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16話 面談、ヤマトとサクラ

 飛空船発着場を出て、魔獣退治組合を目指す。目的は、サクラさんとの面会だ。道中で獲得した素材の分配について話し合う。


 その前に魔獣狩り協会に行き、宿泊場所が決まったことを報告しておく。これは協会員の義務で、現在の宿泊地を伝える必要がある。罰則もかなり重い。宿泊所を変更して報告を忘れた場合でも、降級や罰金の対象となる。虚偽の報告をしたら、詐欺罪や内乱予備罪が適用された例もあるらしい。

 協会や組合の身分証は申請だけで簡単に入手できる。放置すれば犯罪に走る(やから)をまとめて把握するためだ。反面、管理には厳しい。現住所の報告は、会員の把握に必要不可欠。ゆえに虚偽の報告は、厳しく罰せられる。


「宿泊場所の報告に来ました。登録お願いします」

「かしこまりました」


 よし、報告終了。受付にトリアさんの姿は無かった。別の場所で仕事しているか休憩中なのだろう。休日ということもありえるか。今の時間帯は人が少なく、並ぶことなく報告を済ませることができた。次は正面にある組合へ向かう。


「……いらっしゃいませ。ご依頼ですか?」

「組合員のサクラ様と面会の約束をしております。お呼び出し願えるでしょうか。素材の相談でヤマトが来た、と伝えていただければ分かると思います」


 俺はサクラさんの家名を知らない。こちらも姓を名乗っていない。この世界では自己紹介の際、家名を名乗らないのが普通だ。ソウルスキルは遺伝しない。だから家名は不要と探求者が判断した。とはいえ今まで使っていた家名を即座に捨てろ、というのは少し横暴だ。長い年月の末に、家名は存在するけど率先して名乗らないという風潮ができあがった。


「……今、確認します」


 受付の対応をしているのは、やる気が無さそうな青年だ。あ、魔導通信機を取り出した。そのまま通話している。


「あー、切り裂きサクラ様ですね。ヤマト様が面会に来ています」


 家名の代わりとして、よく使われるのが通称だ「。二つ名と言えば分かりやすいだろうか。本人の容姿や行動を基に広まっていく。サクラさんの場合は、戦闘時の行動だと思う。刀を使っているし。聖化粧なんて珍しい魔導技術を使っているのに二つ名が「切り裂き」なのは気にしないことにしよう。


「……すぐに来るそうです。お待ちください」

「ど、どうも」


 本人確認とかしなくて大丈夫かな。なりすましとか来たら、どうするんだろう。まあ、話が早くていいか。近くの椅子に腰掛けて待つ。意外と座り心地が良い。


「ヤマトさん! お待たせしました」

「そんなに待っていません。素材の相談に来ましたが、時間は大丈夫でしょうか」

「今は手が空いていますから、当初の予定より時間は十分にありますよ」


 黄腕党が生け捕り最優先になったから、予定が空いたのだろうか。


「あ、あの良ければですが。食事しながら、お話しませんか?」

「ぜひ、そうしましょう」


 頬を染め、恥ずかし気な様子で食事に誘われた。まあ、話の内容は仕事の件だけどな!


「ヤマトさんは町に来たばかりですよね。私の知っている場所でいいですか?」

「ええ、構いませんよ。案内、お願いします」




 俺はサクラさんに連れられて、一軒の飲食店に行った。清潔感が溢れる小洒落な店だ。一人だと少し躊躇したかもしれない。


「良さそうな店ですね」

「そうでしょう。きっとヤマトさんも、お気に入りの店になりますよ」


 中に入り、店員さんの案内で席へと案内される。サクラさんは個室を指定した。金銭に関わる話だし、妥当な判断だろう。


「先に注文を済ませましょう」

「品書は、これですね」


 せっかくだし、今まで食べたことのない料理を選ぼう。少し考え注文を決めた。サクラさんも決まったようだ。店員を呼び、注文を伝える。軽く雑談をしながら、食事が届くのを待つ。


 さほど待つことなく、注文した品が届く。サクラさんが頼んだのは、笹食い狼の肉野菜炒め丼とミソスープ。笹を食べる狼、草食なのだろうか。そして俺が頼んだのはレッサーヤクルスの塩焼き定食。見た目は肉みたいだけど、よく分からない。ライスとスープ付きで、わりと量がある。


「レッサーヤクルスって何だろう? まあ、食べてみるか」

「この大陸や近くの浮島に生息する魔獣ですよ」


 魔獣だったのか。品書には食材の名称と調理法のみが書かれていた。この国では一般常識なのかもしれない。他の定食より少し安かったし、この辺りで多く捕れる魔獣かな。とりあえず食べよう。


『いただきます』


 あ、サクラさんと被った。道中でも思ったけど、日本と似ている習慣が結構あるのだよな。まずはスープを一口。良い味だな。野菜の甘味も、いい仕事している。そしてレッサーヤクルスの味は、と。鳥肉みたいな味だ。しっかり塩が効いていてかなり美味い。大当たりだな!


