119話 お返し巡り、そして宴会へ
これから空カジキマグロの切り身を、配りにいく。祝日で休みの人が多いはず。正午が少し過ぎたころだから、在宅の人もいるだろう。外出していたら、日を改めるしかないな。
「パストールさんは、明日から訓練ですよね」
「ああ、そうだよ」
帝都では、この時期に連続した休みがあると聞いた。多くの組織で休暇を取っているようだ。無論、あまり関係のない人もいる。漁師とかだな。空魚は祝日なんて無い。獲れるときに、漁に出る必要がある。
「クルスさんは、今日まで訓練合宿の予定でしたよね。終わったのでしょうか?」
「そうですよ。午前中に終了して、それぞれ帰宅しています」
つまり二人とも、夜は空いているようだ。
「それなら夕食は、家の外で料理をしませんか。場所によっては火の使用も可能と聞きました。友人を招くのも良いと思います」
「まあ、素敵ですね! 子供のころ、家族みんなでしました。パストールは覚えている?」
「え? うっすらと覚えているような」
自信が無いみたいだ。十年よりは前だよな。パストールさんは、五歳以下だろ。覚えていないのも、理解できる。
「とにかく、オレも賛成だ!」
「ならば空カジキマグロ以外の食材は、任せてください」
二人は遠慮しようとしたけど、なんとか説得した。
「ピヌティさんは場所の選定を、お願いします」
「承知した。たしか公園があったな。まずは、そこに行ってみる」
見た気がする。公園というより、空き地だったな。作っている途中で、放置したような印象だ。そこなら問題ないだろう。
「マリアさんは外での調理や集会について、規則を調べてください」
「わかったよ!」
「場所の確認が終わったら、私も手伝う」
それなら二人で行動してもらおうか。提案だけして、方法は任せることにする。俺は姉弟と一緒だな。
「サクラさんは、俺たちに同行してもらえますか。場合によっては、連絡係を頼むかもしれません」
「ご一緒しますね」
町中で風魔法の連絡は、あまり良くない。国によっては、無許可での魔法使用は罰せられることもある。
まずは二人の家に行こう。パストールさんの荷物も置かないと。それから簡単な地図を作る。会場となる公園の場所を記すのだ。あ、時間もだな。玄関の扉にも、貼っておこうか。知人が訪ねるかもしれない。
それから、さっそく行動を開始した。姉弟の知り合いは二人の顔を見たら、安心した様子だ。保冷庫から切り身を取り出すと、皆が喜んでくれたな。クルスさんやパストールさんも、嬉しそうで何より。
今日の夕方、公園で空カジキマグロを振る舞うと伝える。多くの人が、参加してくれるみたいだな。――町を歩き回り、全員に渡し終わった。
「ヤマトさん、次は食材ですよね。買い物に行きましょう」
「新鮮な食材が欲しいと思います」
メニューはどうするか。メインは空カジキマグロのソテーに決定している。まあ行きながら考えよう。料理の担当は、主にクルスさんである。彼女の意見は重要なため、しっかり相談したい。
買い物をした後は、公園へと向かう。途中でマリアさん達に出会った。どうやら図書館の帰りみたいだ。役所が休みのため、代わりに規則が調べられそうな場所へ行ったみたいだな。
「それで、どうでしたか?」
「大丈夫! 深夜は駄目だけど、夕食の時間なら火が使えるよ!」
良かった。あとは騒ぎ過ぎないように、気を付けたい。公園に着いたら、まずは調理場を整える。異空間倉庫には、野外で使える調理機があるのだ。それを使う。他に机や椅子も出そうか。
全員で手際よく、並べていく。同時に、料理を開始する。クルスさんを中心に、サクラさんやマリアさんが手伝っていた。皆で作業をしていると、クラースさんが姿を現す。
「家に行ったら、ここだと張り紙があってな。何か手伝おう」
「それなら料理の下ごしらえを、お願いします」
人手が多ければ、早く終わるからな。騎士団の宿舎では、当番制で炊事を行うと聞いた。きっと戦力になるだろう。
