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23話 遭遇、火竜

 日が昇り、目が覚める。さて、出発の準備をしよう。サクラさんの作った朝食は美味しかった。ほっとする味なんだよな。一箇所に長く留まると、魔獣に襲われる危険が高くなる。速やかに出発した。


「今日は何も起きなかったですね」

「たしかに調査の進展もなければ、魔獣の襲来もありませんでした。まあ、平和で良かったと思いましょう」

「あら、良い考えですね」


 サクラさんは微笑みを浮かべている。さてと、そろそろ飛空船を停止させるか。今日は空中伯となる。夜も気が抜けない。たまたま夜行性魔獣の巡回路に、当たる恐れもあるからな。昨日よりも結界の強度を上げて、交代で夜間の警戒を行う。

 ――この日の夜も、魔獣の襲撃は無かった。


「ヤマトさん、夜も無事に過ぎましたね。不気味なくらい、静かな夜でした」

「ええ。昨日から、何も無さすぎて気になります」


 どうやらサクラさんも、同じことを考えたらしいな。魔獣の気配が無さすぎる。遠目で魔獣の姿を見掛けることすらない。異変の原因が近くにあるのでは?


「とにかく調査も残り二日です。気を付けて行動しましょう。俺は再度、飛空船の確認をしてきます」

「それなら私は周囲を警戒しましょう」


 どちらも異常なく、今日のスタートを切る。補給や魔力・体力の都合で、調査は明日で打ち切り帰還することにしている。だけど明日は昼頃に帰還を始めるため、丸一日を使えるのは今日だけだ。少しでも手掛かりを掴みたい。




 ――もうすぐ夕方だ。今日も空振りかと思った、その瞬間。異変が起きた。目の前には巨大な魔獣。たった今まで、存在に気が付かなかった。だが現実に、魔獣はいる。その姿を一言で表すなら、翼を持つ巨大なトカゲ。


「ヤ、ヤマトさん。あれは、まさか竜種ですか?」

「火竜。それも竜王種だと思います」


 赤色の鱗が火竜であることを物語っていた。中型飛空船すら比較にならない程の大きさは、通常の竜種を遥かに超える。おそらく竜王種だろうな。異様なことは、全身が傷だらけであること。瀕死とも言える状態である。両目は閉じられており、休眠状態に入っているようだ。

 突然、火竜が声を上げた。魂が氷つくような恐怖に襲われる。竜の咆哮。下級の魔獣なら、それだけで消滅しかねないほどの恐ろしさだ。身体が動かない。思考ができていることを奇跡だと感じた。異世界に来て約四ヶ月。この恐怖に比べたら、今までの戦闘は児戯に等しい。


 救いを求めるように、視線を彷徨(さまよ)わせる。目に留まったのは、サクラさんの姿。全身を震わせながらも、刀を強く握り締めている。サクラさんは諦めていない! 今、すべきことは心を静めること。


「見てください、サクラさん。竜ですよ、竜。写真機があれば記念撮影したのに、残念」


 サクラさんが驚いた様子で、俺に視線を向ける。そして納得したように頷いた。今の軽口は、緊張を緩和させるため。


「本当に、残念です。町に戻ったら、二人で魔導映写機を買いに行きましょうね。次の機会に撮影するのは、どうですか」


 上手く乗ってくれたようだ。何も絶望する必要はない。俺達に有利な点は二つ。一つ目は、火竜が休眠状態であること。さっきの咆哮も攻撃されたわけではない。それどころか威嚇ですらない。ただの寝言みたいなものだ。二つ目、火竜が瀕死であること。あれだけの傷だ。全能力が落ちているだろう。


「ぜひ、そうしましょう。その為にも此処から離れたいですが、残念ながら結界があります。それも強力な探知能力付きです。触れたら火竜が目覚めるでしょう」

「そんな結界が! ならば戦うしかありませんね」


 入る時には反応せず、逃げる時に反応する結界。これは獲物を逃がさないための檻だ。やはり戦闘は避けられそうもない。最悪なのは、目覚めた竜から先制攻撃を受けることだ。その時点で、きっと人生が終わるだろう。それならば、休眠状態の内に攻撃を仕掛けた方がいい。

 しかし瀕死とはいえ竜王種。二人の全力攻撃でも、倒せるか怪しい。見た瞬間に理解できる圧倒的な存在感。通常の竜種で地利(ちり)級、竜王種だと人和(じんわ)級にすら届く。魔獣の最高峰だ。


「子供のころ、蛇に睨まれた蛙を見たことがあります。さっきは睨まれてもいないのに、蛙状態になりましたよ。普通の方法では、戦闘にもならないですよね」

「それは確かに。ところで、その蛙はどうなったのですか?」

「まばたきした瞬間、蛇は蛙を丸呑みに。腹の部分が膨らんでいました」


 あれは驚いたな。まさか自分が蛙の気分を味わうとは思わなかったけど。丸呑みなんて、されたくない。待て、丸呑み!?


「サクラさん、すみません。今回の調査で得た魔石、全て使います」

「何か思い付いたのですね!」


 今回、入手した分だけではない。四ヶ月で貯めておいた魔石も出す。手持ちは、全て使い切る! 作戦を説明するために、サクラさんに近付こうとした。


「ヤマトさん、火竜の目が!」


 この状況で休眠状態が目覚めただと!? もしかして戦う意思に反応しているのだろうか。優れた感覚を持つ竜王種なら、ありえるかもしれない。


「説明している時間はありません! 実行しますよ! サクラさんは全力の一撃を放てる準備を!」

「承りました!」


 頼む、上手くいってくれ! 火竜が再び、咆哮を放つ。だが耐えられる。突然、魔獣の近くに火球が現れた。攻撃魔法!?


「ボート、召喚!」


 目前に手漕ぎボートを召喚する。そして異空間倉庫を開き、ありったけの魔石を積み込む。魔力を込めることは忘れない。随分、貯めこんだからな。ボートから、溢れそうなほどだ。瀕死の重傷を負った魔獣は、回復に多量の魔力を必要とする。


「栄養満点のエサに見えるだろう!」


 火竜を目指し、ボートを飛ばす。しまった、火球にぶつかる! 緊急回避だ! ボートは避けたが、漁船を動かす余裕はなかった。中型船の結界に、火球が衝突。防御結界、最大出力! かなり重いけど、なんとか耐え切った。


「ヤマトさん、魔道具は!?」

「今の一撃で魔力が枯渇しました! 充填するまで、再使用は不可能でしょう!」


 再びボートを飛ばした。魔獣の眼前に来たとき、竜の(あぎと)が開く。飛空船を口内に突っ込ませた。火竜は魔石を取り込むため、ボートを丸ごと一飲みにする。それが狙いだ。魔石には限界以上の魔力を込めてある。

 直後、爆発音が響く。魔石に過剰な力が加わると、器が耐え切れずに爆発する。あれだけ大量の魔石だ。爆発も大きくなるだろう。三度目の、竜の咆哮。だけど、これは苦悶の声だ。間違いなく、体の内部から傷を負わせたはず。


贅沢(ぜいたく)な食事だ。天にも昇る心地だろう」

「ずいぶんと高価でしょう。お財布は大丈夫ですか」

「宵越しの魔石は、持たない主義なもので」

「あなた、貯めこんでいましたよね?」

「さっき宗旨替えしたんですよ」


 軽口を叩くことで、焦りそうになる気分を抑えている。次の瞬間、再び爆発音が響いた。先程よりは小さいが、連続で爆発が起きる。これは俺の仕込みではない。おそらく回復目的で、火竜は魔獣を食らっていたのだろう。体内で魔獣が結晶化。まだ吸収されていなかった魔石が誘爆したと考えられる。


「火竜が暴れています!」

「まずい! これでは近付けない!」


 相手は竜王種だ。この爆発でも、耐え切る恐れがある。最後の一押しが欲しい。雷撃砲の効果は薄いだろう。ほぼ例外なく、竜種は高い魔法抵抗力を持つ。


「サクラさん、火竜に通じそうな攻撃はありますか?」

「魔力を溜めた今なら、火竜の鱗を切り裂くことは可能です。だけど範囲が狭く、致命傷とはならないでしょう」


 火竜が暴れている内に、逃げることは可能か? 結界の気配を探るけど、強引に通ることはできそうもない。


「ヤマトさん、魔力合一を使います」

「使えるのですか!?」


 複数の属性を合わせて、強力な効果を発揮する魔力融合という魔導技術がある。それを更に発展させ、相反する属性を合わせるのが魔力合一だ。反発する力を合わせるため、難度は極めて高い。しかし瞬間的な出力は、魔力融合の比ではない。


「私だけでは、使えません。ヤマトさんの協力が、必要となります。聖化粧には、魔力合一を補助する術が存在するのです」

「あ! もしかして命力増幅?」


 思わずサクラさんの顔を見た。頬が赤く染まっている。


「し、知っているのなら、話が早いですね! 私も使ったことはありませんので、協力してください!」

「はい! 分かりました!」


 命力増幅は文字通り、生命力を増幅する秘術。二人で行う術で、一人は聖化粧の使い手が必要だ。その発動効果は高く、あらゆる能力を底上げする。本来であれば使用不可能な技でも、使える可能性が生まれるだろう。


「意識を集中してください。呼吸と魔力を合わせるように」


 サクラさんの言葉に従って、集中力を高める。目を閉じて、呼吸を行う。魔力、呼吸、合わせる。魔力、呼吸、合わせる。そしてサクラさんの動く気配を感じた。すぐ隣まで来ている。緊張してきた。だけど意識は乱さない。肩に手を置かれる。次の瞬間、二人の唇が重なった。


