15話 定義、飛空船
トリアさんに貰った地図を見つつ、飛空船発着場を目指す。時折、飛空船が降りているから方角に間違いはない。ただ妙に道が入り組んでおり、地図が無かったら面倒だったかも。だから地図を渡してくれたんだな。ありがたい。
しばらく歩くと開けた場所に出た。周りは壁に囲まれ出入口は封鎖されている。隣にある建物が登録所だろうか。考えても仕方ないな。行ってみよう。中に入るとすぐに声を掛けられた。
「いらっしゃい。ご用件は?」
恰幅のいい中年男性だ。こざっぱりとし服装で、人の良さそうな笑みを浮かべている。係の人だよな。
「新規で飛空船の登録をしたいのですが。魔獣狩り協会での仕事に使いますので」
ステータスカードを見せながら説明した。さっそく貰った身分証明書の出番か。問題なく話が進めばいいけど。
「ああ! 協会の! その若さで飛空船を所持とは、中々のやり手ですな」
「そ、そうでしょうか」
うーん、反応に困るな。自分で稼いで飛空船を購入したと勘違いしているのだと思う。人から引き継いだ船なら登録の変更となるはずだから、新規登録なら普通は自分で買った物か。実際はスキルで創造した船だけど。
「ただ登録のために、飛空船の実物が必要となります。今回は説明のみでよろしいでしょうか?」
「小型の飛空船で旅をしていたら、魔力食いに襲われて不時着したんですよ。動かなくなったので、異空間倉庫にしまってあります」
この説明も段々、慣れてきた。そして、やはり驚いている。時空魔法の使い手は少ないらしいからな。
「それは災難でしたな。しかし異空間倉庫は凄い! なら格納庫に行きましょう。ご案内しますよ」
もしかして上客と思われたのかな。妙に機嫌が良さそうだ。なにか売り込みたい物でもあるのだろうか。まあ、とりあえず着いていこう。入ってきた扉とは反対の場所から外へ出る。
左手側には、建物が並んでいた。そして右手側。広大な土地に、多くの飛空船が停まっていた。
「凄い眺めですね!」
「そうでしょう、そうでしょう!」
思わず感嘆の声が出た。そして気になることがある。飛空船以外にも、置かれている物があった。手前の乗り物を指差す。
「あれは戦闘機ですか?」
「いいえ、戦闘用の飛空船です!」
え? あれも船なのか? だけど今は、さらに気になる物が存在している。俺は戦闘機の奥に置かれていた物を指差した。
「あれは、人型の兵器でしょうか?」
凄い物を見てしまった。発着場にあるなら飛ぶのかな。空を飛ぶ人型兵器とか、浪漫の塊だろ!
「いいえ、空を飛ぶ人型の船です! 飛空船です!」
人型の船は無理があると思う。
「えーと、その、飛空船と呼ぶ理由があるのですか?」
「かつて。この地が飛空世界と名付けられる以前のこと。探求者は人類の大規模な移動を制限していました。そのための道具、つまり列車や飛行機械の類には天罰を起動していたのです」
天罰、聞いたことがある。世界の上空に存在する兵器だ。探求者の定めた条件に従って、対象を殲滅する。飛空世界と名付けられた以降は、ほとんどの起動条件が消滅した。しかし一部の条件設定は活きているらしい。
「飛空船だけは天罰起動の条件外で、探求者の管理で使用を許可されていました。時代が変わり、飛行機械の製造や使用が可能になります。ただ『飛行機械に関わる者は罰を受ける』という認識を覆すのは、容易ではなかったのです」
今まで禁止されていた物だ。率先して使いたがる人は、少なかったのだろう。
「また空を行く者は、縁起を担ぐ人が多い。飛空船乗りが、飛行機械に乗り換えることも稀でした」
「縁起を気にする気持ちは分かります」
航行中では、わずかな問題が命取りである。たまたま運が悪かったで済まない。空を移動中に飛空船が停止したら、最悪の事態にもなるだろう。
「ただ航空機や人型兵器は、莫大な利益を得られます。縁起が悪いからといって、諦め切れる話ではありません。そんなとき、状況を一変させる大きな出来事が起こります。ある組織が主導となって、空を飛ぶ乗り物は全て『飛空船』と呼ぶことを徹底しました」
「なんか強引な解決方法ですね」
「組織には力があった。大半の国で飛空船の定義を変更させることに成功します。カイス王国の法律でも、飛空船は航空機や飛翔可能な人型兵器を含むと明記されているのですよ」
そこまでして、航空機や人型兵器を導入したのか。世界規模で法律を変更させているのだよな。
「ある組織とは?」
「被召喚者補助委員会です。戦闘機操縦者が召喚された際、迫害を受けそうになりました。それで航空機が問題ないと証明した、そう伝わっています」
あー、なるほど。被召喚者補助委員会は、そんな活動もしていたのか。
「というわけで、発着場にある乗り物は全て飛空船です! もし飛空船でなければ補助金が下りません! 困ります!」
「……それは困りますね」
飛空船事業は儲けも大きいけど、掛かる費用も大きいか。補助金が出なければ、巡り巡って飛空船乗りにも影響がありそうだな。よし、覚えておこう。航空機も、飛翔可能な人型兵器も飛空船。
あれ、ちょっと待て。俺のソウルスキルは飛空船創造だ。飛空船には、航空機や飛べる人型の船も含まれる。つまり戦闘機や人型兵器も創造できるはず! やってみよう! 楽しみだ!
