120話 特別依頼、地竜討伐
宴会から数日後、俺は魔獣狩り協会に呼び出された。目の前には支部長がいる。間違いなく、重要な案件のはず。
「君に依頼がある。帝国の西方に、地竜が出現した。至急、討伐を頼みたい」
「もしかして、すでに被害が出ているのですか?」
竜種が相手となると、生半可な戦力では厳しいな。もし地方の村が襲われたら、悲惨なことになる。
「家畜や農作物が食われた。怪我人も出ている。死者がいないのだけは救いか」
「依頼の内容を教えてください」
「詳細をまとめた資料だ。この場で目を通してくれ」
急いで記載を確認する。高速思考術を使えば、そんなに時間は掛からなかった。出現した場所を考えると、依頼を受けたら予選に参加は不可能だな。
依頼の経緯が書かれている。騎士団が動くには、時間が足りない。被害の拡大を防ぐために協会へ話が回ってきたのか。
「魔獣退治組合は、動かないのですか?」
どちらかというと、組合向けの案件だよな。
「無論、動いているよ。竜斬りサクラが最適と判断した。王種の火竜を討伐したのだからな。だがチームの代表は君だろう」
「それで協会に話がきたのですね」
なるほど。
「ところで余所者が大きな依頼を受けて、大丈夫でしょうか?」
「心配無用だ。普段ならともかく、今は闘技大会が近い。そちらに集中したい者が多いからな」
遠距離の依頼は敬遠されるらしい。出場者だけでなく、観戦者も予選から見たいのだろう。
「報酬は地竜の素材と、危険魔核結晶石取扱者の実務経験を免除。どうですか?」
「地竜の魔石を提出してもらえれば、他は好きにして構わない。資格の方も、掛け合ってみよう」
さすがに後者は、絶対に大丈夫とは言えないらしい。判断するのは、国の機関だからな。だけど掛け合ってもらうだけでも十分だ。
「分かりました。依頼を受けます」
「助かる。いつ動ける?」
「船に戻ったら、すぐに出発するつもりです」
こうなることも見据えて、みんなに出発の準備を進めてもらっている。さすがに地竜の出現は予想外だけど、緊急の依頼だと分かっていたからな。
「対応が早いな。各種許可証を用意してある。持っていけ。それと地竜の資料も」
「ありがとうございます」
それぞれ受け取り、異空間倉庫にしまう。資料は道中で確認するつもりである。地竜については、何度か調べた。飛空船強化のために、素材が欲しかったからだ。
俺は支部長に礼を言って、部屋から出る。そのまま協会の外へ行き、炎雷丸へと戻った。休憩室に全員が集まる。
「依頼を受けました。地竜の討伐。まずは帝国の西部地方へ向かいます。許可証を貰いましたので、炎雷丸で移動しましょう」
「わかったよ! 最初は、あたしが操船するね!」
その間に、俺は資料を確認しよう。
「地竜か、大物だな」
「本当ですね。しかし切り裂いてみせましょう。竜斬りの名に懸けて」
竜種は危険な存在だ。まともに戦うのは初めてだよな。火竜王は瀕死で、水竜は欠片の影響を受けていた。
「ただ地竜を発見しなければ、斬ることはできません。被害が広がらないと、いいのですけど」
「それを防ぐためにも、頑張りましょう」
「はい!」
さて地図を確認したら、かなりの距離があった。夜通し飛ばした方が、よさそうだな。皆と交代の相談をしなければ。
――依頼を受けてから、二日後。ようやく、被害を受けた村の一つに到着した。ここの人から情報を集めると、新しく被害を受けた村の話を聞いた。地竜の場所を特定するためにも、そこへ向かおう。
ようやく目的の村に辿り着く。一目で、被害を受けていると分かった。倒壊した建物が見えるからだ。ピヌティさんが、周辺を見渡した。
「ここが最新の被害を受けた場所だな」
「まずは責任者に会いましょう」
とりあえず村で立派そうな家を探すか。無事だといいけど。途中で何人か、家の外に集まっている。話を聞いてみよう。
「すみません。何かあったのですか?」
「お主らは?」
近くにいた老人に話し掛けたら、警戒されてしまった。先に自分たちのことを、話さないとな。
