18話 商店街、二人でお出かけ
飛空船発着場を出た俺とサクラさんは、そのまま商店街の方へ進む。いくつかの店をのぞきながら、最初の目的地に着いた。初老の男性が営む雑貨店だな。ここの商店街では、お年を召された方が多いらしい。
雑貨店に入ると、店主が視線を向けた。だが何も言わない。それでも、わずかに頷いた。今のは、挨拶だったのだろうか。一応、会釈を返した。
「ここの店主さんは少し無愛想かもしれませんが、とっても良い人なんですよ!」
「そ、そうなんですね」
少し愛想が無いというか、欠片も愛想が無さそうなんだけど。店内を見ていると白い手拭が目に留まった。
「そうだ。手拭を買っておかないと」
「もしかして手持ちは、全て黄色の布ですか?」
「ええと、少しだけ他の色があります。でも足りなくなるかもしれません」
黄腕党の影響は、しばらく続くだろう。ここで黄色の手拭なんか使っていたら、あらぬ誤解を受ける。白い布を買っておこう。急ぎで買う物は、他になさそうだ。白い手拭いを店主に渡す。告げられた代金を払おうとして、値札の価格よりも安いことに気付いた。
「あんた、嬢ちゃんの友人だろう? まあ、仲良くしてやってくんな。値段は少し負けといた」
商品を受け取りながら、店主の言葉を聞いた。礼を言って、外に出る。支払いがステータスカードで可能なのは便利だ。それからも商店街を進んでいくと、当初の目的である青果店に着く。
「この青果店が私のオススメです! とくに果物類が豊富で、よく買いに来ます。お爺さんとお婆さんが営む店で、お孫さんが栽培した作物を売っているそうです」
「色とりどりの作物が並んでますね」
本当に、様々な色の野菜や果物がある。紫色の毒々しいキュウリらしき野菜は、本当に食べられるんだよな?
「おや、サクラちゃん。いらっしゃい。今日は、お友達も一緒かい」
「こんにちは、お婆さん。今日、この町に来たヤマトさんです」
「ヤマトと言います。初めまして」
軽く頭を下げ、挨拶をする。
「よく来なさったねえ。ゆっくり見るがいいよ」
「そうだ。お婆さん、青生姜を一つもらいますね」
サクラさんは、一個の野菜を購入した。青生姜と言ったよな。まあ、生姜に見えなくもないか。全体が緑色だけど。
「一口、どうぞ。そのまま食べられますよ」
「い、いただきます」
青生姜の端を折り、こちらに差し出す。ちょっと、辛い。だけど、だんだん甘くなる。不思議な味だ。でも美味い。お茶請けや酒の肴に合うな。後で俺も買おう。
「美味いですね。それに味の変化が楽しい」
「分かります。飽きない味なんですよね」
話をしながら食材を眺める。半分くらいは全く知らない物だ。食べ方や調理法を聞きながら、買う物を選ぶ。保存期間を聞くのも忘れない。当初は日帰りの行動をするつもりだが、そのうち長期間に渡る魔獣狩りへと向かうつもりだ。食べようとして腐ってました、となったら洒落にならない。それと青生姜も忘れずに買った。
「たくさん買いましたね!」
「近いうちに少し遠出をするつもりですから。保存できる食材は、いくらあっても困りませんよ」
食材を長持ちさせる方法が聞けたのは助かった。当初の目的だった新鮮な野菜や果物も十分に買えたし、良い店だった。
「ところで、まだ時間は大丈夫でしょうか? この近くに良い喫茶店があります。ご一緒にどうですか?」
「時間は問題ありません。少し休憩しましょうか」
サクラさんの案内で喫茶店に向かう。落ち着いた雰囲気の外観だ。中に入ると、ちらほらと客がいる。座席の間隔は広めに取っており、収容人数は少なそうだな。だけど、その分ゆっくりできそう。
「ここは紅茶と軽食のセットが、お勧めですよ」
「なら、それにしますか。あ、軽食が選べますね」
一部を除いて、軽食のメニューは見覚えのある品が多いな。しかし茶葉の名前は分からないのが多数あった。紅茶には詳しくない。俺が知らなかっただけか、この世界の特有品かも不明だ。サクラさんは、店のオススメを選ぶ。俺もそうするか。あとは軽食だな。お、良さそうな菓子を見つけた。
「私は羊羹にします」
