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19話 浮島、二人で探索

 気付いたら、朝だった。格納庫へわずかに入る光が、今は朝だと雄弁に物語る。時刻を確認すると、約束の時まで少し余裕があった。手早く準備を済ませ、早めに魔獣狩り協会へと向かう。協会の中に入り、待合所へ足を進めた。


「おはようございます、ヤマトさん」

「あれ? ずいぶん早いですね。待たせてしまいましたか?」


 待合所には、すでにサクラさんがいた。約束した時間には、まだまだ時間があるはずだ。時間を間違えたかな。


「いえ、私が早く着き過ぎただけですので。それより今日は、どこに行きますか。いくつか候補があるみたいですよ?」

「まずは片道三時間ほどの、カイス迷宮島に行きましょう」


 迷宮島とは、おもに迷宮のある浮島を差す。世界中に多く存在するけど、カイス王国内では一つだけとなる。


「いいですね。定期船で行ったことがありますけど、初級者から上級者まで学べることがたくさんありそうでしたよ。途中には休憩できる浮島もあったはず」

「まずは迷宮島の港にある資料館を目指しましょうか。魔獣の情報が集まっているそうですし」


 行動の前に情報を得るのは基本だ。初見だと対応が困難な魔獣も存在する。後は素材の利用法なんかも重要だな。場合によっては、売るよりも自分で利用した方がいいこともありえる。


「あ、その前に依頼掲示板を見ておきましょう。俺たちに合いそうな依頼が、あるかもしれません」


 まずは常設の納品依頼を確認。需要が高くて、素材が不足しがちな物ばかりだ。次に数や期間が制限された依頼。だいたい常設よりも条件がいい。

 よほど特殊なものでない限り、多くの素材は依頼なしでも買い取ってもらえる。ただ必ず買取を行うわけではないので、あらかじめ依頼を見ておくことが重要だ。


「このあたりは魔獣退治組合と変わりませんね」

「主な魔獣と素材の名称を記録して、出発しましょう。受付に一声かけてきます」

「そうですね。特別依頼があるかもしれませんし」


 本来なら登録したばかりの魔獣狩人に、特別依頼を出すことはないだろう。ただ俺の場合は衛兵団による仮証明書の発行と、飛空船の所持がある。

 特別依頼の可能性はゼロではない。まあ、さすがに昨日の今日で依頼があるはずないな。


 ――と、思っていたんだが。


「え、依頼を紹介できる?」

「はい。しかし今すぐではなく、三日後の依頼となります。当日以外は自由に行動なさってください。協会としては、各地にある浮島の素材を納品していただければ助かりますが」


 トリアさんに話を聞くと、特別依頼を紹介できそうらしい。三日後だから依頼の予約ってことか。


「三日後に何かあるのですか?」

「カイス迷宮島へ向かう定期連絡船が、整備で欠航するのですよ。普通なら前後の日に乗るだけですが、当日に行かなければ駄目な人もいます」


 なるほど。なら依頼は人の輸送か。


「ところで、そちらの方は組合の切り裂きサクラ様ですね。ご一緒に行動されるのでしょうか?」

「今日はヤマトさんと一緒に、迷宮島へ行く予定なのですよ」


 切り裂きと言われた瞬間、サクラさんの頬が少しだけ引き攣ったように見えた。抗議しなかったのは、話の邪魔をしないよう気遣ってくれたのだろう。


「ならば、お二人で三日後の特別依頼を受けてみませんか? 個人で活動している女性の魔導行商人から依頼ですので、サクラさんが一緒なら紹介しやすいかなと」


 個人活動の行商人は珍しいらしい。正確には個人で活動を始める人も多少いる。ただ生き残れる人が少ない。特に魔導商人は魔道具を扱う。魔獣は魔力に惹かれる性質があるため、魔導行商人は極めて危険な職業だ。


「個人、女性、魔導行商人。もしかしてマリアンヌ?」

「あら、ご存知ですか? こちらはマリアンヌ・コトリロール様からの依頼となります。内容は迷宮島まで送り迎え。それと島内での護衛をすれば追加料金ですね」


 サクラさんの知り合いかな。


「すみません、ヤマトさん。ご迷惑でなければ、一緒に受けていただけませんか? マリアが無茶をしないか心配で……」

「構いませんよ、魔導行商人というのも興味ありますし」


 飛空船と異空間倉庫を合わせると、結構な量が積載できるんだよな。行商なども可能かもしれないし、話を聞いてみたい。


「ありがとうございます」

「それじゃ今日は予定通り迷宮島に行きましょう。航路の確認もしたいですし」

「お二人とも、気を付けて行ってらっしゃいませ」


 俺とサクラさんは、トリアさんに特別依頼の予約をしてから協会を辞した。まずは格納庫に向かい、飛空船の準備だ。二人でボートに乗って、格納庫の外へ出た。所定の場所から出なければ、港から出発することはできない。




