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26話 報告、火竜討伐

 夢幻島を出発してから四日目。王都カイスへと到着した。調査に出発してから、十日ほどの旅路となる。当初は二週間を予定していた。少し早い帰還だな。まずは魔獣狩り協会に報告へ行く。中に入ると、人は少なかった。今は昼が過ぎたころ。大半の魔獣狩人は、外に出てる時間だ。トリアさんの姿を見つけたので、そのまま受付へ進む。


「こんにちは、トリアさん。北の異変について報告があります」

「ヤマト様、切り裂きサクラ様。ご無事で何よりです。報告は別室で承りますので奥まで来ていただけますか」


 サクラさんが釈然としない表情を見せる。切り裂きの部分に異議を唱えたいけど報告を優先して抑えているのかな。トリアさんに連れられ、奥の部屋へ向かった。支部長室の前まで行き、足を止める。


「グランザード支部長、いらっしゃいますね。ヤマト様とサクラ様を、お連れしました」

「ご苦労。入ってくれ」


 久しぶりに見た支部長は、以前と変わらず迫力に満ちている。だけど少し疲れているか? 黄腕党の対処に、北の異変。きっと大変なんだろう。


「お久しぶりです。その節は、お世話になりました」

「気にするな、仕事だ。貴様は正式な依頼が出る前に、独自調査へと向かっていたはずだな。進展はあったか?」

「浮島群から北に行った場所で、王種の火竜を発見しました。異変の一因と思われます」


 二人の顔色が変わった。


「なんだと、そんな場所に火竜の王種がいたのか!? 疑うつもりはないが、何か証拠はあるか? 鱗の一枚でもあれば、各方面に話が通しやすくなる」

「異空間倉庫、使いますよ」


 一言、断りを入れて倉庫を開く。取り出したのは火竜の肉と翼。そして魔石だ。支部長の机に並べて置いた。肉が大きすぎて、ちょっと邪魔だ。


「どうぞ、ご確認を」

「――火竜王の魔石、本物だ。まさか討伐したというのか? しかし不可能とは、言い切れない」

「火竜は最初から瀕死でした。まともに戦えば勝てなかったです。詳細は報告書にまとめてあります」


 あらかじめ用意しておいた書類を渡す。怖いくらい真剣に報告書を読み始めた。サクラさんと相談し、今回の一件は可能な限り隠さず報告する。

 秘匿したのは、ソウルスキル関連だ。封印の鎖を断ち切った方法は、秘伝の技で押し切る。


「火竜に夢幻島、さらには機械魔獣の存在か。これは王宮に報告の必要があるな。それも最優先でだ。トリア、準備は任せる。終わったら俺が直接、城へ行く」

「かしこまりました」


 予想はしていたが、ずいぶんと話が大きくなったな。こっちにも飛び火しそうな雰囲気を感じる。


「ヤマト、報告のときは貴様にも同席してもらう」


 そうだと思った。証人が俺とサクラさんのみだからな。


「拒否は、できなさそうですね。承知しました」

「それと悪いが火竜の素材は、王宮管理になるはず。金銭での報酬は払うものの、素材の利用はできなくなる。他に望みの物があれば考慮しよう」


 つまり褒美が貰えるのか。火竜王の魔石と翼だ。結構な価値になるはずだ。国に搾取されなければ。望みの物、何かあるかな?


