔力補給も重要だ。飛空船の魔力は、常に上限まで溜めておきたい。普段の運用では、こんな贅沢な使い方はしない。費用が嵩むから。しかし吝嗇になっては、中型船大レースの優勝はできないだろう。予選から全力で勝ちにいくつもりだ。
「先に三位決定戦ですから、決勝戦まで少し時間があります。休みましょうか」
反対の声も無く、めいめいの判断で休息を取る。ピヌティさんは武器の手入れ、マリアさんは飛空船マニュアルを読んでいる。サクラさんは調合かな。聖化粧術で使う特殊な化粧品が、底を突いていると聞いた。こちらの素材で代用できる物がないか、試しているのだろう。手持ちで残っているのは、普段から使っている口紅だけらしい。
「ヤマト様、出場の時間です」
「承知しました」
例によって、係員さんから声が掛かる。扉が開くのを確認し、風雷号を進めた。さすがに決勝戦だ。今まで以上の歓声が聞こえる。
『本日、この会場で最後となる試合です。まず紹介するのは、チーム『剛壁防御』の剛壁防御丸。競技会全体でも珍しい、単身での出場です。当然、操縦士は一人。剛壁防御のシルド選手です!』
『知っての通り、ソウルスキル・剛壁防御の使い手だ。魔獣狩り協会の相談役を務める、凄腕の魔獣狩人でもある』
船の大きさは、風雷号と同じくらいだ。機動力を重視した飛空船と聞いた。防御面はソウルスキルで補っているとのこと。
『対するはチーム『夢幻の集い』風雷号。代表はヤマト選手。所属は魔獣狩り協会となっています。奇しくも協会員同士の対決となりました』
平会員と相談役という違いは、ありますけどね。
『一回戦で受けた損耗は、完全に修復されたようです。整備能力にも長けているのでしょうか』
『二回戦開始の時点でも、大きな損傷は修理済みに見えた。そこから自己修復機能を使ったとすると、船の調子は万全だろう』
その通り。風雷号は絶好調ですよ、解説さん!
『それでは試合開始の時間です! って両者いきなり、突っ込んだ!?』
『船と船の、ぶつかり合い。これこそ飛空船格闘の元祖』
飛空船格闘の始まりは、互いの船を衝突させていたと聞く。相手の船を弾き飛ばすか、場外に押し出せば勝利となる。競技化が進むにつれ、多様な攻撃手段が取り入れられた。
大本の飛空船格闘は、形を変えて存在している。その名も、飛空船相撲。こちらは魔法やスキルの結界も使用不可能だ。必然、船が傷付きやすい。多くの飛空船乗りから、不評の声が上がっている。一方で熱心な愛好者がいるのも、忘れてはならない事実だ。
『互いの船が、猛スピードで近付きます!』
さすがに試合開始直後で、船を衝突させることはない。すれ違う瞬間、攻撃を仕掛ける。目標は左側面に設置された2旒の旗。敵船まで距離100……50……10。
「雷の矢!」
「秘刀術、雲刃飛動!」
魔法と秘刀術による攻撃。だが一切、通じていない。
「ヤマト殿、攻撃が弾かれている!」
「確認しました! 剛壁防御。どうやら噂通り、結界術で間違いなさそうです」
その噂は、主に本人が流している。実際に見たのは、今が初めてだ。このソウルスキルを破らない限り、俺たちに勝ち目はない。船の姿勢を整えつつ、気を引き締める。
「恐ろしい結界ですね、シルドさん」
「おや、風魔法かい? 試合中に、おしゃべりとは豪気だね。僕には少し敵わないけど」
豪気さで勝負する気は、ありませんよ。……風魔法が通じた。この結界、問答無用で全てを遮断するわけではない。でなければ呼吸すら不可能になるからな。試してみるか。
「風の刃!」
「無駄だよ」
これは簡単に防がれた。続いて火、氷、光、闇。飛空船を移動させながら、立て続けに魔法攻撃を掛ける。だが全て結界に阻まれてしまう。
『風雷号、連続の魔法攻撃! しかし剛壁防御丸には通じません!』
『さすがに防御特化のソウルスキルだ。並大抵の攻撃では、微塵も揺らがない』
厄介なスキルだな。
「そろそろ、こちらからも攻撃するよ」
「ヤマト殿、来るぞ!」
ピヌティさんの言葉と同時に、風雷号の軌道を変えた。なんとか回避が間に合う。今のは細剣の一撃か。魔力を込めてあり、飛び道具としても使えるようだ。射程は魔法攻撃より短そうだが。
『剛壁防御丸から、魔力を込めた刺突が飛びます。風雷号、連続の刺突を避ける!』
『避けながら、攻撃の隙を窺っているようだ』
機動力では、こちらが上。避けるだけなら、何とかなる。牽制の魔法を放ちつつ、打開策を考えていく。
「ヤマト殿。結界の解除は、できないのか?」
「完全に相手の支配下にある結界です。よほど力の差が無ければ、不可能だと思います」
攻撃を続けて、分かったことがある。結界は一定の魔力ではなく、必要に応じて力を振り分けていた。攻撃を見極める観察眼も侮れない。それに魔力切れを狙うのも、無理だろう。
考えていても、答えが出ない。
「三人同時に、攻撃します。目標は左側面、船首側の旗です!