「俺は浮島にするつもりです。明日から浮島に行くし、縁起担ぎでしょうか」
浮島へ行く前に、浮島を食べる。自分の中で、恒例行事にしようかな。
「それなら浮島二人用セットを頼みませんか? 近くの浮島を参考にして、作ったみたいです。私も食べたくなりました」
「いいですね。それにしましょう」
注文を伝えると、さほど待つことなく菓子が出される。皿に乗せられた浮島は、一つ一つ形が異なる。近隣の浮島を模しているとのことだ。見た目でも楽しませてくれる。味も良い。餡だけでなく生地もしっかり美味い。紅茶との相性も抜群だ。
「これを選んで正解でした。本当に美味い」
「気に入ってもらえて良かった。この店の軽食は、どれも美味しいのですよ」
「紅茶も尽きましたね。そろそろ出ましょうか」
町を案内してもらった礼に、支払いを受け持った。店を出ると、辺りは夕暮れに染まっている。もう、こんなに時間が経ったのか。少し長く居すぎたな。
「今日はありがとうございました。良い食材も買えたし、助かりましたよ」
「いえ、私も楽しかったです。人と店を巡る機会は多くありませんので」
サクラさんも楽しかったなら良かった。
「あの、それで、ヤマトさんは、近くの浮島に行くのですよね?」
「ええ、近い内に行きますよ。早ければ明日にでも」
なんだろう。何か言い淀んでいるな。
「そのときにですね。私とピヌティを、一緒に乗せてもらえませんか? 代わりに護衛や見張りなどを行いますので」
「構いませんよ。島まで行く際に、警戒役がいると助かりますし」
戦闘に長けたサクラさんと、探索に長けたピヌティさんが一緒なら心強いしな。あ、待てよ。それなら早めに中型船を創造しておくか。
「ありがとうございます! まだまだピヌティは自由に動けませんので、しばらく私だけ一緒に行かせてください」
「では明日の朝、魔獣狩り協会で合流しましょうか」
もう協会の通常業務は終了する時間だ。
「明日は、よろしくお願いしますね」
サクラさんは丁寧に頭を下げ、立ち去っていく。ここは宿泊場所に近いらしい。発着場の格納庫に戻るか。スキルを試してみたい。夕闇迫る町の中を、ゆっくりと歩いていく。芸術はよく分からないけど、良い景色だと思う。完全に暗くなる前に格納庫に到着した。ただ中は暗い為、光魔法で灯りを用意する。
「今から人型の飛空船創造を行う」
そう、人型の飛空船だ。言葉に出して言ったのは、自分を騙す為である! 船というのは人を運ぶ乗り物の総称。人型兵器は、人を運べる。つまり人型兵器は船。
飛空船は、空を飛ぶ船。人型兵器は、空を飛ぶ。立派な飛空船だ! ちょっと、苦しいような。いや、大丈夫。いける。
「人型飛空船、創造!」
魔力が失われていく。――――――――は。ここは、どこだ。辺りは真っ暗だ。あ、分かった。人型飛空船を創ろうとしたら、意識を失ったのだ。原因は魔力切れだろうな。俺は疲れた体を動かし、魔導灯を起動した。辺りに光が満ちる。
時刻を確認すると、二時間近くも倒れていたことになる。真っ暗になるはずだ。ひどい空腹を覚える。食事にしよう。ただ手の込んだ料理を作る気にはなれない。簡単に食べられる物を教えてもらったし、それにしよう。
「はあ、美味かった」
食事を終えて、お茶を飲みながら一息つく。ちなみに酒は飲まなかった。全身に疲労が回っているせいか、今は飲む気分ではない。それと金の都合だ。酒代が払えないほど困窮しているわけではないが、節約する必要があるだろう。次に飲むのは一仕事を終えた後だな。それまでは禁酒しよう! いや、順調にいけば明日なんだけど。
しばらく休んだあと、木刀の素振りを始めた。魔力を込めて、じっくりと木刀を振る。少ない魔力での素振りは、それはそれで訓練になるか。一人旅の途中では、訓練の時間を取るのが難しい。夜襲を警戒しないと、いけないからな。
訓練を終えれば、風呂に入り寝る準備だ。そして就寝の前に、言語の勉強をしておく。翻訳魔法だけに頼るのは怖い。だけど疲れもあって、勉強は捗らなかった。早々に区切りを付け、睡眠を優先する。




