17話 修復、飛空船
しばらく歩き、飛空船発着場に到着した。契約時に貰った登録許可証を見せて、格納庫へと向かう。部屋の準備も終わり、すぐにでも使えるとのことだ。
「ここに来るのは久しぶりですね」
「以前にも来たことが?」
「この国に入るとき、この発着場で降りたんですよ」
なるほど。おお、人型兵器……人型の飛空船が増えている。俺の視線を追って、サクラさんも見たようだ。
「人型飛翔機がありますね」
「好きなんですよ、ああいう人型の飛空船」
「飛空船? あれは船なんでしょうか?」
やはり関係者以外は、船と認識していないのか。だけど退くわけにはいかない。飛空船でなければ、スキルで創造できないから!
「ここにあるのは全て船になります。いずれは人型飛空船も手に入れたいですね」
「手に入ったら、乗せてくださいますか?」
「もちろんですよ! サクラさんも、お好きでしょうか?」
少し意外な気がする。
「ええ。小さいころに空を飛んでいる姿を見てから、好きになったのですよ。でもピヌティは良さが分からないと言っていました。変わり者ですよね」
いや。変わり者は、どうなんだろう。人型飛空船に興味が薄い人も多いと思う。飛空世界の価値観だと変わり者なのか?
「着きました。今、開けます」
「中、船はありませんね」
許可証が扉の鍵となっている。接触式で、問題なく開いた。それから、音声にも対応しているらしい。飛空船に乗りながら、扉の開閉ができるようにだ。
「異空間倉庫に収納しているのですよ」
さて、今は船ではなく素材だ。一角鹿の素材は、イカダにも積んである。一度、整理しないとな。まず一角鹿の素材を全て出すか。飛空船召喚と異空間倉庫魔法を使用して、素材を並べる。
「近くに置いたのが手持ちの一角鹿素材、奥の方が道中で入手した物です。必要なだけ、お渡ししますよ。他の素材は後で出しましょう」
「凄い量ですね。これを頂けるなら途中で入手した他の素材は、全てヤマトさんが利用してください。念のため、ピヌティにも確認してもらいます」
上手く話がまとまりそうだな。
「後はピヌティさん次第ですか。今は忙しいと聞きましたけど、いつ頃に会えそうでしょうか?」
「報告が一段落したら、協会に顔を出すと言っていました。ヤマトさんに協力していただいた件もありますし、夕方には会えるでしょう。ところで格納庫のことは、協会に報告しましたか?」
「してありますよ」
宿泊場所を兼ねているからな。速やかに報告した。嫌疑をかけられたくない。
「それなら待っていれば、ピヌティが訪ねてくるはずです」
下手に動くよりも、待っている方がいいか。空いた時間をどうしよう。やはり、先に飛空船を修復したいな。ただ素材の分配は完了していない。相談してみるか。
「すみません、サクラさん。一部の素材を先に使わせていただきたいのですけど、構いませんか? できれば今日中に、飛空船の修復を終わらせたくて」
「私が一緒に見て、使用した素材の記録を残せるなら大丈夫ですよ」
助かる! サクラさんに厚く礼を言って、修復用素材を取り出していく。初めて討伐した魔獣が五種類、新規入手の素材は十種類を超える。こちらでも記録を取りつつ、確認してもらった。
「倉庫、開け」
異空間倉庫を開くふりをしながら、手漕ぎボートを召喚する。当然、動かない。ボートに手を触れ、意識を集中していく。なんとなく船の状態を理解した。魔力が完全に枯渇している様子である。魔力を吸収して動力へ変換するのにも、わずかな魔力が必要となる。
今の状態では、どんなに魔力を注いでも動かない。ならば、どうするか。飛空船同士を魔力で接続し、片方を活性化させることでボートを目覚めさせよう。
「開け、倉庫」
ボートに続き、カヤックを出現させた。まずこちらを活性化させる必要がある。そこで、新規の素材を使う。飛空船を強化するとき、間違いなく船は活性化する。それも多ければ多いほど、いいはず。
「少し離れてください」
「わかりました」
サクラさんに一声かけて、意識を集中する。最初にカヤックの中に強化用素材を置く。せっかくなので、全種類を投入しよう。そして、カヤックとボートの両方に手を触れる。
「飛空船、強化!」
