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12話 襲来、黄腕党幹部

「サクラさん、何か来ます!」

「え!?」


 俺の言葉と同時に、サクラさんは戦闘態勢を取った。一瞬後、唐突に人間が姿を見せる。おそらく結界に視界を塞ぐ効果があったのだろう。俺たちは現れた人物を注視する。右腕に黄色の布を巻いていた。やはり黄腕党だ。しかし明らかに様子がおかしい。目は血走り、憤怒の形相を見せている。右手に持つ剣は、相当な大きさである。


「ヤマト殿、ご注意を! 魔力狂走薬を使っています!」


 魔力狂走薬――たしか大半の国で所持を禁止されている薬だったはず。使用者は体内の魔力を増大させるが、深刻な副作用が発生する。


「氷の矢、三連!」


 狙いは敵の右半身。右目、右足、右手の三点である。三発、全てが命中するとは思っていない。しかし一箇所だけでも当たれば、相手の戦力を削ぐことができる。


「え、当たった!?」


 氷の矢は三発、狙った箇所に命中する。相手は一切の回避行動を取らなかった。体の一部が氷に覆われ、動きが鈍っている。


「後はお任せを!」


 サクラさんが賊に近付いていく。最高速度では、ないのだろう。まだ動きを目で追うことができた。敵の目前で左へ跳ぶ。氷の矢で右目は使えないはずだ。相手の死角へ回る。


 次の瞬間、敵の剣が光った。目前のサクラさんを無視し、俺に向かって剣を降り下ろす。遠距離攻撃!? 魔力の流れが迫ってくる。


「不可視の盾!」


 防御魔法を発動。距離があったおかげで、何とか間に合った。


「まずい!」


 威力を殺し切れない! 盾が砕かれた――――――――――――――身体に痛みが走る。衝撃で高速思考術が解除された。急いで状況を確認する。かなり近くまで賊が迫っていた。少し離れて、サクラさんの姿が見える。至近距離にいた彼女は、攻撃の余波を受けたみたいだ。距離を離され、傷を負っている。だが傷を負いながらも、敵に近付こうとしていた。


「斬る!」


 サクラさんの声が響いた。袈裟斬りに一閃。左肩から右腰に向かい、刀が走る。斬り終わると同時に、サクラさんは敵と距離を取った。相手の傷は深い。通常なら致命傷になるほどの怪我だ。相当な量の血が流れている。


「は? 血が止まった!?」


 魔力で治癒力を強化しているのか。だが動きは鈍っているように見える。体力は回復できないのだろう。そのまま賊は、俺に向かって移動する。


「何!? ヤマトさん、そちらへ向かいました!!」


 この動き、迷宮内の魔獣に似ている。あの時もフェリアを無視して、俺に向かい攻撃してきた。もしかして何か狙われる理由があるのか? だが、今は目前の敵に集中だ。一つ思い付いた方法がある。


「当たれ!」

「え? 武器を投げた?」


 距離を詰めてくる賊に合わせ、魔力を籠めた木刀を投擲した。すでに近距離まで来ている。外す恐れは皆無だ。予想通り、命中。だけど傷を負わせた様子は無い。賊に当たった木刀が、体の前に落ちようとしている。次が勝負だ。


「木刀よ、空に留まれ!」


 物質を操作する念動魔法だ。これで木刀が地に落ちないように固定する。進路を妨害する目的で、木刀の位置も操作した。賊は手にした大剣で木刀を弾き飛ばす。これを待っていた!


「身体強化、我が身を加速せよ!」


 速度特化の強化魔法。数回に一回は失敗していた魔法だけど、想像以上に上手くいった。効果も過去最高だ。サクラさんの加速術を見たおかげかもしれない。


 敵が大剣を構え直す前に、相手の目前に出る。狙いは賊の右腕。黄色の布に手を触れた。まだ、氷魔法の影響が残っている。手が冷たいを通り越して痛い。集中が切れそうになるのを堪えつつ、全力で魔力を込める。


