44話 説明、予選通過条件
「すみません、お待たせしました」
「皆、揃ったばかりですよ。さあ、いただきましょう」
謝罪の言葉を述べると、サクラさんが答えてくれた。この場にいるのは、六人。トリアさんとバイオレット様。それにレース参加組の四人だ。
俺が席に着くと夕食が始まる。少し心配したが、かなり美味い。終始、和やかに食事の時間が進む。
「ごちそうさまでした。美味しかったですよ」
「ありがとうございます」
「バーネットの手料理ですから。至高の味と断言できますよ!」
バイオレット様も嬉しそうである。そしてトリアさんは平常運転だな。それでも前より落ち着いている。五人は今から風呂に行くらしい。湯船も拡大しているので五人くらいなら普通に入れる。
「のぞいちゃダメだよ、ヤマト君!」
「ヤマトさんは、そんな不埒な真似はしません!」
マリアさんの言葉に、サクラさんが強く反論した。俺はマリアさんから借りた、中型飛空船対抗五島制覇大競争の規則書に目を通そう。ルールを把握することで、少しでも優勝の可能性を上げたい。賞品の魔導通信販売機は、喉から手が出るほどほしい。自由に購入できる物ではないからな。この機会を逃すと、入手が不可能になるかもしれない。
魔石があったら、大半の物を購入できる魔道具である。どれだけ開拓に有効か、存在価値は計り知れない。この夢幻島には、石を投げれば当たるほど魔獣がいる。上手く討伐できれば、魔石には困らない。……討伐できればだが。
「お風呂、上がったよ!」
マリアさんの声を聞き、顔を上げた。全員、いかにも風呂上がりという様子だ。サクラさんは普段の着物ではなく、浴衣を着ている。他の人も、ラフな格好をしているな。移動中は警戒の必要もあり、常に戦闘可能な服装だった。新鮮だ。それはともかく、一つ気になることがある。
「どうしたのですか。バイオレット様は?」
何か様子がおかしい。それにトリアさんが、怯えているような気もする。風呂で何かあったのだろうか。
「あ、ヤマトさん。えーと。前にトリア様がバイオレット様について、話をされたことがありましたよね」
「たしかサクラさんの通称が変更されて、竜斬りに決定した日のことでしたか」
その後に礼儀作法の講義を受けて、終わった頃にトリアさんと合流したはずだ。
「お風呂の入り方を語ったことが、バイオレット様に知られました」
「……なるほど」
最初に髪を洗うとか言っていたよな。さすがに寛大なバイオレット様とはいえ、プライベートの暴露はアウトだったか。
「トリア、よろしいですか。浴場での作法などは、軽々しく異性に伝えるものではありません」
「は、はい!」
怒っているのではなくて、諭しているみたいだ。少し困った様子でもある。
「私の場合は少し気にする程度ですけど、人によっては非常に気にされる方もいるでしょう。くれぐれも他の方に、ご迷惑を掛けないでくださいね」
「ごめんなさい! 今後は気を付けます!」
これで話は終わりかな。
「そもそも何故トリア殿は、そんなことを言ったのだ?」
ピヌティさんが理由を聞き始めた。まだ話は続くらしい。少し席を外した方が、いいのだろうか。しかし今から立ち去るのも、露骨かもしれない。
「封印解除用の言葉を伝えることに気を取られ、他の内容は勢い任せで言っていました」
「なるほど」
たしかトリアさんに王女の説明を振ったのは、ピヌティさんだった。それで気になったのかな。とにかく、これで本当に話は終わりだ。というか終わってほしい。微妙に気まずい。
「一件落着だね! これから中型船大レースの説明をしてもいいかな!」
「お願いします!」
マリアさんの言葉に、率先して賛同の意を示した。
「まず飛空船競技会について。毎年、スルカイタ帝国で開かれる大会。開催期間は二週間。ただし種目は年によって異なるの」
「俺も聞いたことがあります。今年は中型飛空船対抗五島制覇大競争の番ですね」
相変わらず長い。大半の人は、中型船大レースとしか呼ばないのも理解できる。正式名称を覚えていない人も多いのでは。
