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31話 正体、紫煙の魔導師

「なぜ私が紫煙の魔導師だと、気付きました? ここで顔を合わせたとき、驚いていませんでしたよね」

「最初に疑いを持ったのは、握手を交わしたとき。つまり精神魔法を使われたときです」

「それだけでは、私と紫煙の魔導師が結び付きませんよね?」


 その通りだ。これは最初のキッカケに過ぎない。


「次に疑ったのは、捜索用の魔道具を渡されたとき。いくらなんでも不自然でしたから」

「無理のある行動だったとは認めます」


 俺は不自然な行動に、理由があるのではと考えた。王女の聡明さは、国の内外に伝わるほど有名だ。


「そして同じように、不自然な行動を取った人間がいました。トリアさんと紫煙の魔導師です」

「続けてください」


 バイオレット様が、わずかに表情を変えた。ほんの少しの変化だけど、見間違いではないと思う。


「魔導師は俺に、暗号文のような伝言を残した。暗号にしたのも理由があります。自然な形で王女が興味を持ち、一介の魔獣狩人を呼び出すため」

「もっとも火竜討伐と煉獄島――夢幻島の発見を知っていれば、伝言を残す必要もありませんでしたが」


 結果として、呼び出す理由が二つになったのだな。全て計算通りとは、いかないものか。


「さてトリアさんにも、不審な点がありました。一つ目は初対面で飛空船の収納を知っていたことです。そして二つ目。王女について話したとき、二回『女神様』と言ったこと」


 独断で防御結界の魔道具を渡したのは、よく分からないから保留とする。王女の計画を遂行するために、俺が死ぬと困るからとも考えられる。だけど純粋に善意で貸してくれた可能性も高い。


「三つ目は王女のソウルスキル、異界の無花果を詳しく知り過ぎている。四つ目は協会に報告していない情報を、俺に教えたこと」

「トリアが紫煙の魔導師であるとは、思わなかったのですか?」

「異空間倉庫、開け」


 俺は質問に答えず、倉庫から一本の万年筆を取り出した。疲労軽減の効果もある魔道具の一種だ。かなり高い。王女様は僅かに視線を動かしたあと、不審な表情を見せる。


「その筆記具が、どうしました?」

「ただの万年筆ですよ。いえ、とても高価な万年筆でしたが」


 異世界に来てから、空いた時間を見計らって勉強を続けている。書を読むだけでなく、重要な部分を書き写すこともある。ときには長時間、筆を動かすこともだ。良い筆記具が欲しくて、購入したのがこれである。報告書の作成でも、大活躍している。今では愛用の一本と言えるだろう。


「貴女は今、魔力の動きを追いました。当然です。現時点で敵対している相手が、目の前にいます。どんな些細な魔力でも、気にしてしまうでしょう」

「トリアの前で異空間倉庫を使っても、一切の反応が無かったわけですね。彼女は魔法に対する感知能力を持ちませんから」


 魔力は全ての人間に宿るもの。しかし誰でも自由に使えるわけではない。魔力を感知することは、魔導師の必須条件と言えるだろう。つまりトリアさんが、紫煙の魔導師とは考えられない。


「優秀な魔導師ほど、魔力に敏感です。魔力を気にするなとは、心臓を動かすなと言っているようなもの。自分の意志では、どうにもならない部分です」

「私以外で紫煙の魔導師候補は、いませんでしたか?」

「いるかもしれませんが、俺は知りません。知らない相手を想像するよりも、まず貴女が紫煙の魔導師であると仮定しました」


 何より初対面で精神魔法を使われたからな。警戒するに越したことはない。


「すると多くのことに、筋が通るのです。貴女は黄腕党の首謀者で、自分を捕らえさせる人間として俺を選んだ。誤算だったのは、精神魔法が効果を発揮しなかったこと」

「その通りですよ。少しでも意識を誘導できれば問題なかったのですけど、完全に無効化されるとは思いませんでした。おかげで開発中の道具を、使うことになりました」


 まあ普通は、精神魔法に耐性があるなんて考えないか。もうちょっと物理魔法の耐性もあったら、というのは贅沢な話だな。


「ところでヤマト殿、不自然な点は解消されたのか?」


 ピヌティさんは、驚きから立ち直ったようだ。サクラさんとアクスさんは、まだ混乱しているように見える。しばらく、そっとしておこう。ここまで衝撃を受けるのは、予想外だったな。話を続けている内に、調子が戻ることを期待していよう。これから戦闘になる恐れが高い。


「一つずつ説明しましょう。まずトリアさんが、飛空船の収納を知っていた理由。洗脳に使う黄色の布。あれには盗聴機能がありました。ただ常時発動型ではなく、洗脳が解除されたとき周囲の状況を確認するものです」

「正解です。布切れ一つで洗脳と盗聴を同時に行うのは、困難でしたので」


 よし、次だ。


「それから合言葉の女神様の件。本来なら別の場所で使う予定だったと思います。新たに結界を用意する余裕が無くて、すでに作られていた術式を流用した。実際に使うときは、もう少し情報を流すつもりだったのでしょう」

