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29話 王女、誘拐?

 「バイオレット様は、誘拐されたのですか?」


 俺は支部長室に集まっている人員へ視線を向けた。この場にいるのは、俺を含め五人だ。部屋の主であるグランザード支部長。魔獣退治組合所属のサクラさんに、ピヌティさん。そして魔獣狩り協会所属のアクスさんと俺。


「正直、分からない。あの方は魔導師として、たしかな実力を持つ。それが一切の痕跡を残さず(さら)われるだろうか」

「だがグランザード。敵は衛兵団の牢獄に侵入できる手練れだろう。王女殿下でも危ないのでは?」


 アクスさんの言葉を聞き、支部長が顎に手を当てた。


「今は王女様を探すことが、先決ではないでしょうか?」

「私もサクラに同意する」


 二人の言葉で、呼ばれた理由に気付いた。俺は王女様の捜索に、有効な魔道具を持っている。


「その通りだな。ヤマト、例の魔道具は持っているか?」

「今、取り出します」


 異空間倉庫を開き、探索用魔道具を出現させた。形は方位磁針にそっくりだな。赤い針が本人の場所を示すらしい。だけど針は常に回転しており、一方向で止まらなかった。これでは場所の手掛かりにならない。


「駄目ですね」


 サクラさんが残念そうに呟いた。だが諦めるのは早い。針が止まらない理由に、心当たりがある。


「まだ分かりませんよ。王都の結界は、バイオレット王女が張ったものです。町の中で使う限り、結界の魔力に反応しても不思議はありません」


 重要拠点の結界を、王族が担当する。これは結構あるらしいな。ソウルスキルの使い手は、高い魔力を持つことが多い。スキルを使うと魔力が成長しやすいのだ。それで自然と王族が結界担当になり、その慣習が今でも続いている。国によっては王位継承にソウルスキルの覚醒が必要だったり、一定以上の魔力が条件だったりもする。


「なら外に出るか。ヤマト、俺も一緒に行くぞ。グランザード、お前は待機だ」

「念を押さなくても、分かっている! 俺が組織の中で動き、お前が現場で動く。はるか昔に決めたことだ」

「分かっているなら、いいさ。それから職務外の理由で、解任されないように気を付けろよ。公私混同の疑念が広がっているぞ」


 この二人は、仲が良いらしい。同じチームの仲間だったと聞く。支部長が組織の運営側に回ったことで、解散したみたいだな。他に何人かメンバーがいたらしいが詳細は知らない。

 とにかく今は行動しないと。時間が経てば、それだけ危険が増す。


「それでは行きましょう。まずは飛空船発着場に移動ですね」

「待て。依頼の手続きをしてから、出発してくれ」


 そうだったな。手続きをしなければ、いろいろな問題が発生する。素早く依頼の内容を確認した。王女捜索とは、書いていない。重要人物の出迎えとなっている。さすがに今の段階で、公にはできないのか。不特定多数の人間に、不安を広げないための措置だろう。


「参りましょう。ヤマトさん、今から全員で風雷号に向かっても大丈夫ですか?」

「問題ありませんよ、サクラさん。動ける準備はできています」


 手続きを終えたら、四人で中型飛空船の場所まで行く。格納庫の扉を開き、中に入ってもらう。


「これがヤマト殿の中型飛空船か。名前は風雷号だったな」

「なかなか立派じゃないか。もう乗っちまっていいか?」


 風雷号を見てピヌティさんとアクスさんが、感嘆の声を上げている。名前だけは伝えておいたが、二人とも見るのは初めてのはず。褒められると嬉しく思う。


「大丈夫ですよ。全員で乗り込みましょう」


 かなり軽快な動きで、船に乗る三人。俺以外は近接戦を得意としているからな。身のこなしが、実力の高さを教えてくれる。

 飛空船を動かし、街道側へと通じる出入り口に向かった。許可が無かったため、今までは一度も使ったことがない門だ。


「む? 初めて見る顔だな。許可証はあるか?」

「どうぞ、ご確認ください」


 真面目そうな門番に、数日前に貰ったばかりの許可証を提示した。また協会から発行された依頼書もだ。参加者の名前と人数も記されている。これがあると門での手続きが早く終わるらしい。