「あの、ヤマトさん。魔道具を願い出たらどうでしょう?」

「なるほど。支部長、お借りした防御結界の魔道具を頂けませんか」

「む? ああ、トリアが独断で渡した魔道具か。それなら俺の判断で授与できる。いいだろう」


 そこで支部長はトリアさんに視線を向けた。トリアさんが、目を逸らしている。あれ独断だったんだな。もしかして壊れていたら、まずかったんじゃ。


「あの魔道具が無ければ、命を落としていました。ありがとうございます」

「現場の判断を軽視するのは、愚の骨頂か。結果として命が救われたのであれば、今回の独断は一考の余地があるな。不問とはならないが」


 お咎めなしとは、いかないか。トリアさんには感謝しないとな。彼女を見ると、視線が合った。軽く頭を下げる。


「それでは準備がありますので、私はこれで。失礼します」

「ああ、頼んだ」


 トリアさんが逃げるように去っていく。二人の様子だと、そんなに酷いことにはならないだろう……と、思いたい。


「ところで、以前から気になっていたのですけど。サクラさんの通称は何とかなりませんか。本人は好んでないようなので。切り裂きの代わりに、竜斬りなんてどうです?」

「ほう? あの二つ名は嫌っていたのか? てっきり謙遜で否定していると思っていた」

「そんなわけ、ないでしょう!」


 あの通称は、本気で賞賛しているつもりだったのか? 本人の顔を見ていれば、嫌がっていると分かるだろうに。


「まあ、分かった。竜斬りだな。向こうと相談して、改めよう」

「えーと、お願いします」


 これで切り裂きの二つ名は下火になるだろう。多分。


「それと飛空船の街道使用許可を、もらえませんか?」

「すまんが、俺の管轄外だ。王宮に打診はするが、期待半分で待っていてくれ」


 これは仕方ないな。もらえたらラッキーくらいに思おう。


「分かりました」

「そういえば貴様は異空間倉庫に、小型飛空船を収納しているらしいな。発着場の係員に聞いて驚いたぞ。衛兵団長は、情報を止めていたからな」

「あれ、言ってませんでしたか。必要な時に取り出せて、便利なんですよ」


 ん? 支部長の言葉、変じゃないか。何か違和感がある。


「さてと、黄腕党の件で話をしたい。ヤマトに面会の希望を出した者がいるのだ。ボーロング・ベアムン、知っているな」

「黄腕党の幹部ですよね。覚えていますよ」


 急に話が変わった、黄腕党の一件か。兄弟の解呪を頼まれたのだよな。衛兵団と協会に伝えているが、今まで解呪の依頼は来ていない。

 何度かトリアさんに確認したが、そもそも長男と次男は捕まっていないらしい。


 そうか、トリアさんだ! 違和感の正体が分かった。初めて協会へ行ったとき、すでにトリアさんは飛空船の収納を知っていた。協会に情報が回っていると思ったけど、それなら支部長が知らないのは不自然。つまり彼女が独自に情報をつかみ、協会には報告していなかったことになる。いつ、どこで聞いたのだろうか。


「ボーロング・ベアムンだが、元の名はトムであることが判明した」

「偽名だったのですか」


 質問には素直に答えていたし、偽名とは思わなかったな。


「いや、偽名とは違う。命名秘術により名付けられた、正式な名前だ」

「命名秘術……以前に少しだけ、調べたことがあります。新しい名を得ることで、特殊な力を身に付ける秘術でしたか?」


 本で読んだ記憶はある。しかし詳細までは分からなかった。まあ秘術だし、そういうものか。東方が発祥だったかな。


「おおむね合っている。魔獣狩り協会だと、アクスが有名だな。斧に生きることを誓い、名を改めたとのことだ。興味があるなら、聞いてみるといい」

「それならピヌティが詳しいですよ」

「組合のピヌティか。奴はナナシ一族だったな。初代の七人が命名秘術によって、自分が扱う武器の名前に変更したと聞く。それも完全に元の名を捨てて」


 ピヌティさんは、ナナシ一族だったのか? 疑問に満ちた視線を、サクラさんに向けた。


「名前の由来は、彼女の使っている武器。片刃の直刀、見たことありますよね」


 あの武器はピヌティと呼ぶのだな。知らなかった。


「話を戻す。そのボーロング・ベアムンが、ヤマトに話があると。どうする?」

「そうですね。話があるならば、面会に行きますよ。断る理由も、ありませんし。時間と場所を教えてもらえますか?」


 なんだろうな。解呪についての話だとは思うけど。


「面会場所は、衛兵団が管理している牢獄だな。騎士団管理の牢獄とは違うから、間違えないように。とくに時間は決まっていない。向こうで聞いてくれ」

「それなら、すぐにでも行くつもりです」


 予想よりも忙しくなりそう。夢幻島も調べたいけれど、それは先の話になるな。一つ一つ、対応していくか。


「私も同行させてください」

「ええ、お願いします」




 俺とサクラさんは、町中にある衛兵団詰所へ向かう。門外にある詰所とは違い、木造の建物だ。中に入り牢獄の場所を聞く。最初は訝し気な視線を向けられたが、名前と来訪目的を告げたら丁寧に教えてくれた。牢獄は地下にあるらしい。

