21話 命名、風雷号
特別依頼を受けてから、一ヶ月が経過。依頼、訓練、休暇と忙しい日々を送っている。サクラさんやピヌティさんとは、何度か一緒に依頼へ行った。所属が異なるため、どちらかの依頼に一方が協力する形となる。
今日からは、三日ほど単独行動だ。いよいよ中型飛空船を実用段階へ移す。まず王都カイスを出発し、近くにある浮島へ移動。そこで漁船に乗り換え、試運転後に帰還する。時間を空けるのは、購入場所を不明確にするため。調べれば購入記録が無いことは分かるが、問題を起こさなければ調べられることもない。
「それでは、出発します」
「ヤマト様、お気を付けて。無事に中型船が入手できることを祈っております」
数日の間、留守にすることをトリアさんへ告げた。さすがに数日間の留守くらいなら、そこまで追及されない。だけど連絡しておくに、越したことはないだろう。挨拶を交わし、協会の外に出る。そこでサクラさんと会った。
「出発は今日ですよね。無事に帰って来てくださいね」
「ありがとうございます。サクラさんも、依頼の時は気を付けて」
挨拶をするために、待っていてくれたのだろうか。そのままサクラさんは依頼に向かう。俺は飛空船発着場の受付に行き、中型飛空船を入手してくる旨を伝えた。事前に相談は済んでおり、今の格納庫を継続して使えることになっている。
もともと数艘の小型飛空船が置ける場所だ。中型飛空船なら、置くことが可能。停泊料金も据え置きでいいらしい。ただ特別割引は先日、終わったけど。
「さあ、行くか!」
格納庫でボートに乗り込み、出発した。そのまま港を出たら、空の旅が始まる。目的の場所は、できるだけ人がいない浮島。すでに、いくつか候補は考えている。一つずつ当たってみよう。
探し始めて三つ目の浮島。ここなら人の姿が見えない。大丈夫そうだ。もう日が高い。手早く召喚してしまおう。
「漁船、召喚!」
格納庫内で何度も繰り返した行為だ。確かな手応えを感じる。問題なく動かせる確信があった。人型飛空船は、いまだに創造できないけどな! だけど、少しずつ進歩しているのは分かる。最近では、ほぼ気絶しなくなったし。
雷撃角と風刃翼は、実戦で試したいな。まずは島内で動かしてみよう。中心部に行かなければ、一人で対処できる魔獣しか遭遇しないはずだ。安全第一に試運転といこう。
――数時間後、かなり疲れたけど思った以上に高性能だった。今日は飛空船内で一泊しよう。この船で寝るのは初めてだな。
休憩室は何度か改良を繰り返した。長期間の運用を考えると、妥協はできない。壁の両側に二段ベッドを設置。四人が就寝できるようにする。中央の空間は空けておき、食事や雑魚寝などに利用可能だ。必要に応じて、家具を設置していく。この一ヶ月で異空間倉庫の容量が拡大したからこそ、今回の配置にした。家具や寝具も収納できるのは助かる。
調理場・風呂・脱衣所・洗面台・トイレなども気に掛けた。長旅では欠かせない場所だし。冷蔵庫や冷凍庫も備えている。問題になったのは場所の配分。休憩室が広くなれば、他の場所が狭くなる。消費魔力の都合により、無制限に拡大するのは不可能。結局、戦闘可能な場所が狭くなった。これは風刃翼を足場にすることで、対処しようと思う。
一通りの使い勝手を確かめたら、就寝の準備。今日は飛空船を宙に浮かせたまま寝る。魔力が尽きれば落ちるため、燃料用の魔石を十分に用意した。魔石には他の利用価値も高いため、できれば使いたくないが。
あとは防御結界に、魔力を注ぎ込む。休息時は娯楽本の類を読むか、勉強をしている。一人の野営で、魔力を使った訓練は危険すぎる。もっとも、町の外では常に魔法の訓練をしているようなものだけど。頻繁に魔法を使っているからな。さて、寝よう。
朝、自然と目が覚めた。結界に異常なし。浮力も十分だ。これなら人を乗せても大丈夫か。今日の活動を始めよう。夜間での飛行訓練もしたいから、日中は休息を多めに取る。
――三日間の試運転を終え、王都カイスに帰還。今の時刻は夕方前。夜間訓練の疲れが出たため、早めに切り上げた。無理は禁物だからな。港の搬入口で整備長に出会った。
「ヤマト様! 無事に中型飛空船を入手できたのですか!」
