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124話 獲得、特別出場枠

 俺たちは夜の道を進んでいく。目的地は、クルスさんとパストールさんの家だ。二人に闘技大会の話を聞きたい。


「ヤマトさん。あの姉弟は、予選を通過したでしょうか?」

「正直、難しいと思います」


 本戦に出場するためには、予選試合で何度も勝ち抜く必要がある。模擬戦では、予選で敗退した騎士たちも参加していた。いずれも侮れない実力者たち。それでも本戦には進めなかった。つまり全体のレベルが高いということ。


「着いたぞ、入ろうか」

「そうですね」


 ピヌティさんに、足を止めて答えた。誰も進まない。窓から明かりが見えているから、在宅なのは間違いないだろうな。


「どうしたの、ヤマト君」

「マリアさんこそ、どうしました」


 ……中に入って落ち込んでいたら、ちょっと気まずいと思う。しかし、考えても仕方ないな。俺は扉を叩き、来訪を告げる。


「ヤマトさん! お久しぶりです。どうぞ中へ。お茶を淹れますね」

「ありがとうございます」


 話もしたいし、お邪魔させてもらおうか。質素ではあるが、清潔感のある部屋。暖かい雰囲気を感じる。


「あ、アニキ! 緊急の仕事だって聞いたぞ! 終わったのか?」

「無事に解決しましたよ」


 一応、伝言を残しておいた。ちゃんと伝わったようだな。いきなり姿を消して、心配を掛けたら悪い。


「それは良かった。でも闘技大会は?」

「出場を辞退しています。そちらは、どうですか?」


 向こうから話を振ってくれたし、自然に聞き出せるな。


「予選は通過できなかったよ。でもオレは一勝、姉さんは三勝したんだ!」

「パストールは、本大会の最年少選手でした。一勝したことが大きいのですよ」


 なるほど。雇っている企業としては、最年少での勝利は重要だ。たしか飛空船の製造に関わっていると聞いたな。宣伝効果が見込めるのだろう。


「姉さんに勝った相手は、昨年に準決勝まで進んだ選手だよ。初出場で良い勝負をしたと、特別報酬も出たんだ!」

「ぜひ見たかったですね」


 見逃したのは残念だ。


「あ、大丈夫かもしれません。出場選手には、試合の記録映像が贈られますから。ヤマトさんは再生魔導機を、持っていましたよね」

「ええ、ありますよ」


 ただ国によって規格が違う。もし記録映像があっても再生できない。時期が悪く帝国の再生魔導機は売り切れだった。もともと数が少ないらしいからな。


「それなら、一緒に見ましょう! 私たちは再生魔導機を持っていないので、宝の持ち腐れになるところでした」

「そうだ! 片方はアニキに渡すよ。オレたちは姉弟で出場したから、記録映像も二人分あるんだ」

「ではナミソゾロ帝国の再生魔導機を、なんとか探してみます」


 ありがたい話だけど、規格の問題が残っている。すぐには見ることができない。そう伝えると、二人が不思議そうな顔をした。だが、すぐに理解した表情になる。


「アニキは帝都にいなかったから、知らないよな」

「魔導放送局との共同開発により、記録映像に互換性ができたそうです」


 まだ全ての国ではないが、俺の持つスルカイタ帝国製なら再生できるみたいだ。良いことを聞いたな。


「そうでしたか。ならば映像が届いたら、教えてください。炎雷丸で鑑賞会をしましょう」

「必ず伝えますね。これで情報規制も収まれば、みんな喜ぶのですが」


 急に話が変わったな。詳しい話を聞いたら、新技術開発が規制を強化する理由の一つらしい。情報の制限とは、人の流れを制限することでもある。そのため多くの者に影響を及ぼす。


「漁師のおっちゃんも、空へ出るたび検査に時間が掛かると言っていたな」

「検査は通常でも、手間が掛かります。警戒態勢なら、さらに大変でしょうね」


 空の旅で、これだけは慣れそうもないな。


「魔導放送局から出向した人は、大会が終われば帰るみたいですよ。それからは、元に戻ると期待しています」

「実況の一人だよ。前に飛空船競技会の映像を見せてくれただろ。その人」


 出向しているのは彼女か。そして解説も同じ。ラナさんとオルノブさんだ。懐かしい名前だな。ここに来たのは、技術屋としてらしい。大会の実況担当を条件に、出向を了解したとか。




