50話 予選第一競技、中型飛空船短距離競争2万メートル部
『さあ、まもなく始まる予選第一競技、中型飛空船短距離競争。実況は私、魔導放送局一の美女と名高いラナがお送りします。ゲートに八艘の船が揃いました。いずれ劣らぬ勇士たち。中型船八艘が並ぶ姿は、壮観そのもの。スタートまで残り十分。選手たちの心境は、いかほどでしょう』
予選開始まで、十分を切った。俺はステータスカードに記載された、出場者の飛空船名を確認している。ヘブレウ、アリフ号、ビートギメル、ダレットヘイ、バブザイン号、ヘトテット、エシオルザラハ、風雷号。
「気になるのは、エシオルザラハですよね」
「戦闘型飛空船だな」
見た目は戦闘機そのままだ。異世界の戦闘機を解析して作られたのだから、当然とも言えるが。しかし規定により、出力は中型船と同等だ。速度も大きく変わるわけではない。公開されている情報によると、全長は約13メートル、翼幅は8メートル程らしい。これで中型飛空船の検査に通ったのか。
『本競技は、2万メートルの短距離走。コースは1周約6000メートル。2周した後、8000メートルの直線でゴールイン。飛空船の加速力が鍵を握ります』
飛空船競技では2万メートル、つまり20キロメートルは短距離となる。長距離だと日を跨いでの競走も珍しくない。
「打ち合わせ通りピヌティさんが前方と左側面、サクラさんが後方と右側面を確認してください。マリアさんは魔石の燃料変換役、お願いします」
「了解! でも短距離だと、あたしの出番はあるかな?」
マリアさんが首を傾げている。おそらく出番は無いだろうな。
「ところで戦闘型飛空船は、本戦には出場できませんよね」
「そうですよ。本戦の出場には、居住能力が必須ですから」
出場している理由は、技術力を証明するためだろう。それと三位以内なら、賞金も出る。本戦ほどの金額ではないが。おっと。気付いたらスタートまで、残り五分を切っている。ここからは集中力が重要だ。
開始まで1分……30秒……10秒……5秒……ゼロ!
『各船いっせいにスタート! 最初に飛び出したのは、予想どおりエシオルザラハ。本グループ唯一の戦闘型飛空船です。すぐ後ろにヘブレウ、バブザイン号、ヘトテットが続きます。わずかに遅れてアリフ号、ビートギメル、ダレットヘイ。最後方は風雷号。完全に出遅れたようです。スタートミスでしょうか』
違う、作戦だ! 実況の声は気にせず、飛空船と魔力の操作を維持する。
『先頭を飛ぶエシオルザラハ。第1コーナーから第2コーナーに向かって行きます。ここでアリフ号が前に出る。ヘブレウ、バブザイン号と並びました。後方にはビートギメル、ダレットヘイ。さらに遅れて風雷号』
俺は風雷号に魔力を込めていく。
『第2コーナーを回り先頭は依然としてエシオルザラハ。二番手にはアリフ号。ヘブレウ、ヘトテットが追っていく。バブザイン号は少し遅れている。ビートギメル、ダレットヘイはまだ動かない』
魔力を操作しながら、ふと思った。実況の人も大変だな、と。数日前に広範囲で、映像傍受の魔道具が不調となったらしい。このままだと視聴できない人が多数、出てしまう。音声だけは届くため、実況担当に期待が高まっているとのこと。言葉だけで可能な限り、状況を伝えるように言われたとか。
『先頭集団は第3コーナーを終え、第4コーナーに差し掛かる。トップは変わらずエシオルザラハ。アリフ号、ヘブレウ、ヘトテットも負けていない。いや、ヘトテット。ヘトテットが失速。ビートギメル、ダレットヘイの後方に下がった。そして最後方は風雷号』
また最後方と言われた。だが、これも作戦。俺は魔力を、ひたすらに風雷号へ送る。
『遂に1周6000メートルが終了。エシオルザラハが2周目に入る。続いてヘブレウ、アリフ号。いや、ここでビートギメル。ビートギメルが前に出る。アリフ号と並んだ。バブザイン号、ダレットヘイ、ヘトテットは後方で機を窺う。変わらず最後方は風雷号』
何回、最後方は風雷号と言うつもりだ! 実際、最後方だけど! しかし、これは想定通り。勝負は、ここからだ。レース展開に惑わされず、魔力を飛空船に送り続けた。
