34話 報告、王女失踪の真実
風雷号を飛ばすこと、十数時間ほど。まだ男は目覚めていない。だが王女様は、無事を確信しているようだ。
「身体の全機能が、極端に低下している状態。一種の冬眠状態と言えるでしょう。魔力と生命力が少しずつ回復中なので、やがて目を覚ましますよ」
「それなら、このまま横にしておきましょう」
しばらく移動を続けた。夕方になり、やっと王都が見えてくる。本気で疲れた。魔獣に遭遇しないのが救いだ。ただ全力で結界を張ったせいで、バイオレット様の疲労も酷い。
飛空船の操作に集中していると、サクラさんが俺の様子を見にきた。
「ヤマトさん、お疲れ様です。もう少しで到着しますよ」
「とりあえず着いたら、衛兵団の詰所に行きましょう。王女様について、報告しなければ」
中型飛空船を操作し、詰所の前に停める。ピヌティさんに先触れとして、連絡をしてもらった。団長には全てを話すよう頼んだ。いきなり王女様を連れていくのは相手も困るだろう。あ、ピヌティさんが戻って来た。衛兵団長も一緒だ。
「久方振りだね、ヤマト君。王女様の救出、見事な働きだ。後は我々が王宮まで、お連れしよう」
表向きは救出ということに、なっているのだな。近くには通行人の姿も見えた。こんな往来で真実を話すのは、混乱を招く恐れがあるからだろう。
「よろしくお願いします、団長」
「王女殿下。どうぞ、こちらに」
休憩室にいたバイオレット様が顔を出す。そのまま団長と一緒に、立ち去った。周囲を衛兵が囲んでいる。
王女を守るためか、逃がさないためか。同時に男の引き渡しも行った。
「さて、もう一働きですか。アクスさん、組合への報告をがんばりましょう」
「グランザードも、わりと心配性だからな。気が気でないはず。ヤマト、さっさと報告を済ませるぞ」
支部長は心配性なのか。報告を聞けば、もっと心配事が増えそう。大丈夫かな。とにかく急ごう。俺は風雷号を操り、飛空船発着場の入り口に行く。あ、出発するときに担当した人だ。偶然だな。身分証の確認を終えたら、格納庫に船を停める。ここからは徒歩だ。
「ようやく、着きましたね」
疲れた風にサクラさんが呟いた。ずっと行動を続けていたからな。少しばかりの休憩では、疲労が取れないだろう。
「ところで魔獣退治組合への報告は、大丈夫でしょうか」
「依頼は魔獣狩り協会で受けたからな。ただし後日、呼ばれると思う。そのときは協力を頼みたい」
ピヌティさんの言葉に了承の返事をする。とりあえず協会の中に入るか。受付にトリアさんがいた。……トリアさんがいる。どうしよう?
まず彼女は、どのくらい事情を把握しているのか分からない。バイオレット様は黄腕党の協力者ではないと仰っていた。だけど鵜呑みには、できない。
王女はトリアさんの名前が出たとき、少し表情が変わっていた。庇っているとも考えられる。俺は恐る恐る、受付に近付いた。
「お疲れ様です、トリアさん。グランザード支部長に報告があるのですが。急ぎの案件と、お伝えください」
「ヤマト様! すぐに案内します!」
声は小さいのに、迫力がある。何か知っているみたいだ。もう何度目かになる、支部長室へ向かう通路。今までで一番、気が重い。
「支部長。ヤマト様を、お連れしました」
「やっと来たか! 入ってくれ!」
全員が支部長室に入る。
「さっき衛兵団からの知らせを聞いて驚いた。この話は事実なのか?」
「事実だ」
衛兵団に話をしたのは、ピヌティさんだ。彼女は端的に肯定した。退出しようとするトリアさんを、支部長が引き留める。
「トリア、貴様にも関係がある話になる。カイス王国第三王女バイオレット様が、黄腕党の首謀者として出頭。そして協力者の存在を述べられている。貴様の名前も挙がっていた。ただし黄腕党とは無関係の、王女の協力者としてな」
「そう、ですか」
うつむき加減に、トリアさんが呟いた。王女様に協力者がいることは、調べれば分かることだろう。先んじてバイオレット様から存在を明かすことで、黄腕党とは無関係であると強調したかったのだと思う。