 話を続けていたら、来客の到来だ。


「きっとクラース様だよ。よく様子を見に来てくれるから」

「私が出ますね」


 クルスさんが立ち上がり、出迎えにいく。パストールさんの予想通りだったな。クラースさんが中に入ってきた。


「ヤマト! ここに来ていたのか!?」

「そうですけど。なぜ、そこまで驚くのでしょうか?」


 俺がいても、おかしくないよな。


「あ、いや。明日、話に行こうと思っていたのだ」

「それは奇遇ですね。どんな話でしょう」


 タイミングが良すぎて驚いたのか。それなら分かる。クラースさんは一枚の紙を取り出した。机の上に広げる。


「これ、予選通過者の名簿ですか?」

「その通り。正式に発表された。それに招待選手枠を加え、本戦が行われる」


 決勝トーナメントの組み合わせは、当日に発表されるらしい。クラースさんは、招待選手として出場するみたいだ。


「騎士団には特別出場枠が、いくつかある。だが予定していた有力選手の一人が、密輸に関わり投獄されている。国家転覆を狙った派閥に属していたのだ」

「なるほど。騎士団の内部も、大変みたいですね」


 この状況でも大会を開くのは凄いな。……いや。この状況だからこそ、開くのかもしれない。国民に明るい話題を提供する意味もあるか。


「その空いた枠に、ヤマトが推薦された。俺は意思確認を任されたのだ」

「じゃあ、アニキが本戦に出場するんだね!」


 地竜討伐が、評価されたのだろうか。もしかしたら今日の模擬戦は、実力を測るためかもしれないな。


「凄いよ、ヤマト君!」

「ふむ。裏は無いのか?」


 マリアさんは純粋に喜んでいた。一方、ピヌティさんは少し疑っているか。何か理由があるのは、間違いないだろう。


「クラースさん。裏、ありますか?」

「無いと言ったら、嘘になる。だがヤマトに不利な話ではないぞ」


 どうやら開かれた騎士団を、アピールしたいらしい。閉鎖された環境が反逆者を増長させた。外部との協力を示し、今までとは違うことを証明したいのか。


「でもヤマト君は、騎士団に疑われていなかったかな」

「今でも、そうだと思いますよ」


 疑いが晴れることは、何もしていないからな。


「その通りではあるが、害意は無さそうだと判断している。特に地竜討伐の件だ。帝国に危害を加えるなら、またとない機会だった」

「ねえ。信用を得るための、見せ掛けとは思わなかったの?」

「それも考えたそうだ。しかし利点よりも、欠点の方が大きいらしい」


 らしいと言っているのは、おそらく別の人間が考えたことだろう。諜報部とか、そういう組織だと思う。


「帝国の思惑はともかくとして、出場枠は受けましょう。ヤマトさん!」

「そうですね。クラースさん、お願いします」


 予想した通り、サクラさんは出場したそうだ。俺も賛成しよう。特に断る理由も無さそうだし。そうだ、一つ確認しないと。


「ところで個人戦と複座式戦、どちらの枠でしょう?」

「安心するといい。両方とも枠を提供できるそうだ」


 ありがたい!


「とにかく、アニキは出場するんだな!」

「弟と一緒に、応援に行きますね!」


 そうと決まれば、訓練と飛空船強化の計画を立てる。試合が近いのは個人戦か。まずは強化だな。さっそく地竜の爪を使いたい。


「よし、手続きは進めておく。追って連絡があるだろう」

「ご迷惑を、お掛けします」

「いや、こちらの都合に協力してもらったのだ。迷惑どころか、感謝する」


 これからクラースさんは、騎士団に戻るらしい。まだ仕事みたいだな。俺たちは炎雷丸に帰ろう。夕食の準備をしないと。どうやらクルスさんとパストールさんも食べていないとのこと。せっかくなので、二人も誘う。依頼も無事に終わったし、祝杯を上げようか。

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