116話 大群、空魚と魔獣
日が昇った。まずは、獲物を探さなければ。竜人船と風雷号を同時に操作して、場所を移動する。この同時操作も、訓練に力を入れた。今では手足の如く扱える。パストールさんは、魔導釣竿を構え待機だ。空カジキマグロの群れを見付けたら、すぐに投げ入れる。最初のエサは空イカだ。
『ピヌティさん。炎雷丸の近くで、変化はありますか?』
『状況は変わらない。多少の空魚は見掛けるが、それだけだ』
魔導通信機で連絡をした。向こうも変化なしか。もう少し、先に進もう。だけど風魔法や魔導通信機の通話は、距離に限界がある。圏外に出ないよう注意したい。
「アニキ、遠くに魔獣だ! 戦うのか!」
「隠蔽結界で、やり過ごします」
動きを止め、結界の隠蔽効果を強化した。
『マリアさん。炎雷丸の出力向上、魔獣を引き付けてください』
『了解!』
今回の目的は、空カジキマグロである。極力、戦闘は炎雷丸組に任せる。厄介な魔獣と遭遇しなければ、いいのだけど。俺たちの近くを、魔獣が通り過ぎていく。
しばらくしてから、魔獣を無事に討伐したと連絡を受けた。俺たちも、負けていられない。気合を入れて、空魚を探そう。
「いた、アニキ! カジキマグロだ! 何匹もいるよ!」
「隠蔽結界を維持! 通りすがりを狙いましょう」
上顎が細長く伸びて、尖っている。全長は3メートルほどが多そうだ。背中は、藍色か。体は細かい鱗に覆われている。縞模様が大きな特徴。竿が届く範囲まで、数分は掛かるだろう。
「パストールさん。魔石は惜しまず、使ってください」
「わかった!」
少し待ち、はっきりと空カジキマグロが見える。この進行方向だと、衝突するかもしれない。
「上方に出て、待機します」
「そこから釣り糸を、垂らせばいいのか!」
直撃コースは、危険だからな。ある程度の距離を取らなければ、俺たちがケガをする。銛を使わない理由でもある。俺の技術だと、槍や銛では当てる自信が無いという理由もあるけど。
「来ましたよ!」
同時に釣り糸を投げる。空カジキマグロの群れが、飛空船の下を通過していく。
「ダメだ! 釣り上げるどころか、エサも食っていない!」
「そっちもですか!」
だけど、まだ一度目だ。再度、挑戦する。これも失敗か。そして空魚の群れが、通り過ぎていった。
「あー、行っちまった」
「間近で見ると、驚くほど速いですね。範囲魔法が使えれば、何とかなりますが」
「それ、禁止されているから!」
大規模魔法で空魚を傷付けることは、明確な禁止行為である。また単体を狙ったという証明は困難だ。そのため攻撃魔法での漁は、滅多に行われない。
「大型魔導リールは、使わなかったみたいですね」
「……忘れてた」
そういうこともあるな。よし。切り替えて、次を狙おうか。その前に、炎雷丸と連絡しておこう。簡単に状況を説明した。
「パストールさん、今から空カジキマグロを探します」
「じゃあ、すぐ移動するのか?」
「今回から、別の手段ですよ」
禁止されているのは、空魚を傷付ける魔法だ。探知系は問題なく使える。種類によって、魔力に特徴が出る。空カジキマグロの特徴は、だいたい把握した。飛行の際に、魔力を使っているからな。
「探知開始!」
いきなり発見。だけど、これは先程の群れだと思う。どんどん遠ざかっていく。追い掛けて釣るのは、ちょっと難しいか。
強い反応が一つ。魔獣だ。探知の範囲は広い。だけど空は、もっと広大である。なかなか空魚が、引っ掛からない。ちょいちょい魔獣は見つかるのに。
しばらく魔力探知を続けた。
「いました! 群れの規模が、かなり大きいです。急行します!」
「頼んだよ、アニキ!」
竜人船と風雷号を操作し、空カジキマグロの群れへ向かう。なんとか先回りが、できたな。
「次は大型魔導リールと魔導電気ショッカーを、試しましょう。使えますか?」
「大丈夫! 訓練したからな!」
てっきり父親の釣竿に拘ると思ったけど、わりと柔軟に対応してくれた。これで作戦の幅が広がる。
問題は俺か。魔法を使わずに、なんとかサポートをしないと。エサをばらまいて移動速度を遅らせるとか。いや、駄目だな。予想以上の速さだった。十分な効果は発揮しないだろう。
