121話 地竜、土竜?
俺たちの目前に、地竜が姿を見せた。この魔獣は地面と同化する、特殊な能力を持つ。ただし獲物を襲うときには、必ず地上に出るらしい。時間は掛かったけど、とにかく地竜を誘き寄せることに成功した。
頭胴長は5メートルを超える巨体だ。そして、2メートル近くはあるだろう尻尾。背面の体毛は黒褐色か。ここからだと腹部は確認できない。前足には鋭い爪が生えているな。――大きい土竜という印象だ。資料の記載通りだし、あれが地竜だな。ちょっと信じがたいけど。
「ヤマトさん、まだ動きませんよね」
「ええ、このまま待機してください」
小声で話し掛けてくるサクラさんに、俺も静かに答えた。隠蔽結界の効果により地竜はこちらに気付いていない。だけど仕掛けるのは早い。今は夜であり、しかも視力が弱いと言われる地竜だ。まだ動くべきではない。
地竜から魔力の流れを感じた。おそらく探知魔法。獲物を探しているのだろう。俺たちには、気付かないよな。動いた! どうやら食料の場所を特定したようだ。
「食いついたよ!」
「雷撃!」
マリアさんの声と同時に、俺は雷魔法を放つ。狙いは食料に紛れ込ませた魔石。
強い魔力を当てることで、魔石は爆発を起こす。近くにいた地竜に傷を負わせた。ちなみに食料は無事だ。魔力制御に慣れると、対象を選別できる。魔石には、俺の力を大量に込めたからな。時間を掛けて準備したから、思ったより上手くいった。
「戦闘開始!」
俺の合図で、サクラさんとピヌティさんが飛び出した。左右に分かれ、挟み撃ちにするつもりだ。
「魔導銃、発射!」
「風の刃、切り裂け!」
マリアさんと俺の先制攻撃。しかし大地が盛り上がり、防がれる。地魔法の防御だろう。正面からの遠距離攻撃では、通じないか。せめて、もう少し近付かなければならない。
「攻撃魔法、来ます!」
「わ! わわ!」
盛り上がった大地が、俺たちを襲う! さっきのは攻撃魔法でもあるようだな。範囲は広くない。俺とマリアさんも、無事に避ける。速度は遅いから、助かった。しかし、威力は強い。風雷号の結界を突き破っていた。そのまま留まっていたら、危なかったな。
「木クナイ、風の力で動きを封じろ!」
ピヌティさんが、クナイを投げた。狙いは地竜の足下。そこを起点に、風が巻き起こる。
「サクラ、頼んだ!」
「秘刀術! 大刃小刃・風!」
暗くて見えにくいが、サクラさんは聖化粧術も使っている。地竜の弱点である、風の力を付与したのだ。弱点が判明しているなら、徹底して狙う。
サクラさんの刃が、地竜を大きく切り裂く。同時に、細かな傷も増えていった。しかし地竜の身体に魔力が奔る。付けたばかりの傷が、どんどん回復していく。
「封印が解けた! 一旦、引く!」
思ったよりも早い! 秘刀術を使ったばかりのサクラさんに、地竜の鋭い両爪が襲い掛かる。直撃は避けた! だけど胴体に深い傷を負っている!