「自然ならざる歪み、あるべき姿に戻れ!」


 解呪魔法により、洗脳を消し去る。俺が使えるのは、初級の解呪魔法。本来なら成功率は極めて低い。ほぼ不可能とも言えた。しかし勝算はある。


「今のは解呪魔法ですか! まさか効いている!? 組織の解呪師でも、失敗したはずなのに?」


 サクラさんが驚きの声を上げた。


「まあ、通常の状態なら解呪は不可能でした。初級の魔法では、限界があります。今回は特殊な状況ですね」

「特殊な状況? いえ、とにかく今は賊を無力化しましょう」


 賊を見ると、身動きをしていなかった。暴走の反動で気絶しているようだ。今の内に、縄で縛るのが無難か。ただ普通の縄だと、力尽くで切られそうだな。


「倉庫、開け」


 異空間倉庫から、魔力で強化された特殊な縄を取り出した。


魔導縄(まどうなわ)ですか、助かります。これで無力化するのに、両手両足を叩き折らなくて済みましたね」


 え? 何か怖いこと言っている。触れては駄目な話題だな。聞かなかったことにしよう、そうしよう。


「十分な長さの縄を出しました。これで縛ってしまいましょう」

「分かりました」


 俺とサクラさんは、協力して賊を縛り上げた。


「ところでヤマトさん、特殊な状況について教えて頂けませんか?」

「魔力狂走薬の使用中に深手を負ったため、体内の魔力が暴走状態になったと考えられます。体の治療だけに魔力が回され、魔法抵抗力が極端に下がった状態だったのです。それで解呪魔法が効いたのだと思います」


 話を聞いたサクラさんは、何か考え事をしているようだ。


「それだと他の賊に対して、有効な手段とはなりませんか……」

「まあ、今回は偶然の結果ですね。本人の魔力や抵抗力で、全く違う状況になると思いますし。それより、この後はどうするんですか?」

「巡回班が来るまでは、この場で待機します。それまでに賊の意識が戻れば、聞き取りを行いたいですね」


 聞き取りって、つまり尋問か。いや、尋問で済むのか?


「まさか拷問とか? まさかね?」

「拷問なんてしませんよ、効率が悪いです」


 効率が良ければ、拷問しそうな言い方が怖いな。そうだ、弾き飛ばされた木刀を拾ってこないと。


「武器を回収する為に、少し離れるつもりです。この場を、お願いします」

「さっき刀を投げていましたか」


 あ、木刀も刀の一種だよな。刀を投げ捨てることは許されない、と思われているかも。見た感じ、侍みたいだし。不快に思われたか?


「そんな戦い方もあるのですね。勉強になります。魔法使いなら、それもありかもしれません。……あれ、どうしました?」

「いえ。刀は武士の魂だ、なんて言われるかなと」


 サクラさんが不思議そうに見つめてきた。


「ああ、故郷の人間なら言うかもしれませんね。でも、そんなに多くはないと思います。剣の道に拘る人くらいでしょうか」


 意外に少数派だったのか。とにかく武器を拾ってくるとしよう。結構、飛ばされたな。歩いて移動し、木刀を拾う。


「ヤマトさん、目を覚ましそうです!」

「すぐ戻ります!」




 小走りでサクラさんの近くに戻った。賊を見ると、目が開きかけている。もう、意識が戻ったのか?


「ここは、どこだ? 俺は、拘束されている?」

「質問に答えてもらいます。まず貴方の名前は?」


 状況を把握していないだと? まさか洗脳魔法の影響? などと考えていたら、サクラさんが尋問を開始した。


「俺の、名前? 俺は、そうだ。ボーロング・ベアムン。そう名乗っていた」

「まさかボーロング三兄弟の末っ子ですか!? たしかに手配書の人相と似ている気がします。だけど随分、印象が違うような」


 なんだろう、有名人なのか。疑問に思ったが、尋問の邪魔をするのは良くない。ここは黙って見ていよう。少し気になるけど。


「ボーロング三兄弟は、黄腕党の首謀者とされています」


 俺の疑問に気付いたのか、サクラさんが説明してくれた。でも視線は賊に向けたままだ。油断はしていない。男は俺に視線を向ける。


「貴様が洗脳魔法を解いたのか。感謝、しなくてはな」

「気にする必要は、ありませんよ。解除できたのも偶然ですしね」


 本当に偶然だからな。


「ベアムン殿、貴公から聞きたい話があります。正直に答えてください」

「分かった。そちらの男には借りがある。だが全てを話す代わりに、兄者の解呪を頼みたい。可能か?」


 男の視線は、確実に俺を捉えている。いや、ちょっと待て。あれは本当に偶然、成功しただけだ! 期待されても困る! と言いたいけど、下手なことを言ったらサクラさんに迷惑が掛かりそうだ。慎重に返答しよう。