「失礼しました。魔獣狩り協会から、地竜討伐の依頼を受けた者です」
「そうか! あんたたちが!」
少しは警戒を解いてくれたようだな。話を続けさせてもらおう。
「村の責任者を探している途中に、ここを通りました」
「それなら村長と話してくれ。この家に見舞いへ来ている」
見舞い? もしかして地竜の被害にあったのか。近くにいた人が、村長を呼んできてくれた。かなり高齢の男性だ。
「貴方たちが、協会の依頼を? ずいぶんと、お若いですな」
「実績を買われました。こう見えて、火竜と水竜を討伐しています」
村長の不安を吹き飛ばすように、自信ありげに答えた。
「ところで中の人は、大丈夫でしょうか?」
「運悪く、壊れた建物の下敷きになりました。親類の家で休んでいるのですけど、怪我の具合が良くありません」
ここが親戚の家らしい。近くの町に行かないと、医者も回復魔導師もいないとのことだ。俺は回復魔法を使えると告げて、怪我人の様子を見せてもらう。まだ若い女性だな。
首から下を押しつぶされたと聞いた。ほとんど全身か。体を痛めて、歩くことはおろか、身体を起こすこともままならない。完全に、重傷だな。俺の回復魔法で、大丈夫だろうか。……いや、なんとかするしかない。
「あの、よろしくお願いします」
「安心してください。名誉聖女アカリさん直伝の回復魔法ですから」
「聖女様の!?」
村長への返答に、アカリさんの名前を出した。主に自分を鼓舞するためだ。俺は意識を集中していく。
「光あれ、彼の者の傷を癒せ!」
どんどん光が溢れていく。魔力の出し惜しみはしない。彼女の身体が、少しずつ癒されていくのが分かる。やがて、光が収まった。強い疲労感に襲われる。だけど顔に出さないよう、意識した。
「凄い! 全身が楽になりました!」
女性は身体を起こして、礼を言った。でも、まだ辛いはずだ。
「完治したわけではありません。しっかりと専門の医者に診せてくださいね」
「はい、ありがとうございます!」
やはり回復魔法だけでは、癒し切れなかった。それでも何とか歩けるくらいには回復しているはず。あとは静養をしてもらうしかない。これ以上は、邪魔になる。村長と一緒に外へ出た。
「あの傷を癒せるとは。本当に、ありがとうございました。それにしても聖女様の教えは素晴らしいのですな」
「本人の能力もさることながら、指導力も抜群にありますよ」
心の底から、そう思う。彼女の修業前だったら、あそこまでの効果は発揮できなかったはずだ。
――俺たちは、村長の家に案内された。地竜について、詳しい話を聞くためだ。資料だと、地竜は何度か同じ村を襲っている。家畜や農作物が少なくなると、次の村へ向かうようである。
「この村にも、結界はあるのですよね?」
「ありますけど、地竜を防ぐほどの効果は期待できません」
そうだよな。だから被害を受けたわけだし。さらに話を聞くと、二日前に初めて地竜が来たみたいだ。俺たちが出発した直後か。三分の一くらい、家畜や農作物が食べられた。つまり、あと一度や二度は来るだろう。そこを狙うしかないか。
村長の了解を得て、村の一角に食料を積んだ。これは異空間倉庫に入れておいたものである。分かりやすく魔力を込めて、囮に使う。魔獣の性質を利用するのだ。
俺とマリアさんは、休憩を取らせてもらう。高速で飛空船を移動させていたから魔力が減っている。俺の場合は、さらに全力で回復魔法を使った。風雷号で仮眠を取る。目を覚ましたら、甲板に出た。マリアさんも、起きたみたいだな。
「様子はどうですか?」
「変化なしだ」
ピヌティさんは、警戒したまま答えた。全周囲に注意を払っている。炎雷丸ほどではないが、風雷号の魔力も相当だ。食料の代わりに、こちらを狙う恐れもある。
サクラさんも同様に警戒していた。ずっと二人に任せていたし、休憩を取ってもらおう。今度は俺とマリアさんで、辺りを見張る。――それから三時間が経過。
「まだ地竜は出現していないのか」
「今日は来ないのでしょうか」
二人が戻ってきた。後は四人で警戒を続けよう。しばらくの時が流れ、ようやく地竜が姿を見せた。