素材が力に変わり、カヤックの内部へと取り込まれていく。想定通り船が活性化している。力の流れを意識し、ボート全体に魔力を注ぎ込む。だが想像以上に力の流れが大きい。これは、まずいかも! 苦戦しながらも、何とか魔力を操作する。よし、完了! 一瞬、ほんの一瞬だが、意識を手放したみたいだ。
「ヤマトさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫、問題ありませんよ」
不安そうに、サクラさんが声を掛けてきた。少し、心配を掛けたかもしれない。悪いことをしたな。
「さて、これで修復は完了したはずです。動かしてみますね」
ボートに乗り、軽く動かしてみる。前と同じように、いや、それ以上によく動きそうだ。一つ上の階梯に上った、そんな気がする。今なら中規模の飛空船も創造ができると思う。強化素材を奮発して正解だったな。
あとはイカダの動きも確認したい。素材を用いた強化では、創造した船の全てに有効だ。おそらく船を通して、飛空船創造スキルを強化しているのだと思う。その結果として、全ての船が強化されたことになる。
「どうでしょうか?」
「前より良い感じですね。このまま試運転に行けないのが残念に思いますよ」
ピヌティさんと合流する必要があるからな。さすがに試運転は後回しだ。
「ところでヤマトさん。お疲れの様子ですし、休憩してはいかがでしょうか?」
「確かに疲れました。少し休みます」
幸い、すでに部屋は使えるのだ。荷物の中に緑茶がある。お茶の時間にしよう。保存の効く菓子もあったはず。
「あら緑茶でしょうか? この国では珍しいのですよ。ありがとうございます」
「やっぱり、珍しかったんですね」
どうやら喜んでくれたようだ。道中では魔獣の警戒に、賊の監視と心休まる暇が無かったからな。落ち着いて、お茶を飲む時間は貴重だ。
「それにしても、上手く話がまとまりそうで助かりました。ピヌティから聞いた、昨日の助言が役に立ったのでしょうか」
「助言ですか?」
へえ。ピヌティさんの助言ね。興味あるな。交渉術か何かだろうか。
「なんでも異性と交渉をするときは、まず食事に誘うといいみたいです。その後は個室で二人きりになれる場所を選び、本題を切り出すと。殿方を食事に誘うなんて初めてで、とても緊張しました」
「それ、俺に言っては駄目だと思いますよ」
「え?」
不思議そうな顔をされても困る。
しばらく雑談していたら、部屋の通信設備へ連絡が入った。組合からの依頼で、ピヌティさんが来たみたいだ。こちらに通してほしい、と伝える。
「ヤマト殿、待たせてしまったようだな」
「いえ。お忙しいところ、すみません」
さっそく本題に入るようだ。そういえば、さっき組合からの依頼と言っていた。
「ボーロング・ベアムン捕獲と護送だが、臨時依頼として報酬が出る。金額は二万エル」
「ピヌティ、安すぎるのでは? 魔力狂走薬を使った黄腕党幹部の捕獲ですよ? 護送により、数日間の拘束も発生しています。さらに洗脳の解除は、とても大きな功績でしょう」
サクラさんが眉をひそめて話し掛けた。
「私も同感だがな、上の決定だ。魔獣狩り協会へ入る人間に対し、表向きの功績を認めたくなかったのではないか」
「それで働きを正当に評価しないのは、問題があると思いますが」
このままだと、二人が言い争いになりそうだ。俺のことでもあるし、上手く話の流れを変えよう。
「表向きの功績が駄目なら、裏の功績はどうなんでしょう?」
「私とサクラへ幹部捕獲による功労報酬金が出るそうだ。三人分くらいの金額で、分配は任せる。特別予算からの出費で、税金は掛からない」
つまり表向きの功績は無いけど、裏では金を払うと。金額にもよるけど、名より実を取ると考えれば悪い話ではないな。
「はあ。すみません、ヤマトさん。功労報酬は必ず分配しますので」
「構いませんよ。今は金銭の方が、ありがたいですし」
「面倒を掛けて済まないな。こんなこと、以前は考えられなかったんだが」
ピヌティさんは疲れた様に、溜息を吐く。なんでも最近、協会と組合の支部長が対立しているらしい。
「元々は仲の良い二人だった。はっきり言うなら、男と女の関係だ。トップ同士の交際に、問題視する声はあったな。しかし二人とも公私混同することなく、上手くやってきていたんだ。今までは」
