36話 証拠発見、書類は灰に
「つまり私は、私が有罪となるように協力すればいいと?」
「その通りです。目標は王女の死罪を回避すること。そのために、トリアさんには有罪となってもらいます」
腑に落ちない顔をしているな。
「私が有罪になっても、バーネット――いえ、バイオレット様の死罪は回避できませんよ?」
当然、そうだろう。洗脳魔法の使用・結界の細工・王権濫用など、他にも多くの罪状があると考えられる。トリアさんが有罪になったとしても、王権の濫用が少し減るくらいだ。
「もちろんです。それは前段階となります。貴女に頼みたいことは二つです。まず王女の用意した証拠が入っている箱、どこにあるか教えてください」
「それなら地図を用意してありますよ」
トリアさんから、一枚の地図を渡された。王都周辺の地図だな。
「印が付いた場所に行ってください。一軒家があって、そこに箱があるはずです。家の鍵は、ここに」
今度は鍵を取り出して、手渡される。何というか普通に家の鍵だ。魔法の鍵ではないのか。あと所持品が没収されていないことに驚いた。
「箱の解除文句は、女神様ですね」
「そこは変わっていません。そのまま使えるはずです。中に証拠一式が入っているでしょう」
その証拠は誰よりも早く、入手する必要がある。一軒家の場所は地図の縮尺からすると、中型飛空船で五時間くらいか。今日中に辿り着こう。
「もう一つ、お願いがあります。これから始まる取り調べで、可能な限り黄腕党に関わっていたと話してください。ただし嘘は駄目ですよ。偽証にならない範囲で、可能な限り頼みます」
取り調べの相手は、尋問の専門家だ。下手な嘘は、すぐに分かる。
「それがバイオレット様の助命に、繋がるのですね」
「絶対とは言えません。むしろ分が悪い賭けとも言えます。だけど可能性は、ゼロではないです。詳細は伝えません。知ってしまうと、尋問官を誤魔化すのが大変になるので」
話を聞いたトリアさんは、深い溜め息を吐く。
「分かりました、信じますよ。ところでヤマトさんが協力する理由は何ですか? 善意だけでは、ないでしょう?」
「バイオレット様に、力を貸してもらいたいのです。つまり異界の無花果を使い、知識を提供していただきたい」
異世界間転移を目指すにあたり、情報が極めて少ない。少しでも異界の無花果で補完できたら助かる。
「それなら私からも頼んでみますよ」
「お願いします。トリアさんを有罪にするために動いたと知ったら、きっと王女に恨まれるでしょう。執り成しを期待させてください」
それから話せる範囲で詳細を伝えた。幾度かの質疑応答を繰り返し、計画を詰めていく。最後に挨拶をして、部屋から出る。
「ヤマトさん、あれで大丈夫でしょうか」
「分かりません。とにかく出来ることを、やるだけです」
次はマリアンヌさんと会う必要がある。彼女は協力してくれるだろうか。迷っていても仕方ない。頼むだけ、頼むしかないよな。
「サクラさん。案内、お願いします」
「マリアの所ですね。承知しました」
二人で王都を歩く。商店街を案内してもらった日のことを思い出すな。しばらく歩き続けると、木造の建物が見えてくる。
「あれは、長屋?」
「分かりますか。この国では珍しいですよね。あそこでマリアは暮らしています。今日は休日にすると聞きました。行ってみましょう」
それは、ちょうどいいな。後は在宅していることを祈ろう。
「マリア、いますか! サクラです!」
奥の方から呻き声が聞こえたような。引き戸が開かれ、中から一人の少女が顔を出す。うわ、疲れているな。しかも完全に寝起きだ。
「あ~。どうしたの、サクちゃん? こんな早朝に」
言うほど、早朝ではないと思う。大半の人は活動している時間だ。もしかして、昨日は遅くまで仕事だったのかも。悪いことをしたかな。
「マリアに頼み事がありまして。中に入れてもらえますか?」
「まあ、いいけど。って、あれ? ヤマト君?」
