39話 情報、中型船大レース
夢幻島に到着後、手近な陸地に風雷号を停めた。
「ずいぶん早く着きましたね」
「スキルが成長していますから」
サクラさんの言葉に答えつつ、今後の予定を考える。とりあえず船から降りた。そして少し離れた場所に立つ。
「飛空船、召喚!」
現れたのは風雷号と同型の中型船。違うのは雷撃角が付いていないこと。名前はまだない。良い名称が思い付かなかった。この船は発着場に登録しないだろうし、後でも構わないだろう。
「こんな感じで、呼び出すのですね。やはりボートも召喚した船でしたか」
バイオレット様が、感心したように呟いている。魔力の流れを見て、判断したのだと思う。あ、そうだ。彼女に用がある。移動中は、なかなか時間が取れなかったからな。
「少しだけ、お時間よろしいでしょうか?」
「もちろんですよ。支配者殿」
冗談でも支配者と呼ぶは止めてほしい。……冗談だよな。
「私、一人の方がいいですか?」
「いえ、トリアさんも一緒に」
二人には隠し事を少なくしたい。一緒に聞いてもらうことにする。サクラさん達にも声を掛けておくか。島に着いたら、それぞれ活動開始。最初は周囲の探索だ。危険な魔獣の有無、食料の確保、農地になりそうな場所の確認、住居となる場所の選定など。やることは沢山ある。
元支部長二人は魔獣の確認である。メイド二人も一緒に行き、食用となる野草があったら採取すると言っていた。騎士団と衛兵団の出身で戦闘もできるメイドだ。足手纏いにはならないと豪語していた。
ボーロング三兄弟は農地や建設地の選定を行う。故郷で似たような作業の経験があるらしく、とても頼りになる。志願してくれて助かった。
安全地帯の中ではあるけど、念のためにアクスさんも一緒だ。
そして俺は残った人たちを船の甲板に呼び集める。最初に話を切り出したのは、バイオレット様だった。
「お話とは何でしょうか」
「異世界に渡る方法を知りたいのですよ。異界の無花果で、該当する知識や技術が見つかりませんか」
そして自分が異世界から来たことなど、今までの経過を隠さずに話した。どこか納得できる部分があったのか、異世界関連の話も受け入れてくれる。サクラさんは既に知っているため、ときどき補足してくれた。
「残念ですが、現時点で役に立つ情報はありません。少しずつ調べていきますよ。ただ異界の無花果を連続で使えるのは、一日で数時間ほどになるでしょう」
「無理しない範囲で構いません。トリアさん。バイオレット様が大変そうだったら止めてください」
「お任せあれ!」
おおむね話すべきことは、片付いたかな。
「それで、ヤマト。優先して調べることは、ありますか?」
「異世界の座標を知りたいです」
転移先の座標が無ければ、特定の異世界に移動することは不可能だ。自分自身が座標の代わりとなる可能性はあるが、世界との縁が薄いらしい俺の場合は無理かもしれない。できれば元世界の座標を確定したい。
「貴方の世界から、持ち込んだ物はありませんか?」
持ち物か。靴か衣服くらいだよな。あ、服に入れてあったペンがあったと思う。
「これで大丈夫でしょうか」
「調べてみないと、分かりませんよ」
「よろしくお願いします」
そろそろ異世界の話は、切り上げよう。生活環境を整える方が、喫緊の課題だ。
「必要となるのは、物資ですか。俺の飛空船で運ぶのにも限界があります」
「ヤマトにだけ負担を掛けるのも、健全とは言えませんしね。何より、生活環境を一人に依存するのは怖いですし」
そうだよな。輸送中に事故でもあったら、島の皆が大変なことになる。やはり、自給自足を目指すべきだろう。
「それにヤマト殿は罰金の支払いもあるだろう。夢幻島にだけ、掛かり切りになるのも難しいはずだ」
ああ、そうだ。それもあった。
「あたしから一つ、提案があるわ! 物資と金銭、両方を解決できる名案よ!」
「マリアさん、聞かせてください」
ずいぶんと自信がありそうだ。これは期待できるかもしれない。
「隣の国で開催される飛空船競技会に、中型飛空船対抗五島制覇大競争があるの。優勝賞品は魔導通信販売機。賞金は1000万エルよ!」