「俺は正面に留まって、釣り糸を水平に飛ばします。上手くいけば、釣れるかもしれません」
「危なくないのか?」
「当然、逃げる準備は万全にしますよ」
黒雲転移を使えば、即座に逃げることができる。しばし待ち、二回戦が始まる。パストールさんは、引き続き空イカをエサにするようだ。俺は気持ちを切り替える意味で、エサを変更してみよう。
「空トビウオは、美味いですよ!」
竜人船が持つ竿を使い、前方に空トビウオを飛ばす。魔力を込めれば、ある程度の操作が可能だ。生きているように、見せ掛けたい。慎重に左右へ動かしながら、空カジキマグロへ向かわせた。――しかし、食いつかない。
「失敗か! パストールさん、俺は上に退避します! 後は任せました!」
「わかったよ、アニキ!」
よし、進行方向から上方に出た! パストールさんは、空カジキマグロを引いている。どうやらエサに、食いついたようだ。俺の空トビウオは、無視されたけど。
「魔導電気ショッカー、投下するぞ!」
パストールさんが鉄紐に通した魔法金属を、獲物に向け落とす。魔力を通じて、電気が流れた。空カジキマグロの動きが、かなり弱くなる。後は引き上げるのみ。だが、途中で暴れ出す。そのまま釣り糸を引きちぎって、逃げ去っていく。
「あー! 逃げられた! 魔導電気ショッカーを、回収しないとな。ところで食われた釣り針は、どうなるんだ?」
「消化ができる特殊な素材を、使っていると聞きました。魔力が消えれば、体内に吸収されますよ」
魔導電気ショッカーを、引き上げたようだ。まだ出番はあるだろう。
「要領は掴めましたね。次を探しましょう。どんどん魔石も使ってください」
「おう!」
一度や二度の失敗で挫けてはいられない。俺の魔力探知なら、遠距離の群れでも見つけ出せる。さあ、再々挑戦だ。
それから、半日ほど経過。途中で休憩を挟みつつ、ひたすら獲物を狙った。
「釣果、ゼロですね」
「あ、ああ。まさか、ここまで獲れないなんて」
しかも後半は、群れが見付けにくくなっている。昼が過ぎて、動きが変わったのだろう。それと一つ懸念がある。
「急に魔獣が少なくなりました。ちょっと気になりますね」
「時間帯が変わったからじゃないのか?」
「それなら、いいのですが」
もうすぐ夕方。十年に一度の大群が現れる時間だ。最後の勝負となる。炎雷丸のメンバーにも連絡した。向こうでもパッタリ魔獣の姿が、見えなくなったらしい。
「もう腕がパンパンだ」
「頑張ってください。ここが正念場です」
「よし、やるぞ!」
疲れているだろうけど、気合は十分だな。
「空が赤く染まり始めました。いつ出現するか分かりません。注意してください」
「わかった!」
――唐突に巨大な魔力を感じた。
「結界強化! 嵐です!」
「え、え、え!? なんで突然!」
俺たちは暴風雨の中にいた。まるで嵐が瞬間移動したかの如く、急激な変化だ。油断すると、吹き飛ばされそうになる。
「通信は不能! 俺たちだけで、切り抜けますよ! 魔石を使い、風雷号の結界を必ず維持してください!」
魔力が乱れて、魔導通信機や風魔法で連絡ができない。
「空カジキマグロの大群を発見! しかし他の空魚も多いですね」
「アニキ、風が強い! このままだと、釣り糸が流されるはず!」
とはいえ大群を見逃す手はない。俺は風雷号を中心に、結界の範囲を拡大した。しかし魔力の消費が激しすぎる。俺も飛空船も、どんどん力が削られていく。
「嵐が収まった?」
「結界の中だけです。絶対に魔力を絶やしては、いけません」
ここで新たな魔力反応を感知する。一方向に、多くの数がまとまっていた。
「魔獣の群れも来ました! 俺は結界の外で、数を減らします。空カジキマグロは頼みました」
「やってみる!」
空カジキマグロの大群は近いな。釣り上げるのは、パストールさんに任せよう。俺は風雷号の護衛に専念する。決して魔獣を、近付かせない。しかし、結界の外に出れば連絡が不能となる。常に自分の目で、状況を把握しなければ。
「さて、戦闘開始だ!」