「俺は回復を優先します!」
「承知! 魔獣を引き付ける!」
やばい! 急いで回復に向かわないと! 焦る気持ちを必死で抑え、彼女の元に駆け付ける。傷に触れないように気を付けながら、魔力を込めた手をかざした。
「癒しの光、親愛なる者を救い給え!」
瞬時に傷が塞がる。魔力を大きく消費したことから、受けた傷が酷いと分かる。
「サクラさん、大丈夫ですか!」
「え、ええ。問題ありません」
安静にしてもらいたいけど、そうも言っていられないか。もし一人でも欠けたらチームが壊滅しかねない。
それにしても、地竜の爪は恐ろしい殺傷力を持っている。彼女の来ている着物は東方で新調したもの。見た目よりも強度が高い素材を使用している。魔力強化も、しっかり行った。そこらの鎧よりも強固なのに、軽々と切り裂いたのだ。
「ねえ! 地竜って攻撃が苦手だと、聞いたんだけど!」
「竜種の中では、という話でしょう」
射撃を続けながら、マリアさんが悲鳴のような声を上げた。
「前衛がピヌティ一人だと、危険です。私も、すぐ戦闘に戻ります」
「無理はしないでくださいね」
サクラさんが、ピヌティさんの援護に入る。俺も続こう。魔法攻撃を続けながら地竜の様子を観察した。傷を与えても、すぐに回復している。竜種は共通の特徴として、高い生命力を持つ。少しくらいの傷は、ものともしない。
竜人船トライバスターは、使うことができない。過去の記録には、人型飛空船を見た地竜が逃げ出したという情報もあった。この地竜の目的は、食料と判断できるだろう。自分よりも大型の物体は、相手にしないで逃走する恐れがある。
「くっ! 厄介な回復力だな!」
「でも完全には、癒されていません。少しずつ、傷が増えていきます」
確かにサクラさんの言う通りだ。相手が自然に回復する力より、俺たちの攻撃がわずかに上回っている。このまま押し切れるかもしれない。そう思った次の瞬間、地竜の魔力が増大した。
「魔力が集中! 大技に備えてください!」
地竜が身体を回転させる。尻尾をぶつけ、サクラさんとピヌティさんを弾き飛ばした。魔力は維持したままである。そして地竜の周囲に、砂埃が巻き起こる。細かい石も混じっていた。
「砂嵐だ!」
「全員、魔力で防御を!」
ピヌティさんが一早く、敵の攻撃に気付く。魔力を込めた砂嵐。俺は防御に専念するよう、皆へ伝えた。全身に砂や石が、ぶつかってくる。
――砂嵐が収まる。皆の様子を見ると、なんとか動けるようだった。大きな傷は受けていない。東方に行ってからは、防御面にも気を遣っている。その効果が出たようだ。即座に範囲回復魔法を使う。終わると、攻撃魔法を発動。
「氷の槍、七連!」
これで時間を稼ぎたい。反撃の態勢を整えるためだ。しかし大地が隆起し、防がれる。
「これだけ暗いのに、なんで魔法を防げるのかな。目が悪いって、話なのに!」
「単純に考えたら、魔力を感知しているのだと思います。鋭い感覚ですね」
そうだ! 地竜の魔力探知感覚は鋭い。だからこそ普段の行動でも、頼りにしているはず。
「光よ、周囲を照らせ!」
辺りに光が満ちる。この光魔法には、強大な魔力を込めた。つまり空間全体に、魔力を広げたのだ。
「地竜が周辺を見渡しています! 私たちの姿を見失ったのですか?」
「戦闘で強い魔力を使えば、すぐに位置を把握するでしょう。しかし向こうからしたら、出たり消えたりを繰り返されることになります」
欠点は地竜の感覚を乱し続けるには、魔力の消費が激しくなることだ。だが俺の場合は問題ない。飛空船創造スキルが成長するたび、大きく魔力が上がっている。さらに大罪の欠片による強化もあるのだ。
「それは奴さんも、やりにくいだろうな」
「今なら魔導銃も当たりやすいね!」
あとは地竜が逃げ出す前に、俺たちへ敵意を向けさせる。そのためには断続的に攻撃を仕掛けるべきだ。相手を怒らせ、正常な判断を失わせよう。
「ここからは正攻法を中心に戦います」
「お任せください!」
そして俺も前に出よう。前衛の二人が傷を負ったら、すぐ回復魔法を使うのだ。サクラさんとピヌティさんの、少し後ろに立つ。
「ヤマト殿、無理はしないようにな。近接戦は苦手だろう」
「危なくなったら、隠蔽結界を使って退散しますよ」
回復役が倒れたら、困ったことになるからな。
「援護射撃、がんばるよ!」
「お願いします、マリアさん」
光の下で、再び戦いが始まった。全員が傷を負う。だけど、それ以上に傷を負わせている。やがて地竜の動きが鈍くなってきた。好機と判断し、四人での総攻撃。
遂に地竜が倒れる。
「やりましたね、ヤマトさん!」
「ええ、苦労しました」
その場には魔石と、いくつかの素材が残った。地竜の爪もある。これから村長に報告へ行かないとな。




