52話 予選第二競技、飛空船格闘・中編
控室に戻り、俺とマリアさんは顔を突き合わせる。サクラさんとピヌティさんには、休息を取ってもらった。
「第二試合の開始するまでに、急いで風雷号を修復しなければなりません。マリアさん。手伝い、お願いします」
「りょーかい!」
作業の方針を考える。船体にも傷を負っているが、こちらは自己修復で構わないだろう。問題なのは、風刃翼だ。
「まずは右翼を修復します。最初は俺自身の魔力を使うつもりです。ただ次の試合も考慮して、魔力を残す必要があります」
「じゃあ途中から、飛空船に蓄えた魔力を使うのね」
当然ではあるが、飛空船の魔力を使えば減る。第二試合に魔力が減少したまま、出場するのは避けたい。
「マリアさんは魔石を使って、減った分の魔力を供給してください」
「はーい!」
後は俺自身の魔力だ。中型飛空船の修復には、莫大な量の魔力が必要となる。魔力回復薬を使うのが一番だ。しかしかなり高価な魔法薬を使わなければ、十分に回復しないだろう。できれば使わずに済ませたいな。先が見通せない状況で、気軽に使うことはできない。
自然回復する魔力の様子を見つつ、作業を開始することにした。修復自体はソウルスキルの力を使う。完全に手動での修理は、時間が掛かり過ぎるからな。時間内に終わらせるためには、飛空船創造スキルが不可欠だ。
「第一試合で減った分は、補給できたよ!」
「ありがとうございます! 右翼の修復は、目途が立ちました。マリアさんは、休憩を取ってください」
次は左翼の修復に移る。ここからは飛空船の魔力を使う。船全体に存在する力を、少しずつ左翼に集めていく。損耗した部分を補填するイメージだ。ゆっくりと元の形に戻していった。
「……疲れた」
「お疲れ様! 補給作業に戻るね!」
「お願いします」
左翼の修復が終わった頃、マリアさんが戻ってきた。後は彼女に任せよう。
「ヤマト君は休んでて! 仮眠を取ったら、どうかな?」
「そうですね。少し横になります。試合の様子は、見物できませんし」
控室内には、魔導映像受信装置がない。これは試合の順序で、情報の差を作り出さないためと言われている。先に試合を見たら、その分だけ対策を考える余裕ができる。ただし運営側からの公式回答ではなく、参加者たちの憶測だ。実は予算削減のためだった、とか言われても驚かないな。
「おやすみ!」
「それでは、失礼します」
たしか仮眠室があったな。そこで一眠りしよう。すぐに仮眠室は見つかった。サクラさんとピヌティさんは、この部屋にいない。おそらく休憩室の方だろう。俺は簡易寝台を見つけ、横になった。大きな魔力を使うと、眠くなる。
「ヤマトさん、起きてください。もうすぐ試合の時間ですよ」
「あれ、サクラさん? おはようございます?」
「はい、おはようございます。寝惚けてませんか? 顔でも洗うと、いいですよ」
少し休むつもりが、がっつり眠っていたみたいだ。サクラさんの言う通り、顔でも洗おう。
「すぐに試合ですか?」
「十分後に開始します」
試合の開始時間は、あらかじめ決まっている。何事もなければ時間の通りに試合開始だろう。風雷号に乗り込む。マリアさんのおかげで、魔力は十分に補給されていた。
「ヤマト君、よく眠れた?」
「快眠でしたよ。マリアさん、作業ありがとうございました」
「どういたしまして! 使用した魔石を記録しておいたよ。確認してね!」
それは、助かるな。記録を見ると、予想よりも消費が少ない。魔石を燃料にする際、全ての魔力を変換することは不可能だ。必ず無駄な消費が、発生してしまう。その無駄な部分が、極端に少なかった。丁寧に作業をしてくれたのだろう。本当に、ありがたい。
「ヤマト殿、作戦はあるのか?」
「前回と同じですね。未知の船を相手にしますから、基本を疎かにしないことだけ気を付けましょう」
下手な先入観は危険だしな。
「チーム名から、ある程度は分からないかな。ほら、次のチームは『魔法の団結』でしょ。魔法中心の戦闘だよ、きっと」
「魔法中心かもしれませんが、どのように使うかは分かりませんよ。攻撃用か、防御用か。対象は敵か味方か。考えたら切りがありません」
マリアさんとサクラさんの会話を聞き、少し考える。どちらも一理あるな。ただ、もう一つ気になる点があった。