 係員に許可証を見せて、港町の外に出た。カイス迷宮島へは、真北にまっすぐ。方位魔導針を見ながら進んでいく。船首側にサクラさんが立ち、前方の警戒を引き受けてくれた。


「サクラさん、気分が悪くなったりしていませんか?」

「問題ありません。良い天気で、気持ちいいくらいです」


 出発して二時間ほど。順調な空旅だったな。一度だけ空魚に襲われたが、無難に対処できた。魔力食いだったら、緊張しただろうけど。

 しばらく進んでいると異変が起きた。サクラさんから、前方に魔獣が見えるとの知らせだ。


「魔獣! サクラさん、見覚えはありますか!?」

「あれはレッサーヤクルスです! 普段は陸地で生活し、滅多に空へは出ないはずなのに?」


 前方から魔獣がやってくる。その姿を一言でまとめると、羽のある蛇だ。かなり大きく、子供なら一飲みにできそう。油断はできない。


「顕現せよ、凍てつく槍!」


 氷の槍を撃ち出す魔法である。慎重に射出の機会を窺う。サクラさんによると、耐久力は高くないらしい。上手く当たれば、一撃で倒せるかもしれない。


「発射!」


 羽ある蛇の胴体に命中。だけど倒せない。まっすぐ、突っ込んでくる。飛空船を横にずらし、回避した。レッサーヤクルスは船の後方にいるはずだ。


「百八十度旋回! サクラさん、正面に魔獣がいるはず! 頼みます!」

「お任せください!」


 その場で飛空船を旋回させる。船首の正面にレッサーヤクルスを捉えた。そこでサクラさんが、魔力を込めた刀を用意している。


「切り裂く!」


 胴体部分を横一文字に一閃。魔獣は力尽き、肉と魔石を落とした。


「迷宮外なのに、魔石を落としましたか」

「たまたま、なんでしょうか。あ、すぐに進行方向を戻しますね」


 迷宮内の魔獣を倒すと、高確率で魔石や素材を落とす。だが迷宮外の魔獣だと、魔石へ結晶化するだけの魔力が足りないことがある。その場合は、死体だけが残ることになる。解体すれば肉や素材を回収できるけど、結晶化したときに比べ大きく質が劣る。

 少し気になるのは、町に戻る途中で討伐した魔獣の多くが結晶化したことだな。ピヌティさんに頼んで、衛兵団にも報告してある。ただ現状では、偶然の可能性も高い。


「今は考えても仕方ありません。ヤマトさん、予定通りに行きましょう」

「そうしますか」


 レッサーヤクルスの素材を倉庫にしまい、再び迷宮島を目指す。あれ、ちょっと待て。レッサーヤクルスというと、昨日の昼食で食べた魔獣だよな。蛇の肉だったのか。……まあ、美味かったら良し。


「島が見えてきました! すぐに上陸しますか?」

「サクラさん、少々お待ちください」


 現在の時刻を確認する。ここまで掛かった時間は、三時間弱ほど。途中で空魚や魔獣に遭遇したことを考えれば、予想より少し早い。ただ飛空船で島を一周できるほど、時間の余裕はないか。できれば外観を見たかったけど、仕方ない。


「このまま上陸しましょう」


 飛空船の速度を落としながら、進んでいく。少し進むと、魔力の質が違う場所に気付いた。そこが港の入り口だろう。結界と衝突しないよう、慎重に船を飛ばす。もっとも大型船が通れる入口なため、小型船なら余裕で進むことができた。




 港には停泊所を含め、いくつかの施設があった。ただ規模は小さい。村とも言えないほどだろう。係員に料金を払い、停泊許可証をもらった。料金は王都と同じで500エル。カイス王国内だと、どこも同じらしい。

 船を停泊所に残し、施設の集まる場所へと向かう。少し考えたが、異空間倉庫は使わないことにした。過去に倉庫を使っていた人の記載では、港の係員から不興を買うみたいだ。


「サクラさんは、ここに来たことがあるのですよね。資料館はどこでしょう?」

「着いて来てください。こっちですよ」


 先導をサクラさんに任せ、後を着いていく。見た範囲で大きい建物が、いくつかある。おそらく、そのどれかだろう。

 案内されたのは、かなり立派な建物。受付に魔獣狩り協会に所属していることを伝えて、中に入った。色々と確認したいことがある。

 サクラさんも、少し調べたいことがあるらしい。中で別れ、一時間後に合流することにした。俺が調べるのは、迷宮島の地理や生息する魔獣が中心。島の歴史などにも興味はあるが、それは時間に余裕があるときだな。


 この迷宮島は、思ったより大きかった。三種類の迷宮があって、それぞれ迷宮の近くに町がある。しかも町の一つには、飛空船の製造工場があった。魔獣の素材を利用するために、迷宮の近くへと建てたらしい。