「やってみます!」
「了解した!」
敵の攻撃を避けながら、タイミングを合わせる。魔法、斬撃、そして爆裂針。ピヌティさんが、新調した道具だ。刺さると、内部で爆発を起こす。
『風雷号、三名による同時攻撃! しかし、これも防がれます。あ! 風雷号の旗が折られている!』
『どうやら風雷号の攻撃に合わせて、剛壁防御丸が反撃したようだ』
やられた! 旗が1旒、折られるとは! 三人の攻撃を合わせるため、風雷号の動きが止まった瞬間を突かれた!
「わー! どうしよう、ヤマト君!」
「これから挽回するだけですよ。時間は十分に、ありますから」
焦りそうになる気持ちを抑え、冷静に戦局を読む。それからも回避と攻撃を続けるが、有効な手を打てないまま時間が過ぎていく。
『さあ残り時間は、5分を切りました。優勢なのは剛壁防御丸。風雷号は、どう出るのか』
こちらの旗は1旒、折られている。かなり、まずいな。このままでは負ける! ここは一つ、賭けに出るか。
「敵の攻撃に合わせて、ヒラヒラ踊るのも飽きました。仕掛けましょう。風雷号、突撃準備!」
「お任せを!」
「了解!」
「燃料補給、しっかりやるよ!」
俺の言葉を聞き、サクラさんが移動を開始した。船首まで来ると、いつでも抜刀できる準備をする。ピヌティさんは、船の後方に。マリアさんは補給担当。これから尋常でない魔力を使うからな。がんばってほしい。雷撃角に魔力を充填し、準備完了だ。
「風雷号、突撃!」
「いい覚悟だ、ヤマト。正面から受けて立つよ!」
風魔法は切らず、シルドさんの声を拾っておく。少しでも相手の状況を把握したい。雷撃角に魔力を集中。そして風雷号を加速させた。
『風雷号、加速! 一直線に剛壁防御丸へ向かいます。一か八かの体当たりでしょうか!?』
『ただの突撃とは思えない』
十分に魔力を込めた突撃だ。剛壁防御丸の正面から、まっすぐ突っ込む! 雷撃角と結界が衝突した。そして風雷号の勢いが、止められる。
「素晴らしい一撃だな! だが僕には届かない! 剛壁防御、最大展開!」
「防がれた! 反転します!」
風雷号を旋回させ、剛壁防御丸に背を向ける。そのまま発進、距離を離す。
「速度が落ちている。さっきの攻撃、魔力を使い過ぎたね」
「ヤマト殿! 剛壁防御丸が追ってきた! なんとか攻撃を防いでみる!」
後方から攻撃を当てられたら、そこで終わりだ。ピヌティさんが、爆裂針を次々に投げていく。魔力を込めた刺突に当て、力を相殺している。
『風雷号、突撃失敗! 剛壁防御丸に背を向け、距離を取ります。剛壁防御丸、風雷号を追っていく。時間切れは、狙わないのでしょうか? 解説のオルノブさん』
『後方の旗を折るのは、確かな実力の証だ。華々しく勝利を飾りたいのだろうな。飛空船乗りとしては、理解できる』
飛空船全体に、魔力を張り巡らせる。もう後方を確認している余裕はない。警戒はピヌティさんに任せた。高速思考術を、全力で発動。時の流れが、遅くなったかのような感覚。
「チェックだ。至近距離の刺突で、終わらせよう!」
「剛壁防御丸、接近中! 最接近まで5秒、4、3、2、1、今!」
ピヌティさんの声が、ゆっくりと聞こえた。俺は風雷号を急上昇させる。飛空船の魔力を操り、必死で姿勢を制御した。一瞬の魔力凝縮、そして解放。剛壁防御丸が通り過ぎる瞬間、船を急降下させた。視界には、剛壁防御丸の後方が映る。
「風雷号が消えた!?」
「秘刀術、抜きの技、一刃専心!」
サクラさんの居合術。高速の斬撃は、後方の旗を切り裂いた。
『風雷号の勝利です! 試合終了間際の大逆転劇! オルノブさん、今のは一体?』
『後方につかれた瞬間、剛壁防御丸の目前で急上昇。そして船が追い越すと同時に、急降下。後方の旗を、切り裂きました。シルド選手には、船が消えたように見えたはず』
紙一重の勝利だったな。剛壁防御は攻撃を見極め、魔力を振り分けることで最大の効果を発揮する。攻撃に気を取られ、後方の旗への意識が逸れた。その状況であれば、サクラさんの秘刀術が通用する。
『そんな技があるのですね』
『異世界から来た飛空船乗りが、得意とした技だとか。真偽は不明だが』
『それにしても、見応えのある試合でした。シルド選手の剛壁防御も、噂に違わぬ鉄壁ぶり。そして、一瞬の隙を作らせる操縦技術を見せたヤマト選手。決勝戦にふさわしい試合です』
実際は足りない技術を魔法で補った、わりと無茶な操縦だったけど。おかげで魔力の消費が、大変なことになっている。
『それにしても、ヤマト選手は魅せてくれますね。私、ファンになりました! 応援してますよ!』
『実況が一人の選手に肩入れするのは問題かと』
『おっと、そうでした。気を付けます』
今の発言は、どこまで本気なんだろう。
「ファンができましたよ。良かったですね、ヤマトさん」
「そ、そうですね」
サクラさんに、笑顔で話し掛けられた。笑顔、だよな。ちょっと目が笑っていない気もする。
「とにかく、今日の試合は終了です。帰りましょうか」
風雷号を操作し、控室に戻る。今日は帰って、休もう。明日に疲れを残したくないしな。