「お久しぶりです。突然、押しかけて済みません」
少し驚いていたが、部屋の中に案内してくれた。淹れてくれた紅茶を飲みつつ、話を切り出す。
「黄腕党の首謀者が判明しました。訳あって、その人の死罪を阻止したいのです。ただ俺たちは法律に詳しくありません。ご協力いただけませんか?」
「聞きたいことは、色々あるけど。まあ、いいわ。協力しましょう。ヤマト君にはお世話になってるしね。代わりに、また依頼をよろしく」
二つ返事で、引き受けてくれた。話が早くて助かる。
「今から飛空船で、行く場所があります。移動中に法律の基礎知識を語ってほしいのですが。それと減刑計画について、助言を願えますか」
「それぐらいなら、大丈夫。さ、行きましょう」
「マリア、よろしくお願いしますね」
片道だけで五時間ほど掛かることを伝えると、笑いながら途中の食事を奢るよう言われた。それで手伝ってもらえるなら、いくらでも奢る所存です。マリアさんの勧めで携帯食と飲み物を買う。途中で協会により、魔獣狩りで外に出ると伝えた。そして格納庫に戻り、中型飛空船に乗り込む。
「いや~、良い船だね!」
「依頼のときは、言ってください。できるだけ、お手伝いしますから」
「ありがと!」
よし、出発。街道方面に出る門へ向かう。町の外へ出るとき積み荷の確認などで時間が掛かった。正式な依頼がないと、ここまで面倒だとは。少し予定外の時間を使ってしまったが、気持ちを切り替えて証拠の眠る一軒家を目指す。
「ではヤマト君、お勉強の時間です。操船しながら、聞いてね」
「お手柔らかに、お願いします」
移動中の時間が、もったいない。操船時には隣でマリアさんに講義してもらう。高速思考術があるからこそ、可能な方法だ。
飛ばしに飛ばして、約四時間。想定より早く、一軒家に到着した。サクラさんとマリアさんには、風雷号で待機してもらう。預かっている鍵を使い、中に入った。部屋の中央に分かりやすく箱が置いてある。かなり大きいな。体格のいい人間が、楽に入れそうだ。
「解除文句、女神様!」
無事に成功した。箱の中を覗き込む。大量の資料があって、ほとんどに魔導印が記されていた。魔導師が自らの関わりを示す証。充分な証拠能力があるだろう。
量が多いため、流し見で内容を確認。この資料に協力者の存在を示す記載はないようだ。やはり最初から全ての罪を、引き受けるつもりだったのだろう。
「切り裂け、風刃!」
風魔法で箱の中にある資料を、細切れにする。
「燃やせ、火炎!」
火魔法でバラバラになった紙を、燃やし尽くした。
「開け、倉庫!」
異空間倉庫魔法を使い、燃え尽きた灰を収納。あとで川にでも流すか。移動中に湖と繋がる、大きな川の近くを通ったからな。
これは間違いなく、証拠隠滅罪に該当するはず。全てが終わったら自首しよう。気は進まないけど、仕方ないか。さて、二人を待たせ過ぎるのも悪い。すぐに戻らないと。
「お疲れ様です、ヤマトさん。証拠は見つかりましたか?」
「無事に発見しました。それより急いで帰還しましょう。マリアさん、また講義を頼みます。少しでも時間を無駄にしたくありません」
「まかせて」
一度、川の近くで休憩を取る。二人が休憩室に入った瞬間を見計らい、灰を川に流した。浄化魔法もかけたし、きっと自然に還るだろう。
さて王都まで、もう一頑張りだな。――王都に着いたのは、すっかり夜も更けたころだ。集中を維持しながら門を通り、格納庫に中型飛空船を停める。
「着いたわね。む~、眠い。今日は、ここで寝ていい?」
「ええ!?」
マリアさんの言葉に、サクラさんが驚きの声を上げる。けっこう声が響いたな。防音設備が整っていて、よかった。
「疲れを取るなら、帰って寝た方がいいですよ」
「は~い」
「私が送っていきます!」
サクラさんに、マリアさんのことを頼む。俺も今日は休むつもりである。明日も忙しくなるだろう。
――それから一週間後、王女と黄腕党の関係が発表された。