「ええ、お陰様で。登録をしたいのですが、大丈夫ですか?」
整備長に頼むことかは分からないけど、最初に契約したからなのか専属みたいになっているのだよな。説明も丁寧であり、色々お世話になっている。
「こちらは構いませんが、その前に協会へ顔を出したらいかがですか? さきほどサクラ様がいらしてましたよ」
「サクラさんが?」
なんだろう。急用かもしれないな。
「わかりました。すぐに行ってみます」
「飛空船はこちらで、お預かりしましょう」
整備長に礼を言って、外へ出た。サクラさんと会うには、協会か組合へ行くのが早いか。まずは魔獣狩り協会へ向かう。受付にトリアさんがいた。聞いてみよう。挨拶もそこそこに、用件を伝えた。
「サクラ様なら協会へいらっしゃいました。手紙を預かっておりますよ」
「ありがとうございます。確認しました」
たしかに差出人の名前はサクラさんである。受領証に署名し、その場を離れた。壁の側に行き、手紙の封を切る。達筆だな。そして日本語で書かれている。内容をまとめると『聞きたいことがあるので、宿で待っています』か。聞きたいこと? なんだろう。まあ、行けば分かる。
協会を出て、サクラさんが泊まる宿に向かう。住所は手紙に書いてあった。近い場所にあるな。受付の人に、サクラさんへの伝言を頼んだ。そんなに時を置かず、彼女が顔を見せる。
「ヤマトさん! すみません、お呼び出しして」
「構いませんよ。とりあえず場所を変えましょうか」
「ええと、部屋まで来てもらえますか?」
様子からすると、問題でも起きたのかな。とにかくサクラさんに着いていこう。あ、二階の部屋だったのか。
「どうぞ」
「失礼します」
中は普通の部屋だった。あまり特徴がない。ずいぶん綺麗に使っているんだな。おっと、人の部屋をジロジロ見るのは失礼か。気を付けよう。
「それで聞きたいこととは、何でしょうか?」
「北方の浮島周辺で、魔獣の動きが不自然という情報がありました」
少し気になるので、詳しい内容を聞かせてもらった。ピヌティさんが、知人から聞いた話らしい。普段の生息地から離れた場所に魔獣がいる。それも複数の魔獣で同じ現象が起きていた。
「それでピヌティが情報を求めていまして。ヤマトさんが行った場所では、問題はありませんでしたか?」
「俺は南方の浮島で試運転をしていました。そちらだと不自然なことは無かったと思います。ただ絶対に無かったとは、言い切れませんね」
この地方に来てから、まだ一ヶ月だからな。おかしな点があっても、気付かないかもしれない。
「目立った点が無かっただけでも有益な情報ですよ。ありがとうございます」
「少しでも役に立てたなら良かったです」
問題は、これからだな。北の異変か。まだ組合や協会でも、正式な依頼になっていないらしい。近い内に公開依頼として発表されるそうだ。ピヌティさんは独自の情報網で、先んじて異変に気付いた。ただ別の件で動けない。それでサクラさんに話を持ち掛けたと。
「依頼を公開する前に、独自で行動して大丈夫なんでしょうか?」
「あ、それは大丈夫ですよ。問題になりそうな場合は、特別依頼として出す準備をしますので。むしろ独自に調査できる者は、貴重な人材と考えているみたいです」
なんとなくサクラさんは解決したそう。報酬が目当てじゃなく、困っている人の助けになりたいのだと思う。
俺はどうだろう。現状では、報酬金額が分からない。というか決まっていない。一ヶ月間で多少の貯蓄はできたが、余裕とは言えず。拘束期間も不明で、依頼料も未定。率先して受ける理由はないか。
「……よければ一緒に調査しましょうか? 中型飛空船を出しますよ」
ちょっと考えたけど、共に調査へ行くことを提案した。定期船の利用だと調査は難しいだろうし、きっと喜ぶだろう。俺も船に同乗してもらえると助かる。一人で空旅だと、ろくに休憩も取れない。
「よろしいのですか!?」
あれ? どうやら本気で驚いているみたいだ。飛空船の使用を頼みに来たわけではなかったのか。
「構いませんよ。代わりに警戒や戦闘で、ご協力をお願いします」
「それは勿論です! ありがとうざいます!」