協会の支部長は女性なんだな。最近になって問題が発生か。黄腕党関連の対応が忙しくて、すれ違いが生まれたのかもしれない。
「ところが少し前、協会支部長が謎の女と会っているのが目撃される。さらに組合支部長も、謎の男と会っていた。場所は共に、隠れ宿の近く」
「まったく恋人がいるにも関わらず、嘆かわしい」
サクラさんが憤慨している。
「それ以来、不自然な命令が混じるようになった。相手組織と協力しても、功績は渡さないとかな。これが続くようなら、二人の支部長解任もありえる。他の者も、解任後のことを考え始めているようだ」
「少しだけですが、お話しさせていただいたことがあります。二人とも真面目で、尊敬に値する方だったんですよ」
憤慨していると思ったら、今度は悲し気な表情を見せる。第一印象とは違って、表情豊かな人なんだな。どんな表情でも、絵になっているのは凄い。
「すまない、話が逸れてしまった。ヤマト殿、素材はどうなった?」
素材の分配について、サクラさんとの話を簡潔に伝えた。一角鹿の素材と、それ以外の素材で分け合うと。実際に物を出しながら、説明していく。
「ありがたい! すぐに回収しても構わないか?」
「構いません。受け渡し場所まで、運びましょうか?」
結構な量だし、一人で回収は困難だよな。
「それには及ばないよ。倉庫袋を持ってきた。自前ではなく、魔獣退治組合からの借り物だが。いずれは自分専用の袋も欲しいものだ」
ああ、異空間倉庫袋か。あれは便利だけど、やたらと高いらしい。容量や機能によって価格が変わるが、最小限の容量・機能でも飛空船が購入できるくらいか。
「その前に報酬を渡しておこう。現金で払うように言われている。確認してほしい」
ピヌティさんから封筒を受け取る。中に入っているのは、共通貨幣だな。世界のほぼ全域で使える金だ。1万エル紙幣が2枚。間違いない。封筒の中には、受取証と控えが入っている。
「確認したら、署名を頼む」
「了解です」
この町に来て署名するのは初めてか。ステータスカードが署名の代わりになっていたからな。便利な反面、少し怖い気もする。
署名が終わりピヌティさんを見る。量が量だけに、まだ作業中だ。手伝おうとも思ったが、素材を確認しながら収納している。袋に入れず、横へ置いたものが少しあった。おそらく納品可能な質に満たなかったのだろう。おとなしく、終わるのを待つか。
「これで最後か。ヤマト殿! 予想以上に、質の良い素材が集まった。礼を言う」
「お役に立てたなら何よりですよ。残った素材は、どうしますか?」
「時間が経ち過ぎたのか、劣化していた素材だな。値は少し下がるものの、普通に売る分なら大丈夫だ。お返しするよ」
やはり低品質の素材だったのか。
「さてと、私は組合に戻らせてもらう。さっそく納品の手続きをしてくる。これは特別依頼だからな、優先対応となるだろう」
「私も一緒に戻りましょうか?」
「いや、私だけで構わないよ。サクラは休暇になったんだろ。楽しむといい」
ピヌティさんは戻るのか。サクラさんは待機から休暇になったのかな。
「それなら、お言葉に甘えさせてもいますね。明日からは、しばらく別行動です。気を付けてください」
「ああ、そちらもな」
軽く挨拶を交わし、ピヌティさんが外に出る。サクラさんは、どうするのかな。俺は買い出しだ。できれば案内を頼めないだろうか。聞いてみよう。
「今から買い出しに行くのですけど、店の案内を頼めませんか?」
今日の予定が無いことは、茶飲み話の最中に聞いている。協会で案内書は貰ったけど、複数の視点から店を探すのも重要だろう。
「もちろん、大丈夫ですよ! 行きましょう!」
「あ、ありがとうございます」
思った以上に乗り気で応えてくれた。ありがたい。
「何を探しに行かれますか?」
「食料がほしいです。とくに新鮮な野菜や果物を。それから、雑貨店に行きたいと思います」
最後に食料を買ったのは、十日以上も前になる。新鮮な食材は、ほとんど残っていない。買い足しておきたい。
「お任せください。良い店を知っていますよ」
サクラさんの先導で、食料品店へ向かうことにした。




