43話 模索、魔道具の回収方法
「湖の中に魔道具ですか。どうしましょう?」
「調査が必要と思います」
サクラさんの質問に、俺は迷わず答えた。用途不明の魔道具が存在するかもしれないのだ。放置はできない。
「ならば回収するべきだろう。問題は方法だな」
「釣りでも試してみますか? ヤマトさんは釣竿を持っていましたよね」
「かなり広く深い湖だからな。難しいのではないか」
ピヌティさんの言う通りだろう。わずかな魔力しか感知できなかった。これでは魔道具の場所が、特定できないからな。釣りで回収は困難だと思う。
「飛空船で潜水可能だと思います。ただし結界を強化すればですが」
当然だが飛空船の結界は、潜水を想定していない。
「ねえ、ヤマト君。補助者に聞くのはどうかな? 何か知っているかも」
「それは止めておきましょう。この魔道具が開拓に有用な可能性もあります」
命の危険があるなら別だが、現状で補助者を頼るのは早計だろう。
「開拓に有用だと、補助者に聞くのは駄目なの?」
「夢幻島の開拓は、バイオレット様の成果にする必要があるのです。困り事があるたびに補助者を頼っていたら、功績に瑕疵が生じるでしょう」
開拓は目的ではなく手段である。外部の援助は極力、少ない方がいい。補助者の協力も例外ではない。
「あ、そっか。開拓に成功しても、内容にケチが付くと国に戻れないんだわ」
「そうです。しかし開拓の途中でも、十分な功績と認められれば目的は達成となります」
それでバイオレット様が納得するかは、分からないけど。開拓が終了するまでは島に残ると言うかもしれないな。
「ヤマト殿。話を戻しても構わないか?」
「あ、すみません。魔道具の回収方法でしたか」
少し話が脱線していたな。
「現状では保留としましょう」
「そうか、仕方ないな。魔道具の詳細だけでも、知りたかったが」
ピヌティさんが残念そうな顔をした。
「魔力の反応が遠すぎて、断言はできませんね。ですが可能性の一つとして、水を生み出す魔道具が挙げられます」
「大岩の上で、水を発生させる? そうか、見張りだな!」
ここは見晴らしも良く、結界の外を警戒する場所に適している。水場があれば、長期間の哨戒も可能だろう。
「もしかしたら、ここ以外にも水生成の魔道具があるかもしれません」
「なるほど、探してみる価値はあるな」
とはいえ実際に探すのは、夢幻島の残留組が中心となるだろう。必要に応じて、飛空船も使うけど。
「ヤマトさん。そろそろ戻らないと、日が暮れます」
「もう、そんな時間ですか。帰りは少し急ぎましょう」
サクラさんは遠くの空を見ていた。安全地帯の中とはいえ、完全に日が落ちると危険だ。全員で飛空船に戻り大岩を後にする。操船訓練も兼ねているため、様々な飛行方法を試してみた。しかし、速度は落とさないように注意する。また直線での加速能力も、現状をしっかりと把握しておく。
――拠点に到着したのは、日が暮れてから。次に行くときは早朝に出発しよう。余裕を持って行動したい。風雷号を降りたら、すぐにバイオレット様を探した。
「戻りましたね、ヤマト。調査はどうでしたか?」
「気になる場所を発見しました」
大岩の存在と、湖の魔道具について説明する。
「それは確かに気になりますね。回収なら水魔法を利用する方法もあるでしょう。ボーロング・コナン!」
「は! お呼びでしょうか、バイオレット様!」
ボーロング・コナンさんは近くで農地計画の話をしていた。呼ばれると、即座にバイオレット様の元にくる。この人はバイオレット様に命を助けられた。それゆえ三兄弟の中でも、特に忠誠心が高いようだ。風貌は三男のベアムンさんを、何歳か老けさせた感じである。三兄弟は全員、よく似ているな。
「湖の底に魔道具が存在するかもしれません。水魔法で回収できるはず。ヤマトに説明を、お願いします」
「かしこまりました! ヤマト殿。水魔法のことなら、お任せを!」
「お、お願いします」