次々と料理が完成していく。キクニガナをトウガラシやニンニクと一緒に炒めたもの。塩とレモンの汁を加えた熱湯で、しっかりと茹で上げたチョウセンアザミ。チーズや黒胡椒が入ったパスタ。豆と豚皮の煮込みなど。他にも、いくつかの料理を出す。
「こんなに料理を作ったのは、初めてですよ」
「お疲れ様でした、クルスさん」
「でも楽しかった! ヤマトさん。食材の提供、ありがとうございます!」
ぼちぼち人が来ても、いいころだな。そんな風に思っていたら、来客が見えた。飛空船を差し押さえた人だ。ちょっと緊張している気がする。
「借金取りの、おっちゃん! 来てくれたのか!」
「……お久しぶりです。いつも父が、お世話になっていました」
姉弟の言葉で、いくらか緊張が解けたようだな。三人で話を続けている。自然な雰囲気に、場が和む。
パストールさん以外は、ワインを飲んでいるようだ。惜しむらくは、酒の調査をする時間が少なかったこと。とりあえず、良さそうな品を選んではいる。
「ヤマト殿、他の参加者も来たようだ」
「まだ料理は温かいですよね。そのまま出しましょう」
ピヌティさんが目敏く、来客の到来を発見した。まっすぐに、こちらへ向かってきている。間違いないだろう。もう少し、食器を用意しておくか。
その後も続々と、人が集まってくる。多めに料理を用意したのは、正解だった。どれも好評だが、やはり一番は空カジキマグロのソテーである。ここ数日の苦労が報われた気分だ。
「アニキ! みんな楽しそうだよ!」
「パストールさんが、頑張った結果ですよ」
掛け値なしに、そう思う。
「へへ、そうかな! 次は闘技大会だ、賞金獲得を目指すぞ!」
「予選通過で、賞金が出るのでしたね。本戦で勝つごとに、金額が上がるとか」
「そして優勝賞金は、ちょっと凄いぞ! 父さんの飛空船が、買い戻せるかも」
なるほど。ただ買い戻した後は、大丈夫だろうか。維持費も掛かるし、漁に出るなら身を守る術が必要だ。
「将来は漁師になるのですか。それとも人型飛空船の操縦者を続けます?」
「え? いや、オレは動物を飼う仕事がいいな。空羊とか良さそう」
そんな夢があったのか。だけど元手がないと、難しいと思う。結界内だと土地が高いからな。いっそ夢幻島に誘ってみようか。あそこなら土地を用意できる。故郷を離れないといけないのが、難点ではある。話をしていたら、酔っ払いが近付いてきた。
「ヤマト、飲んでいるか! あはははは! 美味い酒だな!」
「クラースさん、だいぶ酔っていますね」
まだ宴は始まったばかりだぞ。完全にペース配分を考えていないな。もしかして騎士団の飲み方なのだろうか。しかし絵に描いたような笑い上戸だ。さっきから、ずっと笑い声が響いている。
あれ? マリアさんが、何か考え込んでいる。ちょっと話を聞いてみよう。何かあったのかも。
「どうしました? 気になることでも、あったのですか?」
「うーん。空カジキマグロを丸ごと売却したら、いくらになったのかな」
マリアさんは商人だからな。純粋に販売価格が、気になるのだろう。ただ初競りでもないし、そこそこ高額で落ち着いたと思う。
「少し、いいか。ヤマト殿」
「ピヌティさん? 何かありました?」
相談でもあるのかな。真面目な顔をしている。
「八百年嵐、どうしても気になってしまう」
「日誌を借りましたので、少しずつ調べていきましょう」
「そうだな。今は宴を楽しむか」
焦っても仕方ないし。本格的に調査するのは、夢幻島に戻ってからだな。俺たちだけでは手に負えないと思う。ピヌティさんは酒と食事を取りにいった。
「ヤマトさん。ちゃんと食べていますか? お酒だけを飲むのは駄目ですよ」
「今日は気を付けていました。サクラさんも、食事を楽しんでください」
まだまだ宴は続く。ゆっくりと飲むことにするか。空カジキマグロは美味いし、酒に合う。サクラさんと料理の感想を話す。闘技大会の予選が始まると、また忙しくなるだろう。しばらく、のんびりとした時間を楽しもう。