中型飛空船対抗五島制覇大競争――たしか通称、中型船大レースだった。それで優勝前提か。国内外から飛空船自慢が集まる大会のはず。不可能とは言わないが、難しいと思う。
「可能かもしれません、ヤマトさん」
「優勝ですよ?」
さすがに難しそうと考えていたら、トリアさんから意見が出た。
「中型船大レースは、数日間を掛けて五つの浮島を巡る競争です。荷物は出走前に自前で用意します。当然、食料や燃料魔石を十分に積んでおくでしょう」
「つまり、重量か」
ピヌティさんの言葉でトリアさんの言いたいことが分かった。異空間倉庫魔法を使えば、重量を最小限にできる。ただ少し有利になるくらいとも思う。
「それだけじゃないわ。自己修復も可能で、飛空船を最大限に活用できるし」
「しかし優勝候補の船なら、当たり前のように自己修復機能があると思いますが」
マリアさんの意見に、サクラさんが異論を唱えた。もしも優勝を狙うのならば、トップクラスの船が競争相手になる。強化機能や自己修復機能などは備えてあると考えるべきだな。異空間倉庫は分からないけど。
「優勝を目指すのならば、私からも助言をしましょう。ヤマト、異空間倉庫から、遊戯用カードの箱を出してください」
「これで、いいですか」
言われた通り、箱を取り出した。休憩中に使っているものだ。
「それを上に投げて、倉庫へ入れてください。ただし勢いを殺さずに、です」
「え?」
一瞬、言われた意味が分からなかった。しかし少し考えたら、理解できる。俺は慎重にカードの箱を上に投げた。そして箱を異空間倉庫に入れる。運動を維持したままでだ。普段より、魔力消費が大きい。そして次に同じ箱を取り出す。
「倉庫、開け!」
箱が出現すると、上へと進む。
「普段は静止した状態で、倉庫を使っていますね。しかし技術次第で、今のような使い方も可能です。これを飛空船に使えば、面白いことになるでしょう」
「つまり船の勢いを維持したまま、方向転換が行えると」
これは色々と応用できそうだな。訓練メニューに加えよう。異空間倉庫魔法だけでなく、スキルの召喚でも可能なはずだ。魔力消費が大きいから、いざという時に使う技術か。
「バーネット。船本体に時空魔法を使うと、その場で失格よ」
「え!?」
「空間転移魔法を使われると、まともなレースではなくなるのよ。時空魔法で船に干渉するのは禁止みたいなの」
トリアさんから、否定の言葉を掛けられた。バイオレット様の表情がこわばっている。トリアさんの王女に対する過剰な崇拝だが、半分は演技だったみたいだな。秘密の友人関係を、知られたくなかったのだろう。もとは二人の女王様ごっこから始まったとか。飛空船内で数日、一緒に過ごす内に落ち着いたようだ。
「まあ、今の技術は有用ですから。助言、ありがとうございました」
「そうですよね!」
レースに使えないだけで、普段の使用は全く問題ないしな。良い話を聞けた。
「ところで中型船大レースの開催は、いつ頃なのですか? マリアは知っていますよね?」
「もちろん! 再来月の下旬だよ、サクちゃん」
「それなら一ヶ月は、依頼と開拓に集中。二ヶ月後の上旬に、隣国まで移動はどうだろう?」
ピヌティさんの提案に、全員が賛成した。いつの間にか、競技に参加する気分になっていたな。俺も飛空船のレースには興味があるし。
「とりあえず中型船大レースには参加ですね。開拓作業の準備を始めましょうか。俺は異空間倉庫の資材を出していきますよ」
「濡れたら困る物は、私の倉庫で預かりますね。今は何も入っておりませんので」
バイオレット様の倉庫が空なのは、私物の持ち込みが禁止されているから。水や食料も決められた量だけが、島へ運び込める。ただし受刑者へ荷物を渡すことは、禁止されていない。この島に来るのを志願するのは、ほぼ例外なく、身寄りのない重犯罪者だ。差し入れに来る人がいなくて、禁止する法を整備しなかったらしい。
「私は少し周辺を見ておこう。自分の目で周囲を確かめておきたい」
「あたしは飛空船を調べるね。早く操縦できるようになりたいし」
ピヌティさんは周囲の探索。マリアさんは飛空船の調査。
「サクラさんは警戒に残ってもらえますか」
「承知しました」
さて、作業を開始しよう。




