45話 察知、謎の飛空船
夢幻島にバイオレット様たちを送ってから、約一ヶ月が過ぎた。俺は王都と島を往復して物資を運んでいる。
島では二軒の小屋が建った。資材や食料の置き場に利用されている。小さな畑も作り野菜の栽培も始まった。ただし水は魔法に頼っているのが現状だ。魔力消費の都合で農地を広げるのには限界がある。対策が必要だろう。
開拓の進行は気になるけど、そろそろ中型船大レースの準備をする必要がある。今日は大会の舞台となるスルカイタ帝国へと向かう。
参加の受付は帝国の首都、帝都ガンベルに行かなければならない。
「吉報を待っていますよ、ヤマト」
「がんばってください!」
見送りに来たのは、バイオレット様とトリアさんだ。他の人は作業に出ている。出発の日は、あらかじめ伝えているため問題はない。
「お二人も無理は禁物ですよ。それでは行ってきます」
挨拶を終えたら、風雷号に乗り込む。夢幻島からだと、帝都へ到着するのは十日前後になる見込みだ。
――数日の移動を経て、ようやくスルカイタ帝国に辿り着く。何度か魔獣と遭遇したけど、いずれも見慣れた種類だった。難なく撃退している。小さな浮島に立てられた紋章付きの旗が帝国の空域を示していた。ここから帝都までは、まだ数日は掛かる。初見の魔獣も、現れるだろう。気を付ける必要があるな。
「初めての国です。注意しましょう」
「あたしは行ったことあるよ! なんでも聞いてね!」
「マリアは商売で、帝都に滞在していたらしいな」
あ、そうか。マリアさんは行ったことがあるのか。そういえば少し前の雑談で、聞いた気がする。香辛料の利いた食事が、種類も豊富で美味いと言っていたはず。本人は辛いのが苦手みたいだけど、それでも食べると舌鼓を打つほどだとか。
「そろそろ私は警戒に戻る。サクラと交代してこよう」
この空域は、帝国の飛空船部隊が巡回している。今までの道中よりは安全だが、油断はできない。広大な空域、全てを見回ることは不可能だから。しばらく進むとやはり魔獣に出くわす。最初に発見したのは、ピヌティさんだ。
「空犬の群れを発見! おそらく統制者がいる!」
リーダーに率いられた群れか。厄介だな。空犬とは、飛行能力を持つ犬型魔獣の総称である。個体によって、異なる特徴を持つ。吸血能力を持っていたり、全身が鱗に覆われていたりと様々だ。バリエーションが豊富すぎて対処に困る。
「風刃翼、展開! マリアさん、操船を頼みます。速度を維持しつつ、まっすぐに進んでください。回避は考えなくても大丈夫です」
慣れない操船で、回避行動は危険だ。少しくらい無理な動きでも、結界の効果で落ちることはない。だが限界はある。落ちたら助からない以上、安全を第一に考えての方針だ。
ピヌティさんは左翼、サクラさんは右翼に行く。俺は中央に残り、前方の魔獣と戦う。初見の相手に少し戸惑いながらも、着実に敵を減らす。一体の戦闘能力は、そんなに高くないようだ。
「推定統制者、発見! ヤマト殿、どうする!?」
「サクラさん、秘刀術で狙えますか?」
「少し遠いです! 外れるかもしれません!」
ピヌティさんが直刀で示した先を、目を凝らし確認した。周囲の個体より一回り大きく、立派な翼を持っている。そして、明らかに魔力が大きい。統制者だと考えられる。たしかに距離が離れているな。
「それでは右側の翼を狙ってください。避けた瞬間を、魔法で撃ち落とします」
「承知しました!」
風魔法を使って、声を届かせる。本来はレース用に覚えた魔法だ。大声で作戦を話すと、相手にも聞こえてしまうからな。
しかし実戦でも役に立つ。まだ慣れてなくて、とっさに使えないのが欠点か。
「秘刀術、雲刃飛動!」
「氷球、発射!」
サクラさんの斬撃が魔獣の翼を掠めた。少しでも傷を負わせたなら助かる。動き終わりを狙い、氷の球を撃ち出した。だが、これも避けられる。予想よりも機敏な動きだ。
