49話 検査、レギュレーションチェック
半日ほど訓練を兼ねた移動を続け、ようやく帝都が見えてきた。標準の移動時間だと、十時間前後は掛かると聞いている。かなり時間を短縮できたな。実りのある飛行訓練になった。
「発見! もう目と鼻の先だな!」
「こちらでも確認しました」
とはいえ首都の大きさを考えれば、まだ少し時間が掛かるだろう。警戒を続けながら、船を飛ばす。魔獣に遭遇することもなく、無事に到着した。飛空船用の門に行き、来訪目的を告げる。ここは下船しなくても、手続きができるようだ。便利だな。対応したのは、若い女性だった。
「飛空船競技会の参加者様ですね。ようこそ、お越しくださいました。失礼かと存じますが、身分証の提示を御願い致します」
「どうぞ」
ずいぶんと丁寧な対応だな。お客さん扱いなのだろうか。全員が身分証を提示する。少し距離があるけど、確認できるのかな。あ、魔道具を取り出した。あれを使うのか。
「ありがとうございました。中に入ると、すぐに停留所の受付がございます。そちらで停泊場所を、ご確認ください」
俺は礼を言って、示された受付に向かう。そこで話を聞くと、飛空船検査の予約も可能と言われた。迷わず頼んだところ、明日の正午前が空いているらしい。その時間に決定してもらう。
停留所と合わせ、格納庫も一緒に借りる。一日分の料金は、500エルと1万エル。カイス王国と同額なのは、偶然ではない。同盟国内で統一した結果とのこと。受付が済んだら、格納庫へと向かう。中に入り、担当者から施設内の説明を受けた。
「今日から中型船大レースが終わるまで、ここを拠点に行動します。帝都の宿にも、興味はあったのですが」
「飛空船競技会が優先ですし、宿は次の機会にしましょう」
サクラさんの言う通り、優先するのは競技会だ。
「ところで予選会場は、帝国の上空にある人工施設と聞いたが。道中で注意を払ったが、それらしい場所は見えなかったな」
「おそらく隠蔽効果のある結界を、使っているのかと」
俺もピヌティさんと同じように、上空を確認している。視覚では捉えられなかったが、わずかに魔力を感知したのだ。
「予選会場には、専用の門を通らないと行けないってさ。観客席もあるけど、数が限りられているの」
「マリアさんが以前に来たときは、魔導映像通信で観戦したのですよね?」
「そうそう。他国では放送していないから、貴重な体験だったわ」
これは国の周囲に張られた結界の効果で、他国からの魔力波を弾くからだ。この仕組みが無いと、常に魔力干渉を受けることになる。同盟国内に限り、魔力を通す技術も開発中らしい。ただ実用化には、まだ少し時間が掛かるとのこと。
「ああ、そうだ。重要なことを確認したい」
「なんでしょう?」
どうしたんだろう? かつてないほど、ピヌティさんが真剣な表情をしている。
「ヤマト殿、賭け事の経験は?」
「何度か、あります」
ギャンブル関連は、少しだけ試したな。宝くじ、パチンコ、競馬。他にも、いくつか。嫌いではないが、微妙に合わなかった。結局、一回で止めたものが多い。次の宝くじを買おうか考えてたくらいだ。これが重要な確認なのか?
