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118話 伝承、八百年嵐

 俺たちは港町に入る。夜明け前だというのに、活発に人が動いていた。早朝から仕事なんだろうな。

 当初の予定では、ここで空カジキマグロを解体するはずだった。鮮度を保つには切り分けて冷凍した方が良いからだ。だけど少し状況が変わる。


「ねえ、本当に大丈夫? こんなに大きな空魚を、丸ごと保冷するんだよね?」

「任せてください、マリアさん」


 実際に氷魔法を掛けたところ、思った以上に効果があった。それなら解体せずに運び、クルスさんに見せた方がいいと提案したのだ。


「でも骨や内臓の分、余計に魔力を使うはず。アニキ、疲れてないか? 昨日からずっと魔法を使っているよな」

「あ、それは普通に大丈夫です。仮眠を取ったら、かなり回復しました」


 魔法を覚え始めたころと比べ、自然回復力が大幅に向上しているのだ。魔力量に関しては、心配していない。制御に失敗さえしなければ、大丈夫である。


「そ、そうか。それなら頼むよ。姉さんも、喜んでくれるはず」

「承りました!」


 ということで氷魔法を発動。これで保冷効果が、十分に発揮するな。安心して、帝都テノプルへ向かおう。




 しばらく飛び続けて、ようやく目的地が見えた。速度を落として、慎重に入口へ近付いている。マリアさんも飛空船の操作に、ずいぶん慣れたな。


「それでは帝都に入りましょう。まず空カジキマグロの解体を、頼みにいきます」

「なあ、アニキ。本当に俺が全て貰っていいのか」


 空カジキマグロは、パストールさんに譲る。移動中に話は終わった。また父親の日誌を預からせてもらうことも、了承してくれている。


「構いませんよ。魔獣の素材は、俺たちが受け取りますので」

「ありがとう。解体してもらった切り身は、お世話になった人に配りたいんだ」


 いい考えだと思う。


「配るときは、手伝いますよ。持ち運ぶのも、大変でしょう」

「アニキの異空間倉庫か。あれ、凄いよな。オレも覚えたかったよ」


 時空魔法は、苦手な人が多いからな。こればかりは、素質の有無に左右される。ただ突然、使えるようになる人もいると聞く。諦めなければ、可能性はある。


「いつか使える日が、くるかもしれませんよ」

「そうだと、いいけどなあ」


 おおっと、炎雷丸が港の停留所に着いたな。……あれ? 知った顔の人がいる。それも二人。


「姉さんと、クラース様だ」

「クルスさんは分かりますけど、クラースさんもですか」


 とりあえず飛空船から降りよう。保冷庫は異空間倉庫に収納してある。解体所に向かうつもりだ。


「お帰りなさい、パストール!」

「ただいま、姉さん!」


 姉弟の微笑ましい光景だ。俺は隣にいる人物を見る。


「クラースさんも、お出迎えですか?」

「あー、少し気になってな」


 出発のときも、気に掛けていた。そういえば首飾りにした魔石は、使ってしまったな。報告しておこう。


「ところでパストールさんに渡した魔石ですが、使わせていただきました。かなり危険な場面だったので、助かりましたよ。ありがとうございます」

「あ! そうだった。クラース様、ありがとうございました」


 俺たちは揃って頭を下げる。あれが無ければ、空カジキマグロは釣れなかった。それどころか、飛空船が墜落していたかもしれない。


「力になったのなら、喜ばしい限りだ。それで魔獣狩りの成果は、どうだった? 空漁猟にも出ると、言っていたと思うが」

「見たら驚きますよ」


 狙いが空カジキマグロだということは、伝えていない。これはパストールさんの意向が大きいな。確実に入手できるとは、言い切れなかったのだ。クルスさんを、ぬか喜びさせたくなかったのだろう。