「どうしました?」
「いえ、なんでもありません!」
まずい。高速思考術が乱れて、普通に考え込んでいた。気を付けよう。
「そうですか。ところで小型飛空船用の格納庫に着きました。どうぞ中に」
「失礼します」
格納庫の広さは、小型船が三艘ほど入るくらい。船は一艘も置かれていないが、作業者は何人かいる。部品を磨いているようだ。あ、こちらに気が付いた。
「整備長! また休憩時間中に客の対応してたんですか! 新人の受付係が戸惑いますよ!」
「あはは、有望そうな若者を見つけたんだ。つい話し掛けてしまった」
この人、整備長だったのか。服装からして、受付の人だと思っていたな。
「ところで小型飛空船の修理でしたよね。機械式の部品は使用されていますか?」
「いえ、完全魔導式です。見せた方が早そうなので、倉庫から出しますよ」
飛空船には、機械文明の技術を利用した物もあるらしい。俺の場合は全て魔力で構成されているため、完全魔導式となる。
「倉庫、開け」
俺は異空間倉庫から取り出すふりをしつつ、手漕ぎボートを召喚した。
「修理はどうしますか? 任せていただければ、こちらで対応します。小型船なら大きな費用は掛かりません」
「自分の船なので、自分の手で修理したいですね」
これはスキルで創造した飛空船である。他の船と違う箇所があるかもしれない。下手に見せない方がいいだろう。
「おお! なんと素晴らしい心掛けでしょう! ところで停泊所の料金ですけど、ご相談したいことがあります」
「なんでしょうか?」
どういうことだろう。トリアさんから停泊所の料金は固定と聞いたんだけどな。たしか一日500エルで、出入りは自由だったはず。値上がりしました、とか言われたら辛い。
「停泊所は一日500エルで利用できます。さらに追加料金を払うと、格納庫の貸し出しも可能! 料金は停泊所と合わせて1万エルです!」
「少し高いですね」
一日で1万エル。少しというか、かなり高い。一ヶ月で30万エルだからな。
「お得ですよ! 格納庫を貸し切り状態にできます。一人で集中して作業するにはもってこいの環境! 必要に応じてサポート人員を配置することもできますよ! そして宿泊所としても利用可能! 町で宿を探す必要はありません!」
それなら得かもしれない。宿泊費用が浮くし。
「また防音完備で、秘密保持も問題ありません! 防御結界も備えており、秘伝の訓練場としても使えます! 魔獣狩人や魔獣退治屋の方も使っているのです!」
あ、それなら飛空船創造を十分に試せるな。人前で使いたくないし、どうしようかと思っていたのだ。契約してしまおうか?
「なんと今なら初回特典で、30日間は半額! 半額で貸し出せます!」
「貸してください!」
「ご利用、ありがとうございます!」
いや。仮に半額でなくても、良い条件のはずだ。人目を気にせずソウルスキルを試せるのだから。整備長が施設の説明をしていく。慣れているのか、随分と分かりやすい。上下水道風呂完備は助かる。さすがに食事は出ないらしい。町で買い出しだな。
「ヤマト様。この後は、いかがなさいますか?」
「知人と素材の分配について、相談しにいきます。船の修復や強化にも使用したいので」
「ほう、強化機能付きとは素晴らしい。ならば戻られる前に、部屋を使えるようにしておきます」
その後、話を聞きながら契約書の作成。中型飛空船を入手する当てがあると伝えると、広さが十分なら今の格納庫に置いても構わないらしい。必要なら、中型用の格納庫を準備すると言われた。ただ中型船用は、さらに料金が掛かってしまう。
礼を言って、格納庫を出た。一応、ボートは送還してある。放置しておくのも、少し怖い。町中や街道で飛空船に乗るのは、特別な資格が必要と聞いた。賊を運ぶために使ったのは、衛兵団への協力として咎められることはなかった。
さて次はサクラさんと会う約束がある。昼過ぎに魔獣退治組合を訪ねてほしい、とのことだ。




