47話 対話、剛壁防御のシルド
「みなさん、どう思いました。槍と大地傭兵団は」
「こちらを騙そうという意志は、まったく感じられなかったな」
俺の質問に、最初に答えたのはピヌティさんだ。彼女には相手の挙動を注意深く確認してもらっている。
「黙って見ていたのは、どうかと思ったけど。それにも理由があったわけだしね」
「悪い傭兵団とは、思えませんでした」
続いてマリアさんとサクラさんが、答えてくれた。
「それから交渉の内容はどうでしょうか? 問題はありましたか?」
「大物の素材を優先したのは、正しい判断だと思う」
「商人としては、大量の魔石も気になったわ。でも異なる種類の素材を貰ったし、成功じゃないかな」
ピヌティさんとマリアさんが、ほぼ同時に言葉を発した。二人から見ても、良い結果だったようで安心した。
「サクラさんは、どうでしょう?」
「私は見ていただけですが、最後は気持ち良くまとまったと思います。きっと問題ありませんよ」
あと気になるのはドマさん個人のこと。槍と大地傭兵団の首領。というか一度も団長とは言ってなかったけど、ちゃんと傭兵団だよな。
「お頭は、どう思います? 面倒見のいい姉御みたいな人でしたが」
「ヤマト殿の隣で見ていたが、悪人とは思えないな」
俺もピヌティさんと同意見だ。
「演技が得意そうにも、見えなかったわ」
マリアさんの言葉にも頷ける。あれが演技だとしたら、人間不信に陥るほどだ。あらゆる人を疑うことになりそう。
「あの恰好だけは、何とかしてほしいですが」
「まあ、いいじゃないですか。ああいう鎧も」
「ヤマトさんは、あのような姿が好みなのですか?」
……余計なことを、言ったかもしれない。
「俺の好みは置いときまして、あの鎧には強力な防御魔法が掛けられていました。防具としても一級品だと思いますよ」
「ただ露出度が高いだけの姿では、ないのですね」
一応、サクラさんも納得してくれたみたいだな。
「そろそろ出発しましょう」
俺の言葉で三人が動き出す。ピヌティさんが前方を警戒し、サクラさんが中央で左右に注意する。マリアさんは後方だ。そして、俺は操舵席に向かう。皆、準備はいいようだ。
「風雷号、発進!」
再び空の旅が始まる。飛行と休息を繰り返すこと、数日。大陸まであと少しだ。道中では初見の魔獣とも遭遇したが、力を合わせて乗り切った。
周囲には他の飛空船も多い。この中に飛空船競技会参加者も、いるのだろうか。適度に距離を維持しつつ、風雷号を進める。
「ヤマト殿、港は目の前だ!」
「了解です!」
よし、確認した。慎重に港へと船を寄せる。仮停留所に船を置き、入国の審査を受けた。このあたりの流れは、どこも大差ないだろう。審査の内容に、差はあると思うけど。門番に身分証となるステータスカードを見せたら、不審な顔をされる。詰所から一人、別の人間が出てきた。
「ちょっと、こちらへ来てもらおう」
「分かりました」
詰所の一室に連れられた。三人には待っていてもらい、今は俺だけ。目の前には二人の男が座っている。年配の男と、年若い男だ。
「カイス王国で、前科があるな。証拠隠滅罪で罰金900万エル。間違いないか?」
「間違いありません」
最初に口を開いたのは、年上の方だ。口調は固いが、責める雰囲気はない。嘘を吐く必要も無いので、正直に答えた。
「証拠隠滅で900万、ずいぶんな額ですね。スルカイタ帝国だと、精々30万が限度なんですけど」
「特殊罰の分がありますから。飛空船と時空魔法の使用が重なり、その金額に」
今度は若い男に答えた。改めて見ると、俺より何歳かは年上か。得心したように頷いている。
「名前はヤマト、所属は魔獣狩り協会だな」
「その通りです」
「あ、おやっさん。この名前と所属に罪状、手配書で見た奴ですよ」
手配書? お尋ね者にでも、なっているのか?
「誤解を招く発言だな。あれは手配書ではないぞ。貴様、内容を見ていないな」
「う、すんません」
若い男は苦い顔をして、謝っている。
「ヤマト殿、貴公の身元は関係機関が保証している」
「関係機関ですか?」
遠回しな言い方が気になる。どこの組織かな。被召喚者補助委員会は違うはず。保証するにしても、俺に連絡を取ってからだろう。そもそも身分証には、委員会と繋がる記載が削除されている。
魔獣狩り協会ならグランザードさんが教えてくれると思う。報連相は確実に行う人だし、新しく支部長になった人も同じだと聞く。衛兵団は、国内にのみ影響力を持つ組織だ。これも違う。他に俺と関わりがあるのは、どこかあったかな?
「詳細は明かせない。だがカイス王国の同盟区域であれば、貴公の行動は束縛されないだろう」
もしかして王宮か? 俺が拘留でもされたら、バイオレット様の進退にも影響が出る。ただ罪人を表立って保証するわけにもいかない。真実は不明だけど、なんにせよ助かるな。
「よし、若いの。一走り、魔獣狩り協会まで行ってこい。顔通しだけ、してもらう必要がある」
「了解!」
若い男が立ち上がり部屋を出ていった。走っていくのか? スルカイタ帝国は、魔導通信技術が発達していると聞いた。詰所にも通信手段がありそうだけどな。
「すまないが、しばし待ってもらうぞ。協会は遠くないが、事情説明などで時間が掛かるはず」
「構いませんよ。お手数をお掛けします」
その後は入国後の注意点など、説明を受ける。別室で他の三人も似たような話を聞いているらしい。一通りの話を聞くと、内容が雑談になっていく。
しばらく時間が経過し、ようやく男が戻ってきた。同年代の男も一緒だ。
「お待たせしました! 協会から人を呼びましたよ」
連れてきたのは、茶色の掛かった髪を伸ばした細身の男だ。あれ? この特徴、どこかで聞いたような。
「僕は剛壁防御のシルド。君がヤマトだね、よろしく。カッコイイ男じゃないか。僕の次くらいに!」
「よろしくお願いします」
俺は立ち上がり、軽く頭を下げた。ほぼ同時に、年配の男も立ち上がる。
「魔獣狩り協会相談役のシルド殿ですね。後は頼みます」
「任せてくれたまえ! さあ、ヤマト。協会まで案内するよ」
「その前に仲間と合流させてください」
詰所の中で、すぐに合流できた。
「ご無事でしたか、ヤマトさん」
「大丈夫だった?」
サクラさんとマリアさんから、心配そうに声を掛けられた。いきなり詰所に連れていかれたら、不安にもなるか。
「話を聞かれただけです。問題ありませんよ」
「それは何より。ところで、こちらの御仁は?」
「この方は、シルドさんです――」
ピヌティさんの質問には、慎重に答えた。ドマさんから要注意人物として、聞かされたからな。
「――というわけですよ」
説明が終わったら、シルドさんの先導で協会への道を進む。周囲にある建物は、石造りが多いように見える。木造中心だったカイス王国とは、文化が違うのだな。気候も少し暑いか。
「ところで飛空船を所持しているそうだね。もしかして君も競技会に参加かな?」
「そのつもりです」
「それなら僕と君は、宿命のライバルというわけだ!」
そんな運命を持った覚えはありません。というか同じ競技に参加するだけです。何人、宿命のライバルがいるのでしょうか。と思うけど、言葉には出さない。
「お手柔らかに、お願いします」
ドマさんから、シルドさんの様子が変だと聞いた。今もおかしな人とは思うが、こういう意味ではないだろう。少なくとも、素材を奪おうとする人には見えない。
とりあえず当たり障りのない会話をしながら、協会の前まで行く。外観はカイス王国支部と、大きく変わらない。ここで立ち止まると、シルドさんが大仰な仕草で協会を示した。
「到着! 中で手続きを進めよう。支部長との面談もあるが、ただの本人確認さ。すぐに終わるから、心配いらないよ!」
そして協会内に入り、手続きを進めていく。協会では魔導通信機が不調らしく、大変らしい。だから詰所で通信機を使わなかったのかな。それから支部長室に呼ばれる。シルドさんの言う通り、すぐに面談は終わった。ほとんど会話もなく本当に身分証の確認くらいだったな。
ここで飛空船発着場の紹介状を貰った。提示したら、許可が早く下りるそうだ。シルドさんは発着場まで、同行するとのこと。まず仮停留所まで一緒に行く。
「これがヤマトの飛空船か! 良い船だね。僕の剛壁防御丸には、少しばかり及ばないけど!」
「えーと、ありがとうございます?」
今のは、褒められたのだよな。最後に自賛があったけど、褒められたとは思う。とにかく発着場まで行き、使用許可を貰うとしよう。紹介状の効果もあり手続きは速やかに進んだ。しかし格納庫は、予約が一杯で使えなかった。
「これから、どうするんだい? 格納庫は使えなかったのだろう」
「町で宿泊場所を探しますよ」
風雷号に泊まるのは止めておく。停留所での宿泊は推奨されない行為だ。それに初めての町だし、観光がてら宿に泊まるのもいいだろう。
「そうか、町中には危ない人間もいる。気を付けてくれ。傭兵紛いの、ごろつきは特に危険だ」
「忠告、ありがとうございます」
真剣に身を案じてくれている様子である。
「それでは、僕は行く。いつか、どこかの空で会おう」
「お気を付けて。いつか、どこかの空で会いましょう」
なんだかんだ言って、世話になったな。今度、改めて礼を言おう。さて、今日はこれから町に出る。せっかくだし、楽しもう。