 衛兵から案内を受けて、面会場所に到着する。


「ヤマト殿だな。久方振りだが、ご健勝か?」

「それなりに元気です。ボーロング・ベアムンさんは、お変わりありませんか? いえ、トムさんと呼んだ方がいいのでしょうか?」

「今の名はボーロング・ベアムンだ。そう呼んでくれ」


 本人が言うのだ。そうしようか。


「ではボーロングさん、俺を呼んだ理由を教えてくれますか?」

「先日、紫煙の魔導師が現れた。ヤマト殿に伝言を頼まれている」


 は? 現れた? 警備されているはずの牢獄に? そうか、幻覚魔法! 相手が凄腕の魔法使いなら、ありえる話だ。……ちょっと待て、俺に伝言? 洗脳魔法を解いたのが俺だと特定していないか。


「もしかして紫煙の魔導師に、俺のことを話しました?」

「いや、話す前に知っていた。あの方の情報網は恐ろしいからな。それより伝言を聞いてほしい」


 俺は黙って頷き、先を促した。


「『蛇に告ぐ。異界の無花果(いちじく)は、我が手の中に』以上だな。必ず最初にヤマト殿へ伝えるよう、言われている」

「えっと? よく意味が分からないのですが?」


 これ、おそらく暗号だよな。つまり、俺にこの暗号文を読み解けと?


「ヤマトさん。異界の無花果は、第三王女バイオレット様のソウルスキルです」

「それじゃあ、我が手の中にというのは……もしかして誘拐?」


 まさかな。さすがに一国の王女を誘拐なんて、ないよな。あ、この場合は略取と言った方が正解かも。


「ソウルスキルは、誰にも奪えません。なら誘拐の恐れもあると思います。だけど蛇とは何を意味しているのでしょう?」

「最初は俺のことだと思いました。伝言の宛先は、俺ですから。しかし事が王女の略取だと、王宮に対しての宣告とも取れますね」


 他に蛇と聞いて思い付くのは、裏切者や嫉妬かな。だけど、これだけだと判断は不可能だ。


「ボーロングさん、何か他に聞いていませんか?」

「すまないが、伝言はこれだけだ。ああ! ヤマト殿の質問には、必ず偽りなしで答えるように言われたな」


 よく分からない話だ。俺の質問に答えさせて、紫煙の魔導師に利はあるのか? 考えても答えは出ないな。少しでも情報を聞いておくか。


「それなら質問しますね。まず貴方は紫煙の魔導師を恨んでいますか?」


 洗脳されていたのだ。程度の差はあったとしても、多少の怨恨はあるだろうな。恨みの度合いによって、情報の信憑性が左右される。


「意趣遺恨は無い。あるのは感謝の念だけだ」

「え、感謝? どういうことです?」


 解呪魔法で洗脳を解いたとき、礼を言っていた。だから、無理矢理に洗脳されていたものと思っていたのだけど。


「我ら三兄弟は、貴族による人体実験の被害者だ。長男――ボーロング・コナンは実験の果てに、身体が弱り大病を患った。紫煙の魔導師は、兄者を助ける代わりに洗脳を受けろと取引を持ち掛けたのだ」

「それでは兄弟の解呪を頼んだのは?」

「黄腕党の終焉が、近付くのを感じた。洗脳の果てに終わるのではなくて、意思を持つ人間として終焉を迎えてほしかったのだ」


 ボーロング三兄弟は、自ら洗脳を受け入れたのだな。そうなると今までの尋問は信用できるのか?


「捕らえられてから、質問に嘘を答えたことはありますか?」

「一度も無い。捕まって洗脳が解除されたら、知っていることを隠さず話すように厳命されている。ただ本当に重要なことは、俺達には伝えられていないはずだ」


 紫煙の魔導師は、三兄弟が捕まることも予測していた? まさか、死間じゃないだろうな。駄目だ。これ以上は余計に混乱を招きかねない。質問を切り上げよう。


「ありがとうざいます。今回の質問は以上です。また話を聞かせてください」

「承知した」


 俺とサクラさんは、その場を立ち去る。面会室を出て、衛兵に今の話を伝えた。どこかで聞いていたとは思うけど、念のためだ。特に王女略取の恐れについては、必ず確認するように頼む。


 その後はサクラさんと別れて、格納庫に戻った。王都に帰還したばかりである。今日は休みにしよう。そうだ、報酬はカードに振り込まれるはず。入金前に一度、現状を確認しておこう。――残高を見ると、しばらくは大丈夫だろう。できれば、早めに報酬が貰えるといいな。


 ついでに飛空船創造スキルを確認しておこう。総合五級、機動四級、攻撃四級、防御四級、生活五級、収納五級、娯楽七級。

 やはり娯楽が低いな。今の状況が一段落したら、娯楽の向上にも努めてみるか。娯楽計画を考えながら過ごしていたら、あっという間に一日が終わった。

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