35話 秘密、共有
魔導通信機の呼び出し音が鳴っている。俺は目を覚まし、魔道具を手に取った。
「はい、ヤマトです」
「受付に竜斬りサクラ様が、いらっしゃいました」
「格納庫に来るよう、伝えていただけますか」
しまった、寝過ごした。時刻を確認すると普段の起床時間よりも遅い。それも、かなり。協会へ行く時間には余裕があるけど、サクラさんへの相談が押している。とにかく顔だけでも洗わないと。
「おはようございます、ヤマトさん」
「入ってください!」
サクラさんが入口まで来ていた。鍵を開けて、中に入ってもらう。こんなとき、魔法で開錠できるのは便利だ。
「すみません。今、起きたところです」
「あら? それなら朝食もまだですよね。よければ作りますよ! ヤマトさんは、お風呂にでも入っていてください」
お言葉に甘えよう。どうも頭が、はっきりしない。昨日の疲れが残っているな。ほぼ休みなしで移動だったから。サクラさんは大丈夫だろうか。ひとっ風呂浴びて調理場に顔を出す。着物にエプロンが不思議なくらい似合っていた。
「お手数を、お掛けします」
「いえ、私も楽しいですから。このエプロン、保管してくださったのですね」
以前にサクラさんが忘れた物だ。ピヌティさんから大量に野菜を貰ったとかで、よかったら一緒にどうかと誘われた。
格納庫の調理場は広いから、二人で料理を作ることにしたのだ。
「よければ、また一緒に作りませんか?」
「ぜひ、お願いします! 次は魚なんて、どうでしょう。捌くのは得意です!」
話をしていると、朝食が完成したようだ。ありがたく、いただこう。昨日の夜に炊いていないから、米ではなくパンだ。
トーストにベーコンエッグ。そして、お吸い物か。どれも美味かったな。紅茶を一口すすると、さらに食欲が湧く。短時間で完食してしまった。
「ごちそうさまでした。ありがとうございます」
「お粗末様でした。美味しそうに食べていただけて、嬉しいですよ。片付けている間に、少し休んでくださいね」
申し訳ない気持ちがありつつ、身支度をさせてもらった。代り映えのない服装に身を包み、赤色の鞘に木刀を差す。少し休んでいたら片付けが終わったみたいだ。大切な話だからな。気合を入れよう。
居間として使っている部屋に行き、サクラさんの正面に座る。
「それで、相談事とは」
「まず俺の事を、聞いていただけますか」
サクラさんには、異世界人であると話すことにしたのだ。真剣な様子が伝わったのか、彼女は居住まいを正した。
「拝聴します」
「俺は異世界から来ました。サクラさんの故郷と、文化が似ている国です」
あ、目を見開いた。普段は少し細め気味だから、新鮮だな。とても綺麗な瞳だ。
「正直、驚きました。でも納得できる部分も、あるような」
「それで俺の目的は飛空船創造スキルの鍛錬。そして世界間転移を行える飛空船を創ることです」
「元の世界に帰るのですか!?」
驚いた。戦闘中以外で、ここまで大きな声を聞くのは珍しい。とりあえず誤解を解こう。
「帰りませんよ。一度だけ戻りますけど、その後は拠点をこちらに移そうと考えています」
「そ、そうですか。すみません、大声を出して」
サクラさんは、少し恥ずかしそうにしている。とにかく話を続けさせてもらう。
「それで目的のために、バイオレット王女に協力を頼みたいのですよ」
「え、でもそれは……」
言いたいことは分かる。このままだと王女の協力は得られない。洗脳魔法とは、使用だけで重罪だ。さらに被害者も多数でている。
本人が全ての罪を背負う気ならば、死罪は免れない。
「目標は王女の死一等を減ずること。たとえバイオレット様の意に反したとしても俺は最善を尽くすつもりです。ご協力を願えますか?」
「あなたが何をするのか、分かりません。でもヤマトさんを信じます。私にできることは、何でもやりましょう」
俺はサクラさんに、頭を下げた。現時点で考えている計画は、あまり褒められた行為ではない。巻き込んでしまったことは、悪いと思う。