『2周目1コーナーが終わり、ここでヘブレウが加速。エシオルザラハを追う。白熱の先頭争い。ヘブレウ、届かない。エシオルザラハがトップを維持。ヘブレウ、届かなった。その後ろにビートギメル、アリフ号。わずかに離れてダレットヘイ、バブザイン号、ヘトテット。そして風雷号です』
いいペースだ。想定よりも離されていない。油断すると暴発しそうになる魔力を、慎重に操作し風雷号へ力を送り込む。
『2周2コーナーでは順位が変わらず。レースは、すでに中盤戦。エシオルザラハ、ここまで一度も先頭を譲っていない。逃げ切れるのか』
凄いな戦闘型飛空船。創ってみるか。待てよ。竜人船の戦闘型飛空船形態も捨てがたい。風雷号への魔力供給は続けている。まだ限界ではない。
『エシオルザラハ、2周3コーナーに入った。ああっと。ビートギメルがヘブレウをかわして前に出る。ヘブレウの後方からはアリフ号。さらにダレットヘイ、バブザイン号、ヘトテットが横並び。そしてしんがり、風雷号。しんがり追走です』
すでに2周3コーナーが終わり、レースは半分を切った。俺は慌てずに、魔力を風雷号に注ぎ込む。
『先団が最終コーナーに向かいます。なんとエシオルザラハ、ここで加速。他を圧倒するコーナリング。技術力の高さを見せつけました。後方集団も一斉に最終コーナーへ』
しまった! さらにエシオルザラハが加速したか。それでも作戦に変更はなし。勝負は最後の直線だ。風雷号には十分に魔力を注ぎ込んだ。ここから、さらに魔力を流し込む。暴発寸前までだ。
『先頭はエシオルザラハ。外からダレットヘイが追い込む。アリフ号、ヘブレウを抜き去った。ビートギメルに並んだか。ここで最後方、風雷号も直線に入った。大外へと回っている。先頭までの差は、中型船三艘分か』
ここで仕掛ける!
「魔力解放! 風雷号、全速前進!」
ありったけの魔力を使い、風雷号を加速させた。大外に回ったことで、進行を阻害する飛空船はない。
『レースは最後の直線へ。風雷号、凄い加速です! 大外から一気に追い込む! ダレットヘイ、バブザイン号、ヘトテットを差した! ここでエシオルザラハも速度を上げる! 風雷号、先頭集団との差を縮めていく!』
本番で集中力が高まったのか、訓練で試した以上の加速を感じる。嬉しい誤算だが、嬉しくない誤算もあった。魔力の消費が激しすぎる。
「マリアさん、魔石を燃料に! お願いします!」
「了解!」
これでゴールまでは大丈夫だろう。後は加速に集中するだけだ。残りは4000メートル。余力を考える必要はない。
『内からはヘブレウだ! ヘブレウがアリフ号、ダレットヘイを抜く! 大外から風雷号が来た! ダレットヘイ、アリフ号、ヘブレウをまとめて抜き去る! エシオルザラハとの差は一艘身だ! エシオルザラハ、逃げる! 風雷号、追う!』
一艘身という言い方、初めて聞いたな。一馬身や一艇身は聞くけど。
『残り2000メートル! 風雷号、来た! 風雷号、先頭に躍り出る! エシオルザラハ、ヘブレウが続く!』
よし! このまま先頭を維持する!
『ラストスパート、残り1000! 風雷号、エシオルザラハを引き離す! エシオルザラハ、追う! 風雷号、速い! エシオルザラハ、追い付くか!』
残り500、これで終わりだ!
『風雷号、やりました! 奇跡の大逆転! 七艘抜きの快挙です! 二着はエシオルザラハ! こちらも素晴らしい飛翔! 三着ヘブレウ! 安定した走行は、見事でした!』
魔力凝縮解放という技術がある。魔石に力を溜め込み、一気に解放することで爆発力を得る術だ。飛空船を魔石に見立て、同じことを行った。魔力を制御することで、推進力へと変換している。
「ヤマトさん、やりましたね!」
「見事な作戦だった」
「これで8ポイント獲得だよ。予選通過まで後12ポイント!」
「上手く作戦通りに進んで、良かったですよ」
ポイントだけでなく、賞金も獲得できる。1位だと8万エル。臨時収入としては大きい。助かるな。今日は疲れた。必要な作業が終わったら、早めに休むとするか。




