33話 回収、ヒュマン・Eの欠片
「秘刀術、雲刃飛動!」
以前、見たことがある。遠距離用の秘刀術だな。サクラさんの斬撃が、敵に襲い掛かる。しかし爪で薙ぎ払われた。
「斧崩壊!」
アクスさんが、その場で斧を地面に叩き付けた。魔力が床を伝って、敵に届く。だが、これも無効化される。足に魔力を込めての踏みつけ。その動作で、斧崩壊が破られた。それでも先の斬撃と合わせて、敵に魔力を使わせているな。解呪魔法が通用するまで、力を使わせれば俺たちの勝利だ。
「ピヌティさん! 敵――偽ヒュマン・Eの左側面に回れますか?」
「ああ、敵の名前を聞いてなかったか。左側に回れば、いいんだな。任せてくれ」
とりあえず即興で名前を付けてみた。アクスさんに聞いたら教えてくれるだろうけど。つい、勢いで。
「俺は偽ヒュマン・Eの右側面に回ろう」
「頼みました」
あれ、アクスさんは名前を知っているのでは? 合わせてくれたのか。
「それなら私は正面ですね。護衛は、お任せください」
「お願いします」
俺は解呪魔法に集中したい。戦力外と考えた方がいいだろう。緊急時は別だが。ピヌティさんとアクスさんは、すでに移動を開始している。
男の背中に何本ものトゲが生えた。それで変化は終わりかな? こちらを明確に敵だと認識したようだ。体の変化より、敵を排除する方に意識が移ったのだろう。
偽ヒュマン・Eが身体の向きを変える。最初に狙うのは、アクスさんのようだ。さっき攻撃されたのを、覚えていたのだろうか。敵が一歩、踏み出すのが見えた。速い! 驚くほどの速度で、接近。爪を振り下ろす。
「ちっ!」
アクスさんは斧を使い防ぐ。だけど威力を殺し切れていない。後方に下がった。偽ヒュマン・Eが追撃を掛けようとしている。
「こちらの相手も、してもらおうか」
背後からピヌティさんが迫った。敵は尻尾を動かし、彼女の胴体を狙う。しかし単調な一撃だ。ピヌティさんは紙一重で回避した。そして男の背中に、直刀を突き刺す。背中のトゲに魔力が集まるのを感じた。
「ピヌティさん、トゲ、避けてください!」
「わかった!」
俺の言葉を聞いて、ピヌティさんが敵と距離を取る。同時にトゲが飛ばされた。距離を取ることで、避けやすくなる。なんとか回避に成功したようだ。
一連の行動で、理解したことがある。偽ヒュマン・Eの力は強く、動きも速い。この場にいる誰よりも、身体能力が上か。だが俺から見ても、動作が素人すぎる。攻撃を避けながら、魔力を使わせるなら何とかなりそうだ。
「サクラさん、敵を惑わす技がありましたよね。お願いします」
「承知しました。秘刀術、疑刃暗気!」
少し前に訓練で見せてもらった技だ。魔力で幻の刃を作り出して、敵を撹乱する秘刀術。相手の動きが素人ならば、通用する可能性がある。
予想が当たったな。自分の周囲へ発生した幻刃に、無茶苦茶な攻撃を繰り返す。魔力配分を考えていない攻撃だ。見る間に魔力が減っていく。俺は解呪魔法が使いやすいように、少しずつ距離を詰めた。
「ヤマト殿!」
「ボート、防いでくれ!」
偽ヒュマン・Eが突然、俺に向かって走り出した。ピヌティさんの声を聞いて、とっさに手漕ぎボートを盾にする。敵と船が接触した。鋭い爪の一撃が、飛空船に突き刺さる。
――瞬間、激痛が走った。
「ぐ!」
何が起こっている!? 痛みは一瞬だったが、気を失いかけたほどだ。ボートの魔力を大幅に失った。一撃に込められた魔力が想定よりも大きかったのか。
修復するまで、使用不可能だな。だが相手の魔力も、大幅に減ったようだ。
周囲の状況を、確認する。偽ヒュマン・Eはアクスさんの斧を真横から受けて、吹き飛ばされていた。床を転がり、地に伏せている。
「今から解呪魔法を使います! 三人で攻撃を仕掛け、隙を作ってください!」
分からないことは、あとで考えよう。優先すべきは、欠片の回収だ。解呪魔法は接触時が、もっとも効果を発揮する。
ただ俺の身体能力だと、あの速さを捉えられるか怪しい。皆の力を借りる。
「出番だ、共鳴の斧!」
アクスさんの斧から、不思議な音が発生する。嫌な音ではなかった。心地よく、聞いていると力が溢れてくる気がした。ああ! 戦闘前に言ってた斧が鳴るって、こういう意味か!