「ヤマトさん。本題に入りましょう」


 食事が終わり、改めて話を始める。この店は長時間の座席占有も、好意的に認められていた。ただし混雑時は別らしい、まあ当然か。さてと、これから重要な話をする。意識を切り替えよう。議題は素材の分配だ。ここは変な駆け引きをしないで直球勝負といこう。


「こちらの要望としては、素材の種類を多くほしいです。代わりに素材の全体量は減らしても構いません」

「承りました。その前に確認しますが、本当に三等分でよろしいのですね?」


 俺は、はっきりと頷いた。三等分にするのは、あらかじめ三人で決めておいた。入手した素材量から考えると、異空間倉庫の使用が前提となる。倉庫が無ければ、全て持ち帰ることは不可能だったからだ。それを理由に配分率を有利とすることも主張できたが、考えたうえで三等分にすることを提案した。


 ただ異空間倉庫を安売りするつもりはない。他の時空魔導師にも迷惑が掛かり、ひいては自分の首を絞めることに繋がる。三等分にする代わりとして、情報提供を頼んだ。遭遇した魔獣の詳細や、素材の活用方法だ。後は三等分の内容について、議論すれば話は終わりとなる。


「構いません。あらかじめ決めておいたことですので」

「感謝します。まず全種類の素材を一つずつ、お持ちください」


 これは本当に助かる。最も強化率が高くなるのが、最初の一つだからな。


「その他の素材ですが、ご相談があります。残った一角鹿の素材は、こちらで全て引き取らせてほしいのです」


 一角鹿は珍しい魔獣ではない。この大陸周辺でも多く生息している。何か理由があるのだろうけど、少し気になるな。


「問題がなければ、理由を教えていただけますか?」

「実はピヌティの伝手で、貴族発注の特別依頼を受けているのです。その内容が、一角鹿の素材を大量に納品すること」


 特別依頼は、信頼のおける者にだけ来る仕事だ。ピヌティさんは素材の目利きが得意らしいし、その技術を買われた可能性もあるな。何度か魔獣狩り協会から引き抜きの話が出ているとか。


「我々の受け持ち分は納品したのですが、黄腕党の対処に追われ未納となっている案件があります。追加の納品が可能で、よろしければ譲っていただきたいのです」


 また一角鹿の素材を抱え込んでいた貴族一党が捕まったらしい。黄腕党の一人が代表当主を排除。貴族の屋敷を調査したら、詐欺・横領・脅迫・違法な重課税などその他諸々の常習犯。素材も証拠品として押収され、すぐには動かせないそうだ。貴族一党は全ての権限を剥奪された。取り潰される貴族家も、一つや二つでは済まないとのこと。


「それなら問題ありませんよ」


 俺が持っていても、納品できるわけではない。特別依頼の話が来るには、実績も信頼も足りなさすぎる。あ、ちょっと待った! 良い案を思い付いた!


「ところでサクラさん。俺の手持ちに一角鹿の素材があるのですが、必要ではありませんか?」

「お譲りいただけるのなら、ありがたいです」


 一角鹿は島で何度も討伐した。特に迷宮では、入る度に狩っていたと思う。船の強化に使う分を確保し、それでも大量に素材がある。元々は貨幣が使えないような僻地で、物々交換用に取っておいた物だ。必要なら、放出するのもいいだろう。


「詳しい量は、見てもらった方が早いですよね。どこかに出しますか?」

「今の魔獣退治組合は慌ただしく、落ち着いて相談するには不向きなんですよね。表向きは平静さを装っていますが、裏では非常に混乱しています。多分、魔獣狩り協会も同じかと」


 そうだったのか。そのため外で話をすることにしたのだろう。他に魔獣の素材を出せる場所というと……あ、ちょうどいい場所がある。


「飛空船発着場の格納庫に行きましょう。あそこなら広いですし、人もいません。今日から借りる手筈になっています」

「あら、そんな場所があったのですね。ご案内いただけますか」


 話は決まった。そうと決まれば、それぞれ会計を済まし外に出る。向かう先は、飛空船発着場。

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