「弾けろ!」
氷球が砕け、周囲を冷気で包み込む。これなら避けられないだろう。しかし直撃とは違い、これだけでは倒せない。
「サクラさん!」
「二斬!」
返す刀で、再びの斬撃。群れのボスを切り裂いた。瞬間、魔獣が哮ける。断末魔だろうか? いや、違う! 今の遠吠えは、突撃命令だ! 統制者を失った魔獣の群れが、一斉に俺を狙う。それも捨て身でだ。
「ボート、召喚!」
「どうするのです!?」
「中型船の結界が耐えられません。囮になって、引き離します!」
風雷号の結界では、数十体もの魔獣による一斉突撃を防げない。俺を狙う理由は不明だけど、敵を引き付けることが可能だ。
「それなら私も一緒に行きましょう!」
「分かりました、気を付けてください! ピヌティさん、マリアさん。こちらは、お願いします!」
二人でボートに乗り込み、背中合わせになる。俺が前方担当、サクラさんが後方担当だ。小型船を発進させて、魔獣から距離を取る。やはり狙いは俺か。風雷号を無視して、魔獣の一群が追ってくる。しかし中型船と離れすぎるのも駄目だ。
「マリアさん、風雷号の停止を。そして船首を俺に向けてください」
「わかったわ!」
風魔法による遠隔会話だ。どうやら、こちらの意図を察してくれたみたいだな。ボートを操作して、魔獣を誘導する。風雷号とボートで、挟み撃ちの形となった。中型船の近くにいる魔獣は、ピヌティさんが対処してくれている。
「後は群れを一掃しましょう。サクラさん、落ちないでください」
「気を付けます!」
魔力消費は大きいけど、創造した飛空船なら遠隔操作が可能だ。また船の武装も例外ではない。
「雷撃砲、用意! 目標、俺!」
「ヤマトさん、上手く避けてくださいね!」
標的は、俺自身だ。一番、魔獣を巻き込めるからな。当然、サクラさんも標的になる。ごめんなさい。
「発射!」
魔獣の後方から、雷撃砲が襲い掛かる。完全に奇襲となったな。
「そして避ける!」
俺はボートの高度を上げ、自ら放った雷を躱す。船の底を、ちょっと掠った!
「狙い通りでしたね、ヤマトさん!」
「少し擦りましたけど、おおむね上手くいったようです」
その後は風雷号と合流し、協力して空犬を討伐していった。残敵は、わずかだ。おかしなアクシデントもなく、殲滅した。魔石と素材を回収するが、結界外の物は諦めるしかない。
「大物の素材は、回収できなかったか」
「生命があるだけでも、喜ぶことだよ!」
ピヌティさんの呟きに、マリアさんが反応していた。魔導商人としてはともかく人間として大切な考えだと思う。命あっての物種、という言葉もあるしな。
「まあ、回収は無理でしょう。遥か下は、危険です。飛空船でも、近付きたくない場所ですから」
俺は下を覗き込みながら呟いた。そこは、次元の境目と呼ばれている。落ちたら最後、光すら出られない。通常の方法では、越えることは不可能だ。
――ふと、下方に魔力の流れを感知した。次元の境目までは、いかない。だけどかなり下の方だ。
「結界!? ピヌティさん、下に何か存在します!」
「なんだと!? あれは、飛空船だ!」
気配遮断の結界を張った飛空船か。何者かは、分からない。だけど少なくとも、魔獣との戦闘を静観していたのは確かだろう。一番、悪い状況を想定しよう。
「最悪は盗賊船で、こちらが疲弊するのを待っていた」
「ありえるな。斥候として恥ずかしいが、まったく気が付かなかった」
この場合、放置するのは危険すぎる。どこで狙われるか分かったものじゃない。
「最善だと輸送中の船で、依頼人を守るために遠くで静観していた」
「その状況なら速やかに、その場を離れると思います」
サクラさんの指摘は、正しいだろう。あえて留まる理由が存在しない。よし接触しよう。考えても分からないなら、行動するべきだ。