「斧両断!」
吹き飛ばされた偽ヒュマン・Eは、まだ倒れたまま。まともに斧の刃を喰らう。傷を負うが、瞬く間に回復する。ふらつきながらも、立ち上がった。
「秘刀術、一刃火征!」
「貫け、ピヌティ!」
二人の一撃が、ほぼ同時に決まる。サクラさんの斬撃が、右肩から右足に掛けて切り裂いた。またピヌティさんの刺突が喉元を貫く。偽ヒュマン・Eは倒れない。たった今、受けた傷も回復を始めている。それでも充分に魔力を消費した。ここで解呪魔法を使う! 緊張のためか顔に流れていた汗をぬぐい、魔力を高めた。
「欠片にすぎないお前は欠片に返れ!」
手応えあり! 肉体と欠片が分離する。橙色で三日月の形をしていた。導かれるように、欠片を手に取る。
「いけません、ヤマト!」
――仮の主。一つの主。我らを集めよ。さすれば汝は真の主となるだろう――
「バイオレット様、どうぞ欠片を」
「え? 大丈夫ですか?」
今、聞いた声を説明した。欠片は俺を仮の主として認めたようである。夢幻島の支配者になるには、七つの欠片を集める必要があるらしい。最深部に行くだけでは駄目なのか。もしかしたら最深部へ行くために、必要となるのかもしれない。
「ならばドラグ・Aの欠片も、渡しましょう。二つとも貴方が所持してください」
正直、あまり欲しくない。俺の目的は、当初から変更なしだ。世界間転移可能な飛空船を、創り出すこと。受け取ると、なし崩しに真の支配者になっていそうだ。でも断れないよな。
「分かりました。受け取ります」
王女様が異空間倉庫から、欠片の入った小瓶を取り出した。
「この小瓶は、欠片の影響を防ぐ魔道具です。作成するのに、とんでもない費用と時間が掛かりました。中身を確認してください」
費用と時間に触れた意味はあったのか? ともかく、小瓶から欠片を取り出す。形は同じ三日月、だが紫色をしていた。そして、また声が聞こえる。
――仮の主。二つの主。我らを集めよ。さすれば汝は真の主となるだろう――
「ヤマトさん、男の身体が崩れていきます!」
サクラさんの声で意識を切り替えた。まだ全てが終わったわけではない。二つの欠片を、小瓶の中に入れる。
「欠片を取り出したら、男はどうなるのですか?」
「おそらく力を失い、人の身体へ戻るでしょう。ただ肉体への負担は大きいはず。身体が崩れているのは、急激な変化に耐え切れないのだと思います」
それは、そうだろう。無理矢理、身体を改造していたのだ。取り返しのつかない恐れもある。さすがに、このまま見過ごすのは目覚めが悪いよな。
「回復魔法の効果は、発揮すると思いますか?」
「試してみましょう」
バイオレット様が、回復魔法を使っている。わずかに身体が修復されるが、また崩れ始めた。
「駄目です。どうやら欠片の影響が、身体に残っているのではないかと」
「仕方ありません。なら方法は一つだけですね」
俺は小瓶から、橙色の欠片を取り出す。ヒュマン・Eの欠片だ。左手に持って、力を引き出すように集中する。
「力よ戻れ、欠片の元に!」
男の身体に残った欠片の力が、体外に出ていく。俺の持つヒュマン・Eの欠片へ集い、吸収されていった。
「おお! 男の身体が元に戻っていく。ヤマト、やったな!」
「これでヒュマン・Eの欠片、回収完了ですね」
予想以上に疲れた。またボートが壊れてしまったし。これで三回目か。なんだか悪い気がしてくる。
今回の戦闘では、気になる点が二つあった。男が突然、俺に向かってきたこと。ボートが攻撃を受けたとき、俺が痛みを感じたこと。――だけど今は考えるより、行動だな。急いで帰還しなければ。
「協力ありがとうございます、ヤマト。さあ、戻りましょう」
全員で風雷号に乗り、出発の準備をする。男は休憩室で寝かせた。しばらく目を覚ましそうもない。あれだけ肉体が変化したのだからな。体への負荷は相当なものだろう。
帰りの移動は、魔獣と遭遇する心配が無さそうだ。王女様に魔獣除けの結界を、全力で張ってもらう予定となっている。準備ができたら、出発だ。