「ヤマトさん、先に手続きを済ませましょう」

「そうでした。話は後ですね」


 サクラさんの言葉に促されて、港の受付に向かった。迅速に手続きを済ませる。向こうも慣れており、話は早かった。




 案内された解体所には、まだ担当者が来ていない。別件を片付けてから、ここに来るそうだ。準備だけは進めておこう。保冷庫を取り出して、中身を取り出す。


「まあ! もしかして空カジキマグロ? 家族みんなで、食べたことがあるわ」

「姉さんも覚えていたのか! 懐かしいだろ!」


 これで元気が出れば、いいのだけど。……過去を思い出して、余計に落ち込みはしないよな。そこはパストールさんが、上手くやるはず。


「大物だな! パストールとヤマトが獲ったのか!」

「そうだよ、クラース様! 使った魔石のこともあるし、切り身を譲るよ!」

「それは、ありがたいな!」


 分配者、第一号だな。


「人が来たぞ、ヤマト殿」

「担当の方でしょうか」


 俺はピヌティさんの示す先に、視線を向けた。いかにも、漁師な感じの男性だ。さっそく空魚を見せよう。


「ほほお! こいつは立派な空カジキマグロだな! 傷も少ないぞ! 売りには、出さないのか? 高値が付くに違いない!」

「自分たちで、食べるつもりです。余りは知人に配ります」


 パストールさんの代わりに、俺が答えた。


「そうか。なあ相談だが、切り身を少し譲ってほしい。適正料金は払うし、解体の手数料もタダにするから」

「ちょっと、待ってもらえますか?」


 俺は横にいるパストールさんに、視線を向けた。


「いいと思う。配る知り合いも、そんなに大勢はいないし」


 話は決まった。担当者に伝えて、後は待つだけだ。見学も可能と言われたので、遠慮なく見せてもらった。あっという間に解体されていく様子には、熟練の技量を感じさせられる。


「よし、終了だ! 配りやすいように、切り分けたぞ!」

「どうもありがとうございました」

「ありがとう!」


 礼を言って、解体された空カジキマグロを受け取った。売却した分を除いても、凄い量だな。とりあえず、忘れない内に氷魔法を掛けておく。


「ねえ、パストール。誰に配るの?」

「まずは貧民街の知り合い。それに父さんや母さんの友達にも。あと家族で住んでいたころの場所があるよね。その近所の人はどうかな」


 すでに生家は無いらしい。だが思い出の場所では、あるのだろう。顔を見せれば近くに住んでいた人も安心すると思う。


「そうだ。空漁師の人たちがいた。それから、あの借金取りにも」

「……父さんの船を、持ち去った人ね。でも、いいの?」


 あまり良い印象を持っていなかったはず。心境の変化が、あったのか。あるいは自然との闘いが、パストールさんの心を強くしたのかもしれない。


「アニキに聞いた。いつかオレたちに、飛空船を返したいと考えているって。あのおっちゃんも、悪い人ではなかったんだ」

「そうね。パストールの言う通りだと思う」


 クルスさんが、俺を正面から見据える。


「ヤマトさん、ありがとうございます。あの人は父と一番、仲が良かったのです。そして私も小さいころに、よく遊んでもらいました。なぜ忘れていたのでしょう」

「十歳の少女が、両親を亡くしたのです。記憶が混乱したのだと思います」


 そろそろ炎雷丸に戻ろう。氷魔法を掛けてあるし、空魚の切り身は異空間倉庫に収納した。




「ところで空カジキマグロは、どこで獲ったのだ。近くの漁場だとは思うが」

「魔の空域ですよ。前触れもなく嵐に遭って、大変でした。大量の魔獣にも襲われています」


 逢魔が時だからって、魔獣が現れなくてもいいのにな。唐突に、クラースさんの顔色が変わる。


「まさか八百年嵐!?」

「なんですか、それは?」


 クラースさんから、話を聞いた。騎士団に残された伝承みたいだ。魔の空域では四年に一回、不思議な嵐が起こる。前兆も無く暴風雨が出現すると同時に、多数の魔獣や空魚が姿を見せる。


 けれど百年に一回、嵐が起きずに空魚が出現する。魔獣の姿もなく、空魚だけが現れるのだ。このとき珍しい種類を大量に入手することで、一財産を築いた漁師の話がある。


「この話には続きがあってだな。漁師の子孫は、百年に一度の日を狙って漁に出ていた。しかし初代から数えて四百年後、もっと大量に空魚を狙う者が現れたのだ。周囲に投資を持ち掛け、財産を使い込み飛空船を揃えた」

「……話の続きが、予想できますね」


 案の定、大規模な嵐に遭遇。周囲を巻き込み、悲惨な結果になった。過ぎた欲は自分も周りも不幸にする、そういう話だ。


「八百年後には、何かが起きる。注意をしろ。これで伝承は締められている」


 だから八百年嵐か。


「ここ数百年間は、嵐が起きた記録がない。だから、お伽話と言われていた」

「しかし俺は嵐に遭遇しています」


 気になるけど、今は何もできないな。念のため、クラースさんは騎士団に報告をするそうだ。俺は姉弟の、お返し巡りに同行しよう。

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