「しかし二人だけでは難しいかもしれません。ある程度、法律や規則に詳しい人が必要ではないでしょうか」
「そうですね。サクラさんの知り合いで、誰か心当たりはありますか?」
知り合いには、該当者がいない。この町に来てから、まだ一ヶ月ほどだからな。決して俺の交友関係が狭いわけではない、はず。
「マリアは、どうでしょう。この手の話なら、協力してくれると思います」
「魔導商人のマリアンヌさん? 法律に明るいのですか?」
失礼とは思うけど、少し意外だ。どちらかというと、勢いで行動しているように見えたからな。
「実家の方針で幼い頃から様々な知識を教え込まれたようです。魔導商人としては駆け出しですが、法知識に関しては頼りになるかと」
「それなら、お願いしましょうか。連絡は取れますか?」
「大丈夫ですよ。しばらく、この町にいるそうですから。宿の伝言で、居住場所も教えてもらいました」
それは助かるな。まずは会って、話をしてみよう。さて、まだまだ考えることは沢山ある。少しずつ対応していこう。
それから彼女と細かい打ち合わせをした。考えていることを伝えたら、少し顔をしかめる。それでも話を続けると、了承してくれた。
「もう時間ですね。ヤマトさん、協会に行きましょう」
気が付いたら、協会へ向かう時間だ。なんとか話の方向性はまとまった。上手くいくかは、分からないが。さあ、出掛けよう。
「着きましたよ、サクラさん。心の準備はいいですか」
「ここまで来たら、後には退けません」
意を決して、魔獣狩り協会にはいる。当然、受付を見てもトリアさんはいない。手近な係員に支部長と約束がある旨を伝えた。あっさりと通される。一声掛けて、支部長室の中に入った。
「よく来てくれた。昨日の話で、大体のところは分かった。細かい話を詰めておきたい」
「承知しました。終わったら、トリアさんと面会をしたいのですが」
ここで断られると、少し面倒だな。だが面会は、すぐに許可される。それからも話は続いたが、どれも同じような話題。似たような話を繰り返すとことで、矛盾がないかを探っているのだろうか。
「協力、感謝する。今日は終わりだ。トリアへの面会は、話を通しておく」
「ありがとうございます」
やっと終わったな。支部長室を出て、トリアさんの軟禁部屋へと向かう。今日の本番は、ここからだ。サクラさんと視線を交わし、頷きあう。
「トリアさん、ヤマトです。入っても構いませんか?」
「どうぞ、ヤマトさん。鍵は開いていますよ」
え? 鍵、開いているのか? 見張りはいるけど、少し不用心では。いや、それだけトリアさんが信用されているのか。決して、逃げるような真似はしないと。
「お変わりありませんか?」
「お陰様で、すこぶる快調です。三食昼寝付きに、おやつの時間までありますよ。好待遇でしょう」
言葉とは裏腹に、疲れているように見える。おそらく尋問とまではいかないが、聞き取り調査などは行われたのだろう。
「トリアさんは、どの程度バイオレット様の計画に関わっていたのですか?」
「直接、関わってはいません。ただ、おかしな行動には気付いていました。私への指示も、疑問に思ったことは何度もあります」
まあ、そうだよな。
「あの、トリア様。それでも王女様に協力していたのですか?」
「バーネットは私の友人です。親友と言ってもいい。あの娘の望みならば、叶えてあげたかった」
この言葉は、決して嘘ではない。根拠は無いけど、そう思った。あるいは、そう思いたかった。はあ、駄目だな。気分が沈んでしまった。これから交渉の時間だ。気をしっかりと持とう。
「トリアさん。今日は貴女に協力してもらいたくて、お願いに上がりました」
「私にできることなら、何でも仰ってください」
そうだ。頼めば力を貸してくれるだろう。だけど普通の協力では駄目なんだ。
「俺は貴女が有罪になるよう、全力を尽くします。黄腕党の協力者であると、認めさせるのです。トリアさんも協力してください」
「え?」