「難しいと思う。解呪の成功は、本当に偶然です。そもそも俺に解呪の依頼が回るとは考えられない。サクラさん、どうですか?」

「私も同意見です。ボーロング・ベアムン殿、解呪については本部の管轄になると思います。確実に洗脳が解けるとは、言えないですね」


 ボーロング・ベアムンは目を閉じた。そして、ゆっくりと目を開く。


「そうか。可能性があるだけでも十分と考えよう。それで、何が聞きたい?」

「黄腕党の目的は? 明確な声明を出していないのが気になります」

「残念だが、目的は知らない。二人の兄者も知らないはずだ」


 待て、ボーロング三兄弟は首謀者だろ。それなのに目的を知らない? そもそも目の前の男は洗脳されていた。なら洗脳していたのは、誰だ?


「やはり黒幕がいたのですね」

「そうだ。しかし、知っていることは少ない。強い力を持った魔導師であること。常に紫色の外套を羽織り、素顔を隠していたこと。その二つだけだ」


 ほとんど何も分からないのか。もしも解呪をしたのが俺だと知られたら、恨みを買いそうだな。せめて名前だけでも知りたい。聞いておこう。


「名前は分かりませんか?」

「一度も名乗っていない。我々は紫煙の魔導師と呼んでいた。用が済んだら、煙のように消えてしまうからな」


 もしかして空間転移? 上級魔法だよな。でも待てよ。幻覚を見せて、その隙に移動している可能性もあるか。その場合は中級魔法あたり。どちらにしても、今の俺では危険すぎる相手だ。目立たないように気を付けるか。


「黄腕党に資金を流していた貴族がいますね。その魔導師と貴族の関係については分かりますか? あるいは既に洗脳されている?」

「あの悪徳貴族か、洗脳はされていない。あいつは魔導師の共犯者だ。もっとも、実態は魔導師の手駒に過ぎないが」


 やっぱり、いるのか。悪徳貴族。魔導師よりも関わりたくない存在だ。というか貴族の方が手駒なんだな。


「だが既に貴族の存在にも気付いていたのか。優秀な調査員がいるのだな」

「裏に貴族がいるのは、早い段階で分かっていたみたいです。調べたのは別組織の人間ですので、詳細は知りませんが」


 サクラさんの所属は魔物退治組合だったな。戦闘能力を重視した組織で、調査は苦手分野だったはず。本の記載に間違いが無ければ。と、不意に魔力を感知した。


「サクラさん! 誰か来ました!」

「あれは、ピヌティ! 彼女が来てくれましたか!」


 どうやら知り合いのようだ。サクラさんの雰囲気からして、仲間かな。向こうも気付いた様子。こちらに近付いてくる。身長は俺より高そう。目鼻立ちがはっきりした美人で、金髪のショートヘアが似合っている。あれ? 足音が聞こえない。