そうと決まれば、さっそく行動に移ろう。あ、その前に調査開始日を決めるか。動くなら早い方がいいよな。
「調査は明日からで大丈夫ですか?」
「こちらは問題ありません」
それなら、まずは食料を買おう。三日間で消費した分を、補給しておきたいな。それから協会に連絡。そのあとは中型飛空船の登録をしなければ。サクラさんと、明日以降の行動を打ち合わせる必要もある。
俺はサクラさんと一緒に買い物をしつつ、協会へ戻った。入口の前に斧を持った男がいる。
「アクスさん、今日は上がりですか?」
「おお。ヤマトと切り裂きの嬢ちゃんか。ちょいと約束があってな。衛兵団長と、一勝負してくるのさ」
模擬戦でもするのだろうか。いや、違う。アクスさんの手が、駒を動かす振りをしている。盤上の勝負らしい。
「おっ、もうすぐ時間だ。良い酒を飲みつつ、良い勝負をする。人生の醍醐味さ。それじゃ、またな!」
「ええ、お疲れさまでした。頑張ってください」
上機嫌で去るアクスさんを見送り、協会の中に入る。やはり夕方前の時間帯は、人が多い。狩りが終わり、素材を持ち込む人が増えるからだな。列に並びながら、サクラさんと明日の相談をする。やっと順番が回ってきた。
「お待たせしました、ヤマト様。サクラ様と合流できたのですね」
「宿で無事に会えましたよ。ところで数日ほど、町から離れる予定です。北の方に向かいますが、変わった話はありますか?」
ここで詳しい情報が聞けたら助かるのだけどな。
「耳が早いですね。協会に集まっている情報でも不明な点ばかりです。お役に立てそうもありません。北に向かうのでしたら、十分に気を付けてください」
「あの、トリア様。魔獣の動きで、特に不審と思われる場所はありませんか?」
「現状では何とも言えません。しかし迷宮島から更に北の方へ行った、浮島群での報告が重なっていますね。精査不足で、確実とは言えないのですが」
まあ確実な情報だったら、すでに依頼を公開しているか。
「迷宮島内での動きはどうでしょうか?」
「いくつかの報告はあります。そちらには既に調査員を派遣しており、近く詳細が分かるはずです」
迷宮島には人が住んでいるからな。優先して対応しているのだろう。それなら、迷宮島内の調査は不要か。
「いっそのこと浮島群から、さらに北へ行ってみましょうか。何かあるとしたら、多分そこですよね」
「協会としては助かります。現状では、そちらまで調査する人手がありませんし。ヤマト様、少しお待ちいただけますか」
トリアさんは立ち上がり、奥の扉に進んだ。数分後、手に魔道具を持って戻ってきた。一見しただけで分かる。かなり上等だ。保有されている魔力量が半端ない。
「これを、お貸しします。協会で所持している魔道具で、非常に強力な防御結界を張れます。飛空船の結界と互いに干渉しない特別製です」
これは凄い。飛空船の防御結界と二重に張れるのか。トリアさん、奮発したな。正直、貸してもらえるのなら助かる。
「ありがたいですが、本当に借りても大丈夫なんでしょうか」
「どうぞ、お持ちください。ただ無くさないように、お願いします。紛失にだけは気を付けてください」
トリアさんの表情が真剣すぎる。やはり、それほどの物なんだな。
「ヤマトさん。感謝して、お借りしましょう。何より安全が優先です。トリア様、ありがとうございます」
「……そうですね。トリアさん。ご協力、感謝します」
「いえ、無事の帰還を祈っておりますね」
魔道具を受け取り、協会を辞する。次は飛空船発着場で、中型飛空船の登録だ。まずは漁船を停めてある場所に行く。登録所近くの、仮停泊所だ。
「これが中型船ですか。ところで船の名前は何ですか?」
「よくぞ、聞いてくれました。この飛空船の名は風雷号。船の武装である風刃翼と雷撃角から取りました」
ちなみに名前を付けないと登録できず、許可証も貰えない。ボートの登録時は、そのままボートにしてある。あのときは、登録に名前が必要だと知らなかった。
あ、整備長を発見。向こうも気付いたようだ。片手に書類を持っている。あれが登録書かな。
「ヤマト様。こちらに、ご署名をいただけますか」
「わかりました」