「結成時は魔法中心でも、現在も同じか不明です。メンバーが入れ替わり、今では全員が剣士なんてことも絶対ないとは言えません」
「それは、さすがに名前を変えるのでは?」
ピヌティさんの意見も、間違ってはいないと思う。ただ絶対とは言えない。
「チーム名の変更には、手数料が掛かりますから。余計な出費を嫌って、結成時から変更しなかった例もあると聞きました」
「ああ、なるほど」
手数料の額は大きくないらしい。しかしメンバー内で一人でも反対が出ると、揉める原因になるからな。――しばらくの間、雑談に興じる。
「ヤマト様、出場の時間です」
「了解しました」
第一試合前と同じ係員だ。試合会場への扉が開く。前回にも増して、観客の声が聞こえてきた。ゆっくりと風雷号を発進させる。
『一回戦を全て終え、いよいよ二回戦が始まります。合計八チームが出場しているため、今回の試合が準決勝ですね』
『例年だと予選七日間で、前半の三日は八チームが基本だ。四日目は試合が行われない。後半三日は、人数を大きく調整しての試合となる』
聞いた話だと実力者ほど、前半を選ぶ傾向があるらしい。不確定要素が少ないからだろうな。さて、そろそろ試合会場に出る。雰囲気に呑まれないように、気を付けたい。
『最初に姿を見せたのは、チーム『夢幻の集い』風雷号です。一回戦第一試合では、素晴らしい連携を見せてくれました。第一試合での損傷は、修復できた模様です』
『連携に加え、船の基本性能も侮れない。翔・攻・守、三拍子そろった良い船だ』
実況のラナさん、解説のオルノブさん。お褒めの言葉、ありがとうございます! まあ場を盛り上げるための、耳当たりのよい言葉でもあるだろうけど。それにしても、相手の飛空船はまだか?
『どうしたのでしょうか。チーム『魔法の団結』が操るラメッドメン。まだ会場に姿を見せません。あ! 来ました! ですが何やら様子が、おかしいような』
『飛空船の挙動が不自然だ。推進機の故障かもしれない』
たしかに一目で分かるほど、船の動きが変だ。俺は意識を研ぎ澄まし、敵飛空船の魔力を感知する、距離はあるが、飛空船の魔力は大きい。なんとかなりそうだ。
「どう思う、ヤマト殿。ブラフということも、ありえるが?」
「あれは本当に故障みたいです。魔力の流れに、異常が発生しています」
これで作戦は決まったな。
「相手の船は、機動力が落ちているようです。こちらは速度を活かして、撹乱しましょう。全力で弱みに付け込みますよ」
「……もう少し、言い方はありませんか。何が何でも正面から戦え、とは言わないですけど」
勝算が見えたと思ったら、つい口が滑った。どんなことでも、言い方は大切だよな。気を付けよう。
「それでは、正々堂々と弱点を突きましょう!」
「あまり変わっていない気がします」
あ。サクラさんが呆れた視線を送っているような。
『トラブルはありましたが、時間は待ってくれません。それでは試合開始です!』
『両者の健闘を期待しよう』
作戦は変わらない。機動力を活かしつつ、魔法攻撃を仕掛ける。まずは小手調べだな。
「火球、八!」
八個の火球がラメッドメンに向かう。だが同時に、向こうからも魔法攻撃が来る。その数、およそ三十。魔力から察するに、火・氷・雷・光の四種類か。
「ヤマト殿、攻撃役の魔導師は四人だ!」
「了解です!」
この距離では、まず当たらない。俺は風雷号を操作し、余裕を持って避けた。やはりラメッドメンは動きが悪い。あちらも避けてはいたが、見るからにたどたどしい。次の瞬間、ラメッドメンから赤い弾が撃ち上がった。
『ラメッドメン、棄権です! 勝者、風雷号! 開始直後の棄権。誰が予想したでしょうか。この判断は、どう思われますか』
『悪い判断ではない。風雷号が機動を活かした作戦を取ったのを見て、これ以上の損耗を避けるための棄権だろう。船の修理に力を尽くし、三位決定戦に望みを繋いだと考える』
さっきの赤い弾は、棄権用の信号弾だな。俺も参加登録時に預かった覚えがある。なくさないように、すぐ異空間倉庫にしまった。
「なんというか。この結果は、どうなんでしょう」
「ここは喜んでおきましょう。決勝戦に向けて、力を温存できました」
サクラさんは困惑しているようだが、俺は気にしない。飛空船を最良の状態に保つのも、重要な能力だ。後は決勝だな。相手は間違いなく強敵だ。改めて気合を入れよう。