「賊を捕まえたのか、サクラ」

「ええ、今は尋問しているところですよ」

「何か聞けた?」


 サクラさんは少し考えているようだ。さっき聞いた話を整理しているのだろう。考えがまとまったのか、静かに話し出した。


「捕らえた賊の名はボーロング・ベアムン。この男から黒幕の存在を聞きました。紫煙の魔導師と呼んでいるそうです」

「洗脳された人間から、よく聞き出せたな」


 洗脳が解けていることを知らなければ、疑いを持つのは当然か。


「いえ、洗脳は既に解けています。こちらの彼――ヤマトさんの解呪魔法です」

「初めまして、ヤマトです。えーと、ピヌティさん? よろしくお願いします」


 俺は軽く頭を下げて挨拶した。


「こちらこそよろしく、ヤマト殿。サクラが世話になったようで」

「お互い様ですよ。それより捕らえた男はどうしましょう?」

「この男には、まだ聞きたいことがある。だけど時間も惜しいな。移動しながら、尋問しよう。話を聞ければいいのだが」


 移動か。問題は賊をどうするかだよな。


「そうですね。ヤマトさん、すみませんが手を貸していただけますか。二人で賊を運び、ピヌティに警戒を頼みましょう。彼女の探索能力は確かですから」


 この方法だと、敵に襲われたら大変な気がする。とくに賊を運ぶさい、接触する必要があるからな。ただ他に方法は無いか。あ、いや待て。


「それより良い方法を思い付きました。開け、倉庫!」


 イカダと手漕ぎボートを召喚した。傍から見ると、異空間倉庫から取り出したと思われるはず。召喚も異空間倉庫から取り出すのも、おおむね原理は一緒である。違いがあるとしたら、慣れると召喚の方が早いくらいか。異空間倉庫は「開放」と「取り出し」の二挙動を必要とし、召喚は一手で対応できる。


 この二人は信用できそうな気もするけど、無暗(むやみ)に手札を晒すこともない。何より黄腕党の幹部もいるしな。飛空船創造スキルは隠しておきたい。


「おお! 倉庫使いか! この早さ、かなりの練度だ。補給だけじゃなく、実戦でも通用するな」


 ピヌティさんの反応からすると、異空間倉庫魔法が得意で通せそう。念のため、人前で召喚を使い過ぎないように気を付けよう。実は倉庫の中身も召喚で呼び出すことが可能だ。ただし今の所、使い慣れた物や頻繁に出し入れしている物に限る。使い慣れた木刀は召喚できたが、買ったばかりの物は不可能だった。予備の武器が召喚できたら、色々と便利そうだし頑張ろうと思う。


「これがヤマトさんの所有する飛空船ですか。しかし故障中で使えないのでは?」

「動かないのはボートの方だけですよ。今からイカダの荷物をボートに移します。それで一人分の空きを作り、賊をイカダに乗せましょう」


 飛空船の使用に問題が無いか、二人に確認しておこう。どちらかが知っていると助かるな。


「ところで、この国では飛空船の使用に制限はありますか?」

「町中での使用は、禁止されていますね。街道を進むときには、登録所で届け出が必要です。しかし今の場合は、緊急時の措置として構わないでしょう」


 それなら問題なさそう。俺は二人に協力してもらい、手早く荷物を積み替えた。三人で取り掛かると、すぐに終わるな。


「よし、これで終わり。そうだ、サクラさん。イカダに乗ってもらえますか?」

「承知しました」


 俺の言葉を聞いて、サクラさんがイカダに乗る。賊を乗せる前に、少し確認しておきたいことがあった。


「今から飛空船を少し動かします。荷物にでも掴まってください」

「はい、いいですよ」


 俺は慎重にイカダを動かす。思ったよりも魔力が消費されていく。感覚として、自然回復分よりも消費量が多そう。長時間の連続使用はまずいかも。重さは荷物と大して変わらないはずだけど、他に条件があるのだろうか。


「今のは、いったい?」


 サクラさんが首を傾げている。


「ちゃんと人を乗せたことがありませんので、魔力消費を確認したかったのです」

「それで、どうだったのだ?」


 横で興味深そうに見ていたピヌティさんから質問が来た。


「どこかで休憩を取る必要がありますね。半日に一回くらいで大丈夫でしょう」

「それなら昼食を取りながら休憩で構わないか」


 もう一つ確認したいことがあった。飛空船内の物質だったら、ある程度の情報が分かる。これが人間でも同じか知りたかった。


「サクラさん、ありがとうございました。もう降りても構いませんよ」

「小型でも飛空船。しっかり動くのですね」


 おそらく魔力を感知しているのだ。飛空船内に人間がいると、すぐに分かった。つまり飛空船から賊が逃げ出しても、素早く知覚できそうだ。


「ヤマトさん、ピヌティ。方針が決まりましたので、移動しましょうか」


 サクラさんの言葉を契機に、俺達は休息地から出発した。ピヌティさんが周囲を探索し、黄腕党や魔獣を警戒しながら進む。途中で小休止を挟みつつ移動し、日が暮れる前に次の休息地へ到着した。

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