署名をし、登録書を返す。挨拶をしたら、立ち去っていく。普段より忙しそうにしているな。
「これで登録が済んだのですね、ヤマトさん。ところで大型船とは、どのくらいの大きさなのでしょうか? 私の目からすると、この船も十分に大きく見えますよ」
「20メートルから40メートルあたりが、中型船に該当すると聞きました。大型船はそれ以上の船みたいです」
もっとも単純に大きさだけでなく、用途や設備なども関わる。一概に言えることではない。それとカイス王国には中型船の分類がなく、書類上は風雷号も大型船になる。現場だと臨機応変に対応しているみたいだ。
そんな内容の話をすると、サクラさんは感心したように頷く。
「大変、勉強になりました」
「では格納庫に行きましょうか。少しの距離ですが、乗ります?」
「乗ります!」
軽く聞いたら、力強い言葉が返ってきた。もしかして飛空船、気になっていたのかな。とりあえず乗ってもらう。
「ここなら魔獣とも戦いやすいですね」
「今まではボートでしたから。あれと比べれば少しは動きやすくなりますよ」
中の案内は格納庫に着いてからだな。とりあえず動かそう。俺は操舵席に行き、発進させた。魔力だけで動かすのと比較したら、正規の方法で動かすと魔力消費が少ない。通常航行は、操舵席で行うつもりだ。本来の動かし方は、格納庫の資料で覚えた。似た様な飛空船があって助かったな。
「到着っと。今から船の説明をしますね」
「楽しみです!」
まずは武装を見てもらうか。
「風刃翼、展開!」
「翼が広がりました!」
「風の刃で魔獣を切り裂いたり、足場として活用したりします」
船の胴体に付けられた翼が広がる。これで、ある程度の足場ができた。注意することは、翼の形であること。長方形や正方形などの、分かりやすい足場ではない。落ちないように、気を付ける必要があった。
「次は雷撃角を見てください」
「船首に備え付けられた角ですよね」
魔力を込めると、角の周囲に雷が纏わりつく。魔獣の体内に突き刺せば、相手の動きを一時だけ止めることが可能だ。
「後は中を案内します。どうぞ、こちらへ」
サクラさんを休憩室に案内した。
「四人はベッドが使えます。雑魚寝をすれば、もう何人かは多く寝れるでしょう。調理場は基本の料理なら、おおむね作成可能です。トイレは二つで風呂もあるので長期間の航行も何とかなると思います」
「良い船ですね!」
褒められた! かなり力を入れて創造した甲斐があったな。
「これ高かったのでしょう? 今まで報酬は折半でしたが、割合を見直すべきですよね。異空間倉庫の分もありますし」
「報酬は今のまま等分で構いませんよ。新規の素材を優先して貰っていますので。役割分担と考えれば、不自然でもないかと」
ただ問題は異空間倉庫の扱いだ。魔法の安売りは、同業者から恨みを買う恐れがある。今はサクラさん達とだけ、一緒に依頼へと行っている。だから問題視されていない。別の人間と組んだとき、どうなるか不明だ。
駆け出しの時空魔導師が、買い叩かれる様な状況にはなってほしくない。簡単な対策は、固定の人員で依頼をこなすこと。だけど、それも難しい。彼女たちには、それぞれ目的がある。俺の都合だけで頼むには忍びない。
「そうなのでしょうか? 私だけでは、判断が難しいですね。ピヌティと一緒に、ご相談させてください」
「承知しました。後日、時間を取って確認しましょう」
そのあとは、細かい部分の打ち合わせだ。休憩地点の確認や、警戒の方法などを話し合っていく。
カイス王国周辺には多くの浮島があるため、休憩地には事欠かない。整備された港も、いくつかある。だけど浮島群より更に北へ行くと、休息地点が減る。余裕を持った計画が望ましい。
「これで、おおむね大丈夫そうですね」
「では明日、よろしくお願いします。サクラさん、宿まで送りましょうか?」
「いえ、お構いなく。ヤマトさんは、これから訓練ですよね。頑張ってください」
少し考える。普段の訓練時間は、もう少し後だ。ただ明日から遠出だし、今日は早めに始めて疲れを残さないようにする。夕食は訓練後か。その場でサクラさんを見送り、訓練を開始。食事に風呂、飛空船創造スキルの確認を行い床に就いた。