「ご指摘の通りですよ。黄腕党の証拠一式をまとめた箱があります。それを開けるための解除文句。何度も挑戦できるようにして、少しずつ正解に近付く想定をしていました」


 サクラさんとアクスさんは、少し落ち着いたようだな。怖いくらい真剣に、話を聞いている。


「三つ目。ソウルスキル、異界の無花果について。本人から話を聞いたのならば、あれだけ詳しかったのも納得です。内容が正しいかは、分かりませんが」

「正直に伝えるよう、言ってあります。情報の齟齬があっては、互いに困るので」


 嘘の情報を流したら、どんな内容だったかを互いに教え合う必要がある。そこで齟齬が発生することを恐れたのだろう。どちらも忙しい身だろうし。


「次が最後ですね。協会に報告していない情報を、俺に教えたこと。単純に王女の計画に必要だったのでしょう」

「協会や組合は、敵に回すと厄介なので。情報の取り扱いには、苦労しています。一つの情報を渡すたびに、状況の再確認が必要です」


 やはり王女のソウルスキルだけでなく、他の情報も制御していたのか。


「ところでトリアさんは王女の関係者ですか、黄腕党の関係者でしょうか?」


 バイオレット様の表情が、わずかに固まった気がする。だが一瞬だけだ。すぐに平然とした様子を見せる。


「彼女は王女の関係者ですよ。子供のころから付き合いがあり、黄腕党に巻き込むことは気が引けました」

「待ってください! トリアは一般家庭の生まれだったはず。バイオレット様と、接点があったのでしょうか?」


 質問ができるくらい、アクスさんの混乱は収まったようだ。サクラさんも、落ち着いてきたな。だけど少し意外だった。カイス王国の出身ではないサクラさんが、そこまで気にするとは。


「異界の無花果で入手した幻覚魔導技術を使い、お忍びで町へ行ったときに出会いました。最初はバーネットと名乗り、正体を隠しながら交友を深めていたのです。王女と正体を明かすときは、緊張しましたね」

「あの、バイオレット様。一つだけ、よろしいでしょうか」


 言葉を発するサクラさんの表情が固い。口も強張っているように見える。


「どうぞ」

「黄腕党の目的は何ですか。わけもなく争いや諍いを広げるためでは、ありませんよね?」


 少し声が震えているようだ。


「一年ほど前でしょうか。一部の貴族によって、独裁計画が立てられました。私が気付いたときには、行政と司法の深い部分にまで根が張っていたのです」

「ならば計画を止めるために、黄腕党を組織したのですか?」


 サクラさんの問い掛けに、バイオレット王女は首を横に振った。


「いえ、違います。その計画は正規の手段で、なんとか止めることができました。問題だったのは計画の裏に、大罪の欠片が絡んでいたこと。人の闇を深めて、人の欲望を増大させる恐るべき欠片が」


 王女の言葉を聞き、俺は黄腕党を組織した理由に思い当たった。


「そうか! 完全に洗脳された人間は心に闇を持たない。命令されたことだけを、忠実に守る。その人間を集めれば、大罪の欠片に対抗可能だ」


 洗脳に対し中途半端に抵抗した場合、支配される恐怖心から暴力衝動が高まる。そして問題を起こしたら捕まり、隔離される。充分に洗脳された人間だけ、集団で大きな行動に出たということか。


「しかし、問題がありました。欠片の場所が、はっきりと分からなかったのです。そこで一つ仕掛けを作りました。布を身に付けた人間の心をまとめ、より強く深く恨まれている者を優先して襲う仕掛けです」

「欠片に近い者は、欲望を増大させる。人から恨まれたり、憎まれたりすることが多くなるか」


 そうだ、重要な事を聞いていない。


「欠片は回収したのですか?」

「七つの欠片の内、この国にあるのは二つ。一つはドラグ・Aの欠片。こちらは、すでに回収しました。そして残るは、ヒュマン・Eの欠片。この研究所に存在しているのです」


 やはり、この場所は研究施設だったのか。


「ここでは人間と魔獣の合成を研究していました。ヒュマン・Eの欠片から知識を得て、施設を作ったようです。そのうえドラグ・Aの所持者と連携して、効率的な人体実験の方法を提供していた」


 魔獣同士の合成は、前段階だったわけか。突き詰めれば、人間と魔獣の合成体を作り出すことが目的。気になるのは、欠片の所持者たちが連携していたこと。聞くだけで厄介だな。


「この場所は、ドラグ・Aの所持者から情報を入手したのでしょうか?」

「そうです。本人は既に死亡していますが、屋敷から証拠が大量に出てきました。精査に少し時間を掛けてしまったのですが」


 一人で来たのは、時間の都合だろう。証拠が合っても、まとまった戦力を即座に動かすのは難しい。精査に費やした時間を、少しでも取り戻したかったのかもしれない。


「さて、そろそろ皆様も落ち着かれた様子。ヤマト、今からヒュマン・Eの欠片を回収しに行くつもりです。お力添えいただきたく存じます」

第一章および第二章において、誤字・矛盾点・紛らわしい箇所など文章全体を修正しました。

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