51話 予選第二競技、飛空船格闘・前編
予選二日目。俺たちは、競技会場の控室にいる。飛空船ごと待機するための、かなり大きな部屋だ。俺が選択した参加競技は、飛空船格闘。すでに一週間分の参加希望競技は申請してある。
「まさか、いきなりシルド殿と当たるとはな」
「驚きましたね」
ピヌティさんとサクラさんが、戸惑った表情を見せた。競技の組み合わせは、当日の朝に発表される。競技開始までには、まだ時間があった。俺とシルドさんは、同じ組だ。勝ち進めば、決勝戦での勝負となる。
「まあ二位でも6ポイント獲得できるし、無理して優勝を狙う必要はないんじゃない? 目的は中型船大レース優勝だし」
「そうかもしれないが、負けることを前提に考えてどうする。勝てる戦いも、勝てなくなるぞ。三位も難しくなるかもしれん」
これは、どちらも間違っていないと思う。マリアさんは中型船大レースを見据えて、無理をしない方針。ピヌティさんは敗北前提の行動で、各試合に悪影響が出ることを懸念している。
「二人とも、まずは初戦から考えましょう。第一試合で負けたら、入賞どころではないですよ。ヤマトさん。相手の対策は、ありますか?」
「知らない飛空船ですし、対策は難しいかと。基本を大切にして、試合に臨むつもりです」
そんな話をしていると、開始時間が迫ってきた。この組の第一試合だから、トップバッターとなる。順番が遅いよりは、いいと思う。今回のルールだと、一試合は三十分となる。参加者は八チームだから、一回戦は四試合。最初と最後では、約二時間の差が出るな。
「ヤマト様、出場の時間です」
「分かりました」
係員の声に答え、風雷号を発進させる。試合会場への扉が開いた。観客の歓声が聞こえる。昨日の会場にも観客はいたが、他に耳目を集める船があったから気にならなかった。ただ今回は、注目が二艘の船に集中する。気を取られないように、注意しよう。
『予選第二競技、飛空船格闘。開始時間まで残りわずかです。実況は私、魔導放送局一の才媛と名高いラナがお送りします。そして解説は船を飛ばして四十年、飛空船格闘の古兵――」
『――オルノブだ。よろしく』
『オルノブさんでした。本日はよろしくお願いします』
実況は昨日の人だな。今日は解説の人もいるのか。
『飛空船格闘は、船に設置された旗を折る競技です。船の左右に2旒ずつ、後方に1旒の旗があります。自分の旗を守りつつ、相手の旗を折るのです。左右を狙う場合、四旒の旗を折ると勝利。後方の旗は、1旒のみ折れば勝利になります』
『本来は船本体に攻撃を叩き込み、行動不能にさせる競技だ。予選では危険すぎるため、旗を使っている。一対一の勝負で、後方の旗を折るのは難しい。競技の大半は、左右の旗を折って決着が付くだろう』
扉を通り、ゆっくりと会場に進み出る。赤く光る停止線の直前で、風雷号を停めた。相手の船も同様だ。かなり大きな船であり、重量も相当あると思う。
『両飛空船が現れました。チーム『十大砲』のヨドカフ号は、大砲主体の飛空船です。チーム名が示す通り、船には合計十門の大砲が付けられています』
『飛空船格闘は、結界の魔道具を使用できない。魔法やスキルで、全ての砲弾を阻止する必要がある。大砲は有用な武器だ』
結界の魔道具を使うと、千日手となり勝負が付かない恐れがある。今では時間制限が設けられているが、昔は旗が折られるまで続けていた。結界魔道具禁止のルールは、今でも生きている。その理由は互いに結界中心の戦いだと、放送が地味になるから。というのが、俺の勝手な推測だ。
『一方、チーム『夢幻の集い』が駆る風雷号。こちらは風刃翼と雷撃角という二つの武装を備えています。短距離競走で見せた加速力も侮れません』
『映像だが、儂も第一競技を見た。高度な魔導技術を使った加速だな。飛空船格闘に、どう活かすのか。今から楽しみだ』
魔力凝縮解放のことか。使うとしたら、緊急回避かな。魔力の集積が間に合えばだけど。一対一だと長時間の凝縮は無理だ。しかし一瞬の凝縮に、一瞬の解放なら可能だろう。さて、試合開始まで残り30秒。気が抜けないな。
『さあ試合開始の時間です。両者、同時に動き出しました。最初に仕掛けたのはヨドカフ号。その場で九十度旋回。左側面を風雷号に向けます。そして一斉に砲弾を撃ち出した!』
この大砲! 物質弾と魔導弾を使い分けている! 一人の操舵手を除き、四人全員が砲手だ。
「ヤマト殿! 砲弾、来るぞ!」
「回避します!」
雨あられと襲い掛かる砲弾を、必死に避けていく。