「貴様の処遇だが、どうするか。協会で身柄を抑えるか、または衛兵団や騎士団に任せるかだな。希望は?」
「全て、お任せします」
おそらく王女の計画だと、トリアさんは嫌疑不十分となるはずだ。さらに王女と黄腕党を結び付ける証拠を大量に用意しておく。そうすれば協力者へ対する疑惑は小さくなるだろう。
このままだとトリアさんは、牢獄での取り調べに応じそうだな。できれば負担は軽くしてあげたい。俺も無関係とは言えない気がするし。
「ここは協会で身柄を預かるのは、どうでしょうか? この場所の方が、話を聞きやすいですよ」
「む、それもそうか」
支部長は大丈夫だな。問題はトリアさんである。協会に迷惑を掛けるのを恐れ、衛兵団に出頭することもありえる。混乱しているうちに、畳み掛けるか。
「トリアさんも、いいですよね。今なら三食昼寝付き! おやつは三百エルまで。バナナは、おやつに入りません!」
「三百エルの、おやつですか。そんなに食べられませんよ。……支部長。お世話になっても、よろしいでしょうか?」
食料品関係は安いのだったな、一部の贅沢品を除いて。日常で食べる菓子なら、三百エルだと結構な量が買えるか。
「無論だ。協会員を守るのも、支部長の務めだからな」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。ヤマトさん。お口添え、ありがとうございました」
トリアさんが、丁寧に頭を下げた。お辞儀の見本みたいに綺麗だ。うん? 頭を上げたら、こちらに不思議そうな視線を向けてくる。
「さっきの言葉、子供のころにバーネットも同じことを言っていましたよ。寓話か何かでしょうか? バナナというのは、禁断の果実ですよね。食べたら楽園を追われたとか。それが、おやつに含まれない?」
微妙に話が混ざっているような。もしかしてバイオレット様が、異界の無花果で知識を引き出した結果かも。ソウルスキルも、万能とは言えないか。しかし異界の無花果は有効だ。王女に協力してもらえると、助かるのだけどな。そのためには、生きていてもらう必要がある。やれるだけ、やってみるか。
「話が纏まったら、行動に移すべきでは?」
「よし、すぐに部屋を用意する。トリア、必要な物があったら言え。準備させる」
ピヌティさんの言葉をきっかけに、支部長が動き出す。あっという間に、状況が進んでいく。すぐに準備が整った。
「とても良い、お部屋ですね」
「実質、軟禁部屋だがな。少しの間、我慢してくれ」
これから報告の時間である。トリアさんにも聞いてもらうことになる。出発時の状況から、簡潔に語っていく。報告が終わった頃には夜も遅い時間になっていた。
「ご苦労だったな。今日は終わりだ。また明日、頼む」
「……分かりました」
まあ、一日だけでは終わらないよな。
「グランザード、俺は他の依頼に回ろう。ヤマトと俺とは、一緒に行動する時間が長かった。報告の内容は大差ない」
「分かった。個別に質問することができたら、また来てくれ」
アクスさんは依頼か。この協会でも上位の魔獣狩人だからな。その分の報告は、俺が頑張ろう。
「私は組合に詰める予定だ。後の報告はサクラに頼む」
「承知した。……あー、向こうの支部長によろしく伝えてくれ」
グランザード支部長が、やや戸惑った様子で頷いた。ピヌティさんは組合に行くらしい。
「それなら私はヤマトさんと、ご一緒ですね」
「サクラさん。少し相談事があります。協会へ行く前に、格納庫まで来ていただけませんか?」
「相談事? ええ、構いませんよ」
良かった。相談に乗ってくれるなら助かる。
「話は決まったな。今日は、ゆっくり休んでくれ」
「支部長も、お疲れ様でした」
この日は解散。それぞれの住居へと向かう。俺は飛空船発着場の格納庫に戻り、食事と風呂を終えたら床につく。泥のように眠りそうだな。