「よし、一緒に賭けよう! 競技会には、公式賭博が存在する! 収益金は社会福祉に使われる、つまり善なる行動だ!」
「でも参加者は、賭けられないよ」
マリアさんの言葉で、ピヌティさんが固まった。いや、そこまでショックを受けなくても。参加者が禁止なのは、八百長を警戒したのだろう。
「ピヌティさんは、そんなに賭け事が好きなのですか?」
と、サクラさんに問い掛けた。しばらく本人は動きそうにない。少し意外に思う。趣味は人それぞれだし、否定はしないけど。
「今回が初めてだと思いますよ。今まで仕事にしか、興味が無かった人ですし。賭け事はともかく、他に目を向ける余裕ができたのは良い傾向ですよ」
そういえば観光にも、積極的だったな。初めての挑戦が始まる前に終わって、出端を折られたのか。まあ、しばらくしたら復活するだろう。
「明日の検査までに、飛空船の最終確認をしましょう」
「検査が終わると、大きな改造が不可能になるのですよね」
つまり大きな改造をする場合、今日の夜がラストチャンスになる。明日の朝は、細かい確認のみにする予定だ。
「私は外で食事を買ってくる。今日は夜も作業をするのだろう」
「あたしも行くよ! もう一度、食べたい料理もあるし!」
あ、ピヌティさんが復活した。二人は町に出るようだ。俺はもう一度、細則や見落としそうなルールを確認する。最新版の規則書を、受付で貰った。飛空船改造に問題がないか、最後のチェックとなる。サクラさんも一緒に手伝ってくれるそうだ。心強いな。
夜になっても、中型飛空船の調整は続く。ピヌティさんとマリアさんが買ってきた食事を取りつつ、長時間の作業を行った。四人で相談しながら、改造を進めている。
「雷撃角と風刃翼は外せません。寝室は五部屋あれば十分ですよね。風呂も規模を縮小しましょうか」
瞬間、三人から悲しみの感情が伝わる。気のせいかもしれないが、確かに感じたと思う。俺は思わず三人から視線を外した。
「……やっぱり風呂は今のままにします。士気の高さは、重要ですよね」
中型船大レースは、数日間にわたり行われる。ただし夜間の移動は禁止だ。日が沈んだ時点で結界を張り、その場で待機となる。風呂を使う時間は、十分にある。
「ヤマトさん、飛空船の結界は強化しますよね」
「道中で入手した素材もありますから、手を加えましょうか。魔道具の結界と合わされば、安心ですよ」
結界の魔道具は、運営から借りることもできる。しかし魔力効率が悪いと聞いた。本戦の出場者は、だいたい自前の魔道具を用意するらしい。俺たちが持つ結界魔道具も、かなり上等な物だ。借りる必要はない。
「ドマ殿から頂いた素材も使うのだな。効果はどうだ?」
「思ったよりも、全体が強化されています。良い素材を貰いました」
出力も大幅に向上している。これ以上は、大型船舶と同等の出力になりそうだ。
「ところでヤマト君。あたしは燃料係で、いいんだよね?」
「そうですね。操舵席の横に、魔石を燃料へ変換する設備を作りました。これからは、そこで作業を頼みます」
専門の魔導師以外だと、手動で魔石を燃料に変えるのは難しい。今までは船内にある動力部まで行き、作業する必要があったからな。今回の改造で、利便性が向上したはずだ。それにマリアさんも、レースの様子が見たいだろうし。
日付が変わる頃になり、ようやく作業を終わらせた。思ったよりも、大規模な改造になった気がする。そのおかげで優勝の可能性は見えた。もう今日は休もう。
――検査当日。予約した工場に行き、所定の場所へ風雷号を停めた。後は飛空船検査員の作業を見ているだけだ。別室で待つことも可能だが、興味があるし見学させてもらう。他の三人も一緒だ。
「登録名は風雷号。漁船型。漁猟船を戦闘仕様に改造。重量、全長、全幅いずれも問題なし」
複数名で忙しなく動きながらチェックしている。大変そうだな。
「機関方式も、問題ありません!」
「空中浮上機能、問題なし!」
「出力確認します! あー、これアウトか?」
え? 昨日、あれだけ確認したはずなのに? 何か見落としでも、あったのか? まさか再検査には、ならないよな。
「いや、セーフ! 規定ギリギリの出力。初参加の船で、この調整。お客さん、やりますね!」
「無駄口、叩いてないで働け!」
「すんません!」
良かった。問題ないようだ。出力は重要だからな。既定の上限いっぱいに調整した。ここまで出力が上がったのは、ドマさんに譲ってもらった素材の効果が大きい。改めて感謝しよう。
その後も作業は続く。専門家の作業となると、よく分からない部分も多い。それでも見ていると、なんとなく楽しく思う。やがて作業も落ち着いた。責任者らしき人が、書類を確認している。
「お待たせしました。規定通りの仕上がりです。これなら全競技に参加可能となります」
「ありがとうございました」
ステータスカードを渡し、参加登録をしてもらう。以降、必要な情報はカードに送られるそうだ。ただし帝国の管理区域外に出ると、情報は届かない。また開催期間中に外国へ行くと、その場で失格になるらしい。
それから約一週間、飛空船の訓練を重ねる。参加登録した船は、大幅に手を加えることができない。自然と訓練の比率が高くなった。そして遂に予選開始の日を迎える。