『風雷号、砲弾を避ける。ヨドカフ号の大砲は、止まらない』
『砲手の練度が高い。確実に風雷号を捉えている』
このままだと、ヨドカフ号に近付けない。大砲の射程が長く、反撃も難しい。こちらの攻撃で届きそうなのは、雷撃砲くらいか。だが直線の攻撃だ。そのまま撃っても、避けられるだろう。
『ヨドカフ号の大砲は、旗を狙っていないように見えます。どうなのでしょうか、解説のオルノブさん』
『まずは風雷号の足を止める作戦だろう。相手の機動力を封じつつ、船体に傷を負わせられれば有利になる』
待てよ。旗を狙っていないなら、多少の被弾は大丈夫か。
「今から敵船に突っ込みます! ピヌティさん、旗に当たる砲弾を見極めてください!」
「わかった! やってみる!」
ちょっと無茶を言っているとは思う。だけど彼女なら、できそうな気もする。
「砲弾は私が斬り落としましょう!」
「お願いします!」
サクラさんの言葉も頼もしい。俺は風雷号を加速させ、ヨドカフ号に向かわせた。
『風雷号が行動を変えました。ヨドカフ号に突っ込んでいきます』
『これは上手い。旗に当たる砲弾だけを、見事に落としている』
ピヌティさんが弾を見極め、サクラさんが斬り落とす。素晴らしい連携です、二人とも! 少なからず砲弾が当たっているが、まだ耐えられる。
「ヤマト殿、敵船は迎え撃つ気だ!」
「船体へ近付かれる前に、落とす自信があるのでしょうね!」
だけど、それは過信というもの!
『ヨドカフ号、砲弾の嵐です』
『あれは魔石弾! 魔石を弾として撃ち出した砲弾だ。速く、強い』
まともに当たると危険だよな! 絶対に避ける! だけど厳しいか!?
「風刃翼、展開! 風雷号、横回転!」
左右の翼で、魔石弾を斬り裂いた! 避けられないなら、斬り落とす。足場以外で、風刃翼を使うのは珍しい気がする!
『風雷号、翼を広げました。そして一回転! 魔石弾を防いだ!』
『しかし被害も大きいな。両翼は傷を負い、もう本試合中は使えないかもしれない』
今がチャンスだ! 相手は動揺しているはず。まさか翼を犠牲に、魔石弾を防ぐとは思わないだろう。
「雷撃砲を使います。マリアさん。発射後に燃料補給、頼みました!」
「任せて!」
魔力充填完了。目標よし。
「雷撃砲、発射!」
威力は抑えている。代わりに速度を上げて撃ち出した。これも訓練の成果だな。かなりの精度で調整が可能となっている。
『おっと! 凄い砲撃です』
『資料によると、あれは雷撃砲。角に魔力を集め、一点に集中した砲撃だ』
『ヨドカフ号、直撃! 2旒の旗が折られました。残りは右側面の2旒、後方の1旒です』
旗を折ったか! 予想以上の結果だ。後は右側面の2旒を狙う。
「敵の様子が、おかしい! 雷撃砲の余波で、大砲が使用不能になっているようだ!」
「ピヌティちゃん、本当!?」
「間違いない!」
マリアさんが魔石を燃料に変換しつつ、問い掛けていた。ピヌティさんの言葉は事実だろう。敵の砲撃が止まっている。今の内に、敵船に近付く!
『風雷号、ヨドカフ号に接近します。ヨドカフ号が旋回を開始。右側面を、風雷号に向けました』
『おそらく雷撃砲により、火砲が故障したのだろう』
対応が早いな。すでに旋回が完了し、砲撃準備に移った。ここで一斉射撃に晒されれば、船が持たない恐れもある。
「サクラさん! この距離で、旗を狙えますか?」
「問題ありません!」
俺は風雷号を停止させた。ここが正念場。少しでも斬撃の邪魔に、ならないようにだ。
『ヨドカフ号の手前で、風雷号が止まりました』
『次の攻撃精度を上げるために、停止したと考えられる』
砲撃準備は、まだ完了していない。先にサクラさんが動く。
「秘刀術、一刃二鳥!」
「やっちゃえ、サクちゃん!」
サクラさんの魔力を込めた斬撃が、敵船の右側面に届く。1旒の旗を切り裂くと同時に、周囲へ衝撃が発生した。その力は残った1旒の旗を弾き飛ばす。
『決まりました! 風雷号の勝利です! オルノブさん。最後の技は、なんでしょうか』
『斬撃と一緒に、衝撃波を放つ技だ。東方に伝わる秘技と聞いた』
解説の人は、秘刀術を知っているのか。
『ヨドカフ号の砲撃も見事でしたね。風雷号の被害は少なくありません。次の試合は大丈夫でしょうか』
『規定時間内であれば、修復を認められている。もし間に合わなければ、そのまま次の試合に参加だ』
修復は主に俺とマリアさんが行う。おそらく自己修復機能だけでは、間に合わないだろう。特に風刃翼が深刻だ。魔石弾が当たったからな。急ぐ必要がある。