 島に生息する魔獣の種類も多い。その内の何種類かは、討伐したことがあるな。できれば一通りの魔獣を狩り、素材を収集したい。


 そろそろ合流する時間だ。資料は持ち出し禁止のため、棚に戻そう。合流場所は資料館の入り口前。外に出ると、すでにサクラさんが待っていた。約束の時間には間に合っているな。


「ヤマトさん、調べ物はどうでした?」

「なんとか最低限のことは分かりました。サクラさんの方はどうでしたか?」

「こちらも似たような感じでしたよ」


 資料の話は置いといて、今後の予定を相談する。四時間ほど掛け、島内の探索をすることにした。迷宮には入らない。先に島の様子を見るためだ。

 停めていたボートに乗り、島内を進む。

 いきなり森や山を目指すのは危険だ。調べたところ、厄介な魔獣が多く生息している。しばらくは草原を中心に行動しよう。辺りを見回しながら進むと、上空から強い魔力を感知した。


「結界強化!」


 とっさに飛空船の防御結界を強化した。魔力の塊は結界に接触した瞬間、消滅。しかし結界の魔力も消耗。連続で受けると、危険だな。魔獣の姿を確認しようと、上空に視線を向けた。燕のような鳥がいる。


「あれは首狩り燕です! ヤマトさん、お気を付けて!


 資料に要注意と記載されていた魔獣か。特徴は高い敏捷性と風魔法。遠距離から牽制の魔法を放った後、高速度で接近。風魔法により刃と化した翼で、獲物の首を切断する習性がある。特に子供、次いで女性が標的にされやすいらしい。


「サクラさんなら、接近時に当てられますか?」

「無論です。必ず切り裂いてみせます!」


 俺の近接戦技術だと、高速で移動する相手に攻撃するのは難しい。だけど魔法で攻撃するのも、無駄撃ちが多くなりそうだ。

 敵の魔力は高くない。俺の防御魔法なら、一度や二度は確実に防げる。


「では次に風魔法を防いだら、船の結界を弱めます。魔獣が近づいたら、攻撃してください。それとサクラさん自身に防御魔法を掛けます。感覚の違いに注意して、行動を」

「承知しました」


 この後に使う防御魔法は、魔力で不可視の鎧を創り出す。身体強化魔法と違い、感覚のずれは大きくないはず。それでも多少の違いはあるため、あらかじめ伝えておく。後は首狩り燕の行動に注意を払う。


 ――来た、風魔法だな! 飛空船の結界で難なく防ぐ。同時に、結界を弱めた。目論見通り、魔獣が近寄ってくる。やはり狙いはサクラさんだ。


「魔力よ。不可視の鎧になりて、信置く者を守れ!」


 燕が近付き過ぎる前に、問題なく防御魔法が発動する。と、そこで魔獣は軌道を変えた。俺に向かい、一直線に飛んでくる。


「まさか防御魔法に気付いた!?」


 おそらく以前に防御魔法を見た個体だろう。学習した結果、このままでは獲物の首を刈れないと判断したのだと思う。


「大丈夫です! お任せください! 秘刀術、雲刃飛動!」


 サクラさんの斬撃。明らかに刀身が届かない位置にいる魔獣を切断する。無事に倒せて良かった。


 それからも島の探索は順調に進んだ。主な目的は魔獣の素材だけど、食べられる野草や果物も見つけた。取り過ぎないように注意しながら、ありがたく採取する。魔獣は思ったより多く遭遇した。飛空船の魔力に反応しているのだろう。囮として使えるかもしれない。

 約四時間で相当数の素材を入手した。遭遇した魔獣で気になったのは、再生羊(さいせいひつじ)空蜥蜴(そらとかげ)あたりだろうか。どちらも有用な素材が入手できた。


「サクラさん、そろそろ戻りませんか」

「そうしましょうか。空旅で完全に日が落ちると危険ですし」


 飛空船に乗って、港へと戻った。出発したのは早朝だったため、日没まで多少の時間がある。少しだけ休憩してから、王都へと戻る船を出す。

 帰りの空旅は、何事もなく進んだ。魔獣や空魚にも遭遇しない。それでも王都に着いた頃には、すでに日が暮れていた。


「それでは、また明日。ゆっくり休んでくださいね、ヤマトさん」

「ええ、サクラさんも。今日はありがとうございました」


 協会の受付で素材の納品予約をして、今日の探索は終了だ。明日は朝から素材を確認してもらう。町に来る途中の分を合わせると、結構な量があるな。少し時間が掛かるだろうし、予約して時間を取ってもらった。


 明日は納品と訓練で一日を使うつもりだ。今日の魔獣狩りで、近接戦の必要性を実感できた。魔法のみで倒し切れない魔獣が多々いたのだ。

 明後日は休みにして、三日後は特別依頼か。とりあえず格納庫に戻ろう。

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