俺への態度が丁寧すぎて、いまだに慣れない。バイオレット様を助けるために、罪を承知で証拠隠滅を行ったと信じているみたいだ。島の関係者を騙すのも悪いし目的があったとは伝えた。謙遜と取られたのか、態度は変わらなかったけど。
「まず水を操る魔法ですね。水量と持続時間によって難易度が大きく異なります。湖の底となると、達人級の力が必要となるでしょう」
「今の俺だと、ちょっと無理そうですね」
少量を動かすだけなら大丈夫だが、湖の底までは難しい。
「水中での呼吸を可能とする魔法もあります。こちらは中級魔法に該当しており、ヤマト殿なら遠からず使えるでしょう。しかし他人に使用するならば、難度が上がります。ご注意ください」
「なるほど、ありがとうございます」
水中での呼吸だと、少人数で回収することになるか。万が一を考えると、止めておいた方が無難だ。後は水を操る魔法だな。ただボーロング・コナンさんも、湖の底まで水を操るのは無理らしい。
「そうなると飛空船を使った方が、よさそうですね」
「お役に立てず、申し訳ない」
「いえ、勉強になりました」
ボーロング・コナンさんは、元の場所に戻っていく。
「残念でしたね」
「複数の方法があると分かっただけでも、助かりましたよ。バイオレット様なら、水操作で回収できませんか?」
「……不可能とまでは言いません。ただ魔力の消費や身体の負荷が大きいですね。数日間は、魔法の使用に支障をきたすでしょう」
それは駄目だ。下手をしたら身体を壊しかねない。ボーロング・コナンさんは、水魔法に属する癒しの術を心得ている。ただ専門の医者ではない。無理は禁物だ。開拓するのに専門医がいないのは、本当に怖い。これも課題の一つだろう。
「ところでヤマトは、今から夕食ですか?」
「先に近接戦の訓練をする予定があります」
「それなら、ちょうどいいですね。今日は私が料理を作るので、よかったら一緒にいかがでしょう?」
バイオレット様が料理? 大丈夫かな?
「何を考えているか察しが付きます。私が一人で作るのではなく、トリアに教えてもらいながらですよ」
「失礼しました。遠慮なく、いただきます」
疑問が顔に出ていたみたいだ。ポーカーフェイスは難しい。
「ところで二人のメイドには、教わらないのですか?」
「二人にはボーロング三兄弟及び、元支部長たちの世話を任せています」
あ、そうだったのか。
「では後ほど。訓練、がんばってくださいね」
バイオレット様が風雷号に乗り込み、休憩室に入っていく。だけど一人でいいのだろうか、と思ったらトリアさんが慌てて追っていく。
修練に励むとしよう。俺は船の下で、木刀の素振りを開始した。船内に鍛錬室がほしいな。今度、試してみるか。いけない、集中が乱れた。素振りの際は全神経を傾けないと意味がない。
――最後の素振りを終え、木刀を鞘に納めた。そのあとに、アクスさんから声を掛けられる。
「精が出るな、訓練か」
「俺たちも鍛錬するところだ。混ぜてもらっても構わないか」
「合同訓練と、いきましょう。木刀と金砕棒は似たような武器。私に任せなさい」
グランザードさんとソフィアさんも一緒である。おそらくメイド二人が、夕食を作っているのだろう。完成を待つ間、手持ち無沙汰になったのだと思う。ところで木刀と金砕棒は似ている武器なのだろうか。どちらも打撃武器ではあるけど。
「よろしくお願いします」
そして訓練を開始する。――――――地面との友情が芽生えそう! 模擬戦では何度も転ばされた。どうも足下に隙があるらしい。また模擬戦だけでなく、様々な白兵技術を教えてもらっている。
合同訓練というより、指導のために来てくれたみたいだ。元支部長二人に、協会トップクラスの魔獣狩人である。講師としても優秀だった。
「ありがとうございました!」
「魔法は優秀だが、近接戦は普通だな」
グランザードさんから非常にありがたい、お言葉を賜りました。俺も自覚はあります。身体中が汗だくで、このまま食事は駄目だろう。そのまま風呂に行き、汗を流す。上がった頃には、夕食が完成していた。待たせてしまった様子だな。