「そう。それが今年の目玉よ。中型船の総合力が問われる競技で、参加には予選を勝ち抜く必要があるの」
「予選の内容は、判明しているのか?」
ピヌティさんも、気になったようだ。あらかじめ内容が分かっていれば、対策を考えることができる。
「大会開催中は、中型船大レース以外にも多くの競技があるわ。一日に一回だけ、参加可能よ。そこで一位だと8ポイント、二位なら6ポイント、三位は4ポイントが獲得できるの」
「合計20ポイント獲得で、予選を通過するのでしたよね」
あ、トリアさんが復活したようだ。普段の調子に戻って、会話に参加してきた。近くでバイオレット様が、優しげな視線を送っている。
「そう。つまり三回、一位になると最短で通過よ!」
「大会は二週間の開催でしたね。予選の期間は、どうなっていますか?」
「期間は一週間。つまり予選競技への参加は、最大七回となるわ」
サクラさんが気にしたのは期間か。これによって、戦略が変わってくるからな。最大七回だと、後半に力を温存する人もいると思う。
「予選の種目は、どうなっている? 私の斥候技術を、活かせる競技があるといいのだが」
「競技の種類は多いわ。短距離競走、障害物競走、長距離競走、飛空体操、飛空船格闘、飛空水晶収集、単独船飛空球技。この辺りが有名ね」
想像が付くような、付かないような。単独船飛空球技は非常に気になる。卓球やテニスみたいなイメージだけど、実際はどうなのだろうか。
「マリアさん、競技は選べるのですか?」
「可能よ。ただし同一競技は、二回までの制限があるわ」
つまり得意な競技だけで、予選の通過は不可能なのか。ただし得意分野で二回の一位を取れば、後は三位を一回で本戦に出場できる。
「初参加ですし、各競技を一回ずつ選択してはどうでしょう?」
「俺も同意見です」
バイオレット様の提案に賛成だ。
「だけどヤマト君なら、三回連続で一位もあるわね! その場合だと四日目以降の予選出場は、できないから!」
それは楽観的すぎだな。あ、マリアさんの顔が笑っている。冗談半分の発言か。ちょっと安心した。
「そうですね。ヤマトさんなら可能でしょう」
あれ? サクラさん? こっちは本気で言っているような。まさかね。
「でも実際、勝算はありますか?」
「……飛空船創造スキルを最大限に活用すれば、優勝も不可能ではありません」
トリアさんの質問に、少し考えてから答えた。
「以前とは違い、勝算が見えたようですね。ヤマト、何か進展がありましたか?」
「進展というほどでは、ありませんよ。ただ可能性を感じただけです」
きっかけになったことは、マリアさんの操船。そして移動中の飛行訓練である。飛空船を動かす手段は、主に二種類だ。正規の手順で動かす方法と、魔法を使って動かす方法。二種類のどちらか、あるいは組み合わせて動作させている。
だけど俺の場合は、スキルで動かす方法もある。マリアさんの操船を見ながら、改めて自分の操作を見直した。スキルで動かす場合だと、明確に魔力効率がいい。さらに精密動作の訓練では、比べようもないくらいスキルに軍配が上がった。
「同じ中型飛空船であれば、出力は大きく変わらないと思います。もし魔導出力が互角なら、精密動作性の差で勝てるかもしれません」
もっとも、かなり希望的観測が含まれた推測といえる。中型飛空船でも出力が違う場合もあるだろうし、腕のいい船乗りならスキル並に動かせても不思議はない。
レースに有利なソウルスキルを所持している者が、どこかに存在している恐れもある。
「勝算が少しでもあるのならば、挑戦するのに吝かではありません。全力をもって協力しましょう。何でも言ってくださいね。飛空船格闘なら、きっと私の刀が役に立ちますよ!」
「秘刀術なら、確実に有効ですね」
細かいルールは不明だが、飛空船を用いた接近戦だろう。サクラさんの秘刀術があれば、攻撃面での不安は少ない。
それからも話を続け、中型船大レースの話題で盛り上がった。夜も更けたころ、トリアさんとバイオレット様が隣の船に戻る。
風雷号組も、それぞれ寝室に引き上げた。俺も寝るとしよう。