「確かに。発行日は、つい先日か。目的は協会の依頼だな。次は身分証の提示を」


 全員が、それぞれの身分証を見せる。門番は一人一人、しっかり確認していく。真剣な目付きをしていた。


「人数、名前、ともに問題なし。通っていいぞ」

「ありがとうございます」


 本来であれば密航者がいないか、密輸をしていないか等の確認も行うと聞いた。省略されたのは、協会から発行された依頼書のおかげだろう。助かったな。余計な時間を使わずに済んだ。




 王都の外に出て、街道の横で停止する。捜索魔道針を確認するためだ。魔道具の名前は聞いていなかったから、適当に付けてみた。針が動き出して、最初に王都の方を示す。少しだけ停止したあとに、再び針が動き出した。そして一方向を指したまま動かなくなる。


「これは北西の方角ですね。時間が惜しい。まず出発します」


 風雷号を動かして、北西へ向かった。魔力の許す限り、最高速度で進む。身体に負担が掛かるけど、気にしている場合ではない。


「この方向には、何かありましたか?」

「怪しいのは、かなり遠くにある洞窟。飛空船でも十八時間くらいは掛かるはず」


 サクラさんが質問して、ピヌティさんが答える。さすが斥候。地理に詳しいな。俺だと地図を広げなければ、分からなかった。


「それなら最初の目的地は決まりだな。ヤマト、頼んだ!」

「お任せを!」


 俺は操船を担当し、他の三人で周囲の様子を探る。痕跡を探すために、飛空船は低い位置を維持していた。時折、針を確認しながら進んで行く。

 この辺りは、ひたすら平原が続いている。洞窟は山の麓あたりらしい。


「変わった様子は、ありませんね」

「そうですね。しかし油断は禁物でしょう。より一層、気合を入れなければ」


 俺の言葉にサクラさんが反応した。気合は十分みたいだな。俺も本腰を入れて、風雷号を動かそう。捜索魔道針のおかげで、方角は大丈夫だな。問題は時間か。

 今日中に洞窟まで辿り着くのは難しい。早くても日付が変わった頃、深夜になるだろう。


「ヤマト殿。かなりの速度を維持しているが、魔力は大丈夫なのか?」

「移動だけであれば、問題ありません。ただ着いた先での戦闘は難しいかも」

「そこは俺たちに任せてもらおう。ヤマトは操船に専念してくれ」


 最低限の休息以外は、ひたすら船を飛ばす。移動を優先することから、魔獣との交戦は避けるように進んだ。何度か魔獣を見掛けたものの、上手く回避することに成功した。本職の斥候がいると、敵を見つけるのが早くて本当に助かる。


「前方、魔獣の群れ! あれは何だ!? 羽鹿、いや一角鹿か?」


 ピヌティさんの声で、前方を確認する。魔獣の姿は、羽が生えた一角鹿と呼べば分かりやすいか。だが羽鹿と一角鹿は別種の魔獣だ。両方の特徴を持った存在は、聞いたこともない。


「アクスさん! あの魔獣は知っていますか?」

「いや、分からない。少なくとも、俺は見たことのない敵だ」


 ベテランの魔獣狩人でも知らないのか。複数の特徴を持った魔獣。(ぬえ)やキマイラみたいだな。まるで二種類の魔獣を、合成したように見える。ん? 合成、実験。脳裏に浮かんだのは、ヒュマン・Eの存在。いや、まさかな。


「あの魔獣、仮に一角羽鹿と呼びます! 一角羽鹿の群れを回避するので、大きく迂回しましょう!」

「群れが追ってきている! 動きが速い! ヤマト殿、避けられないぞ!」

「仕方ありません、戦闘の準備を!」


 今は戦いに集中する。相手の戦闘能力は未知数。だが迎え撃つしかない。

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