 力が流れていく。同時に力が流れ込んでくる。命力増幅が成功したことを理解。サクラさんの背中に手を回す。彼女の身体から光の力が伝わってくる。ならば俺は闇の力を用意しよう。光と闇は、表裏一体。相反するだけの存在ではない。直後、力が(ほとばし)るのを感じた。ほぼ同時に、俺たちは身体を離す。


「魔力合一、成功です。……サクラさん、どうしました?」


 あからさまに様子がおかしい。分かりやすい程、顔を赤くしている。さっきまで気恥ずかしさがあったけど、少し冷静になってきたな。


「あの、サクラさん?」

「大丈夫です! 今の力ならば、火竜を微塵切りにできるでしょう!」


 微塵切りとは大きく出たな。でも本当に可能だと思わせる程の力が溢れている。火竜を見ると、まだ暴れていた。


「爆発は収まっているのに、暴れ続けていますね」

「それだけ深手を負ったのです。しかし、あれでは近付くことが難しい。この距離では斬れません。収まるまで、待つしかありませんか?」


 サクラさんの言葉通り、待つしかないのか? だけど今は致命傷を与える絶好の機会である。暴走が収まるのは、傷が癒えた証拠だ。それならば多少、無理にでも行く!


「いえ、飛空船で突っ込みましょう! 俺の魔力も上がっています。今なら火竜の動きを見極めながら、接敵できるはずです」

「分かりました。ヤマトさんの言葉なら、信じられます。私は全力の一撃をもって火竜を切り刻みましょう」


 信じてもらったんだ。期待に応えないとな。


「雷撃角、強化! 風来号、全速前進!」


 過去最高の加速で、漁船を発進させる。目標は火竜の側面だ。強化した雷撃角を突き刺す。可能なら動きを止めたい。一瞬でも止めれば、サクラさんが切り裂いてくれるだろう。俺も彼女を信じよう。


「回避! サクラさん、無事ですか!?」

「問題ありません!」


 火竜が闇雲に放った火炎魔法を間一髪で避ける。威力も速度も凄いけど、軌道が読みやすい。これなら何とか避けられる。近付くにつれ苛烈になる魔法攻撃を避け続けて、火竜の真横まで来た。ここで勝負だ!


「突撃、雷撃角!」


 雷撃角が一回り大きくなる。これなら火竜の身体に突き刺さるはずだ。飛空船と火竜が衝突する。目論見通り、雷撃角は突き刺さった。よし、成功!


「サクラさん、お願いします!」

「秘刀術、大刃小刃(だいじんこじん)!」


 魔力で強化された刀が閃く。刀身を遥かに超える一閃が火竜の鱗を切り裂いた。しかし、それだけで終わりではない。一閃のあと、無数の斬撃が火竜の巨体を斬り刻む。ここに合わせる!


「おまけだ! 雷撃砲、接射!」


 二人の攻撃が、火竜の王を蹂躙した。


「ヤマトさん! 火竜の魔法が!」

「まずい!」


 明確に飛空船を狙った攻撃魔法が迫る。避けられない! 魔道具は使用不可能。ならば、防御魔法で凌ぐしかない。瀕死で放った魔法攻撃だ。通常よりも、威力は下がっているだろう。


「防御結界、全力で防げ!」


 攻撃が重い! 飛空船が結界ごとバラバラになりそうだ。だが諦めたら終わる。俺だけでなく、サクラさんも一緒に! 命力増幅と魔力合一の効果は残っている。それでも火竜の魔法を防げるか分からない。気の遠くなるような一瞬が過ぎた。


「お見事です! 炎が消えましたよ!」

「何とか耐え切れたようですね」


 火竜王が消滅していく。やっと、力尽きたようだ。とっさに異空間倉庫を開き、魔石と素材を回収する。大きく、息を吐いた。身体がふらつく。魔力を使い過ぎたようだ。近くの浮島まで、飛空船が動くだろうか。ふと火竜の居た空間を見ると、不思議な物体が宙に浮かんでいる。


「あれは扉?」


 サクラさんの呟き通り扉に見えた。突然、扉が巨大化する。ゆっくりと開かれていく。


「ヤマトさん、陸地が見えますよ」

「この扉、おそらく転移装置の一種でしょう」


 こんな怪しい場所に進むとしたら、入念な準備が必要だ。普段なら間違いなく、引き返しただろう。


「サクラさん、中に入ります」

「本気ですか?」


 釈然としない顔をしながら、問い掛けられた。しかし、俺は本気だ。どうしても進まなければ、ならない。


「魔力切れで、次の島まで飛空船が持ちそうもありません。魔力合一の副作用で、自然回復が阻害されているのだと思います」


 内心で焦りはあるけど、努めて平静に見えるよう演技する。余計な不安を与える必要は無い。


「つまり進むか、墜落するかの二択ですか。承知しました、行きましょう」


 意外にも、サクラさんに動揺は見られなかった。もしかしたら俺と同じように、平静を装っているだけかもしれないが。


「それでは、出発します。鬼が出るか、蛇が出るか」


 残った魔力を使い、何とか飛空船を進める。開かれた扉を通り、中へと入った。

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