22話 出発、異変調査
そして迎える出発の日。すでにサクラさんとも合流し、準備は整った。協会への連絡も大丈夫。
「行きましょう、サクラさん」
「新しい船、楽しみです」
お世辞抜きで言っていることが分かる。楽しんでもらえるなら何よりだ。まずは迷宮島に寄り、最新の情報を確認する。
「ヤマトさん。この船、ボートよりも早いですね!」
「小型飛空船とは、魔導出力が違いますから! そろそろ迷宮島が見えてくるはずです!」
ボートだと三時間前後だが、この風来号なら二時間半前後で迷宮島に着く。他の中型船より、少し早いくらいだ。実は密かな自慢である。
「あ、見えました!」
「了解、着陸します!」
停泊料金を払い、資料館へ向かう。今日は僅かな時間だけの停泊となるけども、一日ごとの契約であり金額は一緒だ。仕方ないとはいえ、ちょっと釈然としない。気を取り直して、資料館に入る。係員に最新の情報を尋ねた。
「残念ですが協会の調査員が入ったばかりですので、戻られるまでは詳細な情報はありません」
「そうですか、わかりました。ありがとうございます」
残念だが新しい情報は無かった。しかし予想した通りでもある。情報が無いからこそ、調査の必要があるわけだからな。本命は、さらに北だ。少しだけ休憩を取り北を目指す。
しばらく飛行を続けると、あきらかに浮島の数が多い地域に到着した。
「ここが浮島群……サクラさん、ご注意を。島から魔獣が来るかもしれません」
「その危険はありそうですね」
魔獣の動きが掴めない以上、慎重な行動を心掛ける。警戒を厳とした。ひたすら飛空船を進め、浮島群の中央付近までくる。今日は、ここで一泊だな。適当な島の端に飛空船を降ろし、宿泊の準備をするか。
「ヤマトさん、これからの予定を確認しましょうか」
警戒や食事などについて、すでに予定は決めてある。あくまで確認だな。基本は一人が休息している間、もう一人が見張りをすることになるだろう。ただ危険度の低い場所では、二人で休息を取る場合もありえる。今日の食事は調理場で作って、外で一緒に食べることにした。
「それでは料理を頼みます。俺は外で準備ですね」
「腕によりをかけて作ります!」
何度か一緒に魔獣狩りへ行ったけど、サクラさんの手料理は食べたことがない。基本は日帰りで、昼は携帯食料で済ますからな。正直、楽しみだ。
まず魔獣対策に結界魔法を使う。防御と同時に、感知効果もある結界だ。魔獣が触れれば、すぐに分かる。次は異空間倉庫から、机と椅子を取り出した。さらに、食器と卓上調味料を準備。船旅生活では「食事を疎かにしてはならない」と聞いたことがある。様々な物を揃えた。
さて料理が完成するまでは、まだ時間が掛かるはずだ。机に地図を広げ、航路の確認をする。浮島群の最北までは、問題ないだろう。そこから先が、どうなるか。考え込んでいたら、サクラさんから声を掛けられた。
「できましたよ!」
「今、行きます!」
考えるのは、あとにしよう。運ぶのを手伝わなければ。調理場に行くと、様々な料理が並んでいる。とりあえず運んでしまおう。異空間倉庫を使えば、一回で済むから助かる。魔力は消費するが、自然回復だけで賄えるからな。
「それでは、いただきます!」
「はい、いただきます。今回の料理は、自信作なんですよ」
目前にあるのは和食だろうか。ご飯、野菜たっぷりの味噌汁、漬物、肉じゃが、焼き魚。これは空魚か? よく分からないが、見た目は完全に和食だ。
「どうでしょう。故郷に伝わる伝統料理を作ってみました。食材は一部、こちらの物で代用しましたが」
「美味しいですね! それに懐かしい味がします」
「喜んでもらえて良かったですよ。ところで調味料が随分と充実していましたね。この辺りでは手に入りにくい物もありました」
その調味料は、カイス王国へ来る前に魔導通信販売機で買った物だ。世界各地の品物が、ほぼ定価で買えた。かなり希少な魔道具で、設置されている場所は少ないらしい。
「たまたま見つけて、買っておいたのですよ。よろしければ、どんどん使ってください」
「ありがとうございます。次の料理番が楽しみですよ」
一応、料理は交代制とした。しかし状況次第では、変更することもある。食事を続けながら、雑談を交わす。まだ知り合って一ヶ月ほどだ。互いに知らないことが多い。
「さて食事も終わりましたので、片付けましょうか。食器を運んでしまいます」
「洗い物は、お任せください」
料理担当者が洗い物を行う。これは事前に決めたことだ。さて、俺は机や椅子を片付けよう。また忘れずに風呂の準備をしておく。飛空船に付けた自動浄化能力のおかげで、水回りが清潔に保たれて助かる。魔力消費量が大きくなったことは痛いけど。
湯が溜まるのに、少し時間が掛かる。その間に、報告書の下書きをしておこう。といっても、今日は特に進展は無かった。ほとんど、移動だけだったしな。簡単な記載をし、残りは明日以降にする。そろそろ湯が溜まる頃だ。
「サクラさん! 先に風呂へ入ってください」
「いえ船主を差し置いて、先に入るわけにはいきません。どうぞヤマトさんから、お入りください」
思ったよりも、はっきりと断言されてしまった。それなら先に入らせてもらう。無防備になる時間である。防御結界は常に意識しておく。幸い何事もなく風呂から上がった。
「上がりましたよ。次、どうぞ」
「ありがとうございます。周囲に異常はありませんでしたよ。それでは、お風呂をいただきますね」
サクラさんは脱衣所の扉を開け、中に入る。脱衣所を作っておいて良かったな。一人で使うなら、休憩室で脱ぎ風呂に行けばいい。ただ人を乗せることを考えると脱衣所は必要だろう。
今日は外での警戒を行わない。当初は見張りを立てる予定だったが、想定よりも危険度が低そうだ。結界魔法を頼ることにした。
休憩室で楽にしていると、脱衣所の方から音が聞こえた。サクラさんが風呂から上がったようだ。あ、口紅が落ちている。素の顔は初めて見たな。
「お風呂、ご馳走様でした。ところで少し気になったのですけど、お風呂の空間が少しだけ拡がっていませんか。脱衣所から中を見た広さと、実際の広さが異なっています」
「よく気付きましたね。高度な時空魔法に、空間を作り出す術があります。それを飛空船の室内に応用したものです。もっとも技術と魔力が不足しているため、今はわずかな効果しかありません」
拡がっているのは、ほんの数ミリメートルのはずである。風呂場で十分な効果を発揮したら、今後は脱衣所や休憩室でも試してみるつもりだ。しかし本当に、よく気付いたな。待てよ、サクラさんは近接戦を得意としている。間合いを測る感覚が特に優れていた。それで気付いたのかもしれない。
「なんというか、凄い船ですね。今日一日で何度も思いました」
「ありがとうございます。自慢の船ですよ」
ここは堂々と胸を張る。自信を持つことが、飛空船創造スキルの強化に繋がる。謙遜も大切だが、必要以上に遜る必要はない。
「まあ、ともかく今日は休みましょうか。明日は早朝に出発です」
睡眠時も寝巻には着替えない。魔獣の襲撃があれば、すぐに行動しなければならないからだ。
「それでは、お預かりした魔道具を使用しましょう。ヤマトさん、お願いします」
「そうですね。防御結界、発動!」
手に持った魔道具が起動して、無事に防御結界が発生した。魔法で張った結界と二重の効果がある。一晩は安心だろう。絶対とは言えないが。
「サクラさん、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい」
左端の二段ベッドに向かう。サクラさんは右端のベッドだ。寝る場所は二人とも下の段。何かあったら、速やかに動けるように。
ベッドで横になったら、光魔法の灯りを消す。辺りは闇に包まれた。飛空船での移動は、魔力と精神を消耗する。少しでも疲労が取れるといいのだが。
朝、目を覚ました。ほぼ同時に、サクラさんも起きたようだ。身体を起こして、首を傾げている。可愛い。あ、目が合った。
「お、おはようございます! ヤマトさん、少し外の様子を見てきます!」
「おはようございます」
サクラさんが顔を赤くしながら、外に向かった。寝ぼけた姿を見られたことが、恥ずかしかったのだろう。とりあえず朝食の準備をするか。おかずは目覚まし鳥の玉子を使った目玉焼きと生野菜。味噌汁は豆腐と油揚げに、よく分からない野菜を入れる。試食をしたが、わりと美味かった。
朝食が完成したころに、落ち着いたサクラさんが戻ってきた。外の様子に異常は無かったらしい。朝食を取り片付けを終えたら、出発の準備だ。あ、サクラさんが聖化粧をしている。日中に戦闘があることを見越してだろう。
「では出発します!」
「ええ、行きましょう!」
調査、二日目だな。気合を入れていこう。数時間は何事も無く進んだ。そろそろ昼食を取ろうかと思ったころ、異変は起きた。
「ヤマトさん、魔獣の群れです!」
「風翼刃、開きます! お気を付けて!」
対処不可能な数ではない。事前に示し合わせた通り、サクラさんが左翼に行って俺が右翼へ向かう。鞘から木刀を抜き、向かってくる首狩り燕を狙い降り下ろす。無事に命中し消滅する。
それからも襲い掛かる魔獣を相手にしていく。近接戦と魔法攻撃を使い分け、徐々に魔獣の数を減らしていった。
「ヤマトさん! この群れ、何かおかしいと思います!」
「確かに変です! いくらなんでも、魔獣の種類が多すぎる!」
魔獣とは魔力を持った生物の総称だ。互いに縄張りを持ち、協力して人間を襲うことは少ない。共生関係にある魔獣たちもいるけど、少数派だな。ただし迷宮内で遭遇する魔獣は例外となる。奴等は迷宮主の支配下におかれ、人間を侵入者として捉え優先して襲ってくる。迷宮が危険と言われる所以の一つだ。
「種類が多いのに、動きは単調! 連携することも、ありません。私達なら十分に対応できます!」
「そうですね!」
高速思考術を利用し、周囲の状況は可能な限り詳細に把握。魔獣の速度や行動を読んで、常に一対一で戦うようにする。サクラさんは感覚だけで、似た様な対応をしているみたいだ。しばらく、お互い無言で魔獣を狩り続ける。
「ヤマトさん! 前方から大物が来ています! ご注意ください!」
「了解です!」
前方から来ているのは、レッサーヤクルス。だが大きい。今まで討伐した同種の個体と比較する。一回りも二回りも大きかった。大物が一体なのは、まだましか。他の魔獣も今までの戦闘で数を減らしている。すでに数の有利は、ほぼない。
「雷撃砲、使います! 雷撃角、魔力充填!」
あのレッサーヤクルスを倒せれば、ここの戦闘も終わりに近づく。切り札を使うときがきた。角の先端に魔力が集中していく。周囲には、放電が走る。
「よし、充填完了! 雷撃砲、発射!」
角から、強力な雷撃が放たれた。雷の力が込められた魔導砲だ。進路上の魔獣を巻き込みながら、レッサーヤクルスへ襲い掛かった。――よし、討伐成功!
「お見事です!」
サクラさんの称賛を聞きながら、魔獣の消滅を確認。残った魔獣に厄介な相手はいない。ほどなくして、魔獣の殲滅が完了した。
「お疲れ様です。レッサーヤクルスの素材回収が、できませんでした。引き付けて倒した方が良かったでしょうか?」
「安全が第一ですよ、ヤマトさん。本来の目的を優先しましょう」
それもそうだ。今回の目的は、調査である。魔獣を狩ることではない。それでも回収が可能な範囲で、素材を異空間倉庫に送る。結構な量になったな。念の為に、ここから急いで離れよう。第二派が来ないとは言い切れない。
しばらく進み、浮島群の最北にきた。ここから先は、島での宿泊が難しい。
「今日の休息地点は、ここにしましょう」
「そうですね。ヤマトさん、操船お疲れ様でした」
手際よく、宿泊の準備を進めていく。しばらく休憩したあとは、入手した素材の確認だ。魔石は飛空船の燃料として利用可能。すぐ使えるように、しまっておく。この日も二重の防御結界を張り、就寝した。




