46話 対話、槍と大地傭兵団のドマ
「十分に警戒しながら、近付きましょう。雷撃砲は充填しておきます」
「なるほど。それなら即座に対応できるな」
まず結界を強化する。そして風雷号を九十度、縦回転させた。同時に、風魔法を発動。これで態勢を崩す心配はない。
船首を下に向け、雷撃砲の範囲内に敵性飛空船を捉えた。そのまま、ゆっくりと近付く。
「気配遮断が解除されました」
「それならば、敵対する気はないのでしょうか」
サクラさんの言葉は俺の希望でもある。ただ油断は、できないな。結界の魔力を攻撃に回す恐れもある。
結界同士が触れた。弾かないように意識しつつ、さらに近付く。相手の飛空船は風雷号と同じくらいの大きさか。ギリギリまで船に近付き、停船する。
乗組員の姿が、はっきりと見えた。甲板にいるのは五人。全員が女性だ。衣服の上に、軽装の鎧を付けている。とくに目を引くのは、先頭にいる者か。あまりにも露出度の高い鎧である。胸部と下半身の一部しか覆われていない。
「アタシはドマ、槍と大地傭兵団の頭だ! アンタが船の代表かい?」
「初めまして、ヤマトです」
交渉事には、俺が矢面に立つことを決めてある。補助をピヌティさんに任せて、マリアさんには規則や法律などの助言を頼んでいた。サクラさんは応援係です。
「さっそくだが、アンタと交渉したい」
「交渉ですか? その前に貴女たちが、ここで何をしていたか聞かせてください」
正直に言うかは分からない。だけど不審な点があれば、ピヌティさんが見抜くと思う。その手の観察眼が鋭いからな。
「魔獣と交戦中のアンタらを見掛けてね。傭兵の出番かと、近付こうとしたのさ。ただ近付く前に、アタシらの仕事は無さそうだと判断したよ」
「なぜですか?」
「あきらかに手慣れた戦闘ぶりだ。金にならない仕事ならましで、悪けりゃ横入で煙たがられる恐れもあった」
一応、理屈は通っているかな。安易に信用は、できないけど。お頭――ドマさんだったか、彼女の様子には注意を払う。
「理由は分かりました。交渉の内容を、教えてもらえますか?」
「アンタが回収しなかった素材を、下で勝手に拾わせてもらったよ。渡す代わりに分け前をくれってことさ」
横目でピヌティさんの様子を窺う。彼女は無言で頷いた。どうやら、不審な点は無さそうだな。交渉に応じても構わないか。
「なるほど。ところで回収した素材は、どのくらいの量でしょう」
「お前ら! 見せてやんな!」
ドマさんは船員に命じて、素材を持ってこさせた。結構な量があるな。それから統制者の素材もあった。魔力量から判断すると、間違いない。交渉を受けるとして問題は取り分の内容か。
「凄い量ですね。こちらの要求は統制者――群れの主が落とした魔石と素材です。残りは貴女たちで使ってください」
「へえ、それ本気かい? 戦闘を黙って見過ごして素材だけを掠め取ろうなんて、とうてい褒められた行為ではないよ。アンタは自分の取り分を、もっと主張できる立場だろ」
いわゆる横取りだ、世間一般で嫌われる行為と言えるな。最新の魔石分析だと、結晶化した際の状況も分かるらしい。ここにある素材の多くは雷撃砲による成果。もし話が拗れたら、俺たちに有利となる。
「構いませんよ。回収は不可能だと、諦めていたところですから」
「親玉の魔石と素材なら、手下十体分あたりの価値か。総量で言えば、アタシらの方が相当に有利なんだよ」
「お頭、儲かりましたね! よほどの間抜けか、お人好しですよ!」
そういうことは、相手に聞こえないように言ってください。あ、ドマさんが頭を抱えている。お疲れ様です。
「お前な。こいつら、相当な手練れだぞ。ただの間抜けなはず、ないだろ」
「そうっすか? でも自分の攻撃に巻き込まれてましたよ!」
ああ、なるほど。傍から観察すると、そう見えるかも。かなり距離があったし、遠見の魔道具でも使ったのかな。
「あれは狙ってやったんだよ。空犬の群れは主を失ったら、敵集団の親玉を狙う。そいつを倒した奴が、新しいボスになるんだ」
「うっす?」
俺が狙われたのは、それが理由か。おそらく潜在魔力量で、ボスと判断されたと思う。魔獣には飛空船の所持とか関係ないだろうし。
「理解していないな。つまり敵から狙われたことに気付いて、自分を囮にまとめて殲滅する作戦を選んだのさ」
「あー、なるほど!」
ちょっと疑問がある。ここから見ただけで、そこまで分かるのか? 攻撃に巻き込まれた線も、否定できないはず。
「だいたいだな。この距離で気配遮断した飛空船に気付く奴等だ。あえて狙いでもしなけりゃ、あんなバカでかい魔力に巻き込まれないさ」
あの結界は、そこまで効果が高かったのか。だから俺たちの実力を買っているのだな。今までの様子からすると、初見の交渉相手でも過小評価しない人だと思う。少し信用できそうな気がしてきた。
「そろそろ話を進めましょうか」
「すまない。横道にそれたな。ならボスはアンタに、それ以外はアタシらが頂く。で、他に何か頼みがあるんじゃないか?」
傭兵と聞いて思い付いたことがある。魔獣が多い夢幻島で雇えないかと。だけど判断は保留だな。島全体に関わることを、相談しないで決めるのは危険だ。
「手持ちで余った素材があったら、少し分けてほしいです。それと飛空船競技会に関する情報、ありませんか?」
「素材……飛空船の強化だね。いいよ、余り物でよけりゃ、渡そう。お前ら、準備しな!」
やはり持っていたか。辺境だと、通貨の類が使えない恐れがある。そんなときに備えて、素材の一部を確保しておく。珍しいことではない。
「それと競技会の情報か。漠然としているな、細かい指定は?」
「優勝候補とか、要注意人物などでしょうか。知っていたら、教えてください」
規則やルールは、後で調べればいい。知りたいのは、生きた情報だ。傭兵団なら詳しそうだし。
「両方に該当する奴がいるな。剛壁防御のシルド。異名はソウルスキルの名称でもある。あらゆる攻撃を防ぐ、強力なスキルだ。外見は優男。茶色の掛かった長髪で細身。一切の防具を身に付けない」
ソウルスキル所持者か。敵に回すと危険そうだな。
「もしもスキルの詳細が知りたかったら、本人に聞くといい。喜んで教えてくれるそうだ」
「自信が力になっているのでしょうね」
前衛系のスキルを持っている人に、表れやすい傾向と聞いた。こそこそスキルを隠すのは、能力に自信が無いからだと。自身のソウルスキルを誇り公言して当然。決闘前には、スキルの詳細を語るのが流儀。矜持こそ、スキルを鍛える根源。
……俺には、よく分からない。ただ一理はあると思う。実践する気にはならないけど、否定する気もない。それぞれ自分の方法を、模索するべきだ。
「中型船大レースが前回と同じ内容だとすると、魔獣の群れを突破する場所が複数ある。剛壁防御なら魔獣を無視して、強引に突き進むことが可能だ」
「それは厄介ですね」
こちらが魔獣の対処をしている間に、相手は無理矢理に進めるわけか。
「しかし最近、シルドの奴が変な様子らしい。時折、雰囲気が変わるとか。迷宮で会ったら、倒した魔獣の素材を奪われかけたとか。少し嫌な噂を聞いている」
「気を付けますよ」
君子、危うきに近寄らず。見掛けたら、刺激しないように注意する。
「そろそろ素材の準備が終わったころだ。続きは後にしよう。おっと、優勝候補の筆頭を忘れていたよ」
「誰でしょうか?」
「このアタシ、槍と大地傭兵団の頭領ドマ様だ!」
ドマさんは堂々と宣言した。親指で自分を示しつつ。周りにいた船員さんからの「キャー! お頭カッコイイ!」という黄色い声は、聞こえないものとする。
そして素材の受け渡しを行う。作業が終われば他の優勝候補者の情報を聞いた。さらにレースに関わる裏話や噂話などもだ。
「取引終了。貸し借りなしで、いいかい?」
「いえ、お互い貸し借り一つずつ。これで、どうでしょう?」
いつか傭兵団の力を必要とする日が、やってくるかもしれない。その日のために縁を繋いでおくのも悪くない。元の世界では、考えもしなかったことだな。
「構わないよ。それじゃ、ヤマト。また、どこかの空で」
「お元気で、ドマさん。また、どこかの空で」
槍と大地傭兵団は、さわやかに去